表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: Yonohitomi
一章
81/166

84.落ちた先に


滝壺に向かって、猛烈な勢いで落下している。


背中にあったはずの黒訝の存在が離れていく。彼はまだ気を失ったまま。

蓮次は反射的に手を伸ばす。


掴まなければ。なんとしても――。


だが、蓮次も限界だった。

視界が霞む。腕に力が入らない。黒訝っ、とかすれた声が喉から漏れたところで、意識が途切れた。


その時。


「よっ……と」


呟くような声とともに、空中に大きな影が躍った。


豪快な動きで、落下していく二人の身体を軽々と受け止める。勢いを殺さぬまま、影は向こう岸へと飛び上がった。


柔らかな地面に降り立つと、烈炎は腕の中の二人を見下ろし、にやりと笑った。


「まぁまぁだな」


まるで、二人の健闘を褒めるかのような声音だった。


耀はすぐに駆け寄ると、蓮次を受け取ろうとした。けれど、烈炎は腕を緩めようとしない。


「お前、まだ具合悪いんだろ」


短くそう言うと、烈炎は悠々とした足取りで歩き出した。耀は何も言わなかったが、それについていく。




鼻をつく血の匂いは薄れ始めた。

やがて、どこか懐かしい緑の香りが漂ってくる。


「……っ……」


烈炎の腕の中で、蓮次のまぶたが微かに震えた。視界はまだぼんやりしている。


「黒訝……っ」


声にならないほど掠れた息が漏れる。


蓮次は反射的に動こうとしたが、身体はまるで石のように重かった。それでも、必死に意識を繋ぎ止めようとする。


どこだ、黒訝は――。


「安心しろ、無事だ」


烈炎の低く落ち着いた声がした。


豪快な調子の中に、どこか優しげな響きがあった。蓮次はゆるく瞬きをし、烈炎の言葉を受け入れる。


安堵が意識をぼやけさせていく。


良かった、黒訝は生きている――。


そのまま、蓮次の瞼は静かに閉じられた。

耀はすぐ隣でその様子を見守りながら歩いていた。


夜風が、また静かに流れる。




遠く、朱炎の屋敷。


静かな夜気に包まれた廊下の奥で、朱炎は遠くを見つめている。


屋敷から離れた地にいる四つの気配――蓮次、黒訝、耀、そして烈炎。


その帰還を、朱炎は確かに捉えていた。

微かに含みのある笑みを浮かべながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