EX04A_鴉羽さんは回想する
「ひ、ひはいひはい~~~!!」
「ん~? なんつってるのか分っかんないな~。もっとやって? まかせとき!」
「ひがうはよ!」
「あはは、マジ分かんなくてウケる☆」
古内裏からの現在位置レポートを追ったアタシとマリは、ペンギンエリア前で二人を捉えた。
後はこっそり背後から忍び寄り、けしからん極悪ツインテのほっぺにオシオキ中というワケだ(まゆぴのほっぺは赤ちゃんみたいに柔らかくて、ずっと触っててもまったく飽きない)。
「だからやめといた方がいいって言ったのに……」
「まゆは相変わらずね」
マリも古内裏も呆れ気味に苦笑する。完全アウェーとなったこの場で、まゆぴの悲鳴がむなしくペンギンのプールに響き渡っていた。何事かと気になったのか、ペンギンちゃんたちもよっちよっちと集まってきてる。
「まったく、ちょ~~~っと目を離したらすぐコレだもんなぁ」
「ひはひ~~~!!」
一応ネイルが喰い込まないよう注意しつつ、文字通り縦横無尽にほっぺを弄んでやるとまゆぴが涙目でアタシの手をぺしぺしと叩く。
あんまり騒いでも他のお客さんの迷惑だし、最後にびよ~~~んと思い切り左右に引っ張ってからやわらかほっぺを解放してやった。
「まゆの可愛いほっぺが……オタフクみたいになったらどうするのよ!」
「まゆぴのほっぺが増量されたらアタシ的にはお得だからオッケー♪」
「も~~~っ、清々しいくらい自分勝手!」
赤くなったほっぺを両手で押さえながら不機嫌さを露にするまゆぴ。いや自分勝手とかお前がゆーな?
「そもそもまゆぴが悪いんでしょ? いつも無駄に張り合ってきては痛い目見てるのに、どうして懲りないかなぁ。まゆぴ、中学の頃からちっとも変わんないねぇ」
溜め息交じりにまゆぴのちっこい頭をポンポンしてやると、まゆぴは恨みがましいジト目でアタシを睨む。
けど何か碌でもないことを思いついたんだろう。すぐにニヤリと悪そうな笑顔になると、ととと、とわざわざ古内裏の隣に並んで、
「そう言うヒナちは昔と比べてだいぶ変わったわよね~」
とクサい棒読み台詞を発した。
一体何のつもりだと訝しんだのも束の間、
「え、中学時代の鴉羽さん超気になる……!」
興味を惹かれたのか、古内裏がだいぶ前のめりに目を輝かせる。
あ、ヤバ。
「え~、ナベっち気になるぅ~? ヒナちってば会ったばっかの頃はもっとびくびくおどおどしてて可愛げがぐぇっ!?」
余計なことを口にされる前に背後からまゆぴの首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
危ない危ない。古内裏がアタシのこと好き過ぎるのを知ってて、昔の話題で釣ろうとするとは小賢しい極悪ツインテめ。
別に知られちゃまずい過去ってワケじゃないけど、中学時代のアタシは古内裏が考える「かっこいいアタシ」とはちょっとイメージが違うだろうからね。
そのヘンを盛られてあること無いことお構いなしに喋られたら面倒だ。
ここは二度とナメた口が利けないくらい念入りにオシオキが必要だな。
アタシは中学時代からの悪友にめいっぱい愛情を伝えるため、ギリギリギリと抱きしめる力を上げていったのだった。
「ぐ、ぐるじぃ~~~っ!」
とか言ってるけど多分照れ隠しだ。きっとそう。
何しろまゆぴは昔からアタシのことが大好きだもんね?
