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19B_鴉羽さんは語りだす

 しばらく公園の木陰にあるベンチで休んでいると、


「おや? おっぱい大好き古内裏くんじゃあないですか~?」


 休憩時間になった鴉羽さんがペットボトルの水を手に、たいへん上機嫌でやって来た。

(乙ちゃんはさっきの子供たちと何やら話し込んでいる)


「変な称号をつけないで欲しいんだけど……」

「えー、だって古内裏アタシのおっぱい大好きじゃん? 告ってきた日もジロジロ胸ばっか見てたし」

「ぐっふぅ……!」


 思いもよらぬ大ダメージを受けてベンチの背もたれにのけ反ってしまった。


「きっ、ききき気ズっ!?」

「気付いてるに決まってるでしょ。言っとくけどそういうの丸分かりだからね。見たいならもう少しこっそりやった方がいいよ?」


 ベンチに腰を下ろしながら、けらけらと笑って事も無げに言う鴉羽さん。

 何ということだ……どうやら僕は今日までお情けで生かされていたらしい。


 このままでは僕の精神が死ぬ。

 危機感を覚えた僕は、やや強引に話題を変えることにした。


「そ、そう言えば鴉羽さんって子供好きだったんだ?」

「おっぱい大好き古内裏くんも子供っぽくて嫌いじゃないよ?」

「覗いたのは悪かったから、もう勘弁してください!!」


 ものの見事に話題逸らしに失敗し、しおしおになる僕。

 散々イジり倒してようやく満足したのか、鴉羽さんは笑って「そうだねぇ」と話に乗ってきてくれた。


「アタシ、小学校の先生になりたいんだよね。別に子供が好きだからってワケじゃないんだけど」

「えっ、そうなんだ……」


 それはなんて言うか……。


「今、似合わないとか思った?」

「思ってない思ってない。意外だなとは思ったけど」


 ジト目で睨まれ即座に否定する。

 けど何となく、鴉羽さんはもっと派手な仕事に就くものだと思ってた。


「アタシ小学校入ったくらいの頃は結構人見知りでね。友達も全然いなかったし、同級生のコとかほとんど喋ったりできなかったんだ」

「ええー……ウソでしょ?」

「ホントホント。もしかしたら古内裏より陰キャだったかも」


 あの鴉羽さんが? それは俄かに信じがたい。


「で、二年生か三年生の時だったかな。新しく赴任して来た先生がいてね、その人がもうピアスバチバチのネイル盛り盛りで超派手な感じだったの」


 ベンチに座ったまま、懐かしむように遠くを見る鴉羽さん。

 その表情は大切な宝物でも眺めているかのようで、彼女にとってそれが大切な思い出であることはひと目で分かった。


「その人がいっつもひとりでいるアタシのこと気にかけてくれてね。暇つぶしに可愛く髪結んでくれたり、試しにネイル塗ってみたり、簡単なメイクのやり方とか教えてくれたの。そうやって見た目が良くなるとアタシもちょっとは自信がついてね。クラスメイトのコたちとも自然と話せるようになっていったんだ」


 その気持ちは僕にも少し分かる。初めて美容室に連れて行って貰った直後に、似た様な安心感を覚えてたっけ(あの時はすぐその後で鴉羽さんにヘシ折られたけど)。


「鴉羽さんはその人に憧れて小学校の先生を目指してるってこと?」

「まぁ、そんなトコ」


 鴉羽さんはそう言って照れくさそうに頬をかいた。


「だからまずは子供に好かれる練習も兼ねて、今日みたいな時に手伝いをしてるワケよ。小学校の教員免許取るにはいくつかルートがあるみたいなんだけど、一番いいのはどこか教育学部のある大学に行くことかな」


 僕の方を見て「万が一受験までアンタと続いてたら、その辺も相談しなきゃね」とおどけてみせる鴉羽さん。

 どうやら彼女は夢の実現に向けて、既に色々と調べているようだ。


 感心した僕は素直に


「ずいぶん具体的に考えてるんだね」


 と感想を口にした。

 すると鴉羽さんは得意気に、


「当然でしょ。夢見てるのも楽しいけど、実現させるためにはちゃんと計画を立てて『予定』にしとかないとね」


 と胸を張る。


「古内裏にはないの? そういう『予定』」

「う~ん……」


 ここで言う「予定」は、「夢」よりもう少し実現性の高い目標ということだろう。


「例えばゲームとか? まゆぴから聞いたけど古内裏はすごいゲーム得意らしいし、最近はプロになる人とかもいるんでしょ?」

「ゲームは得意だけど。さすがにプロとしてやっていけるほどじゃないかな。それに遊ぶだけじゃなくて、作る方にも興味があるんだよね」

「お、いいじゃんそれ!」


 ゲーム作り。

 僕が密かに温めていた、将来やりたいことのひとつだ。一応少しずつだけどプログラミングも勉強しているし、最近は少人数で作った所謂インディーズゲームの人気も高まっている。


 在学中にヒットタイトルを生み出す人もいるくらいだし、「予定」として掲げるにはちょうどいい目標かもしれない。


 もう少し贅沢を言うなら、できれば一過性の話題作とかじゃなく、長く遊んでもらえるような愛される作品を生み出したいところだ。


 となると――


「そうだなぁ。将来的に自分の子供が夢中で遊んじゃうようなゲームを作る……とか?」


 僕がそう言うと鴉羽さんも頷いて、


「古内裏らしくっていい『予定』だと思うよ」


 と同意してくれた。


 今までこうして人生の目標を人と語り合ったことはなかったけど、いざやってみると面はゆさとは別に不思議な高揚感がある。

 口に出して誰かに聞いてもらったことで、それを実現させたいという気持ちが一層強くなったような気がした。


 鴉羽さんと僕。互いに目指すものは異なるけれど、この人が隣にいてくれれば叶いそうに思えてくるから不思議だ。


「あ、でも」


 そこまで考えて、ふと思ったことを口にした。


「鴉羽さんが学校の先生になるなら、子供がゲームばかりしてたら怒られちゃいそうだね」

「ん?」


 それを聞いた鴉羽さんが、きょとんと不思議そうな顔をする。

 あれ、僕なにかおかしなことを言ったかな……?


 ……。


 …………。


「あ”っ…………!!」


 言ってる!!


 そのことに気付いたら、さーっと血の気が引いていくのを感じた。


 恐る恐る隣を窺うと、予想通りと言うべきか。鴉羽さんが最上級のオモチャを見つけたような顔で僕のことを見ていた。


「おいおいおい古内裏ぃ。なーにしれっとアタシをアンタの『予定』に入れちゃってるのかな??」


 がしっと肩に腕を回され、逃げることも敵わなくなる。


 そうなのだ。

 さっきの言い方じゃ、まるで僕と鴉羽さんのあいだに出来た子供を想定しているみたいじゃないか……!

(いや、「みたい」っていうかその想定で話しちゃったんだけど)


「アタシらキスもまだなのに、もう子供ができるようなコト想像しちゃったの? さすがはおっぱい大好き古内裏くんだねぇ」

「いや言い方!」


 とせめてもの抵抗を試みるけれど、この場の勝敗は既に決している。

 鴉羽さんの中では既に、これからしばらく僕と顔を合わせる度にこの件でイジる「予定」が立てられているだろう。


 がっくりと項垂れる僕に対して、鴉羽さんはただひと言、


「ま、その『予定』が実現するようにアタシを飽きさせないことだね♪」


 実に楽しそうな顔で、そう告げたのだった。



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