総集編1章【アンデット戦争】後編
一章の総集編後編です。
それは夜明け前、まだ辺りが闇に包まれている頃に訪れた。
カーーン!! カーーン!! カーーン!!
ルーアクシウムの里中に鳴り響く敵襲来の鐘の音。
里中の者も城郭にいる者達も一斉に起きる。
アルンも飛び起きた。
横では妻のミモネも起きる。
「・・とうとう来たわね」
「そうだね・・・」
二人は短い会話をしながら素早く着替える。
アルンが着替え終わらない内にミモネは着替え終わり必要な物が入った荷物を手に取った。
エルフの女王の指示で、有事の際に備えて必要な荷物は纏めいつでも持って出られるように準備はしている。
「アルン、気をつけて」
着替え終わったアルンの首に腕を回し軽めのキスをするミモネ。
「ミモネもね」
少しの間見つめ合った二人だが、体を離しミモネは玄関に早足で向かい家から出て行った。
女子供は魔王軍が攻めてきた場合、城に避難するように指示が出されている。
ルーアクシウムの城ではルービアンカからの避難してきた女性達が仮住まいとして住んでいるが、魔王軍侵攻時はルーアクシウムの子供や女性も城に避難し場合によっては掘りに架かる跳ね橋を上げ籠城戦に突入する事になる。
ルーアクシウムは城壁型である。
里に侵入しようとする敵を防ぎ、敵が侵入したきた場合は城下の里を戦場にして戦わなければならない。
女性達が籠もる城に決して近づかせてはならないのだ。
アルンは詰め所に行き点呼を受け武具を貰う
弓と矢と矢を入れる矢筒とショートソードを受け取り、皮鎧を着て指定されている配置場所に行く。
事前に何度も訓練を受けているので特に問題もなくスムーズに配置場所に着いた。
違いがあるとすれば訓練か実戦かの違いか。
とりあえずアルンの仕事は里を取り囲む壁の胸壁で狭間から眼下の敵を弓で射ることだ。
「・・・・・」
いまだ夜明けではなく闇が支配している中、遠くから多くの赤い火の色が見える。
「あれが魔王軍か・・・」
まだまだ遠い。
多分このルーアクシウムの門に辿り着くにはまだ小一時間は
かかるだろう。
ふぅー・・・と息を吐く。
「まだまだ遠いが結構な数だな、あれは・・・」
隣で同じように見ていたエルフが声を出す。
「火が必要・・・て事はスケルトンじゃないな
スケルトンの進軍に火は必要ないしな
ま、骸骨たちも中には含まれているかも知れないが」
その言葉を聞いてアルンは呟いているエルフに話しかけた。
「スケルトンじゃないんですか?」
「・・・かも知れないというだけだ
スケルトンであっても別の理由で松明を使っているのかも知れないしな」
「・・・もしかしてルービアンカの方ですか?」
「ああ、情けない話だが」
「・・・いえ、かなりの激戦だったと聞いています
相当な人数が戦死なさったとか」
「落とされたら意味はないさ・・・
だからここは守り通さなければならないんだ、何としてでもな」
「ですね・・・私はアルンです、あなたは?」
「俺はガルボだ、昨日この里に来たばかりなんだが・・・運がないな
いや、運がいいのか
魔王軍にやり返せるチャンスがこんなに早く来るとはね」
にやっと笑いガルボはまた遠くを見た。
「あれ?」
アルンはそんなガルボの足元に布を巻きつけたかなり長い板のような物が立てかけてある事に気づく。
何だろうか?・・と思いながらも魔王軍の動きの方が気になって仕方が無く、それどころではないから気にしない事にした。
やがて空はやや明るくなり始め、魔王軍が眼前まで迫る頃には空は完全に明るくなっていた。
「こりゃ凄いな、何だアイツら・・・」
眼下に広がる光景は息を飲む程の威圧感があった。
ルーアクシウムから少し離れて魔王軍が布陣。
ワグーのスケルトン軍団3000骨
ドルチェが雇った傭兵部隊3000人
リシープの軍に組み込まれたデュラハン300騎
バルフィアの半吸血鬼の僕達300体
ゴドウィンの戦闘用フレッシュゴーレム100体
ナーガイアのレイス部隊1300霊
総勢8000の軍がルーアクシウムの目と鼻の先にいる。
勿論これは現在エルフ界に来ている魔王軍の総数ではない。
本軍とも言える部隊はルービアンカに待機している。
スケルトンすら見た事がないアルンは骸骨の姿を見ただけで恐怖した。
「デカいのがいるな、あれは巨人って奴か?」
ガルボの目に留まったのは巨大な図体の戦闘用フレッシュゴーレムだ。
筋肉隆々の身長5メートルある一つ目の怪物である。
「・・・勝てるでしょうか?」
想像を絶する魔物達にアルンは弱音を吐く。
「・・・どうかな?
伝説の首なし騎士とやらも集団でいるみたいだしな」
「死を予言する死神・・・ですよね?」
「ああ、ただ一つ言える事は奴らだって無敵じゃないって事だ」
その時備えの号令が響き渡り、矢を弦につがえる。
魔王軍からの降服勧告はあった。
女たちを全て渡せば命は助けてやるとか何とか。
ルーアクシウムの里の長は一笑に付し勧告書を突っ返した。
降服する必要性などそもそもない。
ルーエルシオンから来るエルフ本軍が到着すれば魔王軍は殲滅されるのだから。
そうは言うモノの実際の所、エルフ本軍が来るまで持ちこたえなくてはならない。
問題はそこである。
「降伏勧告云々なんて・・・奴らも焦っているって事だな」
ガルボの言葉にアルンが聞く
「ですか?」
「ああ、戦闘になれば長期戦も視野に入ってくるからな
だから降伏しろなんて言ってくる」
「ああ・・・ですね」
「まぁ、エルフが降伏なんて有り得ないけどな」
「勝てますよね?」
「当然だ!!」
あたり一面にラッパの音が響き渡り構えの合図が飛ぶ
弓兵隊は一斉に弦を引き構える。
ヴオォォォォォォォォーーーーーーー!!