◆
昔からモテにモテていたアタシは、その分やっかみを受けることも多かった。
そのせいもあって、小学校も高学年になる頃にはかなり周囲に気を遣うようになっていた。
嫌われないように話を合わせて、顔色を伺い、相手の欲しい言葉をあげる。
その頃のアタシは他人から嫌われることに少し臆病になっていた……と思う。
そんなアタシの在り方を揺るがす出来事が起こったのは、中学校へ入学して数週間が過ぎた頃のことだ。
「ねぇーひなのん、ちょっとこれ見てよぉっ!」
「ん~?」
給食後の昼休み。自分の席で次の授業の準備をしていたアタシにそう声をかけてきたのは小学校から一緒の友達、ゆるふわで泣き虫の富良美紅香(通称ンゴちゃん)と、クールで気が強い紺戸瑠璃那(通称ドルちゃん)だ。
ンゴちゃんが泣きつくような勢いでこちらへ向けてきたスマホの画面には、自分でアンケートを作れるアプリの集計画面が表示されている。
いくつか女子の名前が並び、その横に書き込まれた得票数。
加えてアタシの名前がトップにあるのを見て、すぐにおおよその内容を察した。
「男子が一年生の可愛い子ランキングなんて作ってたの! マジありえんくないっ?」
「うーわ、そりゃ最低だわー……」
思わず半目になり、溜め息が漏れる。男子ってホントこーゆーの好きだねぇ……。
「そのアンケートは鏑木が中心になって作ったみたい」
不機嫌そうに腕を組むドルちゃんは、そう言いながら教室の一画を睨む。
そこに立っていたのは今名指しされた男子、鏑木(とそのグループ数人)だ。こっちの話を聞いていたのか、少し気まずそうにしながらも、当の鏑木はなかなか反抗的な目でこちらを睨み返していた。
「……別にいいだろ、女子に迷惑かけてるわけじゃないし。そんくらいでマジになんなよ」
「大迷惑だよぉ! 自分が見た目で勝手にランク付けされてるなんてすっごい嫌じゃんっ!」
「お前らだって誰がイケメンとか誰がかっこいいみたいな話するだろ?」
「するけど、それは個人の感想言い合ってるだけだから。こうやって投票までして順位つけるのと違うって、アホな男子には分かんないかな」
「勝手に他人の顔面評価してんのは同じだろ!」
「同じじゃないし、これに回答した人も同罪だよぉ!」
開き直った鏑木一派とンゴちゃんドルちゃんとの言い合いがヒートアップして響き渡り、教室中の注目を集める。
アンケートの話を聞いた女子はみんな批難するように鏑木たちを見ているし、鏑木たち以外の男子は無関心を装いながらも、女子の怒りが自分たちにも向いていることを感じとって事の成り行きをじっと伺っているみたいだ。
いつの間にか、教室は女子対男子の重っ苦しい空気が充満している。
これはだいぶまずいんじゃ……。そう思った矢先――
「ねぇ、雛乃もそう思うでしょ?」
「ぅえっ!?」
唐突に振り返ったドルちゃんがアタシに話を振ってきた。
縋るような涙目のンゴちゃんと、怒りに燃えるドルちゃんの視線が突き刺さる。果たしてどう答えるのが正解なのか。
当然、ンゴちゃんドルちゃんはアタシが味方してくれるものだと期待してるだろうし、友達のためを思うならこの二人の側につくべきだ。
でも本音を言えば、低俗でガキっぽいけど所詮は中学生男子のお遊び。
喧嘩してまで糾弾すづほどのことじゃないし、もしこのまま男子が謝んなかったらその幼稚さに呆れて笑い飛ばす……くらいで良くない?と思う。
ここでアタシがンゴちゃんたちにつけば、男子を徹底的にやり込めることができる。
でもそうすると男子と女子の溝はかなり深いものになりそう。まだ新しいクラスが始まったばっかなのに、そんなんで教室の空気が死んだら……それってどうなの?
「雛乃、聞いてる?」
「う、うん聞いてるよ……」
ぐるぐると思考を巡らせていたら、黙ったままのアタシを不審に思ったのかドルちゃんが改めて呼びかけてきた。
あっちを立てればこっちが立たず。一体アタシはどうすればいいんだ――!?
椅子に座ったまま無駄に背筋が伸び、額には脂汗が滲みだす。
視線を机に落としたまま態度を決めかねていると――
「ねぇ、鴉羽雛乃ってこのクラスよね?」
教室の入り口から突然、アニメキャラみたいな声でアタシの名前を呼ぶ声が響いてきた。
前の更新からだいぶ間が開いてしまって申し訳ありません!
過去エピを書いてたら思った以上に長いエピソードになってしまいました……。
しばらく続きます!




