↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム転生:勇者の隣人は生き延びたい  作者: 天月瞳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第4話:始まり

魔法使いのローブをまとった銀髪の少女は、片手にタオルと水筒を持ち、もう片方の手で金髪の幼女の手を引いていた。


二人はゆっくりと裏庭へ向かう。


まだ姿が見える前から、剣が風を切る鋭い音が聞こえてきた。




「にに!」


少女はウォルの姿を見つけると、目を輝かせ、嬉しそうに駆け寄ろうとした。


「待ってね。ウォルの鍛錬が終わってから行きましょう」

エナリアは優しく妹を引き止めた。


ウティナも素直に言うことを聞き、邪魔をしないようにその場で待っていた。


「うん! まつ!」



裏庭では、黒髪の少年が軽装の革鎧を身につけ、右手に剣、左手に盾を構え、真剣な表情で鍛錬に励んでいた。

短い髪は一本一本が逆立っていた。


まるで本当に敵と戦っているかのようだ。

時には、想像上の攻撃を避けるため、地面を無様に転がることさえあった。


大人よりも頭一つ分背の高いこの少年が、まだ十三歳だと、いったい誰が想像できるだろうか。


少年の剣の動きは、いつもエナリアに父親の姿を思い起こさせた。

とはいえ、それも当然だ。

ウォルの剣術はダーンに教わったものなのだから。



視界の端に、少し離れた場所で待っている姉妹の姿が入った。

ウォルは二人を長く待たせることなく、最後の型を終えると、剣を鞘に収めて今日の鍛錬を切り上げた。


「はい、水とタオル」


「ありがとう、助かるよ」


ウォルは水筒とタオルを受け取り、まずはごくごくと水を半分ほど飲み干した。それからタオルで額や首筋の汗を拭う。


その途中、ウォルは何気なく上着をめくり、汗を拭った。

まるで岩から彫り出したかのように、八つに割れた腹筋がくっきりと浮かび上がっていた。


エナリアの視線は、ついウォルの腹筋へ吸い寄せられた。

その瞬間、頬をほんのり赤く染め、慌てて視線を逸らした。



「ありがとう、エナリア」

ウォルが手を伸ばして頭を撫でようとすると、エナリアはそれを避けた。



「違うでしょ?」


「?」


まだ幼さは残るものの、すっかり美少女らしくなってきたエナリアは、腰に手を当てて頬を膨らませた。

整った顔には、不満がありありと浮かんでいた。 


「ここは『お姉ちゃん、ありがとう』でしょ」



「いや、お姉ちゃんって」


ウォルは首を振る。


どうしてそこまで「お姉ちゃん」にこだわるのか、まるで理解できなかった。



「私の方が年上なんだから!だから、お姉ちゃんって呼んで」


前世の年齢まで考えれば、立派なおっさんであるウォルにとって、未成年の少女を「お姉ちゃん」と呼ぶのは抵抗があった。


それに、子供の頃はいつも自分が面倒を見ていたというのに。



ウォルは適当に言葉を濁してその場をやり過ごした。




そのとき、とうとう我慢できなくなった小さな少女が、ぷにぷにした手でウォルのズボンの裾をつかんだ。


「にに、だっこ」


ウォルはタオルで手を拭いてから、そっと少女を制し、優しく微笑んだ。


「ウティナ、お兄ちゃんは今、汗だくだからね。あとで抱っこしてあげるよ」


「だっこ~」


ウティナは頬をぷくっと膨らませ、不満そうな甘い声を上げる。


「いい子だから、我慢しような」


ウォルは小さな頭を優しく撫でる。


「むふ~」

頭を撫でられた少女は、満足そうな笑顔を見せた。


隣に立つエナリアは、羨ましそうにその様子を見つめ、かすかに唇を引き結んだ。




ウォルはウティナの無邪気な瞳を見つめて、心の中でそっとため息をついた。



(こんな小さい子が、本当に未来の勇者なのか?)


