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15A_鷺ノ宮さんは策を練る

 鴉羽さんと付き合うようになってから、僕は自転車通学から徒歩に切り替えている。

 理由はもちろん、駅までの通学路がカブっている鴉羽さんと一緒に帰るためだ。


 ただ朝の登校はお互い待ち合せたりはせず、それぞれで学校へ向かうことにしていた。


 そんなわけで僕は今朝もひとり、学校までの道を歩いていたんだけど――


「おはよ、ナベっち」


 そんな声と共に背中をぽすっと叩かれる。


「おはよう隼瀬さん」


 僕は耳に付けていたイヤホン(鴉羽さんお勧めのアルバムを聴いていた)を外し、挨拶を返す。


 どうやら隼瀬さんの家は僕と同じ方向らしく、最近通学中によく会うようになったのだ。

(おそらくお互い意識してなかっただけで、これまでもニアミスしてたんだろう)


「ねぇ昨日のジンゲームズニュース観た?」

「うん、アーカイブでだけどね。気になるタイトルが結構発表されてた」

「それね! まゆ的には『クラウドonファイター』の新作が気になってるんだけど、ランキング上位狙えるかしら……前作だとギリギリでレジェンドランク踏めなかったのよね」

「どうかなぁ……『CoF』はプロリーグもあるし、アマチュアで上位入りするのは大変かも」


 と、こんな感じでゲーム談義に花を咲かせながら学校へ向かう。


 僕と隼瀬さんは趣味が合うこともあり、こうやって好きなものについて話すのは楽しい。

 楽しいんだけど、ちょっと気になることもあって――


「そんなこと言って、ナベっちは当然レジェンドだったんでしょ?」

「うん、一応ね」

「あはは、生意気~」


 そう言いながら隼瀬さんは肩で僕を小突いてきた。軽い衝撃と共に隼瀬さんの体温が二の腕あたりに伝わってきて、離れた後もじんわり熱が残っているような感じがする。


 別に痛くないから嫌ではないんだけど……。


 何か距離近くないかな??




 ゲーセンでの一件以降、こういうことは度々あった。


 登校時以外にも、例えば廊下で会った時に腕を取ってきたり、座ってる僕に話しかけながら肩に手を置いたり、時には軽く押すように背中にくっついてきたり。


 鴉羽さんもだいぶ距離の近い人だけど、それとは別種の何か……率直に言うと、あざとさみたいなのを感じる距離感だ。


 あれだけ鴉羽さんに念を押されたのに、もしかしたら隼瀬さんはまだ僕のことを諦めていないのかな?


