小悪魔キャラ
飛行船が降り立った場所は島だった。
ワイバーンはもともとのどかだったこの島に飛来し、危機を感じがた島の住民がワイバーンの討伐をギルドに依頼したのである。
島の大きさはそこそこ大きく、今のところ、人の居住区とモンスターの生息地の分断されたうち、人のいない区域側にワイバーンはいるそうだ。
飛行船がたどり着いた人間の居住区から、俺たちはモンスターの居住区、森丘や草原、湖や川などが点在する場所に徒歩で移動してきた。
街を出てすぐの辺りは森で覆われていて、大型の肉食獣は木々に遮られていることでこのエリアには滅多に立ち入ってこないとのこと。
「さあ、ちゃっちゃか行こうぜ、雑魚に構ってる暇はねえ、俺たちが最初に大ボスを倒すんだ!」
「「「おおおっっっ!!!」」」
Cクラス冒険者の学校の生徒たちの多くが集団で走っていった。
そうではない俺達のいる集団はまだ急いで動こうとはしていない。
俺、マレア、ネメシス、天王院のパーティーと妹のパーティメンバー、カルバとモドリ―計7人の中で、今の取りまとめ役は一番冒険者として階級が高い唯一のAランク冒険者である天王院琴葉である。
天王院は俺たち側の集団のまとめ役であると同時に妹の神楽のパーティーとも2度冒険に出たことがあるため、一番指揮に適しているだろう、ということで決まった。
「おい、なんで、ゆっくりしているんだ。Cクラスの奴らに先を越されてしまわないか?」
しかし、俺はこの場にとどまって先を急ごうとしない、現状に疑問が浮かんだため、それを伝えた。
「大丈夫よ。そんなにすぐに倒せるわけがないでしょう。相手はワイバーン、仮にもドラゴンなのよ。モンスターの等級で言えば、レベル1~7のうちの4。Cクラスの冒険者にとっての敵の適性レベルは2、いくら集団でかかったって、レベル3にも苦労するのが彼らの評価だというのに、さらにその上のレベル4になんて簡単に勝てるものじゃないわよ。もし倒すことが出来るにしても、何時間も倒すのに時間がかかると思うわ。いくらワイバーンがレベル4の中では最弱とされる部類でもね」
レベル4の中では最弱って、四天王の中では最弱みたいな響きだな。
もちろんレベル4相当のモンスターは4種類しかいない訳じゃないのだろうが。
「それでも、先に見つけられたら俺たちが割って入るわけにもいかないんじゃないのか?」
「平気よ、モンスターもずっと一緒のところにいるわけではないでしょう?だから、移動したところで最初に見つければ良いわけだし、第一、先に獲物を見つけたからって、倒すのに手間取っている人がいたとしたらそれはその人が遅いのが悪いんじゃないのかしら?」
おおっと、いただきました。
弱いのが悪い理論。
戦場にきれいごとは不要ということですかね。
「あとは、私は少し、身体を動かして慣らしておかないと、調子が整わないのよね。困ったことに幾分かスロースターターなのよ、私。嫌だったら、あなたは先に行っててもいいわよ?」
そういって、微笑む天王院。
くそっ、意地悪だな。
妹たちもすでに天王院のやり方に付き合い慣れているみたいだし、俺とマレアのD階級(ネメシスは女神のため別の枠組み)だけで先を急いだとしてもレベル3とすら戦ったことのない俺からしたら敵の強さが未知数すぎる。
いっそ、Cクラスの奴らに混ぜてもらえるくらいの気概があるならそれもありかもしれないが、Cの中には因縁がある輩も混じっている。
それは気が乗らないのでやめておくしかないだろう。
街から近い森の中、天王院が準備運動で身体を動かして、そこらのモンスターを倒している傍ら、他のメンバーはその恩恵もあり、特に敵に遭遇するわけでもなく暇なのでお昼ご飯を頂くことにした。
俺がリーダー不在のため勝手に提案したら、みんなからも特に非難の声が上がるわけではなかった。
俺は周囲に軽く敵探知スキルを発動して、警戒を残しつつも携帯食料を食べるために用意を始めた。
俺とマレアは携帯食料、ネメシスはおやつ、妹たちは弁当を広げている。
ネメシスは一応女神のため、食で飢えることはない。
しかし、食べることは好きなようで、簡素な味の携帯食料ではなく、芋丸くんっていう、ジャガイモみたいなものを砕いて軽く調理したものをパン生地の中に入れた食べ物を食べていた。
まあ、コロッケパンの衣が無い版みたいな感じなのかな。
すると、妹のパーティメンバーのうちの一人、モドリ―が俺とマレアの二人で座っていたところに何かの入った容器を持ってやってきた。
「もしよかったら、おにぎり作ってきたので食べませんか?」
こちらの光景を妹が微笑みを浮かべて見守っている。
さては俺が照れるのでは、とでも思っているのだろうか、いくら、義務教育で小学校、中学校のどちらにも通っていなかったせいだろうか、異性との交際経験がない俺でもこれくらいのことで緊張するわけがない。
す、素直に貰っておくんだからね!
