未知との遭遇
戦闘を終えた俺達に新たな物陰が現れた。
よく因縁付けしてくるパンケーキ野郎である。
今はいつも引き連れている奴らがいない。
そろそろ愛着沸いてきたし、名前くらい聞いておこう。
「おお、久しぶりだな。半日ぶりか、そろそろお互いに名乗り会おうぜ」
「ん、ああ、俺はエッグスだ。って俺の名前はどうでもいい。それよりお前!俺はさっき知ったんだが、D階級の冒険者は冒険者名簿が発行されてないらしいな。因縁つけるためにどんな奴か調べてやろうと思った時間が無駄だったぜ」
何俺、好かれているの?
というか冒険者名簿なんてものあったんだ。
まあ、俺の名前は無いらしいが。
「あら、あなた、一応冒険者の扱いがなされているはずなのに、存在がこの世界で認められていないようなものなのね。ひどく滑稽だわ」
とても愉快そうに頬を緩ませつつも、笑いをこらえようとしている天王院さん。
何かいいことあったのかい?
「この人、筋肉痛でクラス分け試験の実技テストを受けることが出来ずにDクラス送りにされたのよ。面白すぎて私まだテスト中だったのに思わず声を出して笑いそうになってしまったのだけれど、そんなところにまで尾を引いているというのはとても感慨深いわね」
どこに感慨深さを感じているんだよ。
何も深くねえよ。
「なんだ、さっきの戦いぶりを見てD階級の割には、動きの筋が悪くなかったからおかしいなと思っていたんだ。そんな事の顛末があったとはな。フフッ」
おい、俺をいじめることで二人して仲良くなるのやめてね。
思わぬ方向性で彼女の毒舌が活かされていらっしゃる。
「意外と面白い奴だったんだな、お前。俺は先に名乗ったんだ、お前も名前を名乗ったらどうだ?」
「ああ、和人だ。中村和人。元の世界では名前をもじって村人なんてあだ名をつけられていた」
「いつも女を多く引き連れているのと、かけ離れたあだ名だな。そうだな……。俺はムラト、そう呼ばせてもらうとするか。それでいいか?」
「まあ、呼びやすいように呼んでくれれば構わない」
そうな風に名前を略されて呼ばれるのは初めてだったが。
「それと、今までのことは悪かったな。さっきの戦いを見たのと、面と向かって話してみてわかったが、お前は俺が思っていた奴とは全然違うようだ。俺の父親はくそ男でよ、女ばっかり連れて遊び歩いている怠けた野郎だったんだ。お前と父親を重ねちまった。早とちりでついダル絡みしてしまって済まなかった」
「……そうか、気にするな」
「……。やっぱりいい奴だな、お前は」
なんだか知らないが、仲良くなったエッグスと別れて俺と天王院はマレアとネメシスのもとへと戻ってきた。
「遅い」
「何かあったのか?」
マレアが冷たく言葉をこぼして、ネメシスがその理由を尋ねてきた。
「この前飛行船で絡んできたCランカーの男いたでしょ?その人と偶然出会って和人がお友達になってきたのよ」
天王院が説明した。
「ん?ああ、あの粗野な男のことか?お友達になってきたということは仲良くなったということなのか?」
ネメシスがにわかには信じられないと、訝しげに聞いてくる。
「ああ、存外悪い奴でもなさそうだったからな。まあ、きっかけはコイツの悪口だったんだが」
俺は隣の天王院の方を目で示して見せた。
俺が非難した相手は心当たりがなさそうにきょとんとした表情をしている。
え、俺をいじったの覚えてないの?
