妹の悩み
「あら、ここにいたのね、探したわよ、和人……。って、モドリ―と、それに、寝ているけれど、カルバじゃないかしら。あなたたちもここにいたのね」
天王院がネメシスを引き連れてこちらへとやってきた。
「あ、琴葉さん。おひさしぶりです」
「あれ、3人は知り合いなの?」
マレアが尋ねた。
「ええ、そうよ。私はたまに彼女たちが冒険に出るときに付き添いしていたから。それに、それは元の世界でも同じだったし」
天王院は元の世界で、神楽の付き添いで一緒にいることが多かった。
それをこの世界でも続けているということをマレアに話した。
「それで?二人がここにいるということは、神楽はどこにいるのかしら」
「神楽なら今、カルバの酔いを醒ますための水を取りに行っています」
天王院はカルバの酔って顔から突っ伏している姿を見ると、額に手をやって、やれやれといった風に呆れた表情をして首を横に振った。
「そう……。なら少し神楽を待っていましょうか」
◇◆◇(妹・神楽視点)
カルバが真昼間っていうのに、酒に手を出しちゃって、私は水を取りに向かった。
もう、カルバったら、しょうがない子ね。
そう思いながら、廊下を曲がろうとしたところで、向かいから来た人とぶつかりそうになった。
「っと、あぶな、大丈夫ですか?」
なんとか、ぶつからずに済んだが、相手に気遣いの言葉を入れる。
こういう時はとりあえず、相手に気遣いの言葉をかけることが無用なトラブルを避けることにつながるテクである。
変に絡まれるとだるいじゃん?
「っとと、……。うん、大丈夫だよ。じゃあね」
そう言った彼女はわたしの顔を見ると、そそくさと去っていった。
なんだかとても可愛い顔の子だったなあ。
どこのクラスの人だろう。
カルバが知り合ったら、抱き着くんじゃないだろうか。
って、違うか、カルバはモドリ―が可愛いから、好きなんじゃなくて、一緒に成長してくれる仲間だから、信頼を寄せあえる相手だから、デレているんだった。
私は幸い、支援職ジョブだから、共に前線で肩を並べるモドリ―みたいには、カルバに言い寄られてはいないけど、それでも最近少し、怪しい視線を感じる気がしたり、そのせいか同じ部屋で夜、眠るときはちょっと気にかかり始めていたり。
だけど、私はお兄様みたいな男の人と熱い恋がしたいんだから、そういうのはちょっと……。
一緒に冒険についてきてくれる琴ちゃんみたいにずば抜けて、強ければカルバの恋愛対象からも外れるだろうと思うから、琴ちゃんがうらやましい。
なんなら、ずっと前から、運動神経抜群な琴ちゃんはうらやましかった。
私は運動が得意ではなかったから。
琴ちゃんに刺激されて、お父さんに見つからないように、少しだけ、母親と叔父の道場に通っていた時に、幾分かマシにはなったけどね。
でも、琴ちゃんはそれはそれで、運動神経がずば抜けているからこその悩みを抱えているから、私はそれがうらやましくもあり同時に心配でもある。
力になってあげたいけど、琴ちゃんと同じ目線に立っていられる人は元の世界にはいなかった。
この世界では見つかるといいな。
aクラスの人たちなら、あるいは、って思っている。
でも、琴ちゃんは私のことを心配して、今も私達bクラスのパーティーについてきてくれている。
私達というか、私を守るため、元の世界と同じく、身体警護で。
私は余計な心配を掛けたくないから、支援ジョブになって、防御魔法や、自身がケガしたときにも回復できるヒール、それに、危ない場所から避難できる転移魔法まで、頑張って覚えた。
転移魔法はそんなに遠くには行けなくて、目の届く範囲がせいぜいだけど、それでも凄い魔法だと思う。
身につけられるスキル・魔法は一人につき3つまでで、他の魔法とか覚えたいときはもともと覚えていたものをスキルレベルやら、経験値やらをリセットする必要があるから、もう、この3つで私はやり通すつもりだ。
そんな感じで、自分の身の安全、味方の身の安全に特化したスキル構成にしているから、琴ちゃんには、私の心配はしなくていいって言っている。
けども、今のところは私が大きなクエストを受けたこれまでの2回とも琴ちゃんはついてきてくれた。
琴ちゃんは一人でクエストを他にも2度受けたみたいだけど、私のことで気を遣うよりももっと自分のことを考えてほしいと思う。
私のところにすぐ来られるからって、身軽でいたいとaクラスの人たちとパーティーを組んでいないのも私は心配だよ。
はあー、とため息をつきながら、また、廊下の角を曲がろうとしたら、また向かいから出てきた人にぶつかりそうになってしまった。
「おい、気をつけろよ、あぶねえだろうがっ!」
私が言葉を発する暇もなく、私の目の前をかけて行った男が怒鳴っていった。
って、今のは私よりも船内で走ってたあいつの方が悪いし。
悪びれずにこっちのせいにするとか、まあ、私もぼーとしていたけども。
背を向けて前を走っていったそいつにはあっかんべーと、してやった。
それと比べてさっきのかわいい子は朗らかだったな。
ふとその子の顔を思い出す。
あれ?なんだかどっかで会ったことがあるような。
それも最近じゃないような。
でも、ここは異世界だし……。
学校で見かけたことでもあったかなあ?
そう思いながらもう少し歩いたところで、やっとこさ甲板に戻ってきたら、そこには琴ちゃんや、お兄ちゃん、マレアちゃんや、女神様もいた。
そこには酔いつぶれたカルバの姿も。
あー、完全に出来上がっちゃってるね、あれは。




