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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第三章『リックドラック・サンディルムは屈さない』

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3-4「フレーレ遺跡・入口」

 ル・ロイザから北上して約三時間。

 陽光を遮る分厚い森の中を歩き続けた先に、目的地である遺跡があった。


「着いたぞ。ここがフレーレ遺跡だ」


 先導するラウルの声を受け、眼前を見渡す。

 まるで森の中に街ごと転移してきたような、広大な廃墟が広がっていた。

 どれも崩れて形を失っており境目も曖昧だが、一つや二つの建物ではない建築物が無数に建てられていた事が伺える。苔や草木で覆われ、自然に飲み込まれた都市は正しく遺跡というに相応しかった。


「壮観だのぉ。これほどの都市がかつては栄えていたのだな」

「何十年か何百年かわかりゃしないくらい昔の話だな」

「途方もない話だねぇ」

「しかし、空が見えると言うのはいいの。真っ暗な洞窟で戦う羽目になると思っておったのだが」


 ダンジョンという響きから、我は薄暗い洞窟に潜る事を想像していた。

 だが、魔石集めに行きたい旨を冒険者ギルドで語ったところこの遺跡を紹介されたのだ。


「洞窟系のダンジョンもあるが、魔石を集めたいならここの方が効率的なのさ」

「ここは繁殖する魔物が少ないから、大抵の魔物から魔石が出るんだ」


 自然発生する魔物と繁殖して増えた魔物に見た目の差異はない。目当ての個体が特定できない以上、倒してみて魔石があるかどうか確認するという面倒くさい手順が必要になる。

 故に、冒険者が魔石を見逃す事も割とある事例らしい。


 元から確率が高いというなら、一匹一匹調べる意欲も高まろうというもの。

 尤も、そうでなくても魔石集めが目的な以上、倒した魔物は全て調べるのは必然なのだが。


「それはよいな! だが、それにしては他の冒険者の気配がないようだが?」


 我にとって都合がいい場所だとは分かったが、魔石はある種の宝石のようなもの。魔物の素材同様に他の冒険者が換金の為に狩りに来ていてもおかしくないと思うのだが、それらしい気配が一つもない事が気になった。


「魔物の質が高い……つまり手強いからそこらの冒険者は近づかない。

 あと、どっちかっていうとアンデッド系の魔物が出やすくてな。素材集めには不向きなんだ」

「なるほどの。だが、それはお主たちの旨味が少ないという意味にならぬか」


 アンデッドというと骨や屍肉で出来た魔物か。それなら素材にならないのも納得だ。

 だが、我と《草原の導き手》の契約は、魔石は我の物だがその他の素材は均等に分けるというものだった。素材が手に入らないのでは、我一人が得をする事になってしまう。


「サクラの護衛って仕事の報酬があるだろ。儲けならそれで十分お釣りがくるんだよ」

「というか、魔竜討伐の報酬だけで当分は安泰だしね」

「そういう事だ。条件に納得して受けた仕事だから気にする必要はない」


 うむむ。

 どうやら恩を着せようとした我の策略は見破られていたようだ。

 1000万マリー分の借りを返したい所なのだが、冒険者としての経験値に劣る今は無理そうだ。これは気長に考えるしかあるまい。


「仕方ない。では行こうか。目指せ魔石、百万個!」

「気合が入ってるのはいいんだけどな」

「幾らなんでもアホだろ、何だその目標」

「まぁまぁ、それだけ頑張るつもりなんだよ、きっと」


 鬱憤を晴らすように無駄に高い目標を掲げ、意気揚々と歩を進める。

 後ろから三人の呆れ声が聞こえてきたが、気にせず前進した。


 最早獣道と変わらないほど雑草に覆われた通路を幾ばくか歩いてく。

 全体の行程からして一割にも満たない地点で、早速魔物の気配を感じた。

 狭い通路の曲がり角、その奥からガシャガシャと耳に響く音が聞こえてくる。

 誰ともなしに武器を構えだし、臨戦態勢に入った。


 音は徐々に近づいてくる。

 前衛に我とラウルが立ち、いつでも飛び込める体勢に移る。

 その後ろでニーダが弓を構え、ルーナが魔法の準備を始める。

 万全の態勢をとったところで、曲がり角の奥から髑髏頭が顔を出した。


 肉と皮を失った骨だけで動く人型の魔物。アンデットでも代表的な存在と言えるスケルトンだ。錆びた剣と朽ちた盾を持ち、不気味にゆらめいて迫ってくる。

 その数はざっと見ただけで十体以上いた。


「スケルトンか。矢が効き難いから嫌いなんだよ……なっ!」


 ニーダが悪態づきながら、先制の矢を射る。鋭く放たれた矢は先頭のスケルトンの頭に直撃、額に深々と矢が突き刺さった。

 だが、スケルトンは一瞬ぐらついただけで、まるで何事もなかったかのように再び我らの方へと前進しだした。


「くそ、やっぱ苦手だアイツら! 悪ぃが援護に回るぜ!」

「おっけー! ニーダの分まで頑張っちゃうから!」


 続いてルーナが複数の火球を形成、射出した。たちまち数体のスケルトンに命中し、燃え上がる。

 騒音としか思えない断末魔を上げ、スケルトンはガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「ほう。燃やせば倒せるのか」


 床に散らばる焦げた骨は、一見するだけだとどこが致命傷だったのか判断できない。まぁ、生ける屍に致命傷も何もないのだろうが、それでも行動不能になる基準は知りたいところだ。


