全力
「人間は知らぬかもしれんが、巨人には大きく分けて二つの種族がある。通常の巨人族と、もう一つは祭祀を取り纏めることで巨人族はおろか全ての人型魔物達を束ねる王たる巨人族だ。人は後者の王たる巨人族のことを、キングタイタンと呼ぶ」
あれだけ超級魔法を連発して使って作ったはずの腹部の穴は、既に塞がれてしまっていた。
先ほどまで穴があったはずの場所は炎の膜のようなもので覆われており、止血がなされ徐々に治り始めている。
「そんな王たる巨人族の中でも、俺は火を司る者としてこの世に生を受けた……ミツル様の権能によってな」
イシドロは様々なAランク上位の魔物達と戦ってきた。
故に彼は一口にAランク上位といっても、その強さには大きな幅があることを知っている。
なぜならこの世界の魔物の等級は、Aランク上位までしか存在していないからだ。
ギリギリでAランク上位に留まっている個体もいれば、それ以上の階級が存在しないが故に便宜上Aランク上位としか表現することができぬ個体もいる。
「我ら巨人族において、炎とは生と死の象徴。たとえ死に灰に変わっても、灰は風に乗ってこの世界を巡っていく。そしてフェニックスがその亡骸を燃やすことで命を吹き返すように、炎は生の力強さの証明でもあるわけだ」
イシドロが見てきたAランク魔物の数は、優に五十を超えている。
その強さで言えば、アッズワースより強い者もいた。
彼がもっとも苦戦した『竜王妃』ソロモンなどは正しくその例であり、ソロモンの速度と攻撃力、そして内に秘めている魔力量は全てアッズワースより高い水準にあった。
だがイシドロが今この場に立っているということは、彼がその全てを倒してきたということでもある。
「我らキングタイタンは、エルフがハイエルフから生まれたように、全ての巨人達の祖とされている。巨人の中の巨人、原始たる属性を持つキングタイタン……故の『巨人』」
彼が身に宿らせている炎が膨れ上がり、周囲にまき散らされた。
その火力はアッズワースの心の動きと連動しているようで、一歩を踏み出す度のその炎の勢いは強くなり続けていた。
しかし、そんな彼をして、アッズワースの倒すヴィジョンが未だ湧いてこない。
先ほどは圧倒して見せたというのに、未だ明確に目の前の魔物の倒し方が見えてこなかった。
アッズワースが何かをしようとしていることには気付いていたが……彼が新たに見せたその力は、またしてもイシドロの度肝を抜いていた。
彼は自信で纏っている炎と、半ばから同化している。
その見た目は自身雷と同化し発光しているイシドロと、非常によく似ていた。
「おいおい、嘘だろ。まさかあんた……同類か?」
「いかにも。我は転職によって炎神の超級ジョブを手に入れた。そちらも同じなのだろう? 故に驚いて、思わず攻撃をもらってしまった」
「……Aランク上位の魔物が超級ジョブを身につけるとか、一体なんの冗談だ……?」
神と名の付く超級ジョブは、超級ジョブの中ではまだ比較的有名なものといえる。
実際イシドロも他国ではあるが水神持ちの女を知っているし、実際にこの帝国の軍籍にも氷神が在籍している。
だがさすがに魔物がそのジョブを持っているなどという話は聞いたことがない。
上位ジョブにつけている時点でその可能性はあったはずだが、まさか既にその領域にまで辿り着いているとは、イシドロも想像すらしていなかった。
「おまけに相性までいいとか……ずりぃじゃねぇか」
どうやらタイタン……否、キングタイタンが種として持つ回復能力の高さと炎神の能力は相性が良いのだろう。アッズワースの傷の治りは、先ほどまでと比べても明らかに早くなっていた。
雷神のジョブは複数のパッシブスキルによって、速度とスタン、斬撃威力の増大に関する極大の補正がつく。
おそらくだが同様に複数の補正が乗る炎神のスキルの中に、自然回復力を強化させるものがあるのだろう。
斬るより殴った方が強いイシドロには意味を成さない死にスキルが存在しているというのに、あちらのスキルは魔物としての性能との相性はバッチリのようだ。
そんなことを考えているうちにあれだけ苦労してつけた傷はもはや完全に跡形もなく消えているのには、もはや笑うしかないだろう。
人だけが独占して使うことでなんとか魔物に対して優位を保ってきたジョブを完全に使いこなし、人間の技術体系まで獲得しているAランク上位の魔物。
魔物としての自身の性能と相性の良い超級ジョブを手に入れていることまで含めれば、その脅威度はソロモンを超えるに違いない。
目の前にいるアッズワースは、ただ速くて強いだけの、自分が今まで戦ってきたAランク上位の魔物とは一線を画した存在だ。
二人は距離を取り、向かい合う。
雷の化身となり全身を発光させ雷光をまき散らすイシドロと、炎の化身となり全身からうねるような炎を発するアッズワース。
両者の見てくれこそ変わったものの、二人は最初に向かい合った時と同じ場所に立ち、再びその視線を交差させた。
劣勢な状況を前にここが己の死線だと感じたイシドロは……それでも、心からの笑みを浮かべた。
「ははははは……すげぇよ、いや嫌みとかじゃなくて。本当にすげぇ……でもよ」
イシドロが拳を握ると、それだけで雷が跳ね、余波で観客席の一部が消し飛んだ。
彼はそのまま両腕を上下に構えた。
上下に構えた指先が互いを向き合い、顎のように形作られる。
「負けるつもりはねぇ。このイシドロ様を、舐めるんじゃねぇぞ」
「無論、俺もだ……さあ、楽しもうではないか!」