「その人って、パンケーキ屋でも突っかかってきた人?」
マレアが驚いた顔でエッグスのことを聞いてきた。
「その相手だ」
「どうしてあんなことがあった相手にそんなことが出来るの?私にはわからない……。和人ってやっぱり優しいんだね」
「優しいっていうか、無為な争いはしないように親に言いつけられて育てられたからな。それだけだ」
マレアは、俺の言葉を聞いたからか、複雑な表情を浮かべたまま黙ってしまった。
「そろそろ神楽たちもさっきの奴を倒している頃合いだろう。合流しに行こうか」
「そうね、行きましょう」
先頭を歩く天王院に続いて俺たちも歩き、少しして第3地区に戻ってきた。
ちょうど、狩りが終わったようで、戦っていた大型モンスターの高価な部位をはぎ取っていた。
それを妹が転移魔法で他の冒険者たちと一緒に、少々時間はかかっているようだが、順次飛行船に運びこんでいる模様。
話せる距離まで近づいてきたときには神楽と共に荷物を置いてきたであろう冒険者もちょうど戻ってきた。
転移魔法うらやましい。
魔法・スキルはその人のジョブや適性、才能、ステータスなどもろもろの要因によって取得可能なものが変動するが、転移魔法はその汎用性もあって、一パーティーに一人は持っておきたいとされる人気の魔法だ。
「ふむふむ、ワイバーンは今、第11地区にいるんですね」
「ああ、そうだ。助けてもらったお礼だ。俺のクラスの奴からさっき伝わってきた情報だから今はそこにいるはず。それに俺たちだけじゃワイバーンを簡単には倒せねえ、俺たちの狙いは主にクエスト達成報酬と剥ぎ取り報酬だ。討伐の一番の功労者に贈られる討伐報酬の金銭は最初から求めちゃいねえ。俺達よりも高ランカーのお前たちが加勢してくれると有難い」
敵はブレスを吐かないが、滑空はする。
それに動きも速いとのこと。
今は50人程度が向かっているはずだが、すでに負傷者は2桁に登りそうで、交戦と撤退を繰り返しながらやりくりしているらしい。
このまま長期戦となり、今の戦力のまま倒すことが出来たとしても、けが人が増え続けて、損失が膨らむのを出来るなら避けたいとのことで手っ取り早く討伐するため俺達にも協力してほしいとのこと。
もちろん、その申し出を俺たちは快く受けて、別の仲間たちと合流してから向かうという彼らと別れて、俺や妹たちのパーティーは一緒に第11地区の狩場へと向かった。
第11地区に隣接する第9地区の丘についた。
「悪いけれど、私もう少し調子を整えてから向かいたいと思うの。みんなは先にワイバーンと戦っているCランクの生徒たちと合流してきて頂戴」
天王院が同行していた俺たちに言った。
「そうだね、琴ちゃんはいつもどおり、ウォーミングアップして、準備できたら参戦してね。私たちはいつもは琴ちゃんを待ってから一緒に戦い始めていたけど、今はCランクの人たちがすでに戦っているみたいだから様子見も兼ねて先に行っていることにするよ」
妹が天王院が後から合流することを了承した。
「それなら、俺も残ろう。さすがに一人で残すのは心配だからな」
俺は天王院と一緒に残ることにする。
「わかった、じゃあ、琴ちゃんとお兄ちゃんは、またあとでね。二人が来る前に倒しちゃっても消化不良だって文句を言わないでよねー」
妹がそういって、俺と天王院以外のメンバーを連れて先に行った。
「あなたも準備運動したいのかしら?」
妹らを見送った後、傍らの彼女がそう俺に問いかけてきた。
「まあな、俺もレベル3以上の相手とは戦ったことがないんだ。いきなりそれよりも強いレベル4のワイバーンと戦うのはリスキーに思えるしな」
それに魔法も使って戦ってみたいし。
さっきの戦闘では使う機会が無かったから、ここらで使っておくことにしよう。
俺はモンスターを呼び寄せるためのお香を使った。
罠の材料が売っているお店で買ったものだ。
罠スキルを活かすために落とし穴やら痺れ罠やらの材料を買う際、偶然見つけたから初めてだったが買ってみた。
「ちょ、あなた、わざわざ呼び出すためにそんなものを持ってきていたの?そこらを探していればそんなものなくてもレベル3くらいのモンスターは見つけられるでしょうに」
「まあまあ、良いじゃないか。早速お出ましになられたみたいだし」
俺は先ほど神楽たちが倒したよりかは少し小ぶりだが、似たような恐竜の子供みたいな姿をした敵がこっちに向かってくるのを確認した。
狙い通りレベル3相当だろう。
「そんな道具があるなんて、私は初めて知ったわ。随分便利なものもこの世界にはあるのね」
天王院がそう呟いたのを尻目に俺は早速、未知の強さのレベル3の敵へと攻撃を仕掛けるのだった。
ここからしばらく主人公と天王院の二人きりのシーンに突入します。




