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7.消えた令嬢

今日もありがとうございます。

頑張って更新してます。

 空気が重い。


 窓は開いているはずなのに、息苦しさが抜けない。


 王族用の執務室。

 広い空間の中央で、第一王子バルド・レイ・リカージョンが苛立ちを隠さずに立っていた。


「……カリオン」


 低く、押し殺した声。

 だが、すぐに怒声に変わる。


「お前、何をしたのか分かっているのか!」


 背の低いテーブルの向こう側。

 カリオンは自身の髪を指先で弄り、聞く耳を持たない。


「……」


 背もたれにだらしなく体を預け、足を雑に組んで座っている。

 

 身内しかいないとはいえ、大きな欠伸(あくび)は、王族にあるまじき振る舞いだろう。


「……で? 何の話でしたっけ?」

「とぼけるな!!」


 怒りに任せ、テーブルに飾られていた花瓶を振り払う。


 カリオンは動じず、視線の先で水が零れるのを一瞥した。

 まるで他人事のようだ。


 対して、バルドはさらに怒りを募らせていく。


「アネリエ嬢だ! 婚約破棄とはどういうことだ! それに行方不明だと!?」


 アネリエ・モトレー侯爵令嬢が消えて早1週間。


 王太子の権限で近衛騎士を総動員させた。

 ……が、何の痕跡も出てきていない。


「父上はもう何も理解なさっていない!! こんなことになるなら私が……!」


 声が掠れる。

 バルドは言葉を噛み締めて言った。


「私が引き受けるべきだった……!」


 思わず軽蔑の眼差しを向ける。

 この男は今、自分がアネリエと婚約するべきだったと言ったのだ。


「そういうところが嫌なんですよ」


 カリオンは視線を手に移す。

 ささくれが気になるのか、整えた爪の形が気に入らないのか。


「どいつもこいつもアネリエ、アネリエ、アネリエ。気持ち悪くて仕方がない」


 何を思い出しているのか。

 カリオンの表情は苦虫を噛み潰したように見える。


 しかし、すぐに変わった。

 嘘のような笑顔に。


「その点、リリは本当に愛らしくてーー」

「いい加減にしろっ!!!」


 ついに限界が来たのだろう。

 (ひたい)の端に青筋が浮かぶ。


 バルドは息を深く吸って、吐いた。


「……アネリエ嬢に何かあってみろーー」


 握りしめた拳。

 怒りを含んだ静かな声。

 

 わなわなと震える彼は、かろうじて感情を抑え込んで言った。


「国民全員が貴様を恨むだろう…!」


 自分は何も間違っていないと思っているし、(こと)の重大さも分かっていない。


 最初から無駄だと分かっていた。

 執務室に呼び出し、説教を垂れても、弟は変わらないと。


 それでも、言わずにはいられなかった。


 バルドは少し冷静になり、終話する。


「……箝口令を敷いたが、噂はもう国中に広がっている」


 扉を指差した。


「しばらく謹慎しているんだな」


 適当に返事をし、カリオンは指示通りに執務室を出ていく。


 去り際に「やっと終わった」と呟いた。


 もちろん、バルドの耳にも届く。

 

 しかし、これ以上感情を振り回すのは疲れたのか、彼は何も言わなかった。



 荘厳な扉が、勢いよく開かれる。


「姉様は!?」


 荒い息。

 乱れた足取り。


 リトニエ・モトレーが玄関へと踏み込んだ。


 急いで馬を走らせたのだろう。

 外套すら脱いでいない。


 予定のない帰宅に、執事は慌てて駆け寄る。


「リトニエ様……!」

「姉様はどこだ!」


 執事は何も言わず。

 ただ、悲しそう表情を浮かべるだけ。


「……そうか、噂は事実なのか」


 だから戻ってきたのだ。

 普段は学院の寮で暮らしており、ここ数年は長期休暇で帰省するのみだった。


「父と母は?」

「……まだしばらくは帰って来られないでしょう」


 舌打ちをする。

 自分勝手な両親は、姉が消えたことすらまだ知らないだろう。


 ひとまず状況を整理しなければ。

 自室に向かう。


 執事は慌てて屋敷の奥に戻り、侯爵家の嫡男が帰省したことを知らせに行った。


 ひと時の間。

 一人になったリトニエは、眉間をおさえる。

 

