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十二章 朽ちた御所



「私の調査では、ここがどうやら玄関ロビーらしい」

 天井の石壁まで十数メートル。廊下から巨大な空間に出た瞬間、降りて以来感じていた郷愁の正体に気付いた。


「グリューネ様、出てきて下さい!!ここは……!!!」

「急にどうしたクレオ―――っ!?」


 エンジンの虹色の鳥は、抜け出た途端僕と同じく吃驚仰天し、慌てて大広間を飛び回って確認を始めた。

「おいクレオ、どうしたんだ一体?」

「何なんですか~?鳥さんも上で凄く興奮してますし~」

 掌に触れた壁の紋様はメモリーそのまま、それが余計困惑を深める原因になった。

「まさか……そんな……」

 動揺で頭を押さえる僕の手を、ルザが隣へ来て握った。

「またオーバーヒートしかけてるの?地上に戻った方が」

 体温の低い死人の手は、それでも彼女の優しさでとても心地良かった。

「いいえ、違うんです……ここが」

「何?」

 とても信じられない。でも、認めなければ話は進まなかった。


「ここがエレミアの……グリューネ様のおられた光の神殿に、余りにもそっくりで……だから僕達、混乱しているんです。これは一体……どう言う事なんでしょう?」


 僕の告白に、保護者は即座に首を振って否定した。

「そんな馬鹿な。建築のスタイルとしては、この遺跡は割とスタンダードだ。偶々似ているだけじゃ」

「少し黙ってて」そこで死霊術師が止めに入り、尚も有り得ない事実に呻く僕に問う。「本当に記憶通りなの?」

「ええ……この紋様は、グリューネ様を外界の虚無から守るための物です。僕は一度、捧げ物を納めに来て入った事があるんです。その時頂いた羽根が」上方で舞う擬似陽光を指差す。

「成程ね。それはここで?」

「いいえ。もっと奥、祭壇の前でです……神殿は凄く広かったので、何十分も歩いてやっと最奥のお住まいへ行きました」

 その一言で、皆が一斉に後方を振り返る。

「ここまでの廊下でも結構あったわよ。まだ大分歩くの?」

「いえ。確か、後半分ぐらいのはずです」

「半分か……まぁ、まだ体力に余裕はあるよな、女性方?」カーシュが尋ねる。

「勿論~」

「当たり前よ。そう言う事なら、あんたに道案内を任せても大丈夫ね?」

「ええ」

 荒唐無稽な話を、しかし有り難くも彼女はまるごと信じてくれているようだ。

 振り返った僕とアレクの目が合う。?一瞬睨んだように見えたが、さっきのルザの一言に怒っているのだろうか?

「アレク?」

「ん……ああ、道を知ってるなら心強いな。頼むぜ」

「え、ええ」

 そうだ。声が硬いのは、きっと探索の緊張からに違いない。彼はシルミオから僕等の事を任されているし、当然の態度だ。

「お爺さんの地図でも行程の半分ですか~?」

 パラッ。「恐らくな。一旦引き返したので、地図にはここまでしか描いていないが。――あれのせいでな」

 白木杖の先、ロビーの奥には分厚い金属製の扉が立ちはだかっていた。メモリーにも寸分違わず残っている。確か、

「真ん中のダイヤモンドに光が当たると開くはずです。僕が来た時は」

「奥にいた私が力を使い招き入れたのだ」

 扉の継ぎ目に嵌った金剛石を僕等は示した。

「矢張りな。――天井を見てみろ。どうやら今はインコの代わりに、人工的に開けた穴が特定の時間だけ仕掛けを動かすらしい」

 一斉に見上げた先には、自然な亀裂に見えなくもない数十センチの隙間。だがタイミングが悪いのか、外界の陽光は差し込んでいなかった。

「私が戻ったのは、手記から太陽の位置を割り出し、奥へ侵入可能な日時を特定するためだ。計算では後一時間もすれば開くが――そうとなれば出来んとは言わせないぞインコ?」

「ああ、やってみよう」

 一度留まった僕の肩から再び浮かび上がった光の鳥は、扉を封じる石の傍へ真っ直ぐ飛んでいく。

「さて、私程度の力で起動してくれるといいが……」


 ピカッ!


