激突
あとがきに大切なお知らせがあります!
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「……ようやく来たか」
久しぶりに楽しさを感じながら、多少寄り道をしながらダンジョン探索をしていた彼は、とうとう第二十一階層へと向かう手がかりを見つけ出した。
眼前に広がっているのは、縦の長さが優に五メートルを超えている巨大な観音開きの扉だ。 一体何が使われているのか、扉自体が淡く青色に発光している。
「Aランク魔物がバシバシ出てくるところに出てくるボスとなりゃあ……そりゃあ期待しないわけにはいかないな」
ダンジョンには、ボスと呼ばれる存在がいる。
他の個体と比べても明らかに強力であるボスの魔物は、十階層毎、二十階層といった節目毎に登場し、探索する冒険者達にとっての試練として現れる。
Aランク上位相当の魔物達が出てくるこの階層に現れるボス……となればその強さは、Aランク上位と見て間違いないだろう。
今までに何十というAランク上位の魔物達を倒してきたイシドロは、どんな新しいやつが来るのかと心を外させながらドアを開く。
見上げるほどに巨大な扉は、軽く力を入れるだけでひとりでに開いていく。
扉の先に現れたのは……半球状のドームであった。
自分達が上がるためのステージがあり、その周辺には段差のつけられた観客席が並んでいる。
帝国でかつて流行っていたという、古代の闘技場を思わせるような見た目をしている。
優に一万人以上は入りそうなほどに巨大なドームの中には、観客は一人もいなかった。
「これだけの闘技場ではあるが、観客はおらんのだ……悪いな」
戦いを観る客はいないものの、目の前のステージには、既に先客がいた。
そこにいるのはぽりぽりと顎の辺りを掻く、一人の偉丈夫。
先ほどまで戦っていたサイクロプスが赤子に見えるほどの、縦にも横にも大きな巨躯をした人型魔物の姿があった。
あの扉はおそらく、この魔物のために誂えられたものなのだろう。
その体躯は薄い緑色をしており、全身には幾百幾千もの戦闘痕が刻まれている。
得物は何一つ持っておらず、身につけているのは傷だらけの革鎧のみ。
遠くから見ればボロボロの敗残兵のようにも見えるかもしれないが、その全身からは闘気とでもいうべき強者が持つ独特の雰囲気が発されていた。
巨人が持つ雰囲気はひどく穏やかで、その声は心地よさを感じるほどに落ち着いた声音をしている。
「おいおいマジかよ、タイタンだと……」
どんなことでは動じないという自負があるイシドロであっても、目の前に現れた魔物を観ればさすがに驚かずにはいられなかった。
人型の魔物が連続していたところから、もしかして……と考え、そんなはずはないとすぐに否定した、自分にとって夢のような存在が、今目の前に居る。
その生物としての格、存在感から察するに、彼が対峙している魔物は間違いなく……Aランク上位魔物であるタイタンであった。
「ふむ、なるほど……帝国には我らの仲間がいるのだな。エルフ達のように保護するべきかもしれん」
「……いや、残念ながらもういない。大分前に、人間に滅ぼされたからな」
タイタンははるか昔……イシドロが生まれるより数百年も昔には絶滅されたという魔物である。
優しい巨人というおよそAランク上位の魔物とは思えぬ異名で呼ばれていた彼らは、かつては人を信じ、共生していた一つの種族であった。
だがそのあまりの強靱さに恐れをなした人間達が仕組んだ奸計により、皆殺しの憂き目に遭ったという。
「……なんと。それでは人との戦いは、ある種の弔い合戦になるわけだ」
「はっ、そうだな。そしたら俺も散っていった帝国の奴らを弔いがてら、戦わせてもらうとしようかね」
イシドロは一瞬にして戦闘態勢を取る。
魔法名を口にしない無詠唱で魔法を発動させ、己のの肉体に雷を這わせながら腰を屈めて抜刀の姿勢を取る。
全力の一撃を放つためにかなりの前傾姿勢で剣を構えるその姿は、獲物へ飛びかかるための溜めを作る、獰猛な肉食獣を思わせた。
「混沌迷宮第九軍団軍団長、『巨人』アッズワース」
「名乗たぁ古風だねぇ……だがこの場なら、それも悪くないか」
いつもふざけているような素振りを見せるイシドロだが、彼はどんな時も決して油断をしていない。
目の前にいる相手が強敵であることなど百も承知。
油断せず、自然体で、常に己の思うがままに生き、戦う。
「Sランク冒険者……『雷神』イシドロ」
名乗りをしたイシドロに呼応するように、アッズワースはスッと右半身を前に出すファイティングポーズを取った。
被弾面積を下げる半身の姿勢、驚くほどに隙がない。
どこから攻撃をしても、痛烈なカウンターを返される未来が見える。
イシドロは目の前の相手が、自分が片手間で倒すことができるAランク上位達とは存在からして格が違うことを直感で察した。
だが柄を握る手に強張りはない。
むしろいつもより脱力し、己の身体の動きを最適化させていく。
「……」
「……」
名乗り合いを終えると、両者共ににらみ合う時間が続く。
アッズワースがわずかに歩を前に出せば、イシドロは半歩右にズレる。
イシドロが一歩前に出れば、アッズワースは腰だめに構えた拳を数十センチほど上げてみせた。
一見すると何もしていないように見えるこの間にも、二人の間には無数の攻防が繰り広げられている。
ドロドロと内側にマグマが煮えたぎる火山が噴火のタイミングを待っているかのように、外側は何一つ変わらずとも、内に秘めた二人のボルテージは上がっていく。
――イシドロの竜滅刀カジャルグに走る雷が爆ぜる。
放電した雷がステージの小石を弾く。
二人のちょうど真ん中へと石が放物線を描き、落ちる。
「チェアアアアアアアアッ!!」
「おおおおおおおおおぉっっ!!」
そして二人の超越者達の戦いが、始まった――。
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