大地を震わすような咆哮が轟き魔王軍の一陣が一斉に動き出す。
「うるさいな、さっさときやがれ」
狙いを定めながらガルボは呟きハッとなる。
元々悪いのは自覚しているが、最近俺口が更に悪くなっているんじゃないか?・・・と思う。
そうこう考えている間に敵は門近くまで突進してきた。
主にスケルトンと人間みたいな奴らだ。
「放て!!」
号令と共に一斉に矢を放つ。
放たれた数百本の矢は魔王軍の兵士達を貫く。
「・・・やはりスケルトンには効果が薄いな」
人間タイプの兵は矢を受けて倒れるがスケルトンには大して効いていない。
頭部を完全に破壊されたスケルトンだけが倒れたが、他のスケルトンは歩みを止めない。
二射目、三射目の矢を撃つ。
ガルボの矢は人間兵に当たり、アルンの矢は骸骨の頭部に命中する。
「やるな!!」
「馴れてきました、意外と楽です!!」
ガルボの言葉にアルンが答える。
「骸骨どもの先頭がもうじき門に着くな・・・ん?」
ガルボは妙な違和感を感じ目を下から上に上げる。
上空の空の一角が黒い。
「何だあれは・・・」
その黒いモノは変な動きでこちらに近づいてくる。
「・・・・・・」
ガルボは目をこらす。
その黒いモノはルーアクシウムの上空に差し掛かり急下降してきた。
「鳥だ!!、上から来たぞ!!」
ガルボの大声に弓兵は一斉に上を見て弓を構える。
迫ってくるのは巨大なカラスである。
一羽や二羽ではない。
何百羽というカラスが空中から襲いかかってきた。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュン
数十本の矢が放たれカラスに命中する。
しかしカラスの勢いは止まらない。
更に矢を放ち矢を受けたカラスは別の場所に次々と落ちていくが、それでも勢いは止まらず突っ込んでくる。
「!!」
弓を盾にエルフ達は咄嗟に身構えた。
と。
ドババババッッッッ!!
大ガラスのクチバシと爪が弓兵隊を襲う。
弓兵は再び弓を構えるが四方八方から襲いかかる大ガラスに対応できない。
「アルン、剣だ、剣で戦え!!」
倒れた所を大ガラスにのしかかられ必死にカラスの首根っこを掴んでクチバシの攻撃を防いでいたアルンにガルボが叫ぴ、アルンを襲っていたカラスに蹴りを入れる。
カラスはたまらずアルンから離れた。
急いで起き上がったアルンはショートソードを抜きカラスの脇腹を刺す。
ギョエエエーーーーカァーーーー!!
一声鳴きカラスは苦しみのたうつ。
アルンは剣を構えカラスにトドメの一撃を入れた。
「はぁ・・はぁ・・やっ・・やった・・
が・・・ガルボさんは!?」
アルンがガルボの方を見ると例の長い板で大ガラスをぶっ叩いている所であった。
ドガンッ!!
カァキェェェ-----!!
叩かれた大カラスは地面に叩きつけられ血を出してのた打ち回る。
しゅるしゅるしゅるる・・
急いで巻きつけてある布を解いていくガルボ。
しゅるしゅるしゅるしゅる・・・
厚めに巻いてあった布が解かれていく。
その解かれた布から中の一部が見えだした。
「剣?」
一部からでもそれが剣である事が分かる。
しゅるしゅるしゅるるるる・・・・
やがて全ての布が床に落ち柄に手をかけたガルボはスラアァァァッと鞘から剣を抜き放った。
「長い・・・」
ガルボの持っている剣を見てアルンは目を見張る。
刀身は長い。
1メートル以上ある。
間違いなく大剣に位置する部類の剣だろう。
「カラスは後頭部を狙ってくるぞ、後ろにも気をつけろ」
「はい!!」
ガルボの言葉にアルンは答えガルボに質問する。
「あの・・ガルボさん、その剣・・・」
「ん? ああ・・・両手剣クレイモアって言うらしい
ルーネメシスにあった名剣をちょっと拝借してきた」
そういうと襲いかかる大ガラスを一刀の下に斬り倒した。
ーーーーーーーーーー
ガルボが持ってきた両手剣クレイモア。
この剣は温泉の里ルーネメシスの宝として里の美術館に飾られていたものだ。
飾られる事になった話・・・それはこうである。
ルーネメシスの温泉の評判はエルフ界だけでなくドワーフ界にも及んでいた。
当時は温泉旅行にネメシスまで来るドワーフも多かったのだ。
ある日1人のドワーフが温泉旅行を楽しんだが宿代が足りず自分が作ったという護身用に持っていた両手剣クレイモアを宿代変わりに置いていった。
さぁ、エルフは困った。
綺麗な剣ではあるが、それを置いていかれてもどうにも出来ないからだ。
そもそもエルフは両手剣など使わないし、それに重くて使いこなせない、何より使いこなす気もないから持っていても何の役に立たないのだ。
売ろうにもこの剣の価値が分からないので取りあえず鑑定士に観てもらう。
すると、あらビックリ。
ドンバクの刻印が入っていて、ドンバクが作った一品であるという事が判明。
何と!!、あのドワーフはドンバクその人であったという事か!!・・・・と、驚くエルフ。
・・・所でドンバクって誰?。
・・・という流れから一応価値はかなりあるそうなので里の美術館に寄贈された。
その話には続きがあって現女王メリーカも噂を聞いて剣を見に訪れた事がある。
ドワーフ製の武器防具をこなよく愛するメリーカは食い入るように刀身を見、触り、侍従に手伝ってもらって剣を持ち上げてみたりしたという。
そして言われた言葉が
「素晴らしい、流石剣匠ドンバク殿の剣だ」
である。
女王様がお触りになり、かつ絶賛された両手剣クレイモアという箔がつき、それが評判になり美術館にクレイモアを見にくるエルフが増えた。
展示されている説明文にはその事がデカデカと書いてあり、そしてついでにドンバク製である事も小さな文字でひっそりと書かれている。
その両手剣クレイモアは里の宝にいつの間にか格上げされ、そして今に至る。
パシュッ! パシュッ! ピシュッ!!
