第10話:新たな力
ウォルはハルバードの斬撃をかわし、険しい表情を浮かべた。
(長期戦は無理だ)
武器の攻撃間合いを考えれば、ハルバードのほうが片手剣よりも遥かに長い。
自分の攻撃範囲に入るためには、より多くの体力を使って攻撃をかわさなければならない。
神の涙は身に纏った鎧のせいで、自分ほど身軽ではない。
だが、それすらも帳消しにされていた。
神の涙の右手が淡い金色の光を放ち、その光が武器全体を淡く染め上げる。
(まさか、《耀光》まで使えるのか?)
ウォルは予想していたものの、思わず苦笑した。
原作で主人公だけが持つ専用アビリティ《耀光》。
それは強化、属性付与、回復能力を兼ね備えた万能のアビリティだ。
「ほう? アビリティまで吾と似たようなものなのか?」
ヒカリは神の涙の手に宿った光を見つめる。
それは彼女の天賦に似ていながらも、より均整の取れた力だった。
(背に腹は代えられない……一か八か!)
ウォルの全身にも赤い電弧が走り始め、それが右手へと集中していく。
「見せてもらおうか、小僧の力」
ヒカリは腕を組み、双方の激突を期待するように見つめる。
先に仕掛けたのはウォルだった。
力強く地面を蹴り、一気に間合いを詰める。
それだけで、神の涙の反撃が牙を剥いた。
ウォルはまず身を横へずらして突きをかわし、さらに重心を沈める。
薙ぎ払いの風圧が頭上を過ぎていく。
一瞬の隙を見逃さず、ウォルは片手剣を斜め下から、神の涙の顎元へ向けて突き上げた。
神の涙の反応速度は尋常ではなかった。
上半身を反らして剣撃を空振りさせる。
しかし、ウォルが狙っていたのはその先だった。
剣を振り切った勢いを利用して身体を回転させ、掲げた盾へ全身の体重を乗せる。
そのまま、正面から神の涙へ激突した。
ドン!
盾が分厚い胸甲を力任せに打ち据える。
バランスを崩した神の涙は、よろめきながら大きく後退した。
「焦りすぎか?」
勢いに乗ったウォルが片手剣を握り直し、斜め下へ振り下ろす袈裟斬りの構えを取ったのを見て、
ヒカリはわずかに眉をひそめた。
「その一撃では届かない。いや……」
先ほどの戦いを見ていた限り、ウォルが攻撃距離を見誤るという初歩的なミスを犯すとは思えない。
つまり――ウォルには、まだ別の手があるはずだ。
神の涙の両目が怪しく光った。
目の前を通り過ぎるだけだと判断し、回避を捨てた。
重いハルバードを構え直し、ウォルが空振りした直後の隙を狙って、腰から真っ二つに斬り裂こうとする。
「ほう?」
ヒカリが驚きの目を向けた。
敵の鼻先を掠めるはずだった片手剣の刀身が、突如として赤い光に包まれた。
「今だ!」
ウォルの右腕から放たれた電光が爆発的に膨れ上がり、甲高い音を響かせる。
片手剣の形状がドロリと歪み、再構築される。
その刀身が瞬時に伸び、鋭いハルバードへと姿を変えた。
ウォルは腰を捻り、斬撃の勢いをそのまま乗せて、渾身の突きを繰り出す!
神の涙も咄嗟に身をかわそうとした。
しかし、距離が近すぎた。
完全には避けきれない。
ズバッ!
延伸されたハルバードの槍先が、神の涙の兜を正確に穿ち抜いていた。
動きを完全に止めた神の涙の瞳から、銀色の光が消え去っていく。
次の瞬間、巨大な身体が無数の銀色の粒子へと変わり、鎧の隙間から舞い散っていく。
そして、その姿は跡形もなく消えた。
その場に残ったのは、一つの銀色の光球だけだった。
それは静かに宙へ浮かんでいる。
ウォルは銀色の光球を見つめ、長く息を吐いた。
(勝った……!)
表情には出さなかったが、右手をそっと握り締める。
再び《霊鍛》を発動し、手にした武器を片手剣へと戻した。
危ない場面もあったが、どうにか勝ち切ることができた。
「小僧、お前のアビリティは鍛造系なのか?」
ヒカリが尋ねる。
「はい、そうです」
ウォルは素直に頷いた。
隠す必要もない。
何しろ、今の戦いですでに見られている。
「見事だ。実に素晴らしい立ち回りであったぞ」
ヒカリはそう言ってウォルを褒めた。
「ありがとうございます、ヒカリ様」
礼を言いながら、ウォルは宙に浮かぶ光球へ手を伸ばす。
銀色の光が瞬く。
すると光球は温かな金属の塊へと姿を変え、静かにウォルの掌へ落ちてきた。
「……で、それは何に使うのだ?」
ヒカリは不思議そうにウォルを見つめる。
彼女も以前、これに挑戦したことがある。
当然、その時も【神の涙】を手に入れた。
だが、今までこの金属の塊が何なのか分からないままだった。
「これですか……」
ウォルは神の涙を胸元に押し当て、全魔力を注ぎ込んで《霊鍛》を発動させた。
すでに神の涙の所有権は得ている。
それでも再構築の過程は、想像していた以上に困難だった。
ゆっくりと魔力が神の涙へ浸透していく。
魔力を通じて、金属の性質が絶えず変化していくのを、ウォルははっきりと感じ取っていた。
(この金属……生きているのか?)
ウォルは目を閉じ、心臓のように脈動する神の涙の感覚に意識を集中させる。
だが、広間の中央に浮かんでいた銀色の光球までもが、共鳴するかのように明滅していることには気づかなかった。
「……共鳴しているのか」
ヒカリは目を細めた。
だが、それ以上は何も言わない。
ただ静かに、ウォルの手元で起きている変化を見守っていた。
そしてついに、ある瞬間。
ウォルはようやく、手の中にある神の涙を魔力で満たした。
銀色の金属が津波のように全身へと広がっていく。
身につけていた鎧も武器も、一瞬にして姿を消した。
普段着を纏ったウォルがそこに立ち、右手には銀色の籠手が残されていた。
【外部特殊モジュールの読み込みを検知。アビリティが拡張されました】
【拡張能力の名称を設定してください】
【霊鍛・百錬】Lv.3
【???】あらゆる装備と同化し、必要に応じて自在にその形状を顕現させることができる。
収納した装備の強化および修復も可能(素材の消費を魔力で代用可能)。
(やっぱり! 俺の考えは間違ってなかった!)
ウォルはパネルに表示されたメッセージを見て興奮した。
これなら、これからはあらゆる武器や装備を自由に持ち歩ける。
まさに、歩く武器庫だ。
(名前は……やっぱり神の涙のままでいいか)
ウォルがそう念じると、【???】の表示が【神の涙】へと変化した。
「次は……これを試してみよう!」
ウォルが右拳を握り締める。
瞬時に鎧が全身を包み込み、手には盾と片手剣が再び現れる。
さらに赤い光が瞬いた。
片手剣が再構築され、先ほど神の涙が持っていた巨大なハルバードへと姿を変える。
「なかなか面白い能力ではないか」
ずっと見ていたヒカリが、突然口を開く。
その瞳には、燃え上がるような熱い光が宿っていた。
「なあ、小僧。お前のその武器を収納する能力、吾にも教えられるか?」
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