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混沌迷宮の支配者 難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団  作者: しんこせい
第二部

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失念


 雷神固有スキル、雷神顕現。

 これは先ほどまでの自身の魔法化よりも高難度の、自身を雷という現象そのものへと変えてしまうスキルである。


 彼がこの領域に至ったのは雷神のジョブが使えるようになってから十年と少し後。

 つまりはそれだけの修練を必要とする、超高難度のスキルである。



「サンダークリエイト!」


 イシドロはアッズワースの側面に回るとそのまま拳を叩きつける。

 アッズワースはそれに対応することもできず、防御姿勢を取ろうとした時には既に撥ね飛ばされていた。


 ドッゴオオオオオン!


 先ほどまでより更に速度が上がったイシドロのが放った一撃はステージの後ろにある観客席すらもぶち抜いて、アッズワースは闘技場の外へと吹き飛ばされていく。


 だが弾き飛ばされたアッズワースが受け身を取ろうとした時には、既にその着地地点にイシドロの姿があった。


「サンダークリエイト――ゼウス!」


 雷神となったもはや精霊などと同じ、自然現象そのもの。

 故に今のイシドロには、魔法という形で使う必要がない。


 己が振るう拳全ては必殺の雷となり、彼が魔力を使えばその意志に従って雷が顕れる。


「ぬううっ!?」


 アッズワースはその一撃を受け、再び闘技場の方へと吹き飛んでいく。

 その様子を見ながら冷静に追撃をかけるイシドロは、内心でしめたものだとにやりと笑う。


(どうやらこいつはまだ顕現スキルは体得できてねぇみたいだな……ジョブを手に入れて日が浅くて助かったぜ。もしあと何年かしてこいつも炎神顕現を使えるようになってたら、勝ち目が見つからなくなるところだった)


 雷神における最強のスキルである雷神顕現。

 これと同等のスキルは全ての神と名の付くジョブに存在している。

 相手が同じ土俵に立っていないからこそ、一方的な優位を取ることができていた。


 アッズワースの拳がこちらに迫る……が、遅い。

 既に雷という現象そのものになっている彼はその攻撃を掌でいなしながら雷撃を放ち、そして握った拳を打ち付けて衝撃と共に更なる雷を解放する。


「雷花!」


 彼が放つ拳打が連続し、点ではなく面での攻撃としてアッズワースの全身を打ち付ける。

 百を超える拳打の連続が咲かせるのは雷の花。


 雷撃を伴う攻撃にアッズワースの身体がわずかに止まる。

 そしてその一瞬のスタンがあれば、イシドロは新たに十は攻撃を加えることができた。


 雷そのものである彼の一撃は、ジャブであってもAランクの魔物を一撃で倒すほどに強力だ。


 技術もへったくれもない、速度と威力による圧倒的なゴリ押し。

 必殺のジャブがストレートが、フックがアッズワースの肉体に傷痕と焦げ痕を無数に作り出していく。


(このまま……押し切るッ!)


 だがアッズワースを圧倒しているイシドロの表情もまた、先ほどまでよりも真剣なものに変わっている。

 この雷神顕現は彼にとっての正真正銘の全力。


 常時雷化によって使用する魔力は通常戦闘では使い切れぬほどの魔力を持つイシドロであっても残量を気にしなければならぬほどに多い。


「ううむ、残念だ……」


 だが燃えている肉体の至る所がうっ血し、自慢の回復能力ですら治癒が追いついていないアッズワースは、圧倒的劣勢にあっても未だ目から光を失っていなかった。


(こいつ……まだ奥の手を隠し持ってやがるのか!? もし何かあるんなら……さすがの俺もマズい)


 イシドロは思考を切り替え、更にギアを上げていく。

 相手の奥の手がなんであるにせよ……使わせないまま勝負を決めきれば関係ないッ!!


 ――この時の彼は、二つのことを失念していた。


 なぜこれほど一対一の戦いにこだわり、人型魔物の王でもあるキングタイタンのアッズワースが、他の魔物達を観戦客に呼んでいなかったのか。

 そして二つ目が……自分が今居るこの場所が、混沌迷宮であるという事実だ。


 アッズワースは巨人の王だ。

 だが彼は王であると同時に……混沌迷宮の第九軍団長でもある。

 彼には自身の命よりも大切なものがある。

 それこそが……混沌迷宮の、勝利である。


 パチュン、と上空から何かが飛来する。

 超高速で放たれているが、自身を雷化させその思考能力さえも超人化させているイシドロからすれば不意の一撃であっても、対応不可能ではない。


 自身目掛けて放たれたその攻撃を避けながら正体を確認してみると、そこにあったのは……黒い光の尾を引く指の骨だった。


(なんだあれ……)


 その骨には追尾機能がついているようで、避けてもなおそのまま方向を変えてイシドロ目掛けて襲いかかってくる。


「しゃらくせぇ!」


 彼は両手に掌を集め、パァンと柏手を打つことでそれを爆発させた。

 雷の爆発が起こり……チッと舌打ちをしながらイシドロが空へ浮かぶ。

 雷そのものとなっている今の彼にとって、空を飛ぶことなど造作もない。


 彼の眼下には先ほどの攻撃でもまったく勢いが衰えることはなく、そのままこちらに向かってくる骨の姿があった。


(どうする、どうすればあれを……ぐうっ!?)


 意識が完全にそちらに向いていたのがいけなかったのだろう。

 下方から襲いかかってきた攻撃によってイシドロの胸に、小さな穴が空く。


 やってきていたのは、小さく白いレーザー光線であった。

 それを放ったアッズワースは、全身を白熱させながらこちらを見上げている。


 雷なっているが故にダメージはないが、今の彼は魔法現象によって起こされた雷そのもの。肉体が損傷をする代わりに魔力総量が減り、わずかに肉体に乱れが生じる。


 そしてその瞬間の隙を、もう一人の術者は見逃さない。


「ディメンジョンゲート」


 イシドロ達の頭上に、巨大な黒い漆黒の闇が現れる。

 闘技場はおろかその周辺にあるこのボスの間全体を覆い尽くすほどの闇。

 それが空間全てを飲み込む勢いで、下へと下がってくる。


「くっ……避けられねぇ!」


 限られた空間全域に渡る魔法に、イシドロは歯噛みしながら防御の姿勢に入る。

 闇が下にいるアッズワースごと全てを飲み込み……そして次の瞬間、イシドロは自身の周囲が急激に重さを増したことに気付いた。


「がぼぼっ!?」


 あの闇の中に入った次の瞬間には、彼は水中の中に飛ばされていた。

 口の中に入ってくる水は塩気が強く、自分がいる場所が海のフィールドであることがわかる。


 攻撃魔法ではなく転移魔法だったのか!

 違う場所に飛ばされたことはわかるが、ここは一体どこなのか……そんなもの、決まっている。

 自分は混沌迷宮のどこかに飛ばされたのだろう。

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