試す
伸びる伸びる伸びる。
紫電を纏わせた斬撃はまるでそれ自体が一つの生き物であるかのように伸びていく。
天翔る雷が巨人を墜とさんとその暴威を発露させる。
「シッ!」
それに対しアッズワースが選んだのは迎撃であった。
彼は攻撃をかわすのではなく、己のストレートによる真っ向勝負を敢えて正面から挑む。
ただの拳が、超速で放たれる。
音速を超えた放たれたアッズワースの拳から生じた衝撃波が、雷とぶつかり合う。
激突、放電。
その衝撃と破壊力を周囲へ伝播させ、ステージ上の大気が震える。
余波が観客席を震わせるほどの衝撃が巻き起こり、そして両者の攻撃はアッズワースの手前で消失した。
「そんなもんかよっ!」
攻撃の激突が行われている間も、イシドロは接近を続けていた。
獰猛な四足獣を思わせるほどの低姿勢で駆けるイシドロは、その背筋から腕へと流れるように魔力を巡らせ、猛烈な勢いで斬り上げを放つ。
超級雷魔法疾風迅雷によって超速化した彼は、歯をぎりりと食いしばりながら更に力を込めた。そして溜めてきた力を、一点で解放させる。
超級雷魔法、カンナギ。
己の雷属性の魔力を斬撃の威力へと変換させる、近距離特化型の超級魔法の一つ。
踏み込みが石畳を割り、そこから放たれた斬撃はステージをめくれ上げるほどの勢いで迫っていく。
アッズワースはその血気を見て、獣の笑みを浮かべた。
互いの獣性をぶつけ合う、あまりにも原始的な殺し合い。
原始から存在する力と力の衝突が、今この場にも顕現する。
アッズワースが放つ拳とイシドロの魔剣が真っ向からぶつかり合うと、先ほどまでとは一段違う、何かが割れるような甲高い音が闘技場の中へ鳴り響いた。
「――ははっ!」
得物対素手。
あまりにもこちらに優位な力比べであるにもかかわらず、衝突の結果イシドロは押し巻けていた。
衝撃で足が下がりそうになるのを必死に押さえ、更に魔力を込めて斬撃の威力を上げる。
これでもかと言うほどに魔力を注ぎ込んだところでようやく威力が拮抗する。
チッと舌打ちをしながら、イシドロは剣に込める力を一瞬のうちに抜いた。
「むっ!」
力を抜かれ、アッズワースがわずかにつんのめる。
その瞬間に腕だけを脱力していたイシドロは即座に右前へ飛び、相手の脇腹を一刀の範囲に収めるところまで接近した。
斬ッ!
攻撃の際の隙が生じることも気にせず、イシドロは即座に構えアッズワースの脇腹を裂いた。
が、超級雷魔法を二重に使った彼の斬撃ですら、表面の薄皮を裂いてわずかに血を流させるだけだった。
その内側にある筋肉までは届いておらず、ほとんどダメージは入っていない。
「やるなっ」
アッズワースが下がりながら放つフックを、刀で受け流し軌道を調整しながら避ける。
先ほどの一度のやりとりで、イシドロは目の前の巨人とまともに力勝負をすることを早々に諦めていた。
だがそのフックは途中でピタリと止まり、逆の左手がそのまま鞭のようにしなりながらイシドロの顔面を打ち付けた。
フックを見せ技にしてのフリッカー。
「――ぐうっ!?」
イシドロはボールのようにバウンドをしながら、ステージと観客席の間に立っているフェンスへと激突する。
背中に感じる衝撃と腹部の圧迫感に、軽く咳をしながら立ち上がる。
血の味と違和感を覚え口の中から吐き出してみれば、血の混じった痰と一緒に欠けた奥歯が飛び出してくる。
「やべぇな、こりゃあ……」
相手の一撃は、とにかく重い。
本気のフェイントを交えて威力の乗っていないパンチ一発でこれだ。
あのままフックをまともに食らっていたら、すぐに立てない程度にはダメージを受けていただろう。
既にレベルが上がりきっている自分ですら魔力を注ぎ込んでようやく相打てる程なのだから、これと真っ向からやり合うのは不可能だ。
そんなことをしてもこちら側が先に消耗しきってしまう。
元々魔物の身体能力は、人間をはるかに越えている。
イシドロ自信も自分より速く、強い魔物とやり合うことには慣れていた。
だが今までとは違う点がある。
それは自分より圧倒的な力を持つ魔物が、技量を持ってこちらを翻弄してきているという点だ。
高い知能を持つ個体の中には、人間の言語を操る者も少ないが存在する。
だがこれほどまでに技術体系をしっかりと修めている個体を見るのは初めてである。
それに今の技、イシドロの見間違いでなければ……。
(……試してみるか)




