01_鴉羽さんは盛り上げる
クラスメイトの鴉羽雛乃さんはスクールカースト最上位のギャルだ。
どこにいてもピンクメッシュの入った黒髪が目を引き、誰と話していてもからからと笑う声が耳に届く。
明るくはつらつで友達も多く、男子からも人気がある、まさしくクラスの中心人物。
それに引き換え僕、古内裏幸成はいつもひとりで教室のすみにいる陰キャ。
鴉羽さんとは対極に位置する人間だ。
そんな僕らが唯一関わったと言えなくもないのは、高校の入学翌日。
その日はクラスごとのオリエンテーションがあるだけで午後の早い時間に下校することになったんだけど――
◆
「それじゃ、親睦会も兼ねてみんなでカラオケいこ~!!」
オリエンテーションが終わった直後、そう提案したのはもちろん鴉羽さんだ。
入学二日目にして既にクラスの中心になっていた彼女の案に、クラスのほぼ全員が参加の意を表明した。
何を歌うか、誰と仲良くなれるかといった話題で教室が色めき立つ。
そんな中、僕はそそくさと帰り支度をしていたんだけど――
「ね、ね、小平だっけ? アンタも行くよね、カラオケ」
突然声をかけられ、顔を上げると目の前に鴉羽さんが立っていた。
どうやら店の予約を取るため人数を確認しているらしい。
「……古内裏です。悪いんだけど、僕は遠慮しておくよ」
きっと当然行くものと思われてたんだろう。やんわり辞退すると予想外の答えに鴉羽さんが目を丸くする。
「え~、なんで?」
「いや僕カラオケ行っても歌える曲ないし……歌わない奴がいても盛り下がるだけだからさ」
せっかく声をかけてくれたのに申し訳ないと思いつつ、そう返事をして席を立った。
こういうことは初めてじゃない。
中学でもたまに誘ってもらうことはあったけど、僕は根っからの陰キャだからそういう集まりに向かないのだ。
一緒に遊びたい気持ちはあるけど、空気を読めず白けさせることが多いし、そうすると僕も居心地が悪くなる。
だから向かない人間は無理に参加しない方がいい。
きっとみんなもそれは分かってるから、こう言えば素直に引き下がってくれると思ったんだけど――
「何シケたこと言ってんの。いいから、ほら行くよ!」
「あれ?」
そのまま立ち去ろうとしたところで、腕を掴まれ有無を言わさず引き留められた。
どうやら鴉羽さんはだいぶ強引な人らしい。
「ちょっと待って、僕の言ったこと聞いてた??」
「聞いてたけど甘いよ小平……アンタが来ようと来なかろうと、アタシがいるのに盛り下がるワケないじゃん?」
「古内裏ですぅ……」
どうやら鴉羽さんはすごい自信家でもあるらしい。
親指でびっと自分を指して胸を張る鴉羽さんを前に、どうしたもんかと頭を巡らせる。
「でもね、僕の陰キャオーラを甘く見ない方がいいよ? 中学じゃどんなに騒がしいホームルームも『古内裏くんが喋るだけで静かになるから楽だわ』って、担任の先生に褒められたくらいなんだから」
「それを褒められたって思えるのはだいぶ陽キャだと思うよ?」
鴉羽さんは冷静につっこんだ。
「とにかく、そういうわけだから僕を連れてくのはやめた方がいいって」
「しつこいな~。分かった、そんな言うなら勝負しようよ」
「勝負?」
一体何を言ってるのかと思ったら、鴉羽さんは僕を引っ張って教壇まで行き「みんな聞いて!」と声を張り上げた。
教室中の視線が鴉羽さんに集まる。同時に彼女に片腕を拘束されている僕にも集まる。突然注目の的にされて面食らう僕とは対照的に、鴉羽さんはまったく動じることなく、だんっと教団に手をついて堂々と話し始めた。
「今日のカラオケ、アタシとコイツで勝負するから! アタシは精一杯盛り上げる、コイツは頑張って盛り下げる。で、どっちが勝ったかみんな判定ヨロシクね♪」
…………はい?
何言ってるのこの人!?
突然の意味不明な勝負宣言に、クラスメイトのみんなは困惑したように静まり返っている。
当然だろう。盛り上げるか盛り下げるかを競うなんて聞いたこともない。
ドヤ顔で言い切った鴉羽さんには悪いけど、これは勝負するまでもなくどっ白けてしまったんじゃ……。
そんな僕の心配を他所に、クラスメイトたちは一拍置いた後でどっと笑いだした。「何だよその勝負」「盛り下げるってどうすんの」「負けたら罰ゲーム有りか~?」と口々に話すクラスメイトの顔は、みな一様に楽しそうだ。
中には「じゃあ俺盛り下げ側に回ろっかな」などと言い出すお調子者まで出る始末。
まさしくクラス中の空気が鴉羽さんを中心にうず巻き、彼女が望む色に染め上がっていた。
鴉羽さんは教壇からトンと降りるとようやく僕の腕を離し、その拳をそのまま僕の胸に当てる。
「そういうことだから、もちろん逃げないよね?」
呆然としている僕を挑発的に見上げながら、悪戯っぽくウインクする鴉羽さん。
思えばこの時、僕は鴉羽さんの「かっこよさ」の片鱗を見せつけられたのだった。
◆
これが、僕と鴉羽さんの唯一と言っていい関りだ。
このカラオケ会をきっかけにクラスのみんなと順調に友情を育み――何てことはなく、数日もすればクラスの中で自然と仲のいい同士でグループが出来上がり、一緒にいる面子が固定されていく。
そして僕は当然のようにどのグループに入ることもなく、ひと月ほどが過ぎたある頃――
「古内裏、お前鴉羽に告ってこいよ」
人通りの少ない校舎の裏庭でお昼を食べていた僕に、二人のクラスメイトがニヤニヤしながら告げたひと言が、教室のすみで終えるはずだった僕の高校生活を劇的に変えることになったのだった。
第1話をお読みいただきありがとうございます!
あらすじにも書きましたが、本作は『〇〇さん系』漫画のテイストを小説に落とし込んだらどうだろう?というコンセプトで執筆したラブコメです。
かっこいいギャルの鴉羽さんと、実はただの陰キャじゃない古内裏くんの日常を一話完結でお送りしていきますので、面白いと感じたらぜひ感想をいただけると嬉しいです!