まるで紙を切っているが如くに大ガラスの群れを鮮やかに斬っていくガルボを見てアルンが口を開ける。
「凄い切れ味だ・・・」
両手剣は重く、エルフの腕力では扱うのが難しいと言われている。
しかしガルボはまるで小刀を扱うかの如く軽々と扱っている・・・。
「この方は一体!?」
その時、ドゴォォォォォォン・・・という大きな音が轟いた。
「破城槌か!!、門が破られるのも時間の問題だな」
下を見たガルボは敵が門を攻撃しているのを見て叫ぶ。
「アルン、ここは任せた!!」
「え?、ガルボさんは?」
「門で奴らを迎え撃つ!!、そもそも俺はここの配置員じゃないしな」
そう言うとガルボは下に降りる階段に走っていく。
「え? え?・・・ああ、そう言えば昨日来たばかりとか言ってたな・・」
ガルボが抜けて戸惑うアルンだったが他の弓兵と共にこの配置場所で大ガラスと戦う事にする。
ガチャン!! ガチャン!!
「・・・・?」
何の音かと思って見れば壁のあちこちに梯子が掛けられ下の魔王軍兵士が梯子を登ってこちらに来ようとしている。
「う・・・嘘だろ・・・」
大ガラスとの戦闘で対応する事ができない。
何人かは下から上ってくる兵に矢を射かけたり梯子を外したりしているが、とても追いつかない。
カラスはまだまだ戦意旺盛で襲ってくるし、アルンの剣はカラスの血が付き最初の時に比べて切れ味が鈍ってきている。
「くそ!!」
アルンは大ガラスの翼をヤケクソになりながら剣で叩き斬った。
中央門に向かって走りながらガルボは不思議な感覚に囚われていた。
何で俺は両手剣クレイモアを手足のように使いこなせているんだ?
・・・いや何で俺は両手剣クレイモアを武器に選んだんだ?
「・・えーと、最初にルーネメシスでこの剣を見て・・」
いやいや、何でビアンカから逃げてきて怪我していた時に美術館に展示されてあるこれを見に行ったんだ?
「あれ?、何でだっけか?」
記憶を辿るが曖昧である。
ただ何となく・・・だ。
何となく導かれた・・・何となくこの剣を手に取り・・・
最初は持つだけで精一杯だった筈。
そうだ、結構重かった。
こんなモノを振り回す者はエルフには絶対いないよな~・・・とか考えていた筈。
エルフ製のショートソードは各世界にあるショートソードの中でも特に軽く出来ている。
長剣を持つにしても、魔法付与されて重量が軽くされている剣を扱うのが普通であり、されていない通常の重量の剣は使わない。
ただ、筋肉を鍛えれば別に使えない訳でない。
問題は大剣はスマートさに欠けるというエルフの価値観である。
細身や小剣はまだしも大剣は振り回すという印象が強く、それがエルフには受け付けない原因だ。
ただ現女王メリーカはエルフ離れしていて、より軽量で洗練されたデザインを追求したエルフ製の剣よりも、剛直で実戦的で重量系のドワーフ製の剣を好んだ。
実はメリーカは大剣や大槌や戦斧を振り回し叩きつけ敵を粉砕する戦闘スタイルに魅力を感じ、それを想像する事にある種の快感を感じている。
まぁ、それはメリーカしか知らない事だが。
「はぁはぁ・・はぁ・・」
中央門にたどり着いたガルボは息を切らせながらも、まだ門は破られていない事に安堵する。
外から門を壊そうとする魔王軍。
内から門を抑え破られるのを防ごうとするエルフ達。
深呼吸し額の汗を拭う。
いつの間にか大粒の汗が出るほど体を動かしていたようだ。
「上も無事だといいが・・・」
破られそうな門を見ながらガルボは呼吸を整えた。
ドゴォォォォォォン!!!
バキバキバキ、ピシッ!!
「破られるぞ!!、全員引け!!」
半壊した門を尚も押さえていたエルフ達に中央の門の守備隊長トレードが声を上げる。
門を押さえていた守備隊員達は門から離れ、弓を構えている弓兵隊の後ろに回り剣の柄に手をかけた。
ドガァァァァァァァ!!!
破城槌の攻撃でとうとう中央の門は破壊され門は開く。
「構え!!」
トレードは弓兵に叫び、弓兵は弦を引いた。
「最初に何が入って来る?、骸骨か?ただの兵か?」
弓兵の後ろで見ていたガルボもクレイモアの柄に手をかけ身構える。
「・・・?」
ドッと押し寄せて来るだろうと思っていたエルフ達の予想とは違って何も入ってこない。
「・・・いや違う、何か変だ」
ポッカリと開いた門の向こう側の景色。
本来なら見える風景が見えない。
門の向こうは薄い闇に覆われている。
それは薄い闇から濃い闇に変わりやがて真っ暗の闇に染まる。
「な・・・何だ!?」
エルフ達は門の向こう側を凝視する。
ピカッ!!