なぜ今のようなことになっているのかは分からない。



だが、目の前にいる金髪の少女が、勇者特有の天賦【耀光】を持っていることだけは確かだった。



「昔はあんなに虫を捕まえたり、小動物を倒したりしていたのに、今ではこんなに真剣に訓練するようになったんだね」

エナリアは話題を変え、感慨深そうに言った。


「しかも、毎日欠かさずに」


「それは……」

ウォルは言葉に詰まった。

昔のことを、まさか「経験値稼ぎのため」とは言えるはずもない。




「ウォル! そのバケツいっぱいのカエル、何に使うつもりなんだ!?」

村の大人が驚きの声を上げる。



「おおっ、ウォルが石で鳥を二羽も落としたぞ! すげぇ!」


同年代の仲間たちが、羨望の眼差しを向ける。


こうしてウォルは、周囲の子供たちの中でちょっとしたリーダー的存在になっていた。



ただし残念なことに、一定のレベルに達すると、低レベルの昆虫や小動物からは経験値を得られなくなってしまった。

そのため、今では毎日、実戦を想定した厳しい訓練を積むしかなかった。




「ウォルは冒険者になるつもりなの?」

エナリアが興味深そうに尋ねた。


「うん、そのつもりだよ」

ウォルは頷いた。冒険者という職業は、何かと都合がいいのだから。


「そうか……」

エナリアは何かを考えるように頷いた。


「じゃあ、ウォル。今日も裏山での練習に付き合ってね」


エナリアは魔法使いなので、訓練では大きな音が出るうえ、周囲の木々や地面にも被害が及ぶことがあった。


そのため、普段は人里離れた裏山で鍛錬を行っていた。



エナリアが一人で山に入るのは危険だと考えたウォルが、自分も一緒についていくと申し出たのが始まりだった。


今ではすっかり恒例になっている。


「分かった。装備だけ着替えたら行こう」


ウォルは快く頷き、ウティナの手を握り、姉妹二人の家へ向かった。

まずは、この小さな勇者を家まで送り届けなければならない。



エナリアが先頭を歩く。


その後ろでは、ウォルがウティナの手を引いていた。



木製の扉を開けると、上品なローブを身につけた銀髪の女性が出迎えてくれた。


「シオンさん」


「あら~、エナリア、ウォル、おかえりなさい」


エナリアの母親であるシオンは、自分をおばさんと呼ばれるのが嫌で、ウォルには名前で呼ぶようわざわざ頼んでいた。


娘と八割方同じ顔立ちをした絶世の美女であり、その美貌には歳月の痕跡など微塵も感じられない。


(正直、精神年齢でいえば、シオンさんのほうが俺と同い年なんだよな)


以前なら、子供らしく振る舞うために、あえておばさんと呼んでいた。

今となってはさすがにそんな呼び方はできない。



「ウティナをわざわざ送り届けてくれてありがとう。お茶でも飲んでいく?」

シオンは親しげに声をかけた。


「いや、お構いなく」



「ママ。私、ウォルと一緒に裏山で魔法の練習をしてくるね」

エナリアは、部屋から持ってきたばかりの杖を軽く掲げた。


「そうなのね。それじゃあ、道中気をつけてね~」

シオンはウティナを抱きながら、優しく言った。


「にに、ばいば~い」


ウティナも幼い舌足らずな声で、小さな手をぶんぶん振った。


名残惜しそうに手を振るウティナを見送ると、ウォルは自分で鍛造した装備一式に着替え、エナリアと一緒に山へ向かった。



「それにしても、毎回そんなに完全武装する必要があるの?」

エナリアは不思議そうにウォルを眺めた。


二人で裏山へ行くのは、今回が初めてではない。

せいぜい小動物がいる程度で、基本的には危険などほとんどない場所だ。


それなのに、少年は軽量の鉄鎧を身につけ、腰には片手剣を下げ、左手には鋼鉄の盾を持っている。

さらには革製のベルトに回復薬と投擲用の短刀までぎっしりと詰め込んでいた。


「念のためだよ」

ウォルはあははと笑い、適当にごまかした。


エナリアの疑問に対し、自分が抱えている不安を打ち明けるわけにはいかなかった。




魔物の大群による襲撃――魔潮。


原作では勇者が幼い頃に起こるとしか語られておらず、具体的な時期までは分からない。



(いつ魔潮が来ても、おかしくないからな)



