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1.逃亡

順調に2話目

ここから物語が大きく動きます

「はぁ…はぁ…はぁ……」


 うるさい心臓を無視し、アネリエは荒くなった呼吸をどうにか落ち着かせようと息を吐く。


 崩れたアイメイクをドレスの袖で(ぬぐ)いながら、意識を自分のすべきことに集中させた。


「…想定よりも人が多いわ」


 今、彼女がいるのはリカージョン国の王城の外廊下。

 それも、端のさらに端――裏道とまで言われる場所だ。


 本来なら人通りは少ないはずのそこに、今は定期的に人が走っては去っていく。


 何をしているのか。

 ……考えるまでもない。


 周囲に誰もいなくなったのを確認してから、アネリエはわざと明るく悪態をついた。


「ああもう! サラッと別れて、パパッとパーティーを退出したかったのに…」


 勿論、()()()()()()()()()()()()()


 婚約破棄の相手は、リカージョン国第3王子カリオン・ヴェル・リカージョンであり、


 断罪されたのは…

 モトレー侯爵家の令嬢。


 “聖女“アネリエ・モトレーなのだから。


 この状況で何も起こらないはずがない。


 幸か不幸か、利害関係でカリオンを擁護する者はいても、パーティーの大半はアネリエの味方だった。

 

「アネリエ様を見つけたぞ!!」


 名前を呼ばれ、肩がびくりと跳ねる。


 しかし、どうやら声の主は反対方向へと走って行った。


(今だわ!)


 アネリエは迷わず駆け出した。


 ドレスが捲れあがろうが、靴擦れになろうが。

 用意していた馬車まで勢いよく飛び込んだ。


「…!」


 御者が目を丸くする。


 だがすぐに、『扉を開けておいて欲しい』という依頼の意味を理解したのだろう。

 何も言わず、馬を走らせた。


「…………………」


 規則的な(ひづめ)の音が響き始める。


 馬車が、動いている。

 それを実感した途端ーー


「はあああ〜…………ははっ……あははははっ!!」


 張り詰めていたものが一気に解け、アネリエは笑い出した。

 誰にも見られない馬車の中で押し寄せる安堵。


「おとりを用意しておいて正解だったわ」


 アネリエは、聖女(アネリエ)が多くの人に愛されていることを理解している。

 自惚れなどではなく、事実としてそのように振る舞ってきたからだ。


 だからこそ、一方的に婚約破棄をされれば、同情が集まることも分かっていた。


 ーー人は、思った以上に簡単に動く。


 アネリエはお腹を抱きしめるように、体を寄せた。


「この選択を、間違いではないと証明するのは貴女よ、アネリエ」


 呼吸が落ち着いた後、アネリエは結い上げていた髪を解いた。

 絡まった髪をほぐすように頭を振る。

 昔は当たり前だったその重さが、今はただ煩わしい。


 アネリエは馬車の小窓からそっと、街並みを眺めた。

 見慣れた景色。

 愛している国。


 それをーー自分は捨てる。


「…さよなら、リカージョン」


 今日は、アネリエの誕生日でもあった。


………


 眉間に皺を寄せながら、嫌そうに大量の書類を処理していく。


 まるで猛獣のようなたてがみの男、ブラッドレッド国の騎士団長ライオネル・アルヴェインは、無駄話が多い部下の報告を受けていた。


「ーー以上が国内の報告事項でございますっ!」

「……うるせぇ」


 まるで褒美を待つ犬のようだ。


 ライオネルはうんざりするようにため息を吐いた。


「また懲りずにくだらん話でも持ってきたのか?」

「今回は違いますよー!」


 冷たい態度をとりつつも、普段から部下を可愛がっているのだろう。

 ライオネルは視線を送り、続きを促した。


「リカージョン国の聖女様についてはご存知ですよね?」

「嫌でもな」


 聖女にまつわる歌だの演目だの。

 よくもまぁ他国の聖女をそこまで崇めるものだと呆れていた。


「その聖女様が、行方不明になりました」

「……は?」


 書類の手が止まる。

 ライオネルは部下の話に意識を向けた。


「成人パーティーの最中に婚約破棄され、そのまま姿を消したそうです」

「…婚約破棄?」


 聞けば、第3王子カリオンは愛人と結婚するとまで(のたま)ったらしい。

 そんな奴が王族とは、ご愁傷様としか言いようがない。


「第3王子殿下に振られ、傷心しているところを何者かに攫われた、ということでしょうか?」

「…さあな」


 ふと、脳裏を過ぎるものがあった。


 嵐の夜。崩れた地盤。

 誰もが救援を諦めた中、突如として運び込まれたありえない量の物資。


 呆れるような言い訳と強引なやり方。

 それを実行させる影響力。


(……そんな女が、簡単に消えるか?)


 違和感。


 しかし、いくら考察しても意味がない。

 腐るほどの噂は聞けど、聖女本人を知らないのだから。


 それにーー探すべき人は他にいる。


 業務もそこそこに、ライオネルは執務室を後にした。

読んでいただきありがとうございます。


一旦、3話までは本日投稿予定です。

続きも読んでいただけると嬉しいです!


参考になりますので、面白いと思っていただけた話には「いいね」をお願いします。

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