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13B_隼瀬さんは負けず嫌い

「はー、びっくりした」

「な、何でまゆまで……」


 入口付近まで戻って来た僕らは肩で息をしながら、手近にあったベンチにどさりと座り込む。


「――てか、いつまで手ぇ握ってるのよ」

「あ、ごめん……!」


 逃げ出す際、咄嗟に掴んでしまった隼瀬さんの小さな手を離した。

 僕と知り合いだと知られたし、残しておいたらきっと質問攻めにされてただろうから連れてきてしまったけど、断りもなく女の子の手を握ったのはまずかったか。


 けど隼瀬さんはそれ以上不満を口にすることなく、ベンチにだらりと腰かけていた。


 しばらくしてだいぶ息も整ってきたところで、隼瀬さんが「ねぇ」と声をかけてくる。


「ナべっち、あんた本当にINKなの?」

「うっ……聞こえてたんだ」

「あんな目の前で話してて聞こえないわけないでしょ」


 呆けてたから気付かれてないと思ってたのに。

 これはさすがに言い訳は通用しなさそうだ。


「うん、まぁ、一応? 僕INKです……」

「え、ちょっとマジ? マジであのINKだったんだ……!」


 素直に認めると隼瀬さんは驚きで目を見開いた。


「あんまり他の人には言わないでね」

「分かってるわよ。INKってオフライン大会に全然出てこないし、きっと目立つの嫌なんでしょ? それにこんな秘密、独り占めしてた方が絶対面白いじゃん!」


 隼瀬さんは案外ミーハーなのか、目をキラキラさせて興奮気味だ。


 あんまり根掘り葉掘り訊かれるのも面倒だし、さっきのギャラリーに見つかってもまずい。今日はこのくらいにして、さっさと退散した方がいいかもしれない。


「そういうわけだから、くれぐれも内緒でお願いします。それじゃ、僕はこれで……」

「ちょっと待ちなさいよ」


 立ち上がろうとしたところで、隼瀬さんにがっしりと腕を掴まれる。


「さっきのリベンジがまだ済んでないじゃない。何逃げようとしてんの?」

「うぅ……ドサクサで忘れてると思ったのに……」


 どうやら隼瀬さんは執念深い性格らしい。


「でも今は『るん☆キャラろわいやる』のところに戻れないし、また今度にしない?」

「戻れないなら別のゲームでもいいわよ」

「別のゲームって……?」

「何でもいいのよ。あんたに勝って『あのINKを倒した!』ってフォロワーに自慢できればね!」

「ええぇ~~……」


 面倒くさい……。

 けどやる気満々の隼瀬さんを説得できそうもなく、仕方なく彼女のリベンジマッチに付き合うことになったのだった。



   ◆



「丁度いいし、これで白黒つけるわよ」


 と言って隼瀬さんが指定したのはクレーンゲームだ(ベンチのすぐ近くにあったからだろう)。


「ルールはお互いが指定した台で何でもいいから景品をひとつ、より少ない回数でゲットしたほうの勝ち。簡単でしょ? ゲームはまゆが決めたから台はナベっちが先に選んでいいわよ」

「う~ん、じゃあこれで」


 僕は目の前のぬいぐるみが入った筐体を指定する。

 本当はもっと難しい台もあるけど、あんまり回数がかかっても可哀そうだ。


 そんな僕の思いを知ってか知らずか、隼瀬さんは「ふふん♪」と得意げに鼻を鳴らした。


「ずいぶん余裕ね? 言っとくけどまゆクレーンゲーム超得意だから。ヒナち達と来た時も色々取ってあげてるのよ」

「へ~、鴉羽さんもこういうとこ来るんだ」

「反応するとこそこなの……? まぁいいわ」


 隼瀬さんは余裕の表情で500円玉を投入すると、台の正面から横軸を合わせ、側面に回って縦軸を合わせていく。中々本格的だ。

 一回目では取れなかったけど、それは想定の範囲内。クレーンゲームは配置によって攻略手順があって、それを無視して一気に取ろうとすると大抵失敗するものなのだ。ぬいぐるみのような軽いものでも、まずは掴みやすい体勢に整える必要がある。

