十四章 フェイク・グリューネ
バサッ!
最奥のお住まい、祭壇の間へ到達した僕達の耳に、大きな羽ばたきの音が聞こえてきた。
「派手な出迎えだな。戦闘態勢を取れ小僧共!」老人が喝を入れる。「油断は死を招くぞ!!」
現れた遺跡の主は、荘厳で美しいグリューネ様とは似ても似つかない。
ケェーッ!!!
不細工な石鳥は侵入者を認識し、酷く耳障りな声で鳴いた。僕の肩にいた本物が一瞬七色の翼で頭を覆い、嘴を突き上げて鋭い目で射抜く。
「何と悪趣味な……!!」
偶然にしては出来過ぎている。しかし現在の状況では、納得が得られる仮説も立てられそうになかった。
自重を物ともせず石像が飛び立ち、石の鉤爪と嘴を僕等へ向けて滑空し始める。レイピアを構えたまま、慌てて左側に避けた。流石長年の住処だけあって相手は勝手を知り、閉鎖空間での空中旋回もお手の物だ。続け様に追い掛けて来るが、どうやら狙いは僕らしい。
「拙いなクレオ。彼奴め、まずはお前を突き壊すつもりらしい」
何故?皆の中では脚が速い方だし、狭い場所では狙い辛い獲物のはず。――もしかしてあの無機物、僕がエレミア人と認識しているのか?
「ちっ!若造共、何とか奴の動きを止めろ!こう暴れられては仕留められん!!」
「分かってるよ爺!そらよっ!!」
言うなりアレクは端に瓦礫の石を結んだロープを投げ、足首の一本に巻き付けた。もがいている間に素早く両端を床に固定された松明台へ結ぶ。これで上に逃げられる恐れは無くなった―――と思いきや「馬鹿者!外れるぞ!!」老人が声を張り上げた!
ガラガラガラッ!!
「嘘だろ!?」
床ごと台を力任せに外した巨鳥は、胴体へ長鎌を振り下ろそうとしたカーシュを翼で弾き飛ばし、目の前にいた僕等に鋭い鉤爪を振り上げた。
「ロディ!」
「でぇいやっ!!」
寸での所で、杖から現れた少年が木の棒を振るって応戦する。死霊のため、子供では考えられない怪力スイングで石の巨体を弾き返した。
「何してるのクレオ!?早く離れなさい!!」
「はい!」
強力な一撃のためか術の効果は短時間で切れ、少年の姿が一旦消える。次の瞬間、鳥がターゲットを守人のいなくなった彼女に変えた。
「貫け、雷光!!」
閃光が砂埃の舞う空気中を鮮やかに駆け抜け、敵の額を強かに撃つ。
「デイシー!」
「ルザちゃん、こっち!」
ダメージがあったのか、虚ろな眼窩の間に亀裂を入れられ、巨鳥の様子が変化した。
ケェエエッッ!!!
まさか、この石像にも僕と同じように心が宿っている?怒りの雄叫びを上げ、まだ絡まったままの松明台付きロープを滅茶苦茶に振り回した。
「危ない!!」
僕は咄嗟に加速装置を使い、同居人を抱えて凶器を避ける。が、視野範囲が広いのか、敵はすぐさま追撃を仕掛けてきた。しまった!!
「きゃあっ!!」「ルザ!!」
ロープが運悪く逃げる彼女の足首へ絡まり、飛行と共に僕ごと空中へ持ち上げられた。錘が増え、鳥は不快そうに脚をブンブン振る。「わぁっ!」「きゃあぁっ!!」全身が揺さ振られたがこの高さ、僕等は落ちないよう耐えるしかない。
「ルザちゃん!?」「おい二人共!!」
数メートル下で、デイシーさんとカーシュが叫んでいるのが見える。二人の横では保護者が“透宴”を片手に険しい表情。当然だ、こう天井近くでは手も足も出ない。
絡み付く縄を気にしつつ、捕らわれの彼女は唇を噛んで僕を見た。「私はいいから次に下降したら降りなさい!」
「そんな事出来ません!!」
彼女から腕を離し、ロープや石像の爪に掴まって身体を反転させる。数人を支えられる程頑丈な縄が皮膚に食い込み、細い足首が血を流していた。もし痛覚があったなら、大人でも泣いておかしくない怪我だ。
「どうするつもり!?」
「何とかロープを切って二人で着地します。――駄目だ!!」
ただでさえ硬い縄は暴れた事によって数度捻れ、レイピアの薄い刃では全く歯が立たない。力任せに破断させようとするが無駄だった。
「キュクロス!何とか出来ないの!?」
彼女の方も、杖から出したもう一体の死霊、魔術の得意な老婆キュクロスさんに尋ねる。
「生憎お婆ちゃん、風系の魔術はさっぱりで……ごめんねぇ」
「冥蝶!聞いてるでしょう!?お願い、出て来て……!!」
目を閉じ呼び掛けるが、昨日現れたばかりで具合が悪いのか、返事は無いようだ。
「大丈夫ですよ。僕、もう少し上へ行って試してみます」
よじ登ろうとした僕に、気を付けるんだよ、優しく声を掛けてくれた。心配してロディ君も再び杖から出て来る。
「ドジ踏んで壊れるのはいいけど、俺が食う予定の魂は飛ばすなよな」
ボカッ!「縁起でもない事言わないでロディ!!」
「あ……ゴメン姉ちゃん」
あれ、ルザ……目が潤んでいる?
「いい、落ちないでよね。リサの所まで運ぶのが大変なんだから」
「ええ。ルザこそ何処かへしっかり掴まっていて下さい。急にロープが緩むかもしれません。ロディ君達も注意していて下さい」
そう頼み、単身作り物の鳥の脚へ乗り移った。