闇から出た光がエルフ達を照らす。
だがその光はエルフ達が知っている眩しい光ではなく闇の光であり、その光がエルフ達を照らした。
ズ・・ズズズ・・・
闇の光に照らされながらエルフ達が見たものは、門の闇の中から此方に入ってくるローブを深々と被った宙を浮く幽霊だ。
その幽霊はエルフ達を見渡し、くぐもった声を発する。
「お初にお目にかかる、我は幽鬼スペクターダグバルド
魔王軍司令官、不死王リッチナーガイア様の右腕である」
ダグバルドの言葉にトレードが答える。
「私はルーアクシオン守備隊長のトレードだ、早速だが御引き取り願おうか」
「フフフ・・・トレード殿、女たちは城かな?」
「答える必要はない、お前たちはこの場で死ぬのだから」
「ククク・・・まぁ、貴公たちを片付けた後で探すとするかな」
「やってみよ、放て!!」
トレードの言葉に弓兵は一斉にダグバルドに向かって矢を放った。
バスバスバスバス!!
矢はダグバルドの身体に突き刺さる・・・が
ボロボロボロ・・・
ダグバルドに刺さった矢は崩れ去り地面に落ちる。
「む・・・放て!!」
もう一度トレードは言い二射目が放たれダグバルドの身体に刺さる・・・が、また矢は崩れ落ち地面に落ちた。
「フフフ・・・どうした?、守備隊長よ
そんな程度の攻撃では私は倒せんぞ?」
「矢が効かない?・・・まさか剣も効かないのか?」
トレードは苦い顔をして剣を抜き放つ。
「ハハハ・・・剣など抜いてどうする?、そんなオモチャでは私に傷一つ付けられぬわ
さて、ではお前たちに攻撃とはどういうモノなのかを教えてやらねばな」
そう言うとダグバルドは掌をエルフ達に向かって広げ呪文を詠唱する。
ズズ・・ズズズ・・・ズズズズズズズ・・・
ダグバルドの周囲に青い光が走り白い光の束が現れる。
その光の束は小さく分離し一個一個の小さな玉になっていく。
「あれはまさか・・・」
ハッとなりトレードは叫ぶ。
「鬼火ウィルオーウィスプだ!!、いかん・・避けろーーー!!」
「死ね、エルフども」
ダグバルドの手から放たれた光の玉は一つ一つが苦悩を浮かべ絶叫しているかのような人の表情を浮かべ、前衛にいる弓兵達に襲いかかる。
ボゥ・・・ボオォォォォォ!!!
ウィルオーウィスプにぶつかられた弓兵の着ている衣服が燃え上がる。
「うわわわーー!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁーー!!!」
「あつ!! 熱!! わがあぁぁぁーー!!」
着火した弓兵は衣服から髪に燃え移り火だるまになる。
それは周りにいたエルフ達にも燃え移り、火に包まれたエルフ達は転げ回った。
「け・・・消せ!! 消せーーー!!」
火だるまになっているエルフ達の火を消そうと必死に火をはたくエルフ達。
そしてダグバルドの次の攻撃に備え弓を構える者と剣を抜き身構える者達。
「ククク・・・脆いな、エルフの諸君
私一人でも諸君らを全滅させる事は出来るだろうが、私は面倒臭がりなのでね」
ダグバルドは手を高々と上げる。
ズズズズ・・ズズズズ・・・
それを合図に闇の中から全身ローブに包まれた兵が次々と出てくる。
「我等が兵である悪霊レイスがお前達の相手をする」
手をエルフ達に向けてレイス部隊に命じた。
「かかれ」
その言葉を合図にレイス部隊は一斉にエルフ達に襲いかかった。
ーーーーーーーーーー
襲いかかってくるレイスにエルフ達は弓を構え矢を放つ。
だがやはり効かない・・・。
ならばと近づいてきたレイスに剣を突き刺す。
しかしこれも効果はなくレイスはエルフの首根っこを掴んだ。
「!!!!!」
掴まれたエルフ達は生気を吸われ声にならない声を上げる。
トレードもまたダグバルドに首を掴まれ力を吸われていた。
「ククク・・・このまま死ねトレード殿」
ギリギリと首を絞めダグバルドはトレードの生気を吸い取り続ける。
「あ・・・が・・・あぐ・・・」
トレードに最早抗う力は残っておらず、あとは吸い尽くされ干からびて死ぬのみの状態だ。
「キイエェェェェェッーーーーー!!」
突然レイスの金切り声が響きわたり一体のレイスが消滅した。
「!? 何だ!?」
ダグバルドは何が起こったのか分からずレイスの声がした方を見る。
消滅したレイスが着ていたローブは地面に落ちており、そのローブの前には一人のエルフの青年が大剣を持って立っていた。
「・・・なる程、あの大剣でレイスを倒したのか、なる程・・・・ん?」
ダグバルドは自分がもの凄くおかしな事を呟いている事に気づいた。
そもそも剣でレイスは倒せない、これは・・・
そう考えダグバルドはハッとなる。
「大剣だと!? エルフと大剣・・・エルフと大剣!?」
エルフに大した腕力はなく、剣と言っても軽量化された小剣ショートソードぐらいしか使えないのは知られた事である。
それをこのエルフは両手で持つ大剣を使うという。
見たところ大剣の中ではまだ比較的短い部類の剣のようだが、大剣には違いなくエルフが使いこなせる代物ではないだろう・・・。
いや、もしかしたら魔法で軽量化されたモノかも知れない。
そして神聖系統の魔法が付与されていて、対アンデッド効果を持つ最高度の剣なのかも知れない・・・が、果たして 。
ダグバルドはその大剣を持つエルフに問う。
「お前がそのレイスを倒したのか?」
「ああ・・・」
エルフは邪魔くさそうに答える。
「何者だ、お前は?」
「ただのエルフだ!!」
ガルボは大剣を構えダグバルドを睨んだ。
その時、ピカッと光る光が戦場を駆け抜けた。
その光を受けたレイスは苦しみだし、あるレイスに至ってはそのまま浄化され消滅した。
ジュアッ!!
