VSドラゴン 前半戦
そして、寝ている恐竜擬きの中ボスを見つけた俺は持って来ていたいくつかの爆弾を罠スキルでセットし、起爆させた。
ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ、ドガァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!
結果、恐竜型モンスターは爆発四散。
跡形もなく俺たちの経験値の糧となった。
「情緒もへったくれもないわね」
琴葉がつぶやいた。
ああ、そうだな、俺もそう思う。
だが、爽快さはあったと思うんだ。
少し期待した私が馬鹿だったかしらね、と傍らの少女が爆風に紛れて言ったような、言わなかったような気がした。
爽快な爆発をし終えて、ご機嫌麗しく、帰路に向かい、俺たちは踵を返し、歩みを再開した。
俺たちは爆発の派手さを(主に俺が)話しながら、これから第11地区へと戻って、ドラゴンの一種であるワイバーン討伐戦線に加わろうと第8地区を出て、第9地区に戻ってきていた。
少し大きめの岩場の陰を抜ける間際に、俺が少し遠くに見えた先ほど中ボスモンスターを呼び寄せるためにお香を焚いた辺りを俺は指し示した。
そこには香りにつられて集まってきていたスライムの群れが湖面やその周りで漂っている。
先ほど俺が見ていた、可愛く水浴びしている姿を琴葉にも見せようとしたのだ。
琴葉のツボにも刺さったのか、二人でその可愛さに癒されていた。
しかし、そのせいで周りに目を配るのがいくぶんかおろそかになっていたのであろう。
岩場の角を曲がって、しばらくよそ見をしながら歩いて数十歩。
俺たちの視界の先には割とすぐ近くにドラゴンがたたずんでいた。
は?
唐突のこと過ぎて、状況を理解するのに時間を要した。
まだ距離はあったが、俺たちはその存在が明確にわかる距離まで近づいてきてしまっていたのだ。
今、ドラゴンは先ほど俺たちが倒して、亡骸となった恐竜の手下どもを餌にしている。
きっと、モンスター等級分けでレベル4の彼は餌につられてやってきたのだろう。
食い意地が張っているやつめ。
俺はそういう女の子は好きだぞ。(自己矛盾)
「……和人。あなた、お香を使って、ワイバーンまで呼び寄せてしまったようよ。責任をもって倒してきなさい」
琴葉は逃げるでもなく、慌てるわけでもなく、ただその場で、俺に戦って来いと死の宣告をする。
いや、まあ、たしかにそういう責任論は理解できなくはない。
「あなたの実力はさっきレベル3の敵相手にもなんとか通じていたことから、把握しているつもりよ。だからきっとあなたは負けるにしてもすぐには殺されないと思うの。それに一番長く戦っていた私も少し疲れたわ。見守っていてあげるから戦ってきなさい。私はここで休んでいるから」
ひでえ。
俺は、苦笑いしながら、抵抗の意を身振りや、手振りでどうにか表現しようとした。
しかし、彼女の表情は変わらない。
ワイバーンはまだこちらには気づいていない。
今俺たちが出て来た第8地区に引き返して、逃げ込むこともできなくはないだろう。
しかし、第8地区は非常に狭い場所だ。
そして、入口も一つ。
上空に空が開けてはいるが、人間であり、飛ぶことなど出来ない俺たちには追い込まれたら逃げ場などない。
現状、俺たちはまだ気づかれていないが、ワイバーンがいつの瞬間に気づくかは分からない。
なんなら、ワイバーンが少し顔の向ける方向を変えただけで俺たちとすぐに目が合ってしまうことだろう。
1歩足を動かした音だけでも、次の瞬間には気づかれるのでは。
そう思わせるプレッシャーがあたりには漂っていた。
それなら、逆に奇襲をかけるのも選択肢だろう。
俺は閃光弾を取り出した。
これで勝負は俺が先行だんよ。
……っていうのはうそ。
俺の冗談。
俺のつまらない脳内ダジャレに反応したのかワイバーンは身じろぎをすると同時に俺たちの存在に気づいた。
「あー、ばれちゃったわね。仕方ないわ。私も手伝うわよ、戦うの」
「助かるわ」
そうして俺たちは前へと駆けだした。
周りには他の冒険者はいない、助けが来るまでどうにか乗り越えるしかないようだ。
琴葉はギアを上げた。
身近なもので言えが、自転車のギアがイメージしやすいだろう。
彼女の能力は身体能力ステータスのギアをあげることだった。
スキル名称は可能性探求。
女として生まれてきたというだけで蔑まれていた自分を、定められた元の世界のしがらみから抜け出せず立ち止まってしまっている自分を変えたいという彼女自身の強い懸命な思いから発現したスキル。
彼女はこの世界に来て最初からAランク相当のステータスを所持していた。
