侵攻
「はぁ、暇だなぁ……」
ラテラント王国は西部に位置している、ガイナスの街で門番であるダンはジッと外を見つめながら、槍を構えて周囲を警戒していた。
「いよぉし、ストレートだ!」
「フォーカード!」
「かあっ、マジかよ、また負けた!」
(楽しそうだなぁ……俺も早く戻りてぇ)
彼の後ろでは同じく衛兵として働いているはずの男達が、かつての勇者が広めたトランプというカードゲームに興じていた。
座る彼らの足下には数枚の銀貨が並んでおり、賭博をしているのは明らかだ。
その緩んだ風紀を見れば、他の地方の兵士達はさぞ驚くことだろう。
王国は内側にいくつかの魔境を抱えており、また東側は帝国に接しているため、そちらに戦力が集中している。
ガイナスのような西側の街の先には大して強くもないのに数ばかり多い魔物達が生息する魔境が広がっている。
その脅威度は低く、そのために兵士の質も低い。
結果として街を守る兵士達も基本的にやる気がなく、外れクジを引いた衛兵達は交代交代で警護をすることになっていた。
「……ん、なんだぁ、あれは?」
一応仕事はきちんとやるタイプのダンは、外に生じた違和感に気付く。
今まで見えていたはずの森の手前に、何か黒い渦のようなものが発生したのだ。
「お、おいっ、誰か来てくれ!」
後ろで遊んでいた兵士達をこちら側に来させると、彼らも同様に首を傾げていた。
だがそこから出てくる軍勢を見た者達は一瞬で目を覚まし、叫びだした。
「あ、悪魔……」
「悪魔達の襲来だ、急げッ!」
男達が叫び、警戒用の鐘を勢いよく鳴らし始めたのを見た悪魔達が笑う。
彼らを頭上から眺める、最強の悪魔――『魔公』ティアマトが叫ぶ!
「さあ、我が主の晴れ舞台です! 盛大に暴れなさい、我が眷属達!」
「「「うおおおおおっっ!!」」」
悪魔達は自分達が生まれてからというもの、長い間お預けを食らい続けてきた。
前回のキルゴア伯爵戦で出ることができたのはティアマトに選ばれた一部の精鋭のみだった。
だが今回は違う。
第四軍団、文字通りの総出撃だ。
そして他でもないダンジョンマスターのミツルから、一切の制限なく好きなだけ暴れることを許されている。
ようやく全力で遊ぶことができると、悪魔達は笑いながら我先にと街へ向かっていく。
悪魔という種族は他の魔物達と比べ、決して戦闘意欲が高いというわけではない。
ただ彼らは勝負に負け、負の感情を露わにする人間が大好きな生粋のサディストだ。
彼らは人間の努力を鼻で笑い、力を振るえる喜びに震えながら人間達を蹂躙していく。
「なっ、なんだこいつら……槍が通らねぇ!」
「魔法、魔法を使って……がっ!?」
質が高いわけでも数が多いわけでもない兵士達で大量の悪魔を受け止めることができるはずもなく、ガイナスの街は一時間にも満たぬほどの間で壊滅することとなった。
そして黒い渦が現れだしたのは、何も王国の西部だけではない。
「行くぞッ! 我々が王都に一番乗りして、ミツル様に褒めてもらうのだ!」
王国東部からは第二軍団を纏め上げる『唯我』のアルフレッド率いる第二軍団の獣達が。
「警戒して先へ進みなさい。何か異変があれば、すぐに私に連絡をよこすように」
そして王国南部からは、『始原』のベルナデット率いる第三軍団の亜人種達が侵攻を開始する。
強力な勇者達や主要な戦力を全て聖戦へ回した王国に、もはやそれに抗う術は存在していなかった。
魔物による昼夜を問わぬ進軍速度は圧倒的であり、彼らは二日ほどの時間をかけて王国中へその暴威を振りまくことになった。
そして最後までミツルが危惧していた隠れた強者が現れることはなく……彼らはとうとう、王都へと辿り着いたのだった――。