ダグバルドもその光を浴び、浴びた箇所から黒い煙が立ち登る。
「ぐ・・な・・なんだ!?」
驚愕するダグバルドを見ながら一人の壮年エルフが口を開いた。
「まぁ、こんなモノか・・・」
そのエルフの姿を見た守備隊の面々が声を揃えて言う。
「バーナード様!!」
バーナードと呼ばれた壮年エルフは持っていた杖を目の前に掲げ念ずる。
ピカッ
杖の先端に埋め込まれた宝玉が光り、再び光がレイス部隊に 襲いかかる。
レイス達は光の直撃を受けたモノは浄化消滅し一部分だけ受けたモノは黒い煙と共に受けた部分だけ消滅した。
ダグバルドは闇の光を強く発し輝く光を遮り防御する。
「バーナードだと?、なるほど貴公がこのルーアクシウムの長か!!」
「いかにも、君がこの軍の指揮官かな?」
「そうだ、ルーアクシウムの長よ
私は全軍の指揮官であらせられるナーガイア様の片腕であり、且つ今回のルーアクシウム戦において魔王2軍の指揮を取るダグバルドだ」
「なるほど」
「その杖は対アンデッド効果を持つ杖だな」
「まぁ、基本的には回復魔法ヒーリング効果を持つ杖だが、アンデッドは何故かヒーリング魔法に弱いという特性を持つが故に対アンデッド効果があるかと問われればある事はある」
実体がないレイスが魔王軍の中にいるらしいと聞いてバーナードは宝物庫の中を探し回り、ようやく見つけて来たがこの杖である。
「覚悟しろ、レイスども」
バーナードが杖の先端をレイスに向けて淡々とした口調で述べる。
「あらあら、いけませんわ
そんな杖を振りかざしてわたくし達を困らせて頂いては」
女の声がバーナードの背後からした。
「ん、か・・・体が・・・」
先ほどまで大丈夫だったバーナードの体だったが、今は金縛りにあったかのように体が硬直し身動きが取れない。
「お貸しになって」
女はバーナードの手から杖をそっと外す。
「形勢逆転だな、よくやったマリージュ嬢」
吸血鬼ヴァンパイア部隊を率いるマリージュは杖をしげしげと眺め、先端についている石を眺めながら答えた。
「お安い御用ですことよ、ダグバルド様」
大ガラスを指揮して上の弓兵隊と戯れていたマリージュだったが、下を見るに何やらレイス部隊が危機的な感じだったので下に降下してきたのだ。
「さて、残るはお前だけだぞ剣士よ」
ガルボの周りにいたエルフ部隊はレイス達に生気を吸われ息絶えた者もいれば息も絶え絶えで倒れている者もいる。
他のエルフ部隊は剣や弓を構えながらレイスから距離を置いて周りを取り囲む形でガルボとダグバルドのやり取りを見守っていた。
「要はお前を倒せばいいんだろ?、ダグバルドだっけ?」
「フフフ・・・倒せればな」
ガルボとダグバルドが睨み合う。
その時・・・
「デュラハン部隊、参る!!」
甲高い若い女の声が響きわたり、馬と馬に跨がる真っ赤なオーラを纏った首なしの騎士が門の入り口から飛び込んできた。
片手は手綱、片手には自分の生首を持っている。
続けて次々と同じデュラハン部隊が飛び込んでくる。
「ダグバルドさん、城に向かえば良いの?」
最初に飛び込んできたデュラハンの女がダグバルドに聞く。
「うむ、城に女どもは居よう
城に行き女どもを確保せよ、辿り着くまでに邪魔するであろう守備隊を一掃しながらな」
「了解、いくぞ!!」
女の掛け声にデュラハン部隊の女達の「了解」の声が高らかに響く。
馬を走らせ城に向かおうとするデュラハン部隊を止めようと周りにいたエルフ部隊が進路を阻む。
「どけ、邪魔だ」
馬の突進を受けたエルフ達ははね飛ばされていく。
キィン!!
弓の矢を剣で弾きエルフ部隊を切り捨てていき、進路を確保したデュラハン部隊は一路城への道を疾駆しだす。
ガルボはデュラハン部隊の動きを耳で捉えていた。
デュラハン部隊をもっと真近でキチンと見たかったが余所見をしている余裕はなく、目の前にいるダグバルドに集中している。
「面白いエルフだ」
そう言うと、ダグバルドはニヤリとした笑みを浮かべ剣を抜き放った。
「アトニーノとかいう女の尻は良いな、乳もデカくて揉みごたえはありそうだ・・ちっ、まだ19のくせに」
ルーアクシウムの近くに陣取っている魔王軍の一つにフレッシュゴーレムを従えるゴドウィンの陣営がある。
現在ルーアクシウムに来ている軍団長は二人。
ゴドウィンと骸骨使スケルトンマスターのワグーである。
他の部隊を率いているのは各軍団の副長達だ。
悪霊レイス部隊を率いるダグバルド
吸血鬼ヴァンパイア部隊のマリージュ
食屍鬼グール部隊のパピリコ
腐死体ゾンビ部隊のアトニーノ
それ等がそれぞれ部隊を指揮し軍団長はルービアンカにて待機している状況だ。
ゴドウィンもルービアンカで待機していたいが、フレッシュゴーレムの指揮や動かすのは弟子たちではまだ無理であり、面倒だがゴドウィン自体が出る事になった。
ワグーはスケルトンを動かすのはその弟子達でも出来るのだが、本人が出たがりの人間なので二軍で構成されたルーアクシウム攻城戦にわざわざ参加してきている。
その中の一つにゾンビ軍団の副長であるアトニーノという女がいて、顔合わせの時に見たが、19歳の年齢の割に肉体的に極めて良い体付きをしていた。
「強引に食っちまうか」
