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02_鴉羽さんはかっこいい

 カラオケ会からひと月ほど経ったある日の昼休み。


「古内裏、お前鴉羽に告ってこいよ」


 裏庭でニヤニヤ笑いながらそう口にするのはクラスメイトの星山と柏田。

 彼らはいつもひとりでお昼を食べている僕に絡んでくる奴らだ。


 どうやらカラオケ会の時、格下の僕がずっと鴉羽さんに引っ張りまわされてたのが気に食わなかったらしい。

 それ以降、僕と鴉羽さんには接点なんかない(当然、恋するほどの関わりもない)のに、どうにか僕に恥をかかせようと無理難題をふっかけてくるのだ。


「ええ~~!? ……無理だよそんなの」

「無理じゃないだろ? カラオケん時は良い感じだったじゃねぇか」

「マジいけるって。宝くじよりは確率高いぜきっと」


 言って、ギャハハハと笑う二人。


「無理だって。カラオケとかもうずっと前のことだし、僕たぶん教室のすみにある置物か何かだと思われてるから、突然話しかけたら『怪奇・生きてる陰キャ像』とかいう題名の怪談にされちゃう……」

「いやそこまで忘れられてないだろ!?」

「いいから、やりゃいいんだよ! ったく調子狂う奴だな……」


 凄む二人にそれ以上は何も言えず、僕は両手で弁当箱を抱えたまま溜め息を吐くほかなかった。



   ◆



 そして放課後。夕日が差し込む教室で、僕は鴉羽さんと相対していた。


「え~っと小平……じゃなくて古内裏だっけ。話って何なん~?」

「いや大した話じゃないんだけど……来てくれてありがとう」

「いいってことよー。クラスメイトでしょ」


 ほぼ接点のない男子に呼び出されたにも拘らず、鴉羽さんは迷惑がる様子もなく応じてくれた。


 目元がキラキラするメイク(よく知らない)を施した鴉羽さんに屈託のない視線を向けられ、僕は後ろめたさから思わず視線を逸らす。


 すると彼女の背後、教室の外で星山たちが「いけ」と手を振るジェスチャーをしているのが目に入った。


 今更止めるなんて言い出したら、明日からまたネチネチと絡まれるに違いない。

 意を決した僕は、す~~~っと深く息を吸い込んで、


「か、鴉羽さんっ! 入学した時からずっと好きでした……僕と付き合ってください!」


 ヤケクソ気味にそう叫び、深く頭を下げた。


 別に本気の告白というわけじゃないけど、思いのほか緊張と恥ずかしさを感じる。

 返事も待たずに顔を上げると、鴉羽さんは何か面白いものでも見るかのように僕を眺めていた。


「え~? 古内裏、アタシのこと好きだったん? ちょっと意外~」

「そ、そうかな?」

「うん。古内裏ってさ、あんまアタシみたいなのに興味あるタイプじゃないと思ってた」


 ギクっ……鋭い。痛いところを突かれた僕は「いや、そんなことないよ?」と上ずった声で言い訳する。


「そう? じゃ、アタシのどこが好きなのか10コ言ってみ?」

「え?」

「『え?』じゃないでしょ。まさか言えないようなコトなの? カラダ目当てかこのスケベ♡」

「ち、違うよ! そんなんじゃないって」


 どうしよう……正直、予想外の展開だ。

 良くて秒で「ごめんなさい」、最悪無視されて帰っちゃうと思ってたから何も考えてなかった。


 答えに窮した僕は、つい星山たちの方をちらりと見やる。


「ん?」


 それに気づいた鴉羽さんが僕の視線を追ってそちらを見た。

 星山たちが慌てて姿を隠すものの――


「…………な~~るほど、そういうコトね」


 まずい、気付かれた……!

 クラスの中でも目立たず大人しい僕と、問題児寄りな星山たち。

 教室ではほとんど絡みのないその組み合わせは、この状況を察するのに十分な材料だ。


 ゆっくりとこちらに視線を戻す鴉羽さんの表情は、特に変わりないように見える。

 でも普通に考えれば怒ってるよね!? そもそもこんなの鴉羽さんに対して失礼だし……。


「あのゴメン――」

「うん、いいよ」


 咄嗟に謝ろうとしたその瞬間。

 鴉羽さんはニッと笑うと教室の外まで聞こえる声量ではっきりとこう告げた。


「そんなにアタシのこと好きなら付き合ったげる」

「だよね、ほんと悪かったと思ってるから――――えっ!!?」


 イイヨツキアッタゲル?


 一瞬何の呪文か分からなかったけど、わずかな間を置いてその意味するところが頭に染み込んできた。


 OK? OKしてもらったの僕!?

