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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第三章『リックドラック・サンディルムは屈さない』

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3-2「サクラの策」

「――なるほどのう。大きな課題は戦力と情報か」


 リックドラックから一通りの現状を聞く。

 予想通りとはいえ、あまり芳しくない状態に我は頭を捻った。


「戦力はかき集めてはいるが、中々な。アルディス竜帝国は大陸の中心に位置する事もあって、リリディア以外にも敵が多い。他から救援を呼ぶのも困難だ」

「情報はもっと至難ですね。リリディアの部隊の動きは逐次偵察させていますが、どこまで信じてよいものか……」


 ラギルを筆頭に、何人か斥候を出しているのだろう。

 それでも歯切れを悪くしている理由を想像してみる。


「それは敵の動きが巧妙という事か? それとも――」

「――どちらも、です」


 我の言葉を遮るレイニーの表情は硬い。

 つまり、偽の情報を流すスパイがいるという事だ。

 誰が真実を語っているのか、嘘を騙っているのか分からない状況はかなりまずいと言える。

 相手に主導権を握られているも同然なのだから。


「お前さんが空から見下ろしてくれれば手っ取り早いんだがな」

「……すまんが、それは無理な相談だの」

「やっぱりか。お前さんの矜持に反するか?」


 拒否を示すと、リックドラックはそれを誇りか信念からくるものと推察したようだった。

 相手に出来ない手段を用いる、というのは卑怯と言えなくもない。

 だが、我が拒否した理由はもっと切実なものだった。


「格好よくそう言ってやりたい所ではあるが、単純に無理なのだ」

「……? それはどういう?」

「我が魔法を苦手としている所は聞いていよう?

 実は、人化してから竜の姿に戻る事に難儀するようになってきておる。

 今はまだ時間をかければ戻れるが、未来まで保証が出来ん」


 そうなのだ。

 人化した直後、魔竜へ挑む時も竜化に難儀した。

 その後、この数ヵ月の間にレイニーから一度竜化を見せて欲しいと依頼を受けた事があった。

 姿を見せるだけでいいなら楽なものだと請け負ったが、いざ竜化しようと思うと一時間以上の時を要した。

 その時はレイニーに魔法が下手だから時間がかかると言ったが、実際の所は我の前世の記憶が色濃くなってきているのが原因だと分析している。つまり、竜としての自覚が薄れている為戻りにくくなっているのだ。

 竜人チェリーとして生きてきた記憶は残っているし、身体も当然チェリーのものだ。喋り方がチェリーに寄せられているのもそれが原因だろう。

 だが、今の我の本質……言い換えれば意志は佐倉頼善にある。

 竜ではなく人でなければ成せない夢。それが人である事に固執し、竜化を阻害しているのだろう。


「……初めて聞いたぜ。そこまで魔法が苦手ってのは、一体どういう人生歩んできたんだ?」

「ま、生まれつきの病みたいなものだの。こればかりは致し方ない」


 夢も過ぎれば毒ともなる。間違った事は言っていまい。

 とはいえ、我の夢を毒で終わらせるつもりもないが。


「……元々、この地方は森林地帯です。空から見ても木々に隠れて正確には把握できなかったでしょう。ですから気に病む事はありません」

「気遣い、痛み入る」


 レイニーのフォローが有難い。竜としての期待には応えられない分、他で賄って見せようという気になる。


「だが、そうなると……単純に戦力として当てにさせてもらうか?」

「それも構わぬが……一つ確認したい。敵の間諜がいるとして、どうやって向こう側と意思疎通していると思う?」


 不足しているのは情報。求められているのも情報。

 であれば、我が期待に応える場面も自ずと決まってくる。


「どう、とは?」

「伝達手段の話よ。魔法的な何かを使っているのか、手紙の類か、口頭か。どこでそれを成しているかも重要だの」

「魔法……は無ぇな」


 少し迷うようにしながらも、リックドラックは断言した。

 我としては都合のいい返答になるが、それを信ずるに足る理由も確認しておく必要がある。


「根拠は?」

「伝達魔法というと、緑色系第一系統の風属性に言葉を風に乗せて相手に送る、というのが存在します……が、かなり高度な魔法なので使用者が限られているのです。その上、この魔法は伝える言葉を口に出す必要があり、また特性上、盗聴防止魔道具との相性も最悪です」