・・・とは思うが、魔王軍の副長を食ってリシープと揉めると総司令官であるナーガイアが五月蝿いのでそれは出来ない。
流石にナーガイアの怒りを買うのはゴドウィンとしても避けたい所なのだ。
喰屍鬼グールのドルチェも狙っていたようだが、アトニーノからは相手にされておらず適当にあしらわれていた。
ちなみに、ゾンビ軍団と言われているがアトニーノが率いているのは首なし騎士であるデュラハン部隊である。
目的は分からないが、デュラハンの騎士達が今回の対エルフ戦に参加した時に配属された先はリシープ軍団であった。
理由はリシープが唯一の女性軍団長であるからだ。
リシープはやる気のない女でアトニーノと年齢は同じである
ただ肉体的には同じ女とは思えない程、貧乳で尻も小さく顔の出来もアトニーノよりは良くない。
アトニーノかリシープのどちらとやりたいかと問われれば、アトニーノ1択である。
しかし
「あー・・やっぱりドレッテイやエルザがいいな」
ただ、どうこう言っててもゴドウィンの好みは30代前半~中頃の女であって10代のガキではない。
ドレッティ達はルービアンカに置いてきたから近くにいるアトニーノに目がいっている。
ただそれだけの話だ。
「そもそもここで俺の軍団なんぞいらんだろ」
ダグバルドのレイス部隊がルーアクシウムに入った以上エルフ共に勝ち目なはない。
ただルーアクシウムが陥落するのを待つだけの仕事だ。
ゴドウィン軍団は城が落とされ女達を連行させる為に必要な人員にしか過ぎない。
それならスケルトンや傭兵どもでも事足りる。
「正直つまらないし下らねぇ
くそ、だが・・・借金返済の為にはここは我慢の時だ」
1人ぼやくゴドウィン
ゴドウィンの言う借金とはアンナに使っている【核】の話だ
そもそも殺すつもりはなかったアンナを復活させるには【核】が必要だが、持っていた【核】はエルザとドレッティに使っている為に購入する必要があった。
仕方なく購入を決めたゴドウィンはあちこちのツテを巡り探し回る。
そもそも店頭に並んでいる代物ではなく、あったとしても目玉が飛び出る程の金額だ。
しかし、早くしないと死体が腐ってくる。
焦りながら友人経由でようやく一個比較的安くで手に入れる事ができた。
そのお陰で切り刻める肉人形が手に入ったが借金はやはり痛い。
「ちっ」
ゴドウィンは舌打ちした
エルフ本軍がここに辿り着くのはまだ四~五日かかる。
ルーアクシウムは早ければ今日。
遅くとも明日には落ちるだろう。
「辛抱だな・・・」
活躍の場が無いつまらない戦場にゴドウィンは苛立つが、何とか自分に言い聞かせ気分を落ち着かせた。
ーーーーーーーーーー
バカランッ、バカランッ
カカカカッ、バカカカッ
ドドドドドドドド・・・
蹄の音と地を駆ける音、そして立ち上がる土煙。
エルフ守備隊を蹴散らしながらデュラハン部隊は城に向かって駆け抜ける。
だがルーアクシウムの中は迷路のような構造になっていて、中々目的地の城まで到達できない。
「流石は要塞として作られた街だな、一筋縄ではいかないか」
行っては引き返しを繰り返していたデュラハン部隊の部隊長シャールナは途中から部隊を5つに分け、正しい城への道を探していた。
城は見えているのに辿り着けないこのもどかしさ・・・。
しかしそれは当然の事だ。
侵入者に容易に目的地まで侵入されては要塞の意味がない。
そういう意味ではこのルーアクシウムはマトモに機能していると言える。
しかし敵であるシャールナ達デュラハン部隊に置いては厄介な代物だ。
「違うな、こっちじゃない!!」
引き返せのサインを手で示し部隊に合図する。
ボガン!!
苛立ちに袋小路に置いてあった蓋の閉まったゴミ捨て箱を蹴飛ばす馬。
カカッカカッカカッ・・・
ブルルン・・・ヒヒン・・・
「多分あっちで分かれた分岐点のもう一つの道だ!!、行くぞ!!」
「了解!!」
シャールナの言葉に部下の女達が声を揃えて返事をする。
ドドドドドドドド・・
ドドドドド・・・・
ドドド・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
「行った?」
「多分・・」
ゴミ捨て箱の中から喋り声が聞こえた。
ゴミ捨て箱には小さな穴が元々開いていて、中にいた者はその穴から外の様子を伺う。
「ポイタン、もう出てもいいよね?」
「多分ね、トルン」
バカン!!
勢いよくゴミ捨て箱の蓋が開き、二人の少年エルフが顔を出す。
「見た!?、首が無かった!!首なしの騎士だ!!」
トルンが興奮気味に喋る。
「首が無かったって言うか・・首は持ってたような・・」
ポイタンがトルンの言葉に一部修正を加えた。
「でも首が所定の位置になかったのは事実じゃない?」
「・・まぁ、そうだけどさ~、何でワザワザ首持っているのかなぁ~って思ったりした」
「所定の位置に付けておいた方が楽だって事?」
「そう思うんだけどね・・・
まぁ、それはそれとして、あのおっかな~いお姉さん達は城に向かったよな?」
「あ、そうだ!!
大変だ!!、城にいる女の人達が危ない!!」
トルンは慌ててゴミ捨て箱から出ようとしてつま先を引っ掛け転げながら箱から出る。
「そそっかしいなトルン
大丈夫だよ、城近辺にはピナーズ達がいる」
「あ!!、そうか!
