第四十四話 ギレ山砦攻防戦③
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「まだだ、まだ死んでいないぞ」
倒れないイザークに対し、グランベルとラグンベルが口を尖らせる。
「やったと思ったけれど、少し手応えが変だね。ラグン」
「うん、鱗が分厚いのかな? あと鱗の下の筋肉が、衝撃を吸収しているみたいだね。グラン」
「この感触、以前戦ったガリオスに近いものがあるかな? ラグン」
「そうだね、あの時のガリオスに近いね。グラン」
戦闘中だというのに、グランベルとラグンベルは呑気に会話をしている。イザークは傷の痛みになんとか耐えながら、呼吸を整えることに努めた。だがその呼吸が一瞬にして途絶した。槍を構える双子将軍が笑みを浮かべたからだ。
グランベルとラグンベルは、終始余裕の笑みを湛えていた。しかし今の笑みは違う。緩んだ口と目には、冷酷さが宿っている。
「ガリオスを倒すために鍛えた技」
「練習台にちょうどいいね」
笑う双子が滑るように体を動かし、互いの体を寄せ合う。そして密着しながら槍を構え、イザークに向かって突進してくる。
イザークは戦鎚を薙いで迎撃するも、双子将軍は互いに身をひねって回避する。次の瞬間、双子のうち一人の姿が消える。違う、消えてはいない。背後に隠れている。回転するように体を捻り、背後に隠れていたもう片方が姿を現す。そして回転の力をそのままに突きを放った。
イザークの鎧が貫かれ、血が飛び散る。だが攻撃はこれで終わりではない。双子は互いに背中を預けながら、クルクルと回転して攻撃を続ける。息もつかせぬ連続攻撃。その速度は速く、何より強い。手数が増えれば一撃の威力は弱まりそうなものだが、むしろ強くなっている。
体の痛みに耐えながら、イザークはグランベルとラグンベルが使う技の術理に気づいた。
魔族も人も、種族は違えども手足はそれぞれ二本ずつ。体の構造は近く、動かし方もほぼ同じだ。重心も決まっており、片足を上げている時は重心が悪くなる。だがグランベルとラグンベルは違う。背中を合わせ合うことで、重心すらも分け合い補っている。
もはやグランベルとラグンベルは二人ではない。二身一体の怪物である。
「さて、ここまでは以前も使っていたけれど!」
「ここからは対ガリオス用の新技さ!」
グランベルとラグンベル、イザークにはもはやどちらがどちらか判別がつかない。その中で右にいるほうが両手で槍を突き出す。さらにその槍に、三本目の手が添えられる。左にいる片割れの左手だ。普通ならば邪魔にしかならないであろうが、三本目の手は槍を加速させ、イザークの右腕を貫いた。イザークは焼けつく痛みに唸り、戦鎚を落とす。
「うまくいったね、ラグン」
「ああ、グラン。これならガリオスにだって通用する」
右にいるグランベルが槍を引き血糊を払う。左にいるラグンベルも満足に頷く。
もはやイザークは立っているだけで精一杯だった。立ち尽くす中、イザークは必死に力が目覚めよと願っていた。
窮地に陥った時、イザークは自分でも信じられない力を出せる時があった。筋力が何倍も上がるだけでなく、体の傷さえ瞬時に治癒することが可能だった。あの力が使えれば、この窮地を脱することが出来る。それどころか一気に敵を押し返し、劣勢を覆せるはずだった。しかしどれほど念じようと、力が湧き出るどころか、出血と共に気力すら抜け出ていく。
意識すら混濁し始めたその時、雷鳴の如き声が響く。
「何をしておるか! イザーーーーク‼︎」
一喝したのは、双剣を背にする兄のガオンだった。隣には双頭の槍を持つガストンもいる。
「あ、兄、さ……ん?」
息も絶え絶えのイザークが視線を上げると、ガオンとガストンはイザークの隣に立つ。
「何をしている、イザーク! 武器を取れ! 戦わんか! それでもお前はガリオスの子か!」
ガオンは喝を入れたあと、グランベルとラグンベルを睨む。
「ふぅん。今度はガオン将軍とガストン将軍か。これはなかなかの大物が出てきたね。ラグン」
「ガリオスの息子を三体も倒したとなれば、ロメリア様に随分褒めてもらえそうだね。グラン」
「ガオンは僕がやるよ。ガストンは任せたよ、ラグン」
「なら、どっちが早く倒せるか競争だね、グラン」
「ほざけ! このガオンを容易く倒せると思うなよ!」
「お前達の首を、ロメリアに贈ってくれる!」
ガオンが双剣を抜き放つと、踊るように飛び掛かった。ガストンも双頭の槍を旋回させる。
兄達の剣捌きと槍捌きは、見事の一言だった。
ガオンは双剣を蝶のように煌めかせ、舞うように戦う。一方ガストンの槍は唸り声をあげて風を切り、疾風怒濤の攻撃を繰り出す。二体の動きは止まることを知らず、その身のこなしは巨躯を感じさせぬほど軽やかだった。二体は戦士の理想系ともいえる技術を体現していた。ガオンとガストンの猛攻の前に、グランベルとラグンベルも防戦一方となる。
双子将軍すら圧倒する技を見て、イザークはただただ驚いた。イザークの知るガオンとガストンは、持ち前の巨躯を生かした力任せの戦いをしていた。だが今のガオンとガストンは違う。巨体と腕力に頼ることなく、速く、そして正確だ。
槍術では向かう所敵なしのグランベルとラグンベルも、ガオンとガストンの前に後退する。
「へぇ、随分と腕が上がっているね」
「この二年で、だいぶ鍛えたみたいだね」
右のグランベルと左のラグンベルが、長いまつ毛に覆われた目を少し大きくする。
双子は槍を繰り出すも、ガオンとガストンは双剣と双頭の槍で防ぎ切る。
「お前達の槍捌きはすでに見切っている!」
「我らを以前のままと思うな!」
槍を払うガオンとガストンが吠える。二年前のガンガルガ要塞の攻防戦において、ガオンとガストンはライオネル王国軍と戦った過去があるのだ。




