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勇者が女の子になったって、どういうこと!?  作者: 天月瞳


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プロローグ 『勇者の誕生』

少年は期待に胸を膨らませながら、リビングで待っていた。


(ついに、勇者が誕生する!)


ウォルは思わず拳を握りしめる。



何年もの間、この日を待ち続けてきた。


今日、ついに物語が始まるのだ。



これから勇者は仲間を集め、迷宮を攻略し、ヒロインと恋を育み、魔王を倒す。


自分は鍛冶屋として平穏に暮らし、世界が無事に救われるのを見届けるだけでいい。




隣では、魔法使いの格好をした少女が椅子に座っていた。


何度も立ち上がっては座り直し、小さな足を落ち着きなく揺らしている。


「ねぇ!わたし、お姉ちゃんになるんだ」


少女は何度もそう口にした。


「エナリア、少し落ち着いて座ろうね」


ウォルは少女の肩を優しく叩いて宥めた。



だが、本当は彼自身の胸の高鳴りも、彼女に負けてはいなかった。



前世の名前など、とっくに捨て去っていた。


この世界へ転生してきたウォルは、この日をずっと待ち望んでいたのだ。




自分が物語の主人公ではなかったことには少しだけ落胆した。


だが、それ以上に安堵していた。



(まあ、前世はただのサラリーマンだった俺に、世界を救うなんて無理ゲーすぎだろう)


勇者の誕生は、この世界の物語がようやく幕を開けることを意味していた。


『悠遠の詩篇〜光と闇の輪廻〜』


ウォルが前世で最も愛した王道RPGであり、発売後、多くのプレイヤーから絶賛された作品だ。

多くのプレイヤーが続編を待ち望んでいたが、まさか出たのが続編ではなく、大型DLCだったとは。


とはいえ、プレイヤーにとって新しいシナリオが追加されるなら、それだけで十分だった。


しかも公式告知には、


『今回のアップデートでは、プレイヤーにまったく新しいゲームモードをお届けします』


と書かれていた。


DLCを楽しみにしていたため、当時のウォルはネット上のネタバレを徹底的に避けていた。



物語は、魔王を倒した後から始まる。


魔物の巣の最深部で、勇者は一つの漆黒の水晶を発見した。


手のひらほどの大きさしかないその水晶の中では、小さな光が無数に瞬いている。


「これは何だ? 人の心の闇を集めた結晶?」


ウォルはシステムメッセージを興味深そうに見つめた。


【「闇の結晶」を体内に埋め込みますか? 勇者の力を注ぎ、新たな未来を切り拓きます】


【YES / NO】


「つまりDLC開始ってことか。でも闇の結晶を体に入れるって……どのゲームのネタだよ?」


そうぼやきながらも、深く考えずに決定ボタンを押した。


次の瞬間、画面は真っ暗になった。


次に目を覚ますと、すでにこの世界にいた。




(まさかDLCだけじゃなくて、俺の人生まで『アップデート』するとはな……)


だが……すべての苦難も今日で終わりだ。


勇者さえ無事に生まれれば、この世界は本来あるべき運命へ戻る。


「エナリア、お姉ちゃんになったよ!」


部屋の扉が開き、上質な服を身にまとった灰色の髪の中年男性が姿を現した。

幸せそうな笑みを浮かべていた。



「お父さん! もう入ってもいい?」


エナリアは嬉しそうに飛び跳ねると、駆け足で父親のもとへ向かった。


「もちろん。ああ、ウォルもいたのか」


男性は少年に気づき、親しげに手を振る。


「さあ、エナリアと一緒に妹を見に行こう」


「はい……」


ウォルが一歩踏み出そうとした、その瞬間。


まるで身体全体に時を止める魔法でもかけられたかのように、足が宙でぴたりと止まった。


返事の言葉は喉につかえたまま出てこない。


笑顔は完全に凍りつく。


「どうしたの?」


エナリアは不思議そうに振り返った。


「……妹?」


ウォルは口を大きく開けたまま、頭の中が真っ白になる。



ゲームではあんなに立派な勇者だったはずなのに、どうして女の子になってるんだ?


このときのウォルはまだ知らなかった。


公式が言っていた「新モード」とは、新しいRPGではなく――


ギャルゲーだったということを。


ヒロインたちは誰もが地雷を抱え、プレイヤーを待ち受けている。




(待て……ハーレム軍団の助けを失った勇者様で、果たして世界を救えるのか?)


本来、筋書きどおりに進むはずだった未来は、


勇者が生まれたその瞬間から、完全に道を外れてしまった。



「な、なんでもない。行こう」


ウォルは不安で胸がいっぱいのまま、魂が抜けたような足取りで部屋へ入っていく。


……いや、この世界、もう詰んでないか?


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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