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1章 5話 「チョウサ」

俺とテレグは街を歩きながら今後について話し合う。情報収集とは言ったものの、まずどこから行けばいいのかわからない。詳しい内容を知っているテレグに意見を仰ぐことにしたのだ。


テレグは言う。


「僕達がこれからできることは大まかに2つあります。1つは襲撃された村へともう一度聞き込みに行くこと。もしかしたら、あなたを見て新たな情報が出てくるかもしれません。もう1つは目撃情報のあった場所へ探索に行くこと。1週間程前に、この国の西側に広がる森、通称"地獄の森"にて、例の2人組の目撃情報がありました。ただし、そこは我々騎士団ですら太刀打ち出来ない魔獣がひしめいています。僕1人ではあなたを守りきれないかもしれません。」


なるほど。村での聞き込みか、森での調査か。聞き込みに関しては既にサーベス達が行っている。新しい情報が得られるかどうかはわからない。森での調査は、もしかするとヤツらの拠点を見つけることが出来るかもしれない。しかしそちらは危険が伴う。


「俺は完全完璧に戦力外だからなぁ……お前の話を聞く限りじゃ、俺が生きて帰れるとは思えんな…」


俺は肩を震わせる。


「いえ、今の目的は森の制覇ではなく、やつらの手がかりを見つけること。そうなると無理をして魔獣と戦う必要が無い分、そっちの方が楽かもしれません。」


確かに、と俺は頷く。


「ちなみになんだが、目撃者は一体誰なんだ?可能ならそいつからも話を聞きたい。」


「森の近くに村があるんです。そこの村人が偶然目撃したそうですよ。なぜその村には襲撃して来ないのか、疑問ではありますが…」


俺とテレグは揃って考え込む。この場での行動の最適解は一体何なのか。悠長に考えている時間はないが、かといって即決出来るほど簡単には決められない。下手をすれば命の危険が伴うのだ。


「ここで足踏みしていれば結局処刑されて死ぬんだ。なら、危険は承知の上で可能性のある方を調べたい。目撃者の話を聞いてから、森の調査に行こう。それでもいいか?」


テレグは俺を心配そうな目で見つめる。


「構いませんが…………行く前にしっかりと、覚悟をしておいた方がいいですよ。」


「……………あぁ。」


そうして俺たちは、地獄の森のすぐ近くに位置する、ヘラル村へと足を運ぶのだった。




馬車に揺られて数時間。先程の平原とは打って変わり、草木が多く見られてきた。


「もうすぐ着きますよ。」


馬車を走らせていたテレグが言う。彼はすごい。馬まで扱えるというのだから。イケメンで、強くて、多彩で……神様とはこうも理不尽なのか。なにもできず、彼に頼りきりの自分にも嫌気が刺す。俺も何か、彼の力にならなくては。