(……あの様子だと、姉様は何も言わずに消えたのか)


 彼女ほど優しく、他者に愛された人はいない。


 しかしーー


 だからこそ、冷たい人でもある。


「……婚約破棄? 笑わせるな」


 姿を消した理由は?

 俺はどこまで踏み込むべきだ?


 リトニエが着替えを済ませると、タイミングよく執事がやってきた。


 熱いコーヒーを受け取る。

 一口飲んだ後、リトニエは指示を出した。


「当日の記録を全て洗い出せ」


 成人パーティーの日。

 そして、アネリエ・モトレーの18歳の誕生日。


「使用人の証言や配置。式典用の飾り物まで全部だ」

「……承知いたしました」



 二日後。


 リトニエはソファに沈み込んでいた。


「……はぁ」


 長く息を吐く。

 視界の端には書類の山。


(……姉様がいない。両親(あの人)達も…)


 今、侯爵家と領地を回せる者は自分だけだ。


 だが——


「……おかしい」


 屋敷に帰ってきてからというもの、ここ最近の会計帳簿や決済書類に目を通していたが。


 ……明らかに整いすぎている。


 もはや書類ではなく、教書と呼ぶべきだろう。

 

 それに、ここ数ヶ月で各方面の契約が更新されているようだった。

 

 まるで最初から——


「……そうなると分かっていたみたいだ」


 ぽつりと呟く。

 そして、リトニエは小さく笑った。


「……そうだと思ったよ、姉様」


 しばらくしてーー

 執務室に執事がやってきた。


「リトニエ様、お届け物が」


 差し出された箱。

 ご丁寧にリボンまで巻いており、一目で贈り物だと分かる。


「……ああ」


 執事が退出し、扉が閉まる。


 一人になったと確認してから、リトニエは箱を開いた。


「……これは」


 中に入っていたのは、社交用のドレスだった。

 上品な淡い黄色の生地。


 誕生日プレゼントとして、リトニエが贈ったものだった。


「……」


 一瞬、思考が止まる。


 なぜこれがここにあるのか。


 だがすぐに、視線を落とす。


「……違う」


 生地を撫でると、縫い目が粗くなっている部分があった。


 ドレスは重く、一人での着脱は難しい。

 おそらく、強引に脱いだのだ。


(……何かあるはず!)


 箱から取り出し、くまなく確認する。

 すると、裾に違和感があった。


 静かに捲る。


 そこには、粗く縫われた数字があった。


 ——4・5・34・12


「……は」


 息を漏らす。


 リトニエは急いで書斎へ向かった。

 

 幼い頃、このような数字を使って、姉と宝探しをしたことを思い出したのだ。


 追随を許さぬほどの蔵書。


 その中でも、物語ばかりを集めた本棚の前に立つ。


 ……下から四段目。


 ……左から五冊目。


 埃を被った一冊の本を手に取った。


 ……三十四ページ。


 ……十二行目。


 そこにあったのは——


『大丈夫、私は戻ってくるわ。それまで皆んなをお願いね』


 指で文字をなぞる。

 何度数えても、間違いはない。


「……はぁ……」


 リトニエはその場に崩れるように座り込んだ。


 本に付いた埃が宙を舞い、頭の上に落ちる。


「……姉様」


 呆れすぎて、声が掠れてしまう。

 もはや笑うしかなかった。

 

「亡くなるヒロインの台詞ですよ、これ」

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!!


あと、参考になりますので、面白いと思っていただけた話には「いいね」をお願いします!!


次話以降も読んでいただけると嬉しいです。

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