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混沌迷宮の支配者 難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団  作者: しんこせい
第二部

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81/84

プロ

「ほぉ……これが混沌迷宮か」


 動き出すと決めてから一時間。

 聖戦軍が五日ほどの時間をかけてやってきた道の倍以上もある道程を、彼はたったの一時間で駆けてみせた。


 ダンジョンの入り口は、来る者を拒むことなくぱっくりと開いている。

 それを見たイシドロは、ぴゅうと口笛を吹いた。


「こいつぁ……すげぇな」


 このダンジョンが内包している魔力。

 そのあまりの総量に、イシドロは思わず笑ってしまった。


 彼はかつて、何度かダンジョンを踏破したことがある。その中にはAランク冒険者であっても攻略不可能とされていた最難関ダンジョンも存在していたのだが……正直なところ、レベルが違う。


 この混沌迷宮を見た後では、あのダンジョンなどままごとにしか思えない。


「Aランク上位がバカスカ出てくるダンジョン……どんなもんか、試してみようじゃねぇの」


 彼は軽く準備運動をしてから、右の拳を左の手のひらで受け止める。

 パシッと音を鳴らすと同時、彼の全身から雷が発された。


「疾風迅雷」


 そして彼の姿は消え、一瞬のうちに目にも止まらぬスピードでダンジョンへと潜っていく。


 超級雷魔法、疾風迅雷。

 己の身体に紫電を纏わせることで肉体に電磁加速を行わせる、上級雷魔法ライトニングスピードの上位互換となる魔法である。


 超級魔法を使える者は、この世界でも両手両足で数えることができるほどにしかいない。


 それだけ高難度かつ魔力使用量の多い魔法なだけのことはあり、その速度の上昇は他属性の追随を許さない。

 それを超人的な身体能力を誇るイシドロが使うことで、彼の動きは正しく雷の如し。


 一呼吸の間に数キロもの距離を駆けるイシドロは、もはや常人であれば視認することすら不可能な速度でダンジョンの中を巡っていく。


「序盤はサクサク行かせてもらうぜ。一応せっつかれてはいるんでな」


 彼からすれば意味がわからないが、混沌迷宮は自国内にいる冒険者達には普通に開かれているダンジョンである。


 故に彼らが攻略している第十五層までの情報は、冒険者ギルド経由で明らかになっている。


 そこまでは出てくる魔物もせいぜいがCランク止まりで、大したこともない相手だ。


「よっと!」


「GYAN!?」


 雑魚相手には魔法を使う必要すら無い。

 イシドロは遭遇した狼型の魔物であるグラスウルフに張り手を放つと、農相をまき散らしながらバウンドして後ろへと吹っ飛んでいく。


 イシドロはこんな風に、自身の得物すら使うことなく適当に肉弾戦をしながら先へ進んでいった。


 イシドロは地図を頼りに進み続け……そして驚異的な速度で、第十五階層を突破してみせる。ここに至るまで、まだ半日も経過していない。


「おやつ食お」


 そしてそんな彼は、これほどの高速移動を続けていたにもかかわらず未だに息一つ切らしていない。

 なんか飽きたという理由から自身の持っている背嚢から取り出し、干したイチジクをもしゃもしゃと頬張り始める。


 彼が持っているリュックはアイテムバッグというマジックアイテムであり、内側に時空魔法による空間拡張機能がつけられている。


 その見た目に反して普通サイズの一軒家数件分の容量があり、中には回復アイテムやら各種装備の替えやらが大量に入っている。


 彼はガサゴソと中に手を入れると、先ほどダンジョン内で入手して放り込んでいた魔力ポーションを飲んでみることにした。


「おお、こりゃすげぇな」


 みるみるうちに使った魔力が回復していく。

 さすがに一発で全回復とまではいかないが、マナポーションの中でもその等級はかなり上のものになるだろう。


 そもそも腹の容量が並大抵ではないイシドロなら、ガブガブと飲んでいればあっという間に魔力の補填はできそうだ。


「これなら八級くらいはあるんじゃねぇか?」


 ポーションには十五から一まで等級が存在している。

 十五級のポーションは薬草を生かじりするより多少マシ程度の効果、そして一級のポーションは飲むだけでたちまち全身の傷が消え部位欠損すら治すことができるほどの効果を持つ。


 イシドロは高い攻撃力を持つが、彼自身は回復魔法を使うことができない。

 故に回復には基本的にポーションを使わねばならず、回復アイテムの補給には常に難儀している。

 Sランク冒険者として一級のポーションもある程度の数は常備しているが、これは使うと基本的に赤が出るほどの代物だ。


「今回の依頼、思ってたより美味しいかもな」


 これからAランク上位の魔物達と戦うということを理解してもなお、イシドロの表情は変わらない。


 彼は自分に絶対の自信を持っている。

 根拠の自信がその人間を形作り、やがてはそれが根拠を伴った自信へと変わっていく

 自分がSランク冒険者に至ることができたのは必然なのだ、とイシドロは笑う。


 ここからはさすがに先ほどまでのようなペースでは進めないだろうが、たとえ五十階層だろうが百階層だろうが攻略してみせる。

 魔物狩りの世界一のプロは、そのまま第十六階層へと足を踏み入れていく。

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