 そう思う一方で、隼瀬さんをよく見ていると鴉羽さんや鷺ノ宮さんと話している時も同じような感じでいることに気付く。

 僕が友達いないから知らないだけで、仲のいい相手との距離感なんて案外こんなものなんだろうか。


 もしそうだとすると、僕からやめて欲しいなんて言い出したら「ちょっと女子に触られただけで意識しちゃってる勘違い野郎」になってしまう……。


 さてどうしたものか。



   ◆



「……で、私に相談しに来たと」

「うん。他に話せる人がいなくて……」


 昼休み。お昼を食べてから午後の授業が始まるまでの僅かな時間。屋上へ続く踊り場で僕と話しているのは鷺ノ宮さんだ。


 鴉羽さんに相談しようかとも考えたんだけど、僕の勘違いだったら悪戯に隼瀬さんとの仲を拗らせてしまう可能性もあるので止めておいた。


 そして僕が自分から話しかけられる相手は、先生以外だと他に鷺ノ宮さんしかいない。

 あんまり適任とは言えない気がするけど、消去法でこうなったのだ。


 兎にも角にも、僕は鷺ノ宮さんに隼瀬さんの態度が気になっていることを伝える。


 ところが僕から話を聞いていた鷺ノ宮さんはだんだん痛い奴を見るようなジト目になっていき、最後には呆れたように大きな溜め息を吐いた。


「あのねぇ古内裏くん、自意識過剰にも程があるわよ」

「うぐぅ……」


 情け容赦のない結論にダメージを受け、僕は壁にもたれかかる。


「まったく男子ってこれだから……! ちょっと手や肩が触れたくらいで、どうして『自分のこと好きなんじゃ?』なんて思考になるのか理解できないわね」

「うぅ……でもほら、僕INKだし……」

「何よ『いんく』って?」


 思春期男子特有の恥部をちくちく刺されてついINKのことを喋ってしまったけど、鷺ノ宮さんはあまりゲームに興味が無いのか首を傾げていた。


 その後も「ちょっと話しただけでも好意があるとか言い出しそう」とか「自分を客観的に見られてないのかしら」とか「痛々しい勘違いもほどほどにしないと将来ストーカーになるわよ」など好き放題言われ、僕のメンタルはすり下ろされた大根のようにゴリゴリと減っていった。


 でも鷺ノ宮さんの言う通り、隼瀬さんがそこまで僕に執着するなんて有り得ないのかもしれない。

 やっぱり僕の勘違いだったのかな?


 そう結論付けようと思い始めたところで――


「大体、ああ見えてまゆは男子に人気があるのよ? それなのに何で古内裏くんなんかを――……あ、ヒナとお付き合いしてるからか……」


 滔々と僕をこき下ろしていた鷺ノ宮さんが、何かに気付いたように言葉を止めた。

 どうやら隼瀬さんの悪癖は、鷺ノ宮さんも知るところのようだ。


「……なるほど。それなら有り得なくもない……わね。古内裏くん自体には何の価値も無いけど『ヒナのもの』に違いはないのだし……」

「あの~、できればいちいち僕を刺すのやめて欲しいんだけど……」


 僕の抗議を無視して何やらぶつぶつと考えを整理している鷺ノ宮さん。

 彼女の中では点と点が線で繋がったのか、納得したように一度頷いてから僕の方を見た。


「うーん……どうやら全くの勘違いというわけでもなさそうね」

「そうですか……」


 正直、鷺ノ宮さんにボロクソに言われすぎてもはや隼瀬さんどころじゃなくなっていたけど、とりあえず痛い勘違い野郎という汚名は返上できそうでひと安心だ。


「それで、古内裏くんはどうしたいのかしら」

「僕としては、もし隼瀬さんがそういうつもりでいるなら、もう少し適切に距離を取って欲しいんだけど」

「それなら簡単よ。古内裏くんがヒナとお別れすれば、まゆもあなたに興味を無くして付きまとうこともなくなるわ。一石二鳥じゃない?」

「そういうのは本末転倒って言うんだよ!?」


 いかにも名案!といった感じで話すから何かと思えば、鷺ノ宮さんは相変わらずだ。

 僕は溜め息を吐いてもっと具体的な手段を探る。


「そういうのじゃなくて……例えば鷺ノ宮さんからそれとなく注意してもらうとかは難しいかな?」

「甘いわね。まゆはそう言われて素直に従うような子じゃないわ。むしろもっと積極的になるんじゃないかしら」

「うーん、確かにそれはありそう……」


 隼瀬さんは諦めが悪いし、たぶん自分が異性に好かれやすいのを分かってる。押して押して押しまくれば僕のことも落とせると考えてる可能性は十分にある。

 実際、鴉羽さんの手前距離を置こうとしてるけど、僕だって男子だ。隼瀬さんに迫られるのが嫌というわけじゃないし、ゲーセンでの出来事もだいぶヤバかった。


 これ以上エスカレートする前に何とか大人しくなってほしいけど、さてどうしたものか――


 僕は腕を組んでう~んと頭を悩ませる。

 するとそれを見ていた鷺ノ宮さんが何かを思い付いたように「それなら……」と口にした。


「私にいい考えがあるわ」


 さも自信ありげな鷺ノ宮さんの様子に、僕はものすごく不安を覚える。

 けれど他に妙案も無いので、一応彼女の策を聞いてみることにしたのだった。

全然懲りる気配のない隼瀬さんを相手にした、隼瀬さんの秘策とは……!?

(絶対碌でもない)


続きます!

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