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勇者が女の子になったって、どういうこと!?  作者: 天月瞳


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第8話:試練の迷宮

ウォルは商会で借りた荷馬にまたがり、人の気配のない獣道をゆっくりと進んでいた。


目的地は村からほど近い場所にある小さなダンジョン――《試練の迷宮》。


片手で地図を広げて道を確認し、もう片方の手には一つの鉄の塊を握り締めた。


赤い電光がパチパチと弾けるたび、絶え間なく姿を変えていく。


ある時は手斧に。


またある時は短剣へ。


その変化に、ほとんど淀みはない。


これは《霊鍛》がランクアップしてから始めた鍛錬――高速鍛造だった。


ウォルが検証した結果、《霊鍛》の速度を左右する要素は主に三つ。


大きさ。


材質。


そして何より重要なのは、構造への理解度だった。


対象への理解が深いほど必要な魔力は少なくなり、鍛造速度も速くなる。


そのため、自分で作った装備なら修復はほぼ一瞬で終わる。




だが今のウォルの意識は、手元ではなく数日前の村での会話へ向いていた。


「父さん、どうして村長はみんなを連れて避難しないの?」


どう考えても、災厄を正面から受け止めるより、安全な場所へ移った方がはるかに楽なはずだった。


ウォルには、それがどうしても理解できなかった。


自分の話を子供の戯言として信じないならまだ分かる。


だが実際には、村人たちは防衛設備を整え始めていた。


つまり、自分の話を信じているのだ。


「坊や」


傍らにいた白髪白髭の村長が、穏やかに笑う。


「わしらはここを離れて、どこへ行けばいい?」


「ここが、わしらの家なんじゃよ」


前世のウォルは、一度たりとも「ここが自分の家だ」と思える場所を持ったことがなかった。


だからこそ、その言葉に返す言葉を失った。


「もちろん、俺たちも最後まで残るぞ」


ナクスが豪快に胸を叩く。


「今はただの鍛冶屋だがな。こう見えても冒険者だった頃は、最前線で戦ってたんだぞ」


(いや、それは見れば分かるけど)


ウォルは心の中でそっとツッコミを入れた。


だからこそ。


少しでも村の力になるため、ウォルは《試練の迷宮》へ向かうことを決めた。




ゲームでは序盤に挑戦できる初心者向けダンジョン。


ウォルの狙いは最深部にいるボス、


そしてクリア報酬――《神の涙》だった。


《神の涙》は、プレイヤーとレベルも能力もまったく同じ分身を映し出す。


だが、基本的な操作技術さえ身についていれば、ゲーム内のAIに後れを取る要素など存在しない。



報酬の効果自体は単純だ。


プレイヤーの装備をすべて吸収し、それぞれに【強化+1】を付与する。


ゲームでは便利アイテム程度だった、実質的な恩恵は【強化+1】くらいしかなかった。


だが、この世界にはアイテムボックスが存在しない。


ならば、その価値はまさに神器と呼べる。



それにウォルには一つの予想があった。


《神の涙》と自分の《霊鍛》を組み合わせれば、

ーム内では誰も到達し得なかった領域の効果を引き出せるかもしれない。




「おっ、見えてきた」


古代神殿を思わせる巨大な石門が視界へ入る。


ウォルは荷馬を少し離れた木へ繋ぎ、


完全武装のまま盾と片手剣を構えて慎重に中へ足を踏み入れた。


内部はそれほど広くない。


中央には地下へ続く石階段が口を開けている。


(よし。構造は記憶どおりみたいだ)


ウォルは小さく頷く。


もっとも覚えているのは最奥のボスだけで、


道中の雑魚や罠などはほとんど記憶から抜け落ちていた。


「……あれ?」


「敵が一匹もいない」


ウォルが奥へと足を進めていくと、あちこちに物理的な破壊痕を残した罠の残骸や、引き裂かれた魔物の死骸が散乱していた。


乾き切った血痕を見る限り、戦闘があったのはかなり前のことらしい。


「まさか、もう誰か攻略したのか?」


ここはもはやモニターの向こうのゲーム世界ではない。


自分以外の冒険者がこの迷宮を捜索していても何ら不思議はなかった。


(頼むから無駄足じゃありませんように……)


胸中に募る一抹の不安を抱えたまま迷宮の突き当たりまで到達すると、ウォルの視界は開けた広場へと躍り出た。


中央には銀白色の光球が空中へ浮遊し、静かに回転を続けていた。


(よかった。《神の涙》はまだある……)


安堵したウォルは《神の涙》へ意識を奪われ、先客の存在を見落としていた。


次の瞬間――


ゴォンッ!!


空気を切り裂く轟音。


目に見えない斬撃が一直線にウォルへ襲いかかる。


「っ!?」


心臓が跳ねる。


ウォルはほとんど反射で身をひねり、盾を掲げた。


凄まじい衝撃が盾へ叩きつけられる。


だがウォルは絶妙な角度へ盾を傾け、斬撃を頭上へ受け流した。


飛ばされた斬撃は背後の壁を深々と切り裂く。




「ほう、なかなかやるじゃねぇか」


冷え切った女の声が石室へ響いた。


「小僧、何をしにここへ来た?」


斬撃が飛んできた方向を見る。


そこには、目を閉じて座っていた一人の女騎士がいた。


膝元に立てかけていた、自分の背丈を超える巨大なハルバードを片手で軽々と持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。


雪のように白い長髪。


全身を包む黒いプレートアーマー。


その一挙手一投足から、


息苦しいほどの威圧感が放たれていた。


蒼い双眸が鋭くウォルを見下ろす。


「し、師匠!?」


その姿を見た瞬間、ウォルは思わず叫んでいた。



目の前の女騎士は、人と竜の血を引く混血。


ゲーム中でも屈指の戦闘能力を誇るキャラクターだった。


それに、旅の途中で幾度となく主人公の前に現れ、数々の実践的な技術を授けてくれる存在でもある。


白銀の髪。


成熟した冷徹な美貌。


その姿に、当時どれだけのプレイヤーが心を奪われたことか。


人気投票では、一時期公式ヒロインすら上回ったほどだった。


「誰が師匠だ?」


女騎士は眉をひそめ、


蒼い瞳に怪訝な色を浮かべる。


「……待て」


「お前、もしかして弟子入りしに来たのか?」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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