「意外と不便だの」


 リックドラックの代わりにレイニーが答えてくれた。

 どうやら魔法も万能というわけではないらしい。口に出したところで小声で人気もなければ大丈夫……などと楽観視する間諜はいないか。


「オープンな会話や安全圏で使う分には重用するんだよ。で、手紙も可能性は低いだろうな。証拠が残る」

「安全なのは盗聴防止魔道具を用いた口伝でしょうね」

「魔道具を使っている時点で怪しまれぬか?」


 人気の無い場所でそんなものを使っているところを見られれば、その時点で怪しまれるのは必至だろう。


「そこは何とでも言い訳ができます。何を話してたかは外からは分からないのですから。機密を扱う人間ほど誤魔化すのは容易いでしょう」

「では口伝が最有力として……後は場所だの。そこさえ絞れればいけると思うのだが」

「現場を抑えようってのか? 流石にそれは向こうも警戒しているだろう」


 そんな強引な手段を取ろうとしていると思われるとは心外な。

 竜人という事でパワーキャラとして認識されているのかもしれないが、どちらかといえば我は学者キャラなはずだ。いや、最大の目的はスーパーロボットのパイロットになる事だからあながち間違いでもないのか。

 悩ましい。

 おっと、それは主題ではないので誤解を否定しておこう。


「そうではない。まぁ我の話を聞くのだ――」


 間諜対策の具体的な説明を始める。

 別に奇抜な作戦を考えているわけではない。ただ、盗聴器を仕掛けようというだけの話だ。


 盗聴防止の魔道具は、あくまで内外の魔力の交流を遮断するだけであり魔法の行使に干渉はしない。

 なので、盗聴防止の魔道具が発動するのをスイッチとして起動する盗聴器を予め仕掛けておけば、敵の正体と情報をすっぱ抜けるという寸法だ。

 魔道具は装着されている魔石内の魔力で起動する。現状、この世界で運用されている魔道具は魔力を込めた直後に発動する魔道具ばかりのようだが、魔力を貯めておける魔石の性質を考えれば、トリガーを設定しておけば起動のタイミングを任意に弄れる事は容易に想定できる。

 強い魔力は他者に感知されるというが、生活用の魔道具と同程度の魔力水準に抑えれば感知をすり抜ける事も可能だと考えられた。


「――そんな事が可能なのか?」


 怪訝な顔をするリックドラックに、我は己が頭を小突きながら自信を持って頷く。


「図案は頭にある。後は作る速度と量の確保が出来るかの問題だの」


 課題はある。間諜の密会場所の候補地が多いほど盗聴器が必要になる。

 今回製作を依頼したグラスラインレーザーに比べればかなり簡素な作りでいけるはずだが、それでもレイニーの負担は大きくなるだろう。

 あとはレイニーがどう捉えるか、だったが当の本人はすでに答えを見出している様子だった。


「スピード勝負になりますね……ならば、市井の魔道具屋も使いましょう」

「おい、もし本当にこれが実現するなら技術の流出はヤバイだろ」


 欠点は多いが、現時点で世界中で重宝されている盗聴防止の魔道具を無力化できる存在は極めて貴重なものとなる。その価値を考えれば、おいそれと世間に漏らしてはならないと考えるのは当然だ。

