第7話:ステータス画面に変なものが増えているんだけど
「見慣れた天井だ……」
ウォルは目を開け、呆然と自分の部屋の天井を見つめていた。
なぜか体にまったく力が入らない。
指一本動かすだけでも苦労する。
「ウォル!よかった……どこか痛いところない?」
傍らにいた銀髪の少女は物音に気づくと、慌てて立ち上がって部屋の外へ向かって叫んだ。
「シオンさん! ウォルが目を覚ましました!」
すぐに、薬師である母親のシオンがエナリアに手を引かれて部屋に入ってきた。
「はいはい、ちょっと診せてね」
シオンはウォルの容体を一通り確認すると、安心させるようにエナリアの手を軽く叩く。
「大丈夫よ。ただ魔力の使いすぎによる脱力状態だから、二、三日休めば治るわ」
その言葉に、エナリアはようやく肩の力を抜いた。
「よかった……本当によかった……」
あまりにも心配そうな様子を見て、ウォルは笑みを浮かべる。
「大丈夫。これだけ鍛えてきたんだから、そう簡単には倒れないよ」
「でも……ウォル、あなたの髪が……」
エナリアは鉄灰色へと変わった短髪を、不安そうに見つめた。
「たぶんアビリティの影響ね。安心しなさい、この子は元気そのものだから」
いつも穏やかなシオンにしては珍しく、少しぶっきらぼうな口調だった。
「この子は放っておいても、すぐ動き回るわ。それよりエナリア、あなたこそ休まないと」
「でも……」
「ほら、行きましょう」
なおも言いかけるエナリアを、シオンは優しく促しながら部屋の外へ連れて行った。
「……ウォル」
二人に気を取られていたせいで、不意に聞こえた声に思わず飛び起きそうになる。
「うお!?」
視線を横へ向けると、
いつの間にか、筋骨隆々の大男が部屋の中に立っていた。
「父さんか……」
逞しい黒髪の中年男性の姿を見て、ウォルはほっと息をつく。
父の名はナクス・セインティス。
普段は無口だが、心優しい鍛冶職人だ。
「そうだ、父さん。話したいことがあるんだ」
「……ああ」
ウォルは《逆命の魔女》のこと、
そして半年後、この村へ災厄が訪れるという話をすべて打ち明けた。
「分かった。村長に話してくる」
ナクスは一切疑うことなく、ウォルの言葉を信じた。
(これで、少なくとも村全体で事前に備えることはできる……)
ウォルは胸を撫で下ろした。
ナクスは大きな掌を伸ばし、ウォルの頭の上にそっと乗せた。
長年の鍛造作業によって刻まれたその掌は、無骨で暖かかった。
「……よくやった」
「さすがは俺の自慢の息子だ」
ぽんぽんと二度ほど優しく頭を撫でたあと、巨体を起こす。
「村長のところへ行ってくる。お前はゆっくり休め」
大きな体が小さな扉をくぐって出ていくと、
部屋は再び静寂に包まれた。
(そうだ、ステータスを確認しよう)
暇を持て余したウォルは、確認できずにいたステータス画面を思い出す。
右手を軽く振ると、半透明のウィンドウが現れた。
まず目に飛び込んできたのはシステムメッセージだった。
【瀕死状態】
【EXP +1】
【EXP +1】
【Lv10 → Lv11】
【ランク二へ到達】
【アビリティランクアップ】
「あの時、本当に死にかけてたんだな……」
ウォルは冷や汗を流しながら、ステータスの変化を確認する。
【鍛造者】
名前:ウォル・セインティス LV.11
「お、ランクアップしてる」
あのとき突然傷が治った理由を思い出す。
「まさか現実世界でも、ランクアップすると完全回復する仕様なのか?」
もしあの土壇場で全回復していなければ、アースベアが去るまで持ち堪えられなかっただろう。
ランクアップ前は、
1レベル上がるごとに5ポイントの自由ステータスポイントを獲得できていた。
それを使って各能力値を底上げすることができるのだ。
そしてランクアップによる強化は、
単なるレベルアップとは比べものにならない。
「15ポイントもあるのか」
ウォルは少し考え、その場では振り分けなかった。
この世界では、一気に能力を上げると体がついてこないからだ。
初めて筋力へポイントを振ったときなど、
十年以上使っていた机の角をうっかり叩き折ってしまったほどだ。
そのときのシオンの心配そうな表情と、
ナクスの恨めしそうな視線は今でも忘れられない。
「ん?」
さらに画面を下へ送る。
すると、アビリティにも変化が起きていた。
新しい能力が追加されている。
アビリティ:霊鍛・百錬 LV.3
従来の「魔力を流し込み、対象を強化・鍛造する」能力はそのまま残っている。
さらに新たな能力が追加されていた。
ダメージを受けると魔力を消費して自己強化・自己回復を行い、そのダメージ属性への耐性を獲得する。
最後には、こんな一文まで添えられている。
――お前を殺せないものは、すべてお前を強くする糧となる。
「何なんだよ、これ……」
ウォルは思わず口元を引きつらせた。
前世で遊んでいたゲームでは、キャラクターが持てるアビリティは一つだけだった。
それなのに今は、二つ目の才能が増えたどころか、
打たれれば打たれるほど強くなるという、とんでもない能力になっている。
「まあ、一旦は見なかったことにしよう……」
現実逃避を決めたウォルは、そのまま続きを確認する。
生命力:100(+20)
力:15
防御:15
敏捷:12
知力:20
「生命力にも変な補正が付いてる……これもアビリティの影響か?」
見れば見るほど謎は深まるばかりだ。
前世で何百時間も遊んだゲームなのに、こんな表示は一度も見たことがなかった。
スキルは以前と変わらず、
【共通言語】
【基礎鍛冶】
【近接武器熟練】
の三つだけだった。
「やっと変わってないものがあった……」
ウォルはほっと胸を撫で下ろす。
そのまま何気なく視線を下へ移した。
「……ん?」
「まだ下がある?」
以前はスキルが最後だったはずだ。
そのさらに下には――
好感度
エナリア 70/100
「…………何これ?」
ウォルの背中を冷や汗が伝う。
さらに下を見る。
ウティナ 47/100
「いや、ウティナはまだ子どもだぞ!?」
ウォルは震える指で画面を指差し、大声で叫んだ。
「なんでRPGに、好感度システムが存在してんだよ!!」
元々は王道RPGだったはずのステータス画面は、
いつの間にか恋愛ゲームの方向へ暴走を始めていた。
【機能解放:好感度システム】
ウォルは悲鳴にも近い声を上げる。
「勝手に解放するなぁぁぁぁっ!!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ★★★★★とレビュー、それにブックマークもどうぞ!
励みになりますのでよろしくお願いいたします!