「食べる」
マレアが少し動揺していた俺より先に返事をして二つあるおにぎりのうち一つをモドリ―から受け取った。
マレアは美味しそうにもぐもぐと食べ始めた。
「和人さんはどうですか?」
「あ、ああ、頂こうか」
生唾を飲み込み俺は何とか声を出した。
俺は緊張を取りほぐすために、おにぎりの中身の具を考えることで気を紛らわす作戦を始めた。
やはり、ここは定番の梅干しだろうか?いや、鮭も有力だ。
何ならあまり好きじゃない昆布だって、大歓迎である。
もしくは奇をてらって唐揚げでも入っているのではなかろうか、いやいや、しかし、一番の大穴はやはり……。
俺は受け取ったおにぎりを一目散に食べ始めた。
というのも、ゆっくり食べていたら今も目の前で俺とマレアの食べる姿をしゃがみながら目線を合わして、微笑みを浮かべて眺めているモドリ―に照れを隠しきれる自信がない。
しかし、勢い込んで食べた俺に罰が当たったのだろうか。
おにぎりをのどに詰まらせたというわけではない。
味が。
味がしなかった……。
あれ?俺、楽しみにしすぎて、味覚の機能が麻痺しちゃったん?
一瞬ぼけー、と放心する俺、すると、俺の目の前にいたモドリ―が立ち上がって、腰を曲げ、膝に手をついて、俺のことを上から目線で見られる位置を取ると、片側の口元を吊り上げて、右手の人差し指を顎にちょこんと当てると、顔を傾け、にやりと笑った。
「あれあれー?お兄さんー、もしかしてー?中に具が入っていると期待していましたー?残念ですが、何も入れてませーん。ねえ、今どんな気持ち?今、どんな気持ちー?」
唖然とする俺、それを見て腹を抱えて笑っているカルバと口元をお上品に手で覆って、こみ上げてくる笑いを隠そうと目線を反らしてふるまう俺の妹。
「でも、まったく何も入れてない訳ではないわよ?何が入っていると思う?それはね、あなたのために作ろうっていう真心と、私の手塩、だよ?」
そう言い終えると、モドリ―は腕を胸の下で組んでドヤっと満足げな表情を作った。
静寂が辺りを包み込む。
くっ、少しイラっとしたし、言い負けたせいで悔しさもある、でも、だがしかし、凄く可愛かった……。
数瞬後、言い放ったモドリ―が沈黙に耐え切れなくなったのか急速に赤面になった。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。和人さん、許してください!カルバが、カルバが具無しおにぎりを渡して、こう言わないと今夜、私にセクハラを仕掛けるって脅しつけてきたんですー。本当にごめんなさい。お詫びに私の弁当のおかずを代わりに食べていただいて構わないのでえええ」
半泣きでべそをかきながら、カルバに言わされたと弁解するモドリ―。
彼女の素朴な性格からはかけ離れたものだったのだろうか、意地悪な小悪魔キャラを装って放ったセリフを言い終わってしばらくし、素に戻ってからの彼女は詫びの言葉を並べ立て続けた。
最初は何が起きたのか分からなかったが、やはり、具は入っていなかった模様。
俺はまだ携帯食料に手を付けてすらおらず、おにぎりを一つ平らげただけであったが、それでも俺は彼女のそれを見て、可愛さでもうお腹がいっぱいになったのだった。
その後、ここに至るまでの顛末を聞いてみたら、モドリ―はいまいち俺たちにとって、印象が薄いだろうということで、ここらで一発キャラをかましておいた方が良いだろうというカルバの差し金だったらしい。
ちなみにマレアのおにぎりの中身はさばだったとのこと。
裏切り者かよ。
cv悠木碧




