表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が女の子になったって、どういうこと!?  作者: 天月瞳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/12

第6話:逆命の魔女

森は静まり返っていた。


あれほど暴れていたアースベアさえ、一瞬で姿を消してしまった。


敵が立ち去ったというのに、ウォルの緊張はむしろ高まっていた。


声だけで二階級の魔物を怯えさせる存在など、どう考えても自分たちで太刀打ちできる相手ではない。



ウォルは剣を握り直し、エナリアのもとへ歩み寄る。


「エナリア、まだ歩けるか?」


「うん」


エナリアは痛みを堪えながら、小さく頷いた。


白い額には細かな汗が浮かんでいる。


「早くここを離れよう……」



ウォルが言い終える前に、靴音が徐々に近づいてくるのが耳に届いた。


「誰だ!」


ウォルは剣を構え、鋭く声を張る。


予感はしていた。


それでも、村からの救援であってほしいという一縷の望みを捨てきれなかった。




コツ。


コツ。


コツ。


革靴が地面を軽やかに叩く音が、森の奥から静かに響いてくる。


最初に姿を現したのは、


レースで縁取られた黒い日傘だった。


続いて、淡い紫色のドレスを纏った女性が、木々の影から優雅に歩み出る。


黒いヴェールに覆われた顔は、その素顔を窺わせない。


艶やかな桜色の長髪が、歩みに合わせてさらりと揺れた。


彼女は片手で日傘を差し、


もう片方のレースの手袋をはめた手で、軽く二度拍手をする。



「そんな無茶な才能の使い方、初めて見たわ」


どこか人を惑わせるような艶と気怠さを帯びた声、まるで微笑みながら言葉を紡いでいるかのようだった。



「あなたは誰ですか?」


エナリアが戸惑いながら尋ねる。



(その格好……まさか。運が悪すぎるだろう!)


一方でウォルの表情は、その姿を見た瞬間に凍りついていた。


(魔族四天王……《逆命の魔女》!)


前世の記憶が蘇る。

彼女は一度も素顔を晒さなかったにもかかわらず、ゲーム内で屈指の人気を誇ったキャラクターだ。


(……ただ、髪の色ってこんなだったか?)



「へえ? 私を知っているの?」


女性は面白そうにウォルを一瞥すると、


すぐに興味を失ったように視線を逸らした。


「まあ、どうでもいいわ」



彼女はレースの手袋に包まれた右手を優雅に持ち上げる。


「私が探しているのは」


細く白い指先が、まっすぐエナリアを指した。


「あなたよ」


「わ、私?」


エナリアは驚いて自分を指差す。



「まずは自己紹介ね。私は《逆命の魔女》フニ。運命が、あなたと私を巡り合わせたの」


フニと名乗った女性は、意味ありげに微笑んだ。


「どういうことですか?」


「さっき、力のない絶望を思い知ったでしょう?」


「力が欲しいなら、私と来なさい」



その言葉を聞いた瞬間、ウォルは一歩前へ踏み出した。


「彼女は渡さない!」



フニは小さく首を傾げる。


呪文も詠唱も、何一つない。


ドンッ!


次の瞬間、


想像を絶する重圧がウォルの全身へ襲いかかった。



「くっ!?」


地面へ叩きつけられる衝撃こそあったが、それ以外の傷は一切負っていない。


「ウォル!」


エナリアは地面に押しつけられながらも、


青筋を浮かべ、必死に立ち上がろうとするウォルを見て叫ぶ。



「心配いらないわ、彼を害するつもりはないよ」


フニは軽く手を振った。


「ただ、私たちの対話を邪魔させないようにしただけよ」


「私に何の話があるんですか?」


エナリアは警戒を解かずに問い返す。



「私というより――運命があなたを選んだのよ」


そのとき、フニは何かを感じ取ったように空を見上げた。


「……あら?来るのが早いわね」


「?」


「どうやら今日はまだその時ではないみたい」


フニは微笑みながら指先を伸ばし、エナリアの胸元へ軽く触れるように宙を突いた。


「印だけ残しておくわ」


「力を求めたくなったら、その時は私を呼びなさい」


胸元がほんのり熱を帯びる。


鎖骨の辺りで桜色の紋様が一瞬だけ輝き、


すぐに肌の奥へ溶けるように消えていった。




フニが踵を返そうとしたその時、エナリアは慌てて声を上げる。


「待って!」


フニは足を止め、エナリアの言葉に耳を傾けるように首を傾けた。


「さっき言っていた『無茶な才能の使い方』って、どういう意味ですか?」


「ああ、それ?」


フニはくすりと笑う。

「彼の髪を見てごらんなさい」


「……え?」


エナリアはゆっくりと視線を向ける。


次の瞬間、


彼女の瞳が大きく揺れた。


「そんな……」


漆黒だった短髪は、


鋼を思わせる鉄灰色へと変わっていた。


「さて、私はそろそろ失礼するわね」


フニは手にした日傘をくるりと回す。


その姿は無数の紫色の蝶へと変わり、風に溶けるように散っていく。


消えゆく中、


静かな声だけが森へ残された。



「最後に、これは私からの小さな贈り物」


「半年後、この土地は運命どおり滅びを迎えるわ」


そして最後に、


どこか愉しげな笑みを含んだ声が響く。



「運命が、また私たちを巡り合わせてくれるでしょう」


フニの姿が森の奥へ消えた瞬間、


ウォルを押さえつけていた重圧も同時に消え去った。



ウォルは勢いよく立ち上がる。


しかし一歩踏み出した途端、膝から力が抜けた。


剣を地面へ突き立て、片膝をつく。



「ウォル! 大丈夫!?」


エナリアは足の怪我も忘れ、慌てて駆け寄ってその体を支えた。


「大丈夫……ちょっと、疲れただけだ……」


ウォルは絞り出すように弱々しく口を開いた。

視界が暗転し、そのまま崩れ落ちるように倒れ伏した。



遠くでエナリアの悲鳴が聞こえる。


続いて、駆けつけてきた村人たちのざわめき。



意識が闇へ沈む、その直前――


半透明の画面が静かに視界へ浮かび上がる。


ずっと確認できなかった通知だった。


だが、その内容を読み取るより早く、ウォルの意識は完全に途切れた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

感想や見たいもの、誤字などがあればぜひ教えてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