 想像だにしなかった展開に、僕の頭の処理能力は限界を超えてフリーズしてしまう。


「おいおいなに固まってんだよー古内裏ぃ? 自分から告ってきたのに『ウソだろ!?』みたいな顔すんのは違うじゃん」


 呆けている僕が面白かったのか、鴉羽さんは愉快そうに笑いながら僕に近づくと、ばしばしと遠慮なく背中を叩く。


 のみならず、なんと腕を取って密着してきた。

 肘に伝わる柔らかな感触ではっと我に返る。


「えっ、かか鴉羽さん!? ちょっと待って!?」

「なんで? 今からアタシら彼氏彼女でしょ? このくらい普通だって」


 鴉羽さんは小首を傾げて囁くと、さらに密着するように身体を寄せてきた。

 シャツは第3ボタンまで開いてるし、サイズの大き目なゆったりした服装だから、そんなに近づかれたら目のやり場に困るんですが!?


 などと慌てていると、鴉羽さんがちょいちょいと顎で何かを指し示しているのに気が付いた。

 釣られてそちらを見ると、星山と柏田が「信じられない」と言わんばかりに目を丸くしてドアのガラスに貼りついている。


 それを目にして、さすがの僕も気が付いた。


(そうか……鴉羽さん、僕があの二人に絡まれてるのを知って――)


 助けてくれたんだ。


 本当なら僕は身の程知らずな告白で大恥をかいた挙句、明日にはそのことが学校中に知れ渡って、ますます居場所がなくなっていただろう。


 それを鴉羽さんが阻止してくれたというわけだ。


「あの顔見た? マジうけるよね」


 にししと笑う鴉羽さんが「してやったり」とウインクした。


 ろくに話したこともない僕のために、迷わず身体を張って(?)助けてくれるなんて――

 鴉羽さんって、もしかしてすごくかっこいい人なのでは?


 密着したまま、悪戯が成功したように楽しそうな鴉羽さんを見て、僕は僅かに鼓動が早くなるのを感じた。


 でもそれでめでたしと終わらないのが鴉羽さんだった。

 彼女は挑発的な笑みを浮かべたまま「でもね」とさらに僕へとにじり寄る。


「アンタもアンタだよ? いくら強要されたからって、その気も無いのに告ってくるとかありえないからね?」

「う”……お、仰る通りです……」

「あーあ、傷ついちゃったなぁ。『あの古内裏くんがアタシに告白!?』って舞い上がっちゃったんだけどなぁ~」

「それは絶対嘘だぁ……」


 さっきまで辛うじて名前を憶えてるくらいの仲だったじゃないか……。


 でも鴉羽さんに大変失礼な真似をしてしまったのは事実だ。

 とにかくここは誠心誠意謝るしかない。

 ある意味告白した時以上の決意を固め、ビンタの二~三発も覚悟した。


「あ、あの今回は本当に申し訳な――」

「でもまぁ、それは許してあげる」


 改めて謝罪しようとしたその時、僕の口を鴉羽さんの人差し指がぴとっとふさいだ。


 蠱惑的な瞳が妖しげに僕を覗き込み、笑みの端にはちらりと犬歯が覗いている。


 彼女はそのまま僕の耳元に唇を寄せると――


「だって古内裏、“その気”になっちゃったもんね?」


 囁くような声で、けれどはっきりとそう告げた。


「…………え?」


 上目遣いのキメ顔でそう口にする鴉羽さん。

 そのちょっと嗜虐的な指摘に、僕は気づいてしまった。


 いつの間にか、ものすごく顔が熱い。

 さっき告白した時だってこんなことにはならなかったのに。


 一体これはどうしたことか。

 僕は鴉羽さんの顔をまともに見ていることができず、思わず視線を逸らそうとした。

 けれど鴉羽さんは逃がすまいと僕の顔を両手で挟み、強制的に自分と向き合わせる。


「どう? それともやっぱり、さっきの告白は嘘だった?」

「え、それは、その……」

「ど う な の ?」


 しどろもどろになる僕に構うことなく、鴉羽さんは捕らえた獲物をじっくりいたぶるように一語一語をゆっくりと口にする。


 僕は頭から湯気が出そうになりながら、何とか


「……嘘じゃありません。というか嘘じゃなくなりました」


 と絞り出すのが精いっぱいだった。


「うん、素直でよろしい♪」


 その痴態に満足したのか、鴉羽さんはようやく僕の頭を解放してくれたのだった。




 どうやら、これは言い逃れのしようもなさそうだ。

 いつも教室のすみにいる陰キャな僕、古内裏幸成は――


 分不相応にも、クラスで最も人気者なギャル・鴉羽雛乃さんに恋をしてしまったらしい。


尺や流れの都合で本編に入れられなかった要素をこぼれ話としてXで公開しているので、よければそちらもご覧ください!

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