EX03A_鷺ノ宮さんはお悩み中
夏休みを目前に控えた日。
ホームルームが終わって帰ろうとしていたところ、ふと自分の席で頭を悩ませている女子が目に留まった。
「よ~っすマリ、どしたん? なんかムズカシィ顔しちゃってさ」
アタシが声をかけるとその女子は僅かに顔を上げる。この子は鷺ノ宮真理花、小学校からの付き合いになるアタシの一番の親友だ。
「ヒナ……いえ、そんなに大したことじゃないのよ」
「なになに? 困りごとあんなら相談してよ。アタシらの仲なんだしさ」
言葉を濁す親友の肩を気さくに叩く。言いにくいことなら無理に聞き出したりはしないけど、アタシとこの子に今さらつまらない遠慮なんか無用だ。
それはマリも分かってる。軽く促すと「実はね……」と胸の裡を話し出した。
「うちの文芸部は毎年全員で同じテーマの小説を書いて、部誌にまとめて学園祭で販売することになってるのよ。学園祭は秋だからみんな夏休みを使って書くみたいなんだけど……」
「お、なにそれおもしろそうじゃん!」
実は文芸部に入ってる親友は、その活動でお悩みらしい。
小説のことはよく分かんないけど、部員みんなでひとつのことをやるのはいかにも青春って感じで楽しそう!
「でもそのせいで夏休みはあんま遊べない感じ?」
「いいえ、書くこと自体はそんなに大変じゃないから大丈夫よ。ただ今年のテーマがね……『恋愛小説』なの……」
「あ~……」
な~るほど、合点がいった。
「マリは恋愛経験ないからねぇ」
「その言い方はちょっと引っかかるのだけど……」
アタシがよしよしと頭をなでると、マリはちょっとむくれたように文句を言った。ぴゅあぴゅあな真理花ちゃんは恋愛という未知のお題に尻込みしてるってワケだ。きゃわいいねぇ。
ただし誤解の無い様に言っとくと、マリはモテる。何ならアタシなんか目じゃないくらいに。
さらっさらの黒髪ロングに吸い込まれそうなぱっちりおめめ。ほとんどメイクなんかしてないのにすべすべの白い肌と、女子にしてはやや高めな身長に対して小顔だから頭身もめっちゃ高い(足も長い!)。
その上性格もお淑やかなザ・清楚で所作もお上品、面倒見もいいときたもんで、全男子の理想を詰め込んだんじゃないかってくらいきゃわゆいこの子がモテないはずはないのだ。
マリとは小学校が一緒だったけど、その頃から多くの男子がこの子の気を引きたくて、苦手なホラー動画を見せたり高身長をからかったりみたいないじわるをよくしてた(その度にアタシがそいつらを追っ払ってたんだけど、なんで男子って好きな子にいじわるするんだろ。フツー逆じゃね?)。
ただ当のマリはそれが原因で男子が苦手になり、さらに中学は私立の女子校に行ってたから異性との関わりがほとんどなかったりする。
高校では普通に男子と話したりもするけど、アタシやまゆぴほど気さくじゃないこともあって今まで浮ついた話を聞いたことはない。
けど心の中でマリに恋してる男子は相当いるはずだ。
だからその気になれば彼氏のひとりや二人すぐできるはずで、そいつらとひと夏の甘~い思い出でも作れば恋愛小説くらいラクショーで書けると思うんだけど……この子の性格上、それは難しいか。
ってかマリに彼氏が出来たトコ想像するとフツーにムカつくな。この子はアタシの嫁だ、誰にもやらん!
「そんなわけで、どうしようか悩んでるのよ。既存の作品を参考にするにしても限度があるし、あまり変なものを書いて部の評判を落とすわけにもいかないから……」
「う~ん……そうだねぇ……」
真面目なこの子の性格からして、テキトーにお茶を濁すみたいなことはしないんだろう。
なんか都合よくマリに恋愛経験を積ませる方法はないものか……二人そろってうんうん頭を悩ませていると、ふといじわるな妙案を思いつく。
「あ、じゃあうちの古内裏を貸してあげよっか? 二人でどっか出かけたりすれば疑似デートが体験できるよ♪」
「えっ」
アタシの提案に驚くと共に赤面するマリ。この前の球技大会の後、まゆぴと二人で「マリの理想のタイプは古内裏」だと刷り込んだのがまだ効いてるのだ。ひっひっひ、真っ赤になっちゃってきゃわいいのぅ。
まあアタシ的には彼氏が別の女子と二人きりで出かけることに抵抗が無いわけじゃないけど……マリならどっかのまゆぴと違っておかしなことにはならないだろうし、ギリオッケーだ(もちろんホントに二人きりで行かせるわけじゃなく、こっそり後を尾けるしね♪)。
さー、どうするマリぃ?
「でっ、でもそれはヒナに……古内裏くんにも悪いんじゃないかしら? 私のためにそこまで身を削ってもらうわけには……」
「ほぉーん?」
両手の人差し指をつけたりはなしたりしながら、やんわりと遠慮するマリ。
意外だ。てっきり「行くわけないでしょ!」みたいな感じでくるかと思ったけど、アタシが思ってるよりマリは古内裏に気を許してるみたい。何かあったのかな?
その辺りを問い詰めながらもうちょっといじめてあげてもよかったんだけど、まぁ親友が本気で困っているワケだし今はこのくらいで勘弁してあげよう。
アタシは満を持して本命の案を出すことにした。
「それなら、アタシも一緒に行くってのは? 二人きりじゃなくても、ちょっと遠出して普段行かないトコ遊びに行けば何か掴めるかもよ」
「そ、それならまぁ……」
マリはホッとしたように胸を撫で下ろした。ひっひっひ、安心するのはまだ早いよマリ……現地で突然二人きりにしてやろ~か。
問題解決に向けて僅かな光明を得て気が緩んだのか、マリはアタシの真意を疑う様子もない。
そんな哀れな真理花ちゃんを横目に、アタシは次の週末の予定を確認するため古内裏を探すのだった。




