滾り
あとがきに大切なお知らせがあります!
ぜひ最後までご覧になってください!
第十六から第二十階層までは、熱帯雨林を思わせるような鬱蒼と木々の茂る空間が続く。
出てくる魔物達は人型魔物の上位種達であった。
第十六階層はゴブリンの上位種であるゴブリンアーチャーやゴブリンソードマン達が。
第十七階層にはコボルトの上位種であるコボルトグラップラーやコボルトシャーマン達が。
第十八階層にはオークの上位種であるオークリーダーやオークメイジ達が。
そして第十九階層にはオーガの上位種であるオーガメイジやオーガジェネラル達が。
ゴブリンアーチャーやコボルトグラップラー達はDランクの魔物であるが、オークの上衣種はCランク、オーガの上位種達はBランク相当の魔物だ。
そんな魔物達が単体ではなく連携してこちらに襲いかかってくるのだから、第十九階層時点でBランクになりたてほやほやのニュービーではいささか荷が重いだろう。
「ちっ、うっとうしい」
「「GUGYAAA!?」」
だがその程度、イシドロについてはさしたる問題ではない。
たとえ相手がBランク相当のオーガメイジであろうが、彼が手を振ればそれだけでその軌道上にいる魔物達は黒焦げになり、ショック死していく。
イシドロほどまでに己を鍛え上げれば、ただの通常攻撃の一撃すら全てが必殺の威力を持つ。
一発一発の威力が高すぎるため、それがゴブリンだろうがオーガの上位種だろうが、彼からすればまったく変わらない。
むしろオーガの方が出現頻度が減った分楽に感じるほどに、彼の感覚がバグっていた。
「へぇ……今度はサイクロプスか」
第二十階層で彼が目にしたのは、単眼の巨人、サイクロプス達の群れであった。
その体躯は三メートルを優に越え、腰には下から見上げれば丸見えになってしまう粗末な腰布を蒔いている。
サイクロプスはBランク中位に位置している。
知能は低いがその分だけ高い身体能力とタフネスによってBランクに格付けされている魔物だ。
そんな魔物達が単体ではなく、しっかりと統率の取れた群れとして戦っている。
となればやはりこいつらも……そこまで思考が回ったタイミングで、イシドロは腰に提げていた刀を抜刀した。
竜滅刀カジャルグ――彼が倒した中で最も強大であった魔物、『竜王妃』ソロモンの素材を元にしたこの剣は呪いの武器……カースドウェポンである。
その剣にはソロモンの精神の残滓が残っており、常人であればただ手にしただけで発狂しその場で喉をかきむしって死ぬほどの強力なのろいがかけられている。
だがイシドロはカジャルグに雷を纏わせると、そのままなんでもないように剣を抜いた。
軽い呪詛の言葉が脳裏に浮かぶが、雷を走らせればすぐにそれも消える。
常人離れした彼の精神力は呪いを跳ね返すほどに強く、また彼の圧倒的な雷の前では竜の王すら頭を垂れる。
「GEHIII!!」
近づいていくと、こちらに気付いた先頭のサイクロプスが、その体躯に見合う巨大な剣を背負っていた。
通常であれば棍棒を闇雲に振り回すことしかできぬサイクロプスは、柄に手をかけると剣を冗談に構えた。その目には知性があり、剣には術理があった。
剣を操るサイクロプス……サイクロプスソードマン。
Aランク中位に相当する魔物である。
「GYAAAAAS!!」
その後ろに控えている四匹のサイクロプス達は、めいめいに攻撃態勢を取る。
巨大な光る弓をつがえたサイクロプスアーチャーがこちらに強弓を引き、サイクロプスメイジがその杖の先端から魔法陣を展開させ、腰布だけではなく貫頭衣を身につけたサイクロプスプリーストが他の個体へ光魔法によるバフを展開する。
ただその精強さのみでBランク中位に位置する魔物達が知恵を付け、集団として戦う。
単体でAランク中位の魔物達が群れているとなれば……その脅威はおそらくAランク上位にも匹敵するだろう。
「久しぶりに面白さを感じてるぜ、俺は」
だがそんな強敵達を目の当たりにしても、イシドロは何一つ変わらない。
彼は己の身体に雷を身に纏い、駆けた。
雷の尾を引いた残像を残し、身体が消える。
次の瞬間には、サイクロプスソードマンの身体は真っ二つに切れていた。
「GA……U……?」
バチバチと爆ぜる紫電が断続的に走る。
一閃、二閃、三閃。
一撃一殺、四度の剣閃が閃くとサイクロプスの上位種達がそのまま音を立てて地面へ倒れ込んでいく。
「この程度なら、スキルもいらんわな」
チンッと音を立てて刀を納刀すると、イシドロは首をバキリと曲げながら先へ進む。
その姿は第十六階層でゴブリンの上位種達と戦って者と、何一つ変わらない。
彼からすれば複数体で力を合わせてAランク上位相当、程度の魔物はその辺りの雑魚と変わらない。
長い間Aランク上位の魔物を狩り続けて生き延びてきた彼からすれば、この程度ではまだ温いとすら感じてしまう。
――彼が面白さを感じたのは、目の前にAランク上位相当の魔物達が現れたことへ、ではない。
第二十階層程度でこれだけの魔物が出るのなら、これから先は一体どれだけヤバい魔物が出るというのか。
それを想像し、面白いと感じたのだ。
彼がAランク上位の魔物を狩り続けSランクハンターとなってから、既に十五年もの月日が経過している。
この世界の強大な魔物達とは、もうあらかた戦いきった。
どの魔物も大抵は手にかけたことがあるし、経験値効率が良く災害にしかならない魔物に関しては自身の手で絶滅させた経験すらある。
既にAランク上位を殺し尽くした彼のレベル上昇は、数年前に200の大台に乗ったところで完全に止まってしまっている。
それでもイシドロは、強さを渇望し続けていた。
彼は何よりも、戦うことが好きなのだ。
『死ぬときは戦場で死にたい』
それが彼の心からの思いだった。
唸るほどの金を手に入れても、どれだけ美女を抱いても、その渇望は消えなかった。
だが倒せる魔物を倒して大金を稼ぐ……そんな日々が数年も続くと、執着心も薄れてきた。 自分も年を重ね、枯れたとばかり思っていた。
しかし違った。そうではなかったのだ。
なぜならイシドロはあの世界中に映し出された映像を見た時に、歓喜した。
『なんだありゃあ……まだ俺が倒したことのない、強ぇ魔物達がいるじゃねぇか!』
映像に映った魔物達を見た時、イシドロの心は数年ぶりに踊った。
彼は何一つ変わってはいなかったのだ。
あの時に感じた興奮を、今こうして第二十階層を潜っているイシドロは感じている。
まるで童心に返ったような、自分が本当に探しているものに出会えたかのような、夢見心地でキラキラと目を輝かせながら、彼はダンジョンに破壊を振りまいていった。
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