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ゲーム転生:勇者の隣人は生き延びたい  作者: 天月瞳


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第2話:勇者の隣人になったっぽい、でも勇者は?

「ナクス、今日はどう?」


灰髪の青年が朗らかに扉を開けて入ってきて、酒を飲む仕草をしながら笑った。

彼は冒険者用の革鎧を身につけ、腰には剣を携えている。


見た目はずっと若く、両手もちゃんとあった。

だが、間違いなく目の前にいるこの灰髪の青年は、勇者の父親だった。



(ゲームの見た目は現実と多少違うんじゃないかと思ってたけど、まさかここまで特徴がはっきりしてるとはな)


感心したウォルはこっそりと相手を観察する。



「……ダーンさん?」


ナクスが答えるより先に、部屋の奥から冷たい声が聞こえてきた。


出てきたのは、ウォルの母親だった。

いつも笑顔を浮かべている顔から表情が消え、光のない瞳が二人を静かに見つめている。



ダーンは身震いし、気まずそうに笑いながら言った。


「ユミリ、ちょうどよかった。ウォルくんにちょっと用があってな」



ウォルは首を傾げた。

まさかここで自分が関係してくるとは思わなかった。



「エナリアがずっとウォルくんと遊びたいって騒いでてな」


ユミリの表情が一瞬でほころび、にこにこと笑った。



「エナリアちゃんね~。それならもちろん」


ウォルの意見も聞かず、ユミリは慣れた手つきでウォルを抱き上げ、そのまま向かいにあるダーンの家へ向かった。


(いや、俺の意見は……?)



ナクスの家は、鍛冶の音が村人たちの迷惑にならないよう、わざわざ村の端、裏山に近い場所へ移り住んでいた。

そしてダーン一家がここへ引っ越してきたのは、おそらく単純にナクスと一緒に暮らすためだったのだろう。



それから五年の付き合いを経て、ウォルはようやく二つの家の関係を理解した。


(まさか、親父と母さんが勇者の両親と同じパーティーだったとはな)


だが、それでは一つ説明のつかないことがある。


勇者の両親と同じパーティーの一員ともなれば、当然かなり重要な人物のはずだ。

しかしウォルの記憶の中では、ゲームに自分の両親に当たる人物が登場したことは一度もない。。


そして何より恐ろしいのは、エナリアという名前にまったく心当たりがないことだった。



ウォルは、初めてあの銀髪の少女を見たときに湧き上がった恐怖を、今でもはっきりと覚えている。



(勇者は? 勇者はどこにいるんだ?)


勇者が存在しない可能性を考えただけで、ウォルの目の前は暗くなった。



(もしかして勇者のお姉さんなのか? でも原作にはこんな人物、出てこなかったぞ)


あるいは、エナリアこそがこの世界の勇者なのか?


