13A_古内裏くんは圧倒する
僕と鴉羽さんはお付き合いしているけど、だからっていつでも一緒というわけじゃない。
放課後、鴉羽さんが僕のところにやってきて
「ごめん古内裏ぃ、ちょっとマリに用事頼まれちゃってさ。今日はひとりで帰ってくれる?」
と両手を合わせた。
その背後、教室の入り口では鷺ノ宮さんが鴉羽さんを待っている。
(僕がそちらを見ていることに気付くと、べぇと舌を出してきた。子供か……)
こういうことは珍しくない。
他の友達との約束だったり、あるいは家の用事だったり。鴉羽さんは人気者だし、色々と多忙なのだ。
「うん、分かった。それじゃ鴉羽さんまた明日」
別に彼氏だからって、ずっと彼女を独占していいわけじゃない。
僕がひらひらと手を振ると、鴉羽さんは「悪いね」と言い残して鷺ノ宮さんの許へと向かった。
さて。
いつまでも残ってても仕方ないので、僕も鞄を手にして席を立つ。
急に暇になったけど、この後は何をしようかな。
◆
鴉羽さんと一緒じゃない時の過ごし方は色々だ。
さっさと帰って漫画でも読んだり、図書館に寄って勉強したり、運動がてら少し遠回りに散歩したり。
今日は特に予定もないし、どこかに寄っていくのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら駅前を歩いていると、大型アミューズメント施設……所謂ゲームセンターの前を通りかかった。
大型ディスプレイには最新タイトルのPVが流れ、いかにもゲーミングな電飾が店内をほの暗く照らしている。
そういえば結構ご無沙汰だった気がするな。
先日はプリを撮るために立ち寄ったけど、基本的に鴉羽さんと一緒の時はこうした場所にはあまり来ない。
何故なら「デートでゲーセンはNG」と動画で解説してるのを見たからだ。
でも今は僕ひとり。
丁度いい機会なので、今日はここに寄ってくことにしよう。そう考えて僕は自動ドアをくぐった。
中に入った途端、電子音や店内BGMの重低音が洪水のように押し寄せてきて、自然と心拍数が上がる気がする。
僕はカップルや女性同士できゃっきゃとはしゃいでいるプリ機やクレーンゲームコーナーを素通りして、アーケード筐体が並ぶ奥の方へ。
ここへは何度も足を運んでいるから、フロアマップは頭に入っている。
フロアの最奥、このゲーセンで最もディープな一画を目指しながら、何で遊ぼうかと考えていると――
「すっげぇ、これで八、九……十人抜きだぜ!」
「次、俺もやってみようかな?」
「止めとけって、お前じゃ速攻ボコされて終わりだ」
とある筐体の周囲に異様な人だかりが出来ている。
どうやらもの凄く強いプレイヤーの登場で盛り上がっているようだ。
人だかりがの中心にあるのは『るん☆キャラ』の対戦格闘ゲーム。
日アサのキャラクターを格ゲーで戦わせるという突飛なアイディアが話題を呼んだ、去年くらいから稼働しているタイトルだ。
僕も結構やり込んでいるし、そんなに強い人がいるならぜひ挑戦してみたい。
こういうゲームセンターにおいて、強いプレイヤーとの出会いは一期一会。
今戦わなければ、次にまた会える保証はどこにもないのだ。
だから思い立ったら即行動あるのみ。僕はちょうど人が途切れた対戦席に座り、1クレジットを投入した。
相手がどんな人か気になるけど、向こう側を覗き込むのはマナー違反だ。
おとなしくキャラクターを選択して対戦画面へ進む。
そしてゲームが始まった。
途端に、周囲からはどよめく声があがる。
「おい、この挑戦者……強ぇぞ!?」
誰かがそんな感想をこぼしたように、僕は謎の強豪プレイヤーを圧倒していた。