それは元の世界の能力が大きく関連しているというのは学校の先生の説明。
しかし、この世界に来てしばらくしても彼女のステータスはほとんど伸びなかった。
本来この世界に来たばかりの人は経験値を得れば最初のころほど経験値の恩恵を大きく受けられる。
しかし、それをもってしても彼女の成長は芳しいものではなかった。
そして、その停滞感と、彼女の元の世界の鬱憤に反応して、一つのスキルが取得できるようになった。
スキルというのはジョブでの適正の他に、人それぞれの特徴や、能力、強く抱いている思いによって、獲得可能になるかどうかが決まる。
例えば、俺だったら、彼女に動きが水みたいだと言われたように自分の特徴に似た水魔法が習得できた。
そんな感じだ。
彼女の場合はそれがギアチェンジするかのように能力の高低の幅を広げられるというものだった。
ただそれは同時に、今までの自分の強さを支えてきた身体能力、アイデンティティなるものを一度手放すことが求められた。
ゆえに、一定だった彼女のステータスは上限だけではなく、下限にも広がるようになったのだ。
ギアの数値は1~7。
敵のモンスターのレベルと同じ尺度である。
彼女が今の冒険者としての実力で高められる上限値はレベル4。
今、俺たちが相対しているワイバーンなるドラゴンと同レベルである。
しかし、このスキルには下限があると言った注意点もある。
可能性の探求を可能にするスキルだが、戦闘を開始するにあたって、最初のレベルはいつでも1。
それから身体能力を毎回高めていかなければならない。
そのために彼女はウォーミングアップなるものをレベル2やら3の相手と順に戦って、身体をスキルに慣れさせていたのである。
「これでもくらいなさい」
琴葉は剣を振るった。
その軌跡が風の斬撃となってワイバーンのもとへ飛んでいく。
二つ目の琴葉のスキルは風。
彼女は他の娯楽をすべて投げ捨て、元の世界で勉強に専念していた時期がある。
それによって、元の世界の学力的側面が反映される彼女の魔法潜在能力値はかなり秀でているものになった。
その溢れんばかりの魔法適正数値を注いだ魔法は風魔法。
風を身に纏い、剣にも覆わせることができ、味方にも作用できるとかできないとか?とも言っていたが、そんな風な魔法だ。
別にダジャレを言おうとして書いたわけではない。
風風。
俺もワイバーンの背後に回り込み、琴葉からくらった斬撃に気を取られて俺のことに気づいていない敵の足元を斬りつける。
そして、3つ目のスキルに関しては俺も彼女から伝え聞いてはいない。
彼女曰く、別に大したスキルでもないし、聞かせても面白いものでもないわよ? とのことだった。
俺みたいに剣を持ちながら罠スキルを惰性で持ち続けているような奴もいるし、あまり戦闘に役立たないスキルなのかもしれない。
そんなわけないでしょう?馬鹿じゃないのあなた? ってな感じで酷薄な笑顔を向けられそう。
すでに、一緒にここの狩場に来ていたCランクの諸兄姉や妹たちBランカーの力でドラゴンは相当攻撃されたのだろう。
俺と同じくDランクのマレアや女神ネメシスもそこにいたであろう戦いの場からこちらに移ってきたワイバーンはその身をかなり消耗しているのが目に見えてわかるほどだった。
じゃないと、Dランクの俺がこうも順調に戦えるはずないしな。
琴葉が幾度となく放った風の斬撃をかわせずにその身に直撃させたワイバーンは大きくのけぞる。
その隙を突こうと駆け出した彼女はその疾走の途中から走りの速度を変える。
先ほど、恐竜擬きと戦った最中にギアレベルが2から3に上昇した時と同じように彼女の動きが一気に高まったのだろう。
そして、その勢いのまま跳躍した。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
琴葉の風を纏った剣がワイバーンの角をへし折った。
「ガアァァァァァァァァァッ!?」
その一撃で、ワイバーンの脚が地面から少し浮き、吹き飛ばされる。
しかし敵は倒れずに踏みとどまった。
すぐ近くにやってきたドラゴン。
俺は水流を剣に纏わせると、その巨体の真下に潜り込み、その剣先をドラゴンの腹に斬りつけた。
さすがは、2000万もした業物だ。
Dランクの俺でも一番硬そうな鱗の部分ですら、はじかれることなく斬れるぜ!
調子に乗った俺はしかし技名は叫ばずに、水魔法付与率を整えてると再び力の限り斬撃を叩きつけた。
続けて、突き、切り上げ、さらにもう一巡それを繰り返す。
ざっと、6連撃といったところか。
さすがは、俺の愛剣といったところだ。
俺と琴葉の猛攻によってワイバーンのその身を一度、地面へと押し倒すことに成功した。