だが、【耀光】というギフトを持つ者の最も分かりやすい特徴は、太陽のような金髪だ。



考えてみれば、魔王や魔物が存在するファンタジー世界において、最も危険な職業は間違いなく勇者の仲間だ。

そして王道RPGのお約束では、勇者の故郷はたいてい滅びの運命から逃れられない。




ウォルははっきりと覚えていた。

原作の勇者は幼少期、一度、壊滅的な魔物の襲撃を受けていた。


無数の凶暴な魔獣が、この辺境の村を襲ったのだ。


勇者の両親は必死に抵抗するも敗れ、命懸けで幼い勇者を連れて包囲を突破し、逃げ延びた。


そして村は、そのまま廃墟と化した。

生存者は一人もいなかった。




今はまだ勇者すら存在していない。

でもいつ魔物の襲撃が起こるのかなんて、誰にも分からない。



勇者が現れていないから大丈夫だなどと、ウォルは楽観することなどできなかった。


原作のストーリーには、自分の両親もエナリアもまったく登場しない。



ウォルからすれば、考えられる可能性は二つしかなかった。


一つは、自分が転生したことで、世界線が何らかの形で大きく変化してしまった可能性。


つまり、前世で知っていたゲームのストーリーが、これからはほとんど役に立たなくなるかもしれない。



そして、もう一つは……。


ウォルは、それ以上考えたくなかった。


この人たちは、魔物の襲撃で死んでしまうのかもしれない。





ウォルが重苦しい思考に沈んでいる間に、いつの間にか向かいの家の庭の芝生へと下ろされていた。



「ウォル~」


銀髪の可愛らしい少女がよちよちと歩いてきて、ウォルに飛びついた。



ウォルは呆れながらエナリアの身体を支え、小さな少女の頭をぽんぽんと撫でる。


「エナリア、そんなに急がなくてもいいだろ。俺は逃げたりしないよ」



「あ、そうだ。シオンおばさんは?」


少し疑問に思いながら尋ねた。



「お母さんは部屋で休んでるよ」


エナリアの答えに、ウォルは心の中で一瞬だけ疑問を覚えたが、特に深く考えることはなかった。



彼はエナリアの手を握り、顔を上げて声をかける。



「遊びに行ってきます」


「はーい、あまり遠くまで行っちゃダメよ」


ユミリはにこにこと笑いながら答えた。



最初の頃は、両家の親も三、四歳ほどの子供二人だけで外へ出すことを心配し、こっそり後をついていくこともあった。


だが、何度か様子を見ているうちに、ウォルが同年代の子供たちとは比べものにならないほどの落ち着きとしっかりした判断力を見せていることに気づき、安心して任せられるようになった。



今では一言注意するだけで、二人を村の近くで自由に遊ばせている。



「今日は……何して遊ぶ?」


エナリアは小さく首を傾げ、瞳を輝かせながら尋ねた。



「虫を捕まえに行こう!」


ウォルが楽しそうに提案する。



「また虫捕り……? うん、いいよ」


エナリアは少しだけ迷ったものの、素直にウォルの手をぎゅっと握り、その後をついていった。



ここで一つ、ウォルの名誉のために言っておこう。

前世の年齢まで考えれば、立派なおっさんであるウォルが、決して趣味で虫捕りをしているわけではない。


彼には、極めて現実的かつ切迫した理由があった。




自分が勇者の隣人になったと知ってから、ウォルは人生設計を完全に覆した。


「のんびりした鍛冶屋として生きる」なんて、もう言っていられない。


生き残る。


何が何でも生き残る。



生き残るために、村が滅びる運命すら変える。


そのためには、ウォルは強くならなければならない。


そして、このゲームで最も早く強くなる方法といえば、当然レベルアップだ。



レベルが一つ上がるたびにステータスが上昇し、さらにはスキルポイントまで手に入る。


ウォルが実際に試してみたところ、虫や動物を殺すことでも経験値を獲得できるが、レベルが上がるにつれて得られる経験値は徐々に減少していくことが分かった。


これらの情報を確かめるために。


ウォルは、この村の虫殺しとなった。



もちろん、ウォルも毎日女の子を連れて虫捕りや魚釣りばかりしているわけではない。


暇なときには、エナリアと一緒に裏山へ花を見に行ったり、野イチゴを摘んだり、川の流れを眺めたりもした。



前世では孤児院で育った彼は、兄貴分として、自分より年下の子供たちの面倒を見ることが多かった。


子供の世話など、ウォルにとってはお手の物だった。



そして、こうして一緒に過ごしてきた結果が――今のように、この銀髪の少女にすっかり懐かれてしまったというわけだ。



「ウォル~」


耳元から、鈴のように澄んだ少女の声が催促する。



「はいはい、行こうか」



手のひらに伝わる温もりを感じながら、ウォルは改めて決意した。


(絶対に、みんなを生き残らせてやる!)





***


半年が過ぎた。


ウォルは自分の身長よりも長い木剣を握り、汗だくになりながら、ダーンに教わった基礎的な剣技を何度も真剣に繰り返し練習していた。



「ウォル!」


銀髪の少女が慌てて駆け寄ってくる。

途中で足を引っかけ、転びそうにすらなった。


「危ない!」


ウォルは慌てて木剣を収めて迎えに行き、彼女の腕を支えながら心配そうに尋ねる。


「どうした? そんなに急いで」


エナリアはウォルの腕をぎゅっと掴み、可愛らしい顔を興奮と感激で真っ赤にしながら、大きく息を切らしている。


「聞いて! 聞いて!」


「うんうん、聞いてるよ」


エナリアは大きく息を吸い込むと、両目をこれまでにないほど輝かせ、嬉しそうに大声で宣言した。


「私、お姉ちゃんになるの!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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