 僕の見立ててでは正攻法で、たぶん四回くらいは必要なはずだ。


 狙いの景品を少しずつ動かして体勢を整えた隼瀬さんは、四回目のプレイで大胆に黒猫のぬいぐるみをアームで掴み、見事落とし口へと運んでいった。


「っしゃ完璧! どうよ!」


 取り出し口から黒猫を出した隼瀬さんは、得意げにそれを掲げて見せた。


「すごい、ほとんどノーミスだ」

「ふふん♪ 褒めても手加減はしないからね。さーてナベっちにやらせる台はどれにしようかなぁ……あ、あれなんてどう?」


 そう言って隼瀬さんが指定したのは、僕が指定したものより小さなぬいぐるみが詰まった台。ターゲットが軽い分持ち上げやすい……なんてことはなく、小さい景品はバランスが取りづらいので難易度は高くなる。

(基本的にクレーンゲームのアームは景品を「掴む」ほどのパワーはないので、上手く「載せる」必要があるのだ)

 さらにこの台は横に回り込むスペースがなく、奥行きが見づらい。アームの開きも少ないし爪の角度も急で、要するにめちゃくちゃ難易度の高い台だった。


 本当に容赦なく選んできたな……!

 僕に勝って自慢したい、みたいなことを言ってたけど……こんなので自慢になるんだろうか。


 まぁいいや。

 僕は文句を言わず指定された台に100円玉を投入する。


「はぁ? 1プレイでイケると思ってんの? それはちょっと甘く見すぎよナベっち」


 隼瀬さんはぷぷぷとバカにするような顔をするけど、その表情はすぐさま驚愕に変わることになる。


 僕がアームを挿し込んだのは、落とし口から少し離れた位置だ。そこには一見取りやすい景品なんて無いように見える……けど甘い。

 ぬいぐるみの山に挿し込まれたアームが戻ってくると、その爪の片方には二つのぬいぐるみが引っかかっていたのだ。


「な……タグ掛け!? しかも二個同時に……!?」


 そう。僕が狙ったポイントにはぬいぐるみのタグが二つ重なっていたのだ。そこにアームの爪を通し、一気に引っこ抜いた。

 景品が小さい=ひとつの筐体により多くの景品が入っているということであり、こういう台はタグ掛けが狙いやすい。


 結果、僕は1プレイで見事に景品をゲットしてみせた。


「はは、僕の勝ち……だよね?」

「ぐ、ぐぬぬぬ~~~……!」


 なるべく遠慮がちに訊いてみたけど、隼瀬さんは悔しそうに顔を歪めながら全然納得してない様子だ。


「まだよ! クレーンゲームは腕前より観察力って感じだし? やっぱ直接白黒つけられるゲームで勝負よ!」


 そう言って僕の手を掴むと、今度は二階のアナログゲームコーナーへ引っ張って行くのだった。



   ◆



 次に隼瀬さんと来たのは、エアホッケーやもぐら叩き、ピンボールなどが並ぶエリアだ。

 その中で彼女が選んだのは壁際にあるバスケゲーム。一定時間内に何本シュートを決められるか競うものだ。


「次はこれでいいわね?」

「まぁ何でもいいけど……」


 正直言って意外なチョイスだ。小柄な隼瀬さんは運動との相性が悪いと思ってた。


「ふふん♪ あんた今楽勝だなって思ったでしょ? 甘いわよ。まゆはこう見えて中学の頃はバスケ部だったんだから!」

「へ~、そうなんだ」

「ヒナちともバスケ部で知り合ったのよ? 二人とも身長伸びなくて高校じゃ辞めちゃったけどね」

「え、何その話もっと聞きたい!」

「その反応の差は何なのよっ!」


 隼瀬さんは「まったく男子はどいつもこいつもヒナちばっかり……!」とぷりぷりしながらマスクを外し、ボールを手にして所定の位置に立つ。