体力の半分を残した状態で1ラウンドを先取。
続く2ラウンド目もあっという間に相手をレッドゾーンまで追い込んだ。
とは言っても、相手のプレイヤーはかなり強い。ここまで一方的な展開になってるのはキャラ選択による面もあるだろう。
相手の使用キャラは『るん☆キャラ』の主人公「ルル」。攻守のバランスが良く、正面戦闘を得意とするタイプだ。
対して僕が選んだのは敵幹部のひとり「ヒッキ」で、罠や置き技で戦う搦め手主体のキャラクター。はっきり言って相性は抜群に有利だ。
相手もかなり粘ったけど僕の守りを崩すことはできず、最後は焦って近づいてきたところにカウンターを入れて超必を叩きこむ。
2ラウンド連取で僕の勝ちだ。ギャラリーから「おおおおぉおおおっ!!!」という歓声が上がった。
格ゲーは久しぶりだったけど、やっぱり面白いし勝てば爽快だ。
このまま何戦かチャレンジャーを待ちつつ、途切れたらアーケードモードをクリアして帰ろうかな。
そんなことを考えていた矢先のことだ。
突然筐体の向こうからぬっと人影が現れたかと思うと、こっちに回り込んできてダンと画面に手のひらを突いた。
「ちょっと何よ今の、ちまちまちまちまこっちのミス待ちなんかして! もう一回勝負よ勝負! 次やったら絶対まゆが勝つんだから!!」
「ひぃっ……連コインはマナー違反ですぅ……!」
突然メンチを切られて驚いた僕は身を縮こませる。
これはあれか、ゲームがヒートアップしすぎてリアルファイトに発展しちゃうってやつ……!?
実際に遭遇するのは初めてだけど、もちろん喧嘩になるのはご免だ。
何とか穏便に済ませようと相手の方を見ると、目に入ってきたのは思いのほか小柄なシルエットだった。
って言うか――
「あれ、隼瀬さん……?」
「あん? あれ、ナベっちじゃん! 何してんのこんなトコで」
そこにいたのは隼瀬舞弓さん。鴉羽さんの友達で、この前の校外学習で一緒の班だった女の子だ。
ロールしたツインテールにモノトーン調のゴスロリ……というか地雷系(?)な私服姿。黒いマスクをつけてるせいで彼女だと気付くのが遅れてしまった。
ちなみにナベっちというのは僕のあだ名だ。
どういうわけか校外学習から一部の人たちに定着してしまったらしい。
隼瀬さんの方も意外な人物との邂逅で、ヒートアップしていた感情が一気に冷めたようだ。
目をぱちくり瞬かせて、いまいち状況が呑みこめていない様子。
僕としても思わぬところで知り合いに会って、どうしたものかと思っていると――
「なぁ、お前『INK』じゃないか?」
ぽつりとギャラリーのひとりがそんなことを呟いた。
「正確無比なカウンター戦術のヒッキ使い……間違いない、お前があのINKだろ?」
そのひと言が引き金になって、他のギャラリーもにわかにざわめき立つ。
「INKって?」
「色んなゲームのオンラインレコード上位に入ってるすごい奴」
「確かこの『るん☆キャラろわいやる』でもアマのオンライン大会では上位常連だったはずじゃ……」
「あ、知ってる! すげぇ強いのにオフの大会全然出ないから、海外プロのスマーフ(初心者なりすまし)じゃないかって言われてる奴!」
「え、マジ本物!?」
……まずい。なんか騒ぎが大きくなってきたぞ。
予想外の方向から窮地に追い込まれた僕は、咄嗟にまだ呆けている隼瀬さんの手を取った。
「え、ちょ」
そして困惑する隼瀬さんに構わず「ひ、人違いです~~~!!」と言い残してアーケードコーナーから逃げ出したのだった。
これまでチラチラと顔出しはされていた隼瀬さん登場回!
そして……またしても続く! すみません!!
次回、ゲーセンデートの巻。