 一瞬ロビー全体が真昼のように明るくなった。続いてゴゴゴ……以前と同じく重々しい扉が解放され始める。

「やりましたねグリューネ様」

 幸い、降りて来た彼女は然程疲れていないようだ。

「上手くいったな。長時間は開かない構造だが、向こう側にもスイッチはあるから問題は無い。しかし……オプションまで我が家と同じとは、些か気味が悪いな。――御老人。番人がどのような者か、手記には何と?」

「体長数メートルの馬鹿デカい鳥の石像だそうだ」

「!!!?」

「まだ動力が効いているかは不明だがな。注意するに越した事は無い」僕と一匹の驚愕を余所に、お爺さんは呟く。

「グリューネ様の偽物がこの先に。マジで?」

「守人を置くって事は~、鏡の効力に関しては保証済みと考えてもいいかな~?」

 警戒するカーシュと正反対に、新聞記者は暢気な発言。

「けど、相手が巨大なら暴れられ過ぎは禁物だ。遺跡が崩れる危険性もある。デイシー」

「分かってますよアレクさん~」

 彼女の本気の放電は周囲数メートルを容赦無く破壊する。とは言え、以前と違って制御が利くのでそう心配は無いだろう。“黒の城”の時も、通電するはずの僕にダメージは一切無かった。

「早く行くぞ小僧共」

 老人霊を先頭に再び遺跡、いや神殿を進み始めた。エレミアにあった時は塵一つ落ちてなかったのに、今は外の荒野の砂が入り込んででそこら中真っ白だ。澄んだ空気を好む鳥類のグリューネ様には耐え難い状況だろう。

 仮にここが本物の光の神殿だったとしたら、一体何故?エレミアとこの宇宙は何か関係性があるのか?まさか、神殿も僕等と同じように飛ばされてきた?考えられない話ではない。だとすると神様のお屋敷や、僕が暮らしていた家も何処かに……ひょっとしてそこにディーさんも?いや、そうポコポコ建物が空間転移していたら、流石にこの宇宙の人達が気付くはずだ――悪夢の中でもない限りは。

「クレオ?」

「?あ、ああ……済みませんルザ、何ですか?」

 同居人は弟とお婆さん入りの杖を振り、にしても残念ね、最もなんて、と呟いた。

「せめて二番までなら、あんたの家族がどうしているかも分かったのに」

「あ!」そうか!気付いても後の祭り。今更この宇宙に来たばかりの頃には戻れない。

「でもまぁ、タイナーの入院姿が見られれば帳消しかしら?男みたいな彼女の事だから、人目も気にせずあられもない格好してたりして」

 クスクス。

「からかわないで下さい!ルザこそ、誠さんが今どうしているか知るチャンスですよ」

 あの蒼い光が何処へ続いているかは分からないが、きっとウィルネストさんと幸せな時間を過ごしているはずだ。オリオール君の言っていた、本当の笑顔を取り戻して。

 ところが、返って来たのは否定だった。

「え?」

「残念だけど、多分もう見えないわ。大丈夫よ、お父様なら……あいつが傍にいるもの。仮令どんなに遠くへ行ったとしても、絶対元気にしてる」

「それはそうですが……何故?以前は命を削ってまで、誠さんの役に立とうとしていたのに……」

 疑問に彼女は肩を竦め、まるで嫌いみたいに言わないでよ、呆れた。

「単に一番でなくなっただけよ、大袈裟ね。離れていても、お父様への尊敬も愛情も変わらないわ」

「では、他に好きな人が?」

 論理的に考えればそうなる。誰だろう?政府館に出入りする人かな?ルザは仕事関係以外の友人は殆どいないようだし、可能性は高い。

「クレオさん、そんな直球な訊き方は野暮ですよ~?ルザちゃんは女の子なんですから察してあげないと~」

「デイシー!?」同級生の台詞に驚き、焦った声を上げる。

「??」


「いい加減にしろ餓鬼共!遠足にでも来ているつもりか!?」


 老人の一喝に、僕等全員の身体がビクッ!となった。

「そんな言い方ねえだろ爺さん?なあアレク、お前からも何とか――?アレク?」真っ青な義兄弟の顔を覗き込む。「おい」

「聞こえてる……爺さんの言う事にも一理ある。俺達が夜までに帰らねえと危険だし、親父にも余計な心配掛けちまう。俺と爺さん以外遺跡探索は初心者、女の子に野宿はキツい。正直お喋りで無駄な時間を食ってる暇は無い」

「そうですね。済みません」

 僕が謝ると、先に話し掛けたのは私でしょうアレク!?彼女が噛み付いた。

「いいんですよルザ。状況を弁えていなかったのは僕なんですから」

「だけど……クレオが謝る事無いわ。悪いのは私よ、あんたはただ話に付き合っただけなのに……」

「……」

「痴話喧嘩は遺跡の外に出てからだ!さっさと歩け!」

「は、はい!!」

 苛立つ老人に半ば脅迫され、僕等は歩を速めた。




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