馬車から降り、村を見渡す。まさに平和そのもの、と言ったところか。"地獄の森"と言われている場所のすぐ近くにあるのに、ここまで平和なのも少し違和感があるが……


「例の目撃者は、あちらの家にいるはずです。」


そう言ってテレグが指を指す先にあったのは、村の中でも一際目立つ大きな家だった。


ドアをノックすると、1人の男が出てくる。


「おや、テレグ様ではありませんか…!一体何用でございましょう?」


少しくたびれた様子の男が、かしこまって聞いてくる。


「実は、もう一度お話を伺おうと思いまして。お手数お掛け致しますが、お邪魔してもよろしいですか?」


「えぇ、えぇ、構いませんとも。してそちらの方は…?」


男が俺の方を見て言った。


「俺はアサギリシュン。訳あって、村の襲撃犯について調べているんだ。目撃者の話を聞きたくて、あんたのもとを訪ねさせてもらった。」


俺の名前を聞いて、目の前の男の態度が変わる。向けられているのは明らかな敵意。名乗らない方が良かっただろうか。


「アサギリっ……!?テレグ様、どういうことですか。まさか奴らの仲間を……!?」


「落ち着いてください。今のところ、シュンさんが奴らと関与している証拠はありません。彼の無実を証明する為に、我々は来たのです。」


テレグが男を宥めつつ、事情を説明する。男はひとまず納得した様子だった。


「なるほど…つまりあなたは、あらぬ疑惑をかけられ、無実の証拠を掴むために、事件について調査している…」


「あぁ、そうだ。驚かせてすまないな。」


「いえ、私も失礼な態度をとってしまい……わかりました。上がってください。私の知っている限りの事をお話しましょう。」




俺達は彼の家へと上がる。内装は意外と質素で、恐らく手作りであろう、木でできた家具の数々を見て、なんだか温かい気持ちになる。


俺とテレグは椅子へ腰掛けた。机の上を向かい合って男が座る。彼は1つずつ話し始めた。


「私が奴らを目撃したのは、7日前の夜更けでした。私は毎日同じ時間に、森へ動物を捕らえる為の罠を仕掛けに行くんです。私、狩りをしていましてね。」


その言葉を聞き、部屋を見渡す。弓や斧、ナイフなどの、恐らく狩りなどで使うであろう道具が壁にかけられている。なるほど、地獄の森の近くに位置しながらこの村が平和なのは彼のおかげか。



「その日もいつもと同じように罠を仕掛けに行きました。設置が終わり、立ち去ろうとした時に話し声が聞こえてきたんです。私は身を潜め、一体誰がこんな時間に森に来たのか、と耳を澄ませました。」


そいつらはこんな風に話していたという。


「…………儀式は、どうなっているんだぁい……?」


「安心しなヨ………問題はなにもない。この調子で行けば、必ず成功するサ。成功するとモ。」


「失敗は許されなぁいよ……?この機を逃せば、次に行えるのはいつになるのかわからないかぁらね?」


「カカカ、ククク、ケケケ……任せてくれヨ。あと1ヶ所、あと1ヶ所で終わるからネ…終わらせるとモ……」



それ以降の会話は、聞き取れなかったという。


「もしあの時、少しでも物音を立てたり、覗こうとすれば、死んでいたでしょう。わかるんです。狩人の勘、でしょうか。」


俺は言葉を失った。儀式……いかにもって感じがする。その儀式なるものの為に、数々の村を襲撃し、幾人もの人々を惨殺したのだろう。人間の所業じゃない。俺はそんなやつらと一緒にされているのか。


俺が抱いたのは、そんな外道共と一緒にされたことや、そいつらの犯した罪に対する憤りだった。


「人間のクズだな………」


「えぇ、全くそう思います。ですが、こうも思うんです。奴らは本当に人間なのか?やつらの気迫…殺気は、人間のそれとは大きく異なる。なにより、奴らの会話の節々から感じる狂気。とてもマトモな思考の持ち主だとは思えない。」


俺は息を呑んだ。果たして、無実の証拠を得るためにそんな奴らに関わって、生きて帰れるのだろうか?このままテレグの目を盗んで、何もかも捨てて逃げ出してしまおうか…



────いや、それはできない。いくら臆病で、意気地無しで、何も出来ない俺でも、人として守らねばならないものがあるのだ。


「ありがとう、助かったよ。随分参考になった。」


俺は席を立ち上がり、テレグの方へ向き直す。


「行こう。地獄の森へ。」


「───すみません。正直、あなたは怖気付くかと思っていました。あなたは決して強くない。このまま森に入れば、必ず命が危険に晒されますから。」


テレグの言わんとすることはわかる。つまりは心配なのだ。俺を信じたい…だからこそ、ここで死んで欲しくないと思っているのだろう。


「お前が言ったんだろ?覚悟を決めろってな。だから決めた。それだけだ。そりゃあ怖いけどな。」


当たり前だ。今の話を聞いて俺の手は激しく震えている。心臓の鼓動も早まっている。

でも────────


「お前と、サーベスと約束したからな。無実を証明するって。だから怖くても、前に進むって決めたんだ!」


俺は精一杯強がって笑ってみせる。

そうさ。きっとこれは神様が俺に与えてくれたチャンスなんだ。自堕落な俺を変える為のチャンス。なら俺は、それに乗っかってやる。


「………なるほど。あなたの決意、しっかりと受け止めました。あなたを弱いと決めつけたこと、謝罪致します。あなたの心は誰よりも強いようですね。」


テレグが男の方を向く。


「我々は森の中へ向かうことにします。急に押しかけて、すみませんでした。このテレグ、心からの感謝を申し上げます。」


「そんな……!顔をあげてください、テレグ様。…………お2人とも、お気をつけて。どうか、どうか死なないでください……」


俺とテレグは、男の家を後にし、森の中へと向かうのだった。

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