小手調べ
ラテラント王国は、俺達が逆撃を開始してからたったの三日で滅んでしまった。
驚いたことに彼らから出てきた特記戦力はゼロ。
おかげで大した抵抗を感じることもないまま、実にあっけない幕引きで終わってしまった。
戦争をふっかけてきたのはあちらだというのにな。
ただラインザッツ侯爵やリンドバーグ子爵などと懇意にしている俺としては、今後について考える必要が出てきた。
彼らをそのまま滅ぼすつもりはないが、だからといって王国や聖教会をそのままの形で残すわけにもいかない。
そこで俺が取った選択肢というのが……。
「ようこそおいでくださいました、ミツル様」
俺に頭を下げるのは、眼帯をつけた状態に戻っている、国主となったアリアだ。
彼女の隣には、彼女の王配としてその場に立っているルベールの姿がある。
そう。俺が取った選択肢とは――ラテラント王国を聖教会ごと、新しい国へと変えてしまうというものだった。
ラテラント王国の王族はアルフレッド達が皆殺してり、聖教会の重要人は全員こちらで確保済み。
ごっそりと空いた権力者のスペースに、アリア達をねじ込んだというわけである。
彼女の後ろ盾に俺達が立てば、それについて文句を付けてくるやつらなどいない。
いや性格に言えば居たが、そういう奴らを二、三容赦なく領地ごと潰してしまえば、反対意見は一つも出なくなった。
「ほう、ここが新しい大聖堂か……なかなかどうして悪くない」
そして今俺達がいるのは、かつてラテラント王国の王城の跡地である。
魔物達に突貫で作らせ、一週間ほどで以前より豪壮とした宮殿を新たに作ることに成功したこの城は新たに聖魔ラテラント宮殿と名付けられた。
悪しき慣例を残さぬためということで、以前使われていた大聖堂は全て破壊させてもらった。
そのため今後は聖教の総本山はこの宮殿になる。
王城でありながら本堂としての機能も持っている、巨大な宗教施設になるわけだな。
「国民達の反応も問題はないか?」
「はい、トップに私が立っているということもあり、今のところ特に暴動などは起こっておりません」
聖教の中には色々と変えた方が良いところがあったらしいので、聖教自体もいくらかを改変し聖魔教とし、それに合わせて国名も新たにラテラント聖魔国と改めた。
その辺りのことはアリアに一任しているので詳しいことはわからないが、宮殿から見ている人間達の様子を見れば特に問題がなさそうに見える。
あれだけのことがあって問題がないように見えるのは、間違いなくアリアが有能である証拠であろう。
「それなら大丈夫か……さて、さっそくだが報告を」
ぶっちゃけて言えば、俺はこの国の運営等にまったく興味はない。
勝手にやってくれとしか思っていなかった。
そしてそんな俺がなぜ国のお膝元までわざわざやってきたのかと言えば……さすがに看過できない類いの情報が、入ってきたに他ならない。
「はい、約五日前のことですが……東部国境地帯より、ガイザル帝国軍がこちらに進駐を開始。既に部隊が残されていなかったこともあり彼らはミツの街に至るまでの五つの街と十二の村を占拠し、前線基地として使うべく要塞化を行い始めました」
俺達が聖戦の報復を行っている間に、王国と国境を接していたガイザル帝国が火事場泥棒を働いたのだ。
そして既に兵士達を俺達が殺し尽くしていたのをいいことに、街や村を占拠して我が物顔で軍を進駐させている。
帝国が領土的野心の強い国であるという話は聞いていたが……まさかこんなにすぐに動き出すとはな。
俺達が王都を占拠している間にはもう動き出していたということだから、驚くほどに仕事が速い。
「おそらく帝国軍としては、これを足がかりに我々王国の領土を可能な限り削り取るつもりでしょう。そして今の我々に……これをなんとかできるだけの力は残されておりません」
「だろうな」
この国の主戦力はほとんど俺が叩き潰した。
そして残っているセガタ勇爵家やラインザッツ侯爵家達だけで、この広い王国を守り切れるわけもない。
帝国というのは旧ラテラント王国と比べれば歴史の浅い国家だ。
だが徹底した実力主義と飽くなき帝国主義によってその版図をどんどんと広げており、今ではこの大陸において最も強大な国家へと成長を遂げている。
ここしばらくの間は西の王国ではなく東側の国境に接している国との戦争に熱心だったようだが、先の動きを考えれば、領土拡張の機会を逃すつもりはないということだろう。
元々帝国の方が国力は上なのだ、このまま全面戦争にでもなればラテラントに勝ち目はないのである。
故にアリアが俺達にSOSを出したわけだ。
「アリア、帝国の特記戦力についてわかっている情報を教えてくれ」
「はい、現在帝国で確認されている人間は三人。帝国の現皇帝である歴代最強の勇者『古今無双』のシヴァ、そしてその右腕である『黄金竜』のクモン。そして現役Sランク冒険者であるイシドロですね」
まず帝国の方が旧ラテラントより兵数が圧倒的に多い。
あの国が潰されていなかったのは、帝国が四方の敵国に囲まれながら内部でごたついていたおかげである。
純粋な兵数だけならまとめて潰せば問題はない。
俺が気にしているのは帝国が抱えている特記戦力についてだ。
「Sランクというのは冒険者の中では最高位に当たるが……アリアやハヅキよりも強いのか?」
「間違いなく、私よりは強いかと思われます。ハヅキさんと同じく、彼らはAランク上位の魔物を狩ることができますから」
冒険者ランクというのは基本的にはAで止まり、Sというランクは一つの名誉勲章のようなもの。
何十年も冒険者として戦ってきているイシドロは、現在の混沌迷宮の軍団長クラスと同等とされているAランク上位の魔物も刈り尽くしているんだとか。
それにやはり気になるのは、シヴァとかいう勇者だ。
帝国は完全な実力主義国家であり、血統ではなく強さに拠った帝位継承が行われる。
そんな帝国で現在皇帝として君臨している人物こそが、現役で最強の勇者であるシヴァなのだ。
『古今無双』などという大層な二つ名を持っていることからもわかるようにその強さは当代無比であり、苦戦することがなく全ての戦いを勝利で終えているという。
もし帝国とぶつかるのであれば、彼らと戦って勝たなければならない。
さてどうするか……などと悩む必要はない。
「せっかくあちらから喧嘩をふっかけてきてくれたのだ。答えてやらぬのは不義理というもの」
どうやってあちら側の戦力を探ろうかと考えていたらこちらを殴ってきてくれたのだ、であればこちらも対等に殴り返して雌雄を決するしかないだろう。
こちらの全力をもって当たり――そして必ず勝利する。
王国との戦いは、戦いとも呼べぬ一方的な殺戮であった。
さて、帝国との戦いは一体どのような結果になるのだろうか。
せいぜい俺達を楽しませてくれるといいんだがな。
「……」
「どうかしたか?」
「……いえ、なんでもありません」
俺の方を見ていたアリアの顔が若干引きつっているのがわかる。
彼女とルベールは何も言わずこちらに頭を下げ、俺は彼女達が座っている玉座の更に上に用意されている特注の漆黒の椅子へ腰掛けた。
「さて、ではまずは……小手調べといこうか」