「スケルトンを動かしているのは胸部にあるコアなの。だから、骨ごと燃やして無力化する事で倒せるのよ」


 疑問を口にするとルーナが答えてくれる。

 どうやらバラバラの骨をつなぎ留め、動かしているものがコアというものらしい。他の個体をよく見れば心臓のある位置に不可思議に光る球体が見えた。あれがコアのようだ。


 原理が分かれば倒す事も容易い。

 物理的に攻めるならば骨ごと叩き潰すのが正解とみる。


「ラウルも我に活躍を譲るか?」

「冗談。こう見えてスケルトン退治の実績はそれなりにあるさ」

「ではお手並み拝見といこう。我が先に倒してしまわぬ限りの!」


 ラウルと互いに軽口を叩きつつ、一斉に駆け出す。

 我はライトアックスとレフトアックスを用いて力任せにスケルトンの胴を薙ぎ払い、ラウルは器用に剣を振るいコアを正確に突きあげる。


 我とラウルの猛攻の合間に、魔法の準備を終えたルーナが火球を放ち、ニーダが弓矢でスケルトンの攻撃を巧みに妨害する。

 瞬く間にスケルトンは数を減らしていき、三分も経つ頃には十数体いたスケルトンは全てただの骨と化していた。


 我を含め、誰一人傷ついておらず息も切らしていない。相手が弱かったのもあるが、ペース配分も考えた上でのこの成果は完璧と言える。さすがはベテラン冒険者と賞賛すべきだろう。


「さて、では魔石の回収作業に入るかの」

「魔石はコア中心部にあるはずだよ」

「俺とニーダは装備を剥ぎ取ってくる。多少の金にはなるだろうからな」


 朽ちた武具とはいえ、鉄くず程度の価値はあるか。素材回収は彼らの権利だ。口を挟む理由は無い。ルーナだけでもこちらに協力してくれる分だけ有難いと言うものだ。


 スケルトンの魔石はコアの中心部にあるという。

 コアを破壊された時点で魔石が無事なのかと疑問が湧いたが、どうやら核を壊す事で生み出されるというのが通説らしい。故に残骸となったコアの中から取り出せるようだ。

 活動を停止したコアは素手で触るのが躊躇われるほどどす黒く邪悪さが渦を巻いているような物体だったが、ルーナは特に気にする様子なくテキパキとコアを砕いていた。本当にさすがだ。


 我も負けじと果敢に魔石の回収に挑む。

 早速一つ目のコアをこじ開けると、中から米粒大の魔石が顔を出した。それも白く濁っている。

 横で作業するルーナの方を見ると、同じくらいか少し小さいくらいの魔石をガンガン量産していた。


「……小さいの」

「アンデット系で最弱の魔物だから、これくらいが普通だよ。稀にもう少し大きい魔石を持ってるのもいるみたいだけど」

「これが普通なのか……むう」

「生活用の魔道具には使えるし、お金になるから無駄にはならないよ」


 ルーナは前向きな言葉で作業を進めている。その横で我は少々気勢を削がれていた。

 ルーナの言う事は尤もだし、今回の目的を考えれば十分なものだ。何せ、下手に大きい魔石を用いればそれだけ相手に察知されやすくなる。

 我が竜の姿でいた頃、ルーナたちに遠くから感知されたように魔力というものはある種の気配のように察知できるものらしい。だが、その力が少なければ少ないほど感知から逃れやすくなる。

 生活用の魔道具などはどこにでもありふれているので、同程度のモノであれば盗聴用の魔道具でも気付かれないだろうと言う算段だ。


 ただ、我としては戦闘に使える魔石も欲していた。レイニーに提出したもう一つの案もそうだが、個人的にも使える魔石は多いに越した事は無いのだ。

 厄介な事に、魔道具は一つの魔道具に一つの魔石が原則。複数の魔石で質や量を補おうとすると誤作動を起こしやすいと言う。その理由までは分からなかったが、そういうものらしい。

 いずれその問題の究明も時間があったら行いたいところだが、今はその時間が無い。

 素直に大きな魔石を探すしかないわけだ。


 作業開始から半刻ほど。

 ようやく全ての魔石回収と武具回収が終わった。時間がかかったのは、作業中にも新たなスケルトンの群れが乱入してきたせいだ。


「まぁまぁの収穫だな」

「最低限は達成したか。まだまだ物足りないがの」


 結局米粒を超える大きさの魔石は一つもなかった。

 盗聴の魔道具を作るには十分な質と量が揃ったが、せっかくダンジョンまで足を運んだのだ。これだけで引き返すのはあまりに勿体ない。

 悔しがる我の肩に、ルーナが労るように手を添えてきた。


「まだ入口だし、大丈夫だよ」

「そうさ。奥に行けばサクラの希望に叶う魔物もいるだろうぜ」


 ルーナに続いてニーダも元気づけるように言葉をかけてくれる。だが、その物言いだと我が魔物と戦いたいように聞こえてしまう。目的はあくまで魔石であり、それが手に入るなら別に宝箱から得るのでも道端に落ちているのを拾うのでも何でもいいのだ。


 とはいえ、二人の言う通りまだ遺跡を調べ尽くしたわけではない点は事実。


「さぁ、気合を入れ直して進もう!」


 ラウルの鼓舞で気持ちも引き締まる。

 頬を叩き気合を入れ直し、首を振って悲しみを振り払い、キッと前だけを見る。

 目指すはフレーレ遺跡の奥。魔石を求め、新たな一歩を踏み出した――

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