十一章 遺跡突入
衛星四十五番、北極点間際で発見された遺跡は、どうやら僕がエレミアから飛ばされてきた部屋とかつて繋がっていたらしい。現在は土砂で通路が塞がっており、侵入するには地上の数百メートル離れた所から新たな穴を開けて降りるしかない。
「っと!」
最後尾のカーシュが縄梯子から床に着地すると、新たな土埃が舞った。
降り立った先には、波打つ円柱が両側に何処までも続けて建つ廊下が伸びている。不思議な感じだ……何故だろう?初めて訪れたのに、妙に懐かしい気がしてならない。
「じゃあ、俺は向こうで昨日の続きを調べている」向かって後方を指差し、シルミオは言った。「アレク。経験者のお前がしっかり皆を見てやれよ」
「ああ。気を付けろよ親父」
「ではシルミオ、行ってきます」
別れの挨拶を交わした後、彼は魔術機械のカンテラ片手に慣れた足取りで離れていき、あっと言う間に闇へ溶け込んだ。
「やれやれ、やっと行ったか」
研究書片手に老人霊は僕の前へ現れ、こっちだ小僧、地図を見ながら杖を突いて先導を始める。相変わらず強引な人だ。
「その地図アテになるのか?今まで誰も遺跡に入ってないんだぞ?」
懐疑的な若き同業者に、彼は鼻を鳴らす。
「入らずに地図が書けるか。遺跡の規模から考えれば、恐らく全行程の半分程度だろうがな。お前等素人と違って、私は帰ってから探索記録を全て付けている」
「嘘だろ!?誰かが踏み入った形跡があったら、親父が気付かないはず……いや、こいつは百年以上は前の亡霊だ。痕跡は風化で消えちまったのかも……」
「ハッ。そんな物、塵一つ落としているはずがないだろう。――言っておくが無駄話の時間は無いぞ」
カツカツカツ。何て脚の速いお爺さんだ。杖なんて無くても全然平気そう。
「あの、シルミオの行った方も調べたんですか?」
「あちらは行き止まりだ。多少の金銀は回収出来るだろうが、本筋の宝とは比べる価値も無い」断言。
「そもそもお宝って何なんだ爺さん?知ってるのか?」
カーシュの疑問は尤もな物だ。それは僕等全員気になっていた。幾ら人手があっても、知識が無ければ探し物は見つからない。
「そうか、私とした事が忘れていた」
速度を緩めながら、先達が自書片手に説明を始める。
「私がここを知ったのは、この衛星を偶然訪れた旅行者の手記を読んでだ。最深部にある奇妙な力を持つ手鏡」
パラッ。
「覗き込む者が最も愛する者の現在を映し出す、な。私はそれを取りに来た」
「?でも先に見つけた人がいるなら~、持って帰ってしまったと言う事も充分考えられるのでは~?」
新聞記者の疑問に、良い所を突く小娘だ、彼は舌を巻いた。
「だが心配は無い。手記の主はこの件を書き記した翌日に自殺した。――不用意にも、奴が自分の妻を見てしまったせいだ。放浪癖の夫に愛想を尽かし、浮気の真っ最中の、な……」
口の端を上げ、心底意地悪な表情を作る。
「自業自得な男が鏡を発見したのは、あくまで番人に追われて偶然にだ。そして映った光景に仰天し、ほうほうの体で遺跡を逃げ出した。持ち出す所か手を触れてさえいない。従って、まだあるはずだ」
「随分物騒なアイテムです~。でも、お爺さんはその鏡がどうしても必要なんですよね~?」
孫程の年頃のデイシーさんに問われ、彼は初めて皮肉げな雰囲気を解いた。
「ああ。今度こそ……」
やっぱり悪い人じゃない。行動はかなりあれだけど。
僕は胸を叩いて自信を示そうとしたが、気管にスープが残っていたのか思い切り噎せてしまった。
「ゲホゲホッ!だ、大丈夫です……必ず僕達で手に入れて、あなたの現世への心残りを晴らしてみせます」
「フン。現世云々はともかく、それが髭の息子の部下であるお前の仕事だろう。当然の事を言うな」
相変わらず勘違いしたままだが、まあ仕方ない。宝探しの冒険に出発だ。




