憧憬
あとがきに大切なお知らせがあります!
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シヴァは国境線を抜け、帝国からラテラント……現在ラテラント聖魔国と呼ばれている国へと入ることにした。
「潰していきますか?」
「いや、必要ないだろう。混沌迷宮を潰すか、その前にこちらが潰されるか……これはそういう勝負だからな」
シヴァは自国の人間が虐殺されようがそれに心を痛めるようなこともない血も涙もない人間ではあるが、彼はそこまで無意味な殺生をしない。
必要がある時は容赦なく見せしめに虐殺を行うこともあるが、プチプチと人を殺したり物を壊したりするのは面倒なだけで正直あまり好きではなかった。
彼は自分の力によって暴力性を発揮し居丈高に振る舞う……そういった段階は、成人するよりも前に卒業してしまっている。
混沌迷宮がなくなれば、ラテラントはまるごと帝国の版図に入ることになるだろう。
その時に焼け野原をもらうよりは、手つかずのままの土地をもらった方が上がりも大きい。
そのくらいの損得勘定は、シヴァにもできる。
「ここが、混沌迷宮か……」
そのままラテラントの奥深くまで入ったシヴァは、かつての聖戦軍やイシドロが来たのと同様に、ラインザッツ侯爵領北部にあるサナイグの街へとやってきていた。
道中人通りは避けるようにして進んでいたため、侵入を気付かれて追いかけ回されるようなこともない。
彼は特に気負った様子もなく、慌てた様子のカランを置いて一人先へと進む。
「陛下! 罠が仕掛けられていたりする可能性も……」
「そんなの、気にしててもしょうがないだろ。別に俺もカランも探知や感知能力は高くないんだ。全部力業で食い破った方が早い」
最初からある程度の実力を持っている者は、自身が強すぎるあまり周囲の状況を察知する類いの感知能力を身につけづらい。
シヴァとカランはどちらもそうで、戦うことならば得意だが、こういったダンジョン内で魔物や罠の類いを見つけたりすることは苦手であった。
無論彼らにマッピングの技能などはないし、二人とも方向音痴でもあるので階層を行き来するためには常人の何倍もの時間がかかるだろう。
「んー……したら、この辺りでいいか」
無論そんなことは彼らもわかっている。
ダンジョン攻略のための技能をろくに持っていない彼らに、端からこのダンジョンをまともに攻略するつもりなどなかった。
「よっこら……せっと!」
シヴァは拳を握り、そのまま地面へ打ち付けた。
洞穴型の第一階層の地面がバキバキと音を立てながら割れていく。
地割れはどんどんと大きくなっていき、そして突如として黒い空間が出現する。
シヴァ達は臆することもなく、その中へそのまま入り込んでいった。
彼らがそのまま自由落下に身を任せていると、永遠に続くかと思われた黒い空間が終わりを迎え、二人の前に光が現れる。
飛び出してみれば、そこにあったのは……。
「おっ、次の階層に出たな」
「あとはこれをひたすら繰り返していきましょうか」
彼らがやってきたのは、第二階層の草原エリアの上空であった。
見れば先ほど自分達が来たところには黒いひび割れができており、それらは自分達が出た後に高速で修復し始める。
ダンジョン自体には自己修復機能がある。
試しに少し強めに叩いてみたが、さすがにダンジョン自体を壊すというのは難しそうだ。
だが何にせよ、こうして階層移動をするだけなら問題ないだろう。
次のエリアへ向かう転移魔法陣をいちいち探すのは面倒なので、これは大きい。
「本来意図されてない攻略法で進んでいくのって、なんだか楽しくないか?」
「私はズルをしているようで正直気が引けますが……」
「いいだろ、ズルしたって。楽なのが一番だ」
ダンジョンというのは、時空魔法を始めとした複数の複雑かつ高難度な魔法効果を重ね掛けすることによって生み出された、極めて高度な魔道具のようなものである。
そして空間を拡張する原理の基本は、彼やカランが持ってきているアイテムバッグと一緒だ。
魔力というものを無限に使うことができるものではない。魔法によって拡張されているからこそ、その拡張容量には限界がある。
であれは後は簡単な話だ。
その拡張容量を超える勢いで力を振るい、魔道具自体を壊してしまえばいい。
内側からダンジョンを壊して先へ進むという荒技が使えるかは半々だと思っていたが、この調子であればたとえ何階層であろうがさして手間取ることもなく先へ進むことができそうである。
シヴァは自身でも明確に言語化してはいないが、この無茶な攻略法はシヴァが感じていた予感から来るある種の試しでもあった。
おそらく混沌迷宮の魔物達は、アルフレッドのような特殊な個体が多い。
勝つためにギミックが必要なボスを相手に、相手の土俵に立って戦ってやるいわれはない。
自分はあくまでも真っ向から、純然たる力押しでダンジョンを攻略させてもらう。
相手の力を、更なる力を以てねじ伏せる。
それこそが最強の皇帝であり魔王を誅する勇者であるシヴァの戦い方であった。
「よっと」
シヴァはそのまま空から着地。さすがにそれをしてはダメージを受けかねないカランは途中で氷の道を作り、滑り台のように傾斜をつけて下って着地してみせた。
『冬将軍』カラン・ツゥ・セイズ。彼女は氷神と冬将軍という二つの超級ジョブを持つ紛れもない天才である。
由緒正しき血統と圧倒的な実力……カランは全てを持っていた。
シヴァというイレギュラーがなければ、最終的に皇帝になっていたのは彼女だっただろう。
だがカランはシヴァのことをまったく恨んでいない。それどころか彼女はこうしてシヴァの右腕として彼の役に立てることを心の底から嬉しがっていた。
カランという人間は、そこまで欲が強い人間ではない。
彼女には何かを強烈に為したいという気持ちがほとんどない。
自分がナンバーツーが性に合う人間だということを、カランは自ずから理解していた。
今までは自身より強い人間がいなかったからこそリーダーをしていただけで、元々そういう柄ではなかったのだ。
「さて、それじゃあちゃっちゃか行くぞ」
シヴァが草原を殴りつける。
たったそれだけのことで草原は上からの圧力に耐えきれずにぺしゃんこに押し潰され、更に地面が大きな衝撃を食らい真っ二つに裂けていく。
再び現れる大きな黒い靄。
シヴァは変わらず先頭を行く。
まるで俺についてこいと告げているかのように。
彼がいてくれたことは、カランにとって何よりの幸運なのだろう。
シヴァについていけば何も問題はない……彼女がシヴァを見つめる目には、強い尊敬と憧憬があった。
こうしてシヴァ達はダンジョンの全てを無視しながら、階層を進み続けるのであった……。
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