 そんなに平静さを欠いてて大丈夫かな?と思ったけど、次の瞬間すっと頭上にボールを掲げた隼瀬さんの姿を見て、その心配は吹き飛んだ。


 右手でボールを押し出し、左手は添えるだけ。腕だけに頼らず全身をバネとして使うお手本のようなフォームは、確かに経験者を思わせる。


 放たれたボールは綺麗な放物線を描き、そのままぱすっとゴールネットを揺らした。


 その後も隼瀬さんは次々にシュートを繰り出し、体感で9割以上が見事に決まっている。

 さすがに元バスケ部は伊達じゃないみたいだ。


 筐体に表示される得点もどんどん増えていき、200点を超えたところで終了のブザーが鳴った。


「……どうよ!」


 少し息を切らせた隼瀬さんが得意げに振り返った。

 これには僕も素直に拍手せざるを得ない。


「すごい! ほとんど外してないし、シュートしてるとこもかっこよかったよ」

「そ、そう……? 素直に褒められるとなんかむず痒いわね……」


 隼瀬さんは少し照れたように頬をかいた。マスクを外した口元は、抑えようとしても僅かにニヤついている。


「とにかく! 次はナベっちの番よ。ふふん♪ まぁこの記録は越えられないだろうけどせいぜい頑張ってね?」


 そう言って場所を譲る隼瀬さんを横目に、僕は所定の位置についた。


 確かに隼瀬さんの正確無比なシュートはすごかった。

 でもこれはバスケじゃなくバスケ「ゲーム」だ。


 その攻略法は本物のバスケとは根本的に異なる。どうやら隼瀬さんはそれを知らないらしい。


 ゲーム開始の合図を前に、僕の姿を見た隼瀬さんは、そのあまりの異質さに目を丸くした。


「な、何よそれ……!?」


 驚く隼瀬さんの視線の先、僕は両手にひとつずつボールを手にしていた。

 そして開始の合図と共に、左右ぞれぞれでぽんぽんぽんとリズミカルにシュートを放つ。


 正確さも何もあったものじゃない。その姿はきっと、ただボールを拾って前に飛ばす機械みたいに見えたことだろう。

 でもこれがこの手のゲームにおける攻略法だ。


 隼瀬さんがやってたように一本一本丁寧に狙っていたのでは、どうしても制限時間内に投げられる数が少なくなる。

 それではどれだけシュートが正確でも得点が伸びないのだ。


 一方で、僕がやってるのはまさに下手な鉄砲も何とやら。

 シュート成功率は3割にも満たないけど、放っているシュートの本数は隼瀬さんの4~5倍はある。


 結果――


「300点越え!? 嘘でしょ……!?」


 終了のブザーと共に、ハイスコア入りしたプレイヤーをたたえるファンファーレが鳴り響いた。

 表示された得点を見て、隼瀬さんはわなわなと手を振るわせている。


「こういうゲームは普通のバスケよりリングが低くて入れやすいし、ボールも軽いからね。上手い人だと400点越えたりもするらしいよ」


 さすがにそこまでいかずとも十分だ。

 クレーンゲームに続きバスケゲームでも勝利した僕は、未だ敗北の衝撃から立ち直らない隼瀬さんに「そろそろ帰ってもいいかな……?」とお伺いを立てる。


 けど隼瀬さんは振り返り様にキッと僕を睨み、涙目で「まだよ!」と叫んだ。


 ひょっとして、これは隼瀬さんが勝つまで帰れないやつなのでは……?


隼瀬さんとのゲーセンデート……もとい決戦の行方はいかに……!

まだ続きます!(すみません…)

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