なら歩いて追いかけても平気だ!!」
「・・・・いや、そこは急ごうぜ・・・」
パンパンッと転げた時に服や体に付いた土や誇りを払うトルンはポイタンの言葉に走る構えをみせる。
ポイタンも走る構えをみせトルンに言う。
「んじゃ、ちょっと馬を追いかけますかね」
「分かった、んじゃ~行くよ!!」
「よし、では・・・行くぞ!!」
二人の少年はデュラハンを追って駆け出した。
訂正があるとすれば彼等は実は少年ではない。
容姿は少年のように見えるが成人した青年である。
彼らの事をこの地にいる森林ウッドエルフはこう呼ぶ。
小人リトルエルフと。
カラスを何羽倒したか覚えていない。
五羽ぐらいまでは覚えているが、それ以上は記憶にないのである。
胸壁で大ガラスと戦っていたアルンは疲れ果てて肩で息をしながら片膝を付いていた。
既に剣に切れ味はなく、斬るというか・・・叩く武器に変わっていた。
それでも腕力のある者なら敵を叩き殺す事も可能だろうが、エルフの腕力では如何ともし難い。
一時は剣を置き、弓矢で大ガラスや梯子で登ってくる魔王軍の兵を射たが矢も尽きて再び剣を取り戦うが、限界にきていた。
エルフ製の武器はデザイン性を追求した作りになっており、実用的な性能は二の次とされている。
そういう意味で実用性を重んじるドワーフ製の武器とは切れ味も持続性もまったく違う。
過去から色々指摘はされていたが、改善されていなかったのは『実戦』から遠く離れすぎている事もまた原因であった。
エルフ最大の敵はダークエルフ達だが、大きな戦いはここ100年程起こっておらず、あったとしても小競り合い程度である。
小さな戦いも数で勝るエルフ達の勝利に終わる事で、武器に対する改良は考えられてはいなかった。
むしろますます儀礼的な剣のあり方が模索され、実戦的な剣は無駄として廃れていったのだ。
「ぜぃ・・ぜぃ・・」
アルンは返り血を全身に浴びて衣服から顔からぐしゃぐしゃになっていた。
返り血だけではなくて、右足も敵兵の剣を受けて負傷しロクに動く事も出来ない。
仲間の弓兵隊も半数以上が倒されている。
「はぁ・・はぁ・・」
腕も剣の叩き疲れで痺れて握力がなくなっている。
正直片手では柄を握れず、何とか地面に切っ先をつけた状態の剣の柄を両手で抑えて持っている状態だ。
だが敵の攻撃は緩まない。
一人の敵兵がカラスやエルフや敵兵達の死体を踏みながらアルンに近寄ってくる。
「ワザワザ死体を踏んでまで近寄ってくるなよ・・」
もうアルンに戦う力は残っていない。
剣を叩き込むどころか持ち上げる事もできない。
「・・もう駄目だ・・死ぬ・・
ごめんミモネ・・無事に帰る約束は守れなかった・・・」
アルンとミモネはついこの間結婚したばかりの新婚である。
ずっと好きだったミモネに敗れる事覚悟で勇気を出して告白したのは一年前。
約11ヶ月の交際の後、正式にプロポーズし結婚したのは1か月前。
幸せ一杯の生活が続く筈だった・・・。
子供は二人は欲しいと言うミモネにアルンは赤面し照れ笑いをしたのはつい二週間前の事だ。
それも、もう終わり・・・。
敵兵は動けないアルンに向かって剣で狙いを定め、そのまま振り下ろ・・・。
ドブュシュ!!
アルンは倒れる・・・が、剣はアルンを斬り裂かなかった。
敵兵が剣を振り下ろす時、矢によって敵兵の頭は射抜かれ敵兵士は即死して倒れたのだ。
力尽き倒れ意識が朦朧とするアルン。
そのアルンが気を失う前に見た光景。
それは透明で綺麗な色の羽が生えた人達が空からこの胸壁に降りてくるシーンであった。
ドグォォォォォォォ!!
ブーーーーン・・・・
中央門で睨み合っていたガルボとダグバルドの周囲で異様な大音響が響く。
ガルボもダグバルドもエルフ達もマリージュも突然の音に驚き何事かと周囲を見渡した。
「ぬ?、まさか!」
いち早くダグバルドが気づき門の入り口を向く。
先ほどまで闇に覆われていた門の外は闇が晴れ、いつもの見たことのある向こう側の風景に戻り、遠くで緑の木々が広がっている。
その入り口から青いローブを着たエルフがゆっくりとした足取りで入って来た。
「アナタの術は解かせて頂いた」
そのエルフはダグバルドに言う。
「エルフ風情が私の魔術を解いたと?、馬鹿な!!」
「馬鹿なも何も事実でございます」
そのエルフの言葉にダグバルドは動揺し叫んだ。
「何者だ、貴様!!」
「これは失礼、私は水精霊アクアティックエルフのキィー・ン・ルと申します
エルフの女王様の御要請により我ら水精霊アクアティックエルフ、遅ればせながら参上致しました」
キィー・ン・ルは恭しく一礼した。
ダグバルドの術が破られた事は外にいる魔王軍にも何らかの異変が起きたとして察知された。
だが時を同じくして東の丘から突如現れた騎兵の軍にゴドウィンは眉に皺を寄せる。
「何者だ、奴らは!?
見たこともない旗を掲げてやがるが・・
1000? 2000? いや、もっとか・・
どうなっている!! 奴らは何だ!!」
ゴドウィンが吠えた同じ時にワグーは西の森から現れた青いローブを着たエルフ達を見て驚いていた。
「1000人ぐらい? まだ増えるか?
何なんだ!?、あの青い集団は!?」
次々と森から現れる青い衣の集団に言い知れぬ異様なモノを感じ、ワグーは恐怖した。
ゴドウィンやワグーが新たに現れた敵と対峙している頃、アトニーノはルーアクシウムの胸壁上空で大ガラスと『空飛ぶ何か』の戦いを目撃していた。
『空飛ぶ何か』の数は分からないが結構な数が飛び交いカラスを次々と落としている。
「あれは一体・・・」
アトニーノは正体を見ようと目を細めたが流石に良く見えない。
ただ何か予期せぬ事態が発生している事だけは確かだ。
「何かまずいわね・・・」
そう呟く。
敵の援軍なのは確かだがそれが何かは判らない。
分かっているのは状況がマズい事になっていっているという事だけ。
その感覚にアトニーノの中の危険信号が赤に変わった。
旗を掲げ丘の下の少し離れた場所に陣を張っている魔王軍を眼下に見下ろす騎兵の軍とそれを指揮する指揮官の男
その指揮官の男に同じく軍馬に乗った男が話しかける
「ゼナンドル!