 しかし、そんな事はレイニーとて分かっているはず。


「ですので、市井の魔道具屋へ提出する資料は一部に留めます。

 サクラさんの魔道具は特殊です。一部が欠けていては再現はおろか、機能も簡単には解明できないでしょう」

「根幹部の仕上げだけこっちでやるって事か。確かにそれならいけるか」

「決定で良いなら早急に設計図を纏めよう。明日には提出できるぞ」

「凄まじいな。ではそっちは任せるとして、場所の選定は俺に任せてもらおう」

「ほう、何か心当たりがあるのか?」


 盗聴器が出来たとて、仕掛ける場所が分からなければ意味がない。

 その課題を解決してくれるというのなら願ったり叶ったりだ。


「悪だくみが出来る場所ってのは限られている。そのうち幾つかを敢えて分かりやすく警戒するのさ」

「場所を絞るわけか。こちらの目論みがバレぬかの?」

「元から全部を完璧に警戒するなんて出来ないからな。目立つ事はないだろ」


 確かに、怪しい場所を完璧に潰す事など不可能か。ターゲットを絞れば盗聴器の数も少なくて済む。それに、これは街中に詳しく且つ色んな場所に目を光らせられる者でなければ不可能な役割だろう。


「情報に関しての目途は立ちましたか。後は戦力の問題ですね」

「正直言ってこれ以上の増加は見込めねぇ。とはいえ、情報戦の目途がついただけで十分だ。

 下手を打たなきゃ十分に戦えるさ」

「そうはいうがな、打てる手は打っておくべきとは思わぬか?」


 どうせ協力するのなら、勝率は少しでも上げて然るべきだろう。


「その言い方……何か考えがあるのですか?」

「ま、あまり期待してくれても困るがの。ちょっとした小細工を思い付いただけよ」


 こちらは敢えて説明は省いておく。盗聴器に比べたらオマケのようなものだし、時間的にも実現できるかは五分五分だ。


「よし、それじゃ早速動くとするか。っと、その前にサクラ」

「なにか?」


 話は終わりと思ったが、まだ何かあるようだ。


「お前さんの協力、しばらくここだけの話しって事でいいよな?」

「敵には隠しておくと言う事だな? だが、今こうして顔を合わせた事は伝わるのではないか」


 魔道具の製作がなくとも、竜人の協力は敵にとって大きなニュースとなる。

 それで退くような相手ならば公開する方が得だが、そうでないなら隠匿しておいた方が切り札になるか。

 ただ、我がここに至るまで、隠れ潜んできたわけではない。すれ違った人も何人かいる。今更隠す事にして意味はあるのか。


「それならそれでいい。お前さんが竜人だって事を知る者も他にいる。

 情報が洩れてんなら、向こうは警戒するだろう。洩れてなけりゃただの奥の手。どっちにしても都合がいい。

 ここで重要なのは公式では無いって事だ。『かもしれない』って憶測は混乱を招く。

 俺たちがちょうど、向こうの動きに惑わされているようにな」


 つまり『不確定』を武器にしようという腹積もりか。


「なるほどの。では、我は極力ここに顔を出さないほうが良いな。連絡事はレイニーに任せよう」

「承りました」

「それで、設計図は明日にでも納品するとして、それ以外は我は何をしたらよい?」


 盗聴器を設置する場所の選定も、魔道具の開発も我には出来ない。

 積極的な協力を見せるのも控えた方がいい、となるとどうしたものか。

 首を捻る我に、横からレイニーが声をかけてきた。


「もしお手隙でしたら、魔石の回収をお願いしたいです。それも内密に」


 魔道具には魔石が不可欠。しかも盗聴器を作るなら数が必要になる。生活用の魔道具に用いる魔石なら街で買う事もできるだろうが、何かを企んでいると察する者も出てこよう。故に内密に集めてほしいと言う事か。

 それに材料集めならば、今まで通りレイニーの依頼をこなしているという格好も取れる。


「切実な問題だの。わかった、我はその方向で手伝わせて貰おう」

「では、解散だな。よろしく頼む」


 こうして、我はル・ロイザを巡る戦いに参戦を決めたのだった――

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