その襲撃に備えて、ウォルはこの装備一式を自分で作り上げたのだった。



実のところ、最初は自分のギフトを試してみるだけのつもりだった。



「父さん、俺もやってみていい?」


「おう、気をつけるんだぞ」


ナクスも息子を信頼していたのだろう。

鍛造の手順を一通り教えると、すぐに実際の作業を任せてくれた。


ウォルは端材をいくつか手に取り、鍛造を試してみた。

【霊鍛】を使うと、成形や焼き入れの工程は想像していたよりもずっと簡単に進んだ。


出来上がった品は予想以上の完成度だった。

今腰に提げている片手剣も、そのときの作品だ。


「俺の息子は天才だな!」


父親のナクスが完成品を目にした際、大喜びで母を抱き上げ、その場でくるくると回っていた。


今にも村中へ自慢しに行きそうなほど誇らしげだった姿を、ウォルは今でも鮮明に覚えている。



それ以来、工房は自由に使わせてもらえるようになり、ウォルも暇さえあれば鍛冶の腕を磨くようになった。



そうして少しずつ、今の装備一式を揃えていったのだ。




「ウォルって、本当に心配性なんだから」


エナリアもそんなウォルにはすっかり慣れていた。彼女は杖を掲げ、魔法の練習を始めた。

真剣な表情で杖を構え、遠くの空き地に向かって魔法を放った。


エナリアの天賦は氷。

使用する魔法も、基本的には氷属性のものばかりだった。


「アイスウォール!」


「アイスアロー!」


視界の端で、エナリアの放った氷の矢が木を貫き、その木全体を一瞬にして凍りつかせるのが見えた。


(……これ、初級魔法の威力には見えないんだけど)


ウォルは内心、舌を巻いた。


勇者の血筋による補正でもあるのだろうか。

一撃一撃の威力は凄まじい。



エナリアが練習している合間にも、ウォルは手を休めなかった。

近くに設置しておいた警戒装置が作動していないか、確認しに行ったのだ。


「警戒装置が二つ、壊されてるな」


ウォルはしゃがみ込んでしばらく調べた。


破損した痕跡を見る限り、


「……たぶん小動物だろう」


そう判断したものの、警戒を解くことはなかった。


そして、ウォルは何かがおかしいことに気づいた。

勢いよく顔を上げた。


山中に満ちていた虫の鳴き声も、鳥のさえずりも、いつの間にか消えていた。




(何か来る!)



その瞬間、森の縁に設置していた警戒装置が一斉に作動した。


「エナリア!」

ウォルは片手剣を抜き、エナリアを背後にかばった。

警戒装置が作動した方向を、緊張した面持ちで見据える。



「な、何!?」


エナリアも慌ててそちらを振り返った。



ドォォンッ!!


激しい地響きとともに、太い木々が次々となぎ倒されていく。


まるで巨大な何かが、凄まじい勢いで森を突き進んでくるかのようだった。


次の瞬間。


全長五メートル近い巨大な魔熊が木々を押し倒しながら姿を現す。




「グオオオオッ!!!」

魔熊は山中に響き渡る咆哮を上げ、凶暴な爪で傍らの大木を薙ぎ払った。


大人が両腕を回してようやく届くほどの太さを持つ大木が、一瞬にして真っ二つに折れ、轟音とともに地面へ倒れ込む。


喉の奥から響く重々しい息遣いだけでも、背筋が凍るほどの威圧感があった。

赤く血走った巨眼が、ウォルを射抜くように見据えた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もしよろしければ★★★★★とレビュー、それにブックマークもどうぞ!

励みになりますのでよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。