帝国皇帝
ガイザル帝国は、血統による世襲制に拠らぬ絶対王政を敷いている国である。
他国からすれば正気の沙汰ではないと揶揄されることも多いものの、ガイザル帝国がこの大陸の覇者となっている理由も、その政治体制による部分が大きい。
帝国においては、強者こそが全てを得ることができる。
その分だけ権力争いも激烈であり、帝位が空いた時に国家を二つどころか十や二十に割りかねないほどに大規模な内戦が起こるのは、もはや他国においては帝国の風物詩とすらされている。
だが前皇帝が死に新たな皇帝を選出する際には、内戦は一度も起こらなかった。
その理由は簡単。
皇帝候補の中である一人の人物だけが……あまりにも強かったからだ。
ふざけたことを言ってくる大貴族がいれば単身でそれを討ち滅ぼし。
国主が囲っている美女が欲しいからという理由で戯れに国を滅ぼし。
あらゆる者達からヘイトを食らいながらそれを真っ向から討ち滅ぼした。
その力が自身に降り注ぐことを恐れ誰もが皇帝に名乗りを上げることを辞退し、こうして最強の名を欲しいままにしていた『古今無双』のシヴァが、第三十五代目皇帝として戴冠することになったのである。
♢♢♢
帝国の国主は強さ以外には何も求められない。
最強の国家元首がいればただそれだけで問題なく国家が回るよう、帝国の官僚組織は既に完成されている。
皇帝は内政などの領地運営に対して、基本的に口を出すことはない。
彼らは来るべき有事の際に力を振るうこと、また他国へ国威発揚の意味を込めて武力をちらつかせる以外では、基本的に何をしていてもいいのだ。
帝国が皇都、ガイザリア。
その中でも一等地と呼ばれる中心区画のど真ん中に、皇帝の住まうザンジバル宮殿は存在している。
青みがかった白を基調とした色使いのなされた宮殿は幅の広い二階建てとなっており、宮殿の周囲には丸みがかった尖塔が建っている。
この尖塔はそれぞれ、皇帝が気に入った女性を囲うための家屋として使われる。
後の皇紀となる可能性である女性であるからこそその扱いも極めて高く、尖塔は女性が入れ変わる度に新しく作り替えられるのだ。
一般人が見ればよだれを垂らすほどの極上の美姫がいる尖塔だけではなく、ここ以外の離宮にも女性は多数存在しており、皇帝が所望すればいつでも好きなだけ女性を呼び出すことができる体勢が整っている。
いくつもの離宮と連結されたこのきらびやかな宮殿においては、帝国の特産物から美女に至るまで、全てが揃っているとされている。
なぜそこまでのことをするのかと言えば、それは帝国における最強戦力である皇帝が気を揉んだりストレスを溜めたりするようなことがないように、細心の配慮を以て設計されているからである。
皇帝は強さのみで選ばれる。
その審査項目に人品は入っていない。
故に建国当初より皇帝の不興を買わずになんとか過ごしていただけるよう、王宮には隅々に至るまで細やかな配慮が行き渡っているのである。
「ふわぁ~あ……」
そんな王宮に繋がっている尖塔の一画。
彼がわざわざその女性を手に入れるために国を墜としたという文字通りの傾国の美姫の部屋において、一人の男が横になっていた。
年齢は三十代前半程度でかなり若く見える。
ぼさぼさと乱雑に切りそろえられた赤髪に、わずかに伸びて青髭になってきている無精ひげ。
着ている服はさらさらとしたビロードであり、開かれた服の袖からはその鋼のように鍛えられた筋肉が覗き見える。
その赤と黒のオッドアイはギラギラと輝いており、男が持つ強い意志を窺わせる。
彼こそがシヴァ……帝国第三十五代目皇帝。
つまりは覇権国家ガイザル帝国において最強を誇る、世界最強の男である。
「……戻るか」
彼は基本的にあまり世俗に興味が無い。
だが自分の右腕に呼ばれては、いかないわけにはいかない。
彼は女を抱いていささかクリアになった思考で、そのまま宮廷へ戻ることにした。