スケルトンにヴァンパイア、レイスにデュラハン
人間タイプは多分傭兵だ
巨人・・・あれはフレッシュゴーレムって奴だな
錚々たる面子だ」
「流石は元冒険者だな」
ゼナンドルと呼ばれた指揮官は男の言葉に苦笑する
「幾多の敵を倒してきたクテイシ殿、勝算はどの位かな?」
クテイシと呼ばれた男はゼナンドルに答える
「他のハーフエルフ族も戦いに加わっているんだ
これで負けたら永遠に後世の笑いモノだぞ」
「はは、まあな
さて、水精霊アクアティックエルフも動いたか
ならは我ら人間ヒューマンエルフも動くぞ!!」
ゼナンドルの掛け声にヒューマンエルフ軍から鬨の声が上がった
ーーーーーーーーーー
「この道が正解か!」
城への道を探していたデュラハン部隊を率いるシャールナはようやく正解らしい道を走っていた。
この道が正しければ各地に散っている部隊を集め城に乗り込む事になるが、多分門は閉まっているだろう。
カラスが上空から行った事前の偵察で、城は水堀に囲まれ跳ね橋が架かっている。
跳ね橋は上げられているだろうから、乗り込むのは無理だろうな。
しかし、城への道を情報として持ち帰る事は有益だ。
シャールナは自らが所属する軍団の長であるリシープから言われていた。
「決して無理はせず、引くときは引くように」と
騎士にその台詞はどうかという気持ちもあるが、まぁ有り難く受け取っておこう。
バシッ!! バシッ!! バシッ!! パンッ!!
突然の衝撃と音が走っていたデュラハン部隊を襲う。
ドサッ!! ドサッ!!
衝撃で馬から落ちる者が何人かいた。
バシッ!! バシッ!! ビシッ!!
衝撃は馬も襲い、驚きと痛さに前足を高く上げた馬や暴れる馬に馬上にいるデュラハン達は振り落とされる。
シャールナの乗っている馬もパシンッという音と共に暴れ出す。
「し・・静まれ!! どうどう!!」
振り落とされないように手綱を引いた。
「おのれ、敵の何らかの攻撃であろうが・・・ん?」
シャールナの目に入ったのは少し離れてエルフの少年が鞭を此方に向けて振り上げている所だった。
咄嗟に剣を抜き鞭の先端を弾く。
シュプシュプシュプ!!
鞭の先端は刀身に巻きつき少しそのまま固まった状態だったが、緩くなり刀身から外れしなやかな動きでシャールナから離れた。
「まるで生き物のようだな」
シャールナは鞭の動きに感嘆する。
「慌てるな者共!!、ただの鞭の攻撃だ!!」
シャールナは混乱する部隊を一喝し、自分を攻撃した少年を見た。
年の頃は13~15歳ぐらいか。
周りには同じように鞭を片手に攻撃したり構えたりしている同じぐらいの年齢の少年達が多数いた。
「少年兵か!!
鞭とは面白いモノを武器にするな
しかしエルフの女達は自分達の身を守る為に子供にも戦わせるのだな、大したモノだ」
それを聞いた少年達の中から一人の少年が口を開く。
「いや、俺たちは少年兵じゃない
れっきとした大人だ、そういう種族なんだ」
「子供が何を言・・・・」
シャールナは言いかけて言葉を飲み込み記憶を探る。
確かエルフの亜種の中に成人に達しても子供のような体型の種族が存在するという話を聞いた事がある。
「まさか・・リトルエルフという者達か?」
「そうだ、俺はリトルエルフのビナーズという者だ!!」
「なるほど、ならば大人と名乗っていても不思議はない」
ただ、シャールナが腑に落ちない点は「何でこんな所にそのリトルエルフがいるのか?」である。
「お前たちがリトルエルフなのは判った、しかしなぜこんな所にいる?
確かエルフ界ではない精霊界の片隅で暮らしている種族と聞いたが?」
シャールナの言葉にビナーズは笑い出した。
「なんだ、シティの存在を知らないのか」
「・・・・シティ?」
エルフ界でのシティという言葉が何を意味するのか分からないシャールナはその言葉に動揺する。
「何だ? シティとは?」
知らない事でもさも知っている事の様に言ったり振る舞ったり取り繕う事も出来たが、シャールナは素直に聞き返した。
「教えてあげないよ~だ」
舌を出して言うビナーズにシャールナは呆れる。
「くそ、中身もガキじゃないか」
しかし、シティの存在は気になる。
シャールナは少し痛めつけて吐かせやる事にした。
馬上から降り立ち剣の切っ先をビナーズに向ける。
周りを見ると他のデュラハンの部下達も馬上で鞭を相手に戦う不利を悟り興奮する馬をなだめつつ馬から降りている。
「言いたくないなら構わない、しかし大人と判った以上私たちは容赦しない
拷問してでも吐かせてやるぞ」
「あちゃ~、少年兵で通しとけば良かった」
シャールナの言葉にビナーズはしまったという顔をした。
「もう遅い」
「拷問・・・て、痛い事する?」
「当たり前だ」
「どんな事?」
「そうだな・・・」
シャールナは少し考える。
「一本一本爪を剥がしてやる、面白そうだろ?」
「!!!!!!!」
リトルエルフ達は引きつった顔でお互いを見た。
負ければ痛い拷問が待っているのだけは分かった。
だが引きつってばかりもいられない。
気を取り直してビナーズがシャールナに言う。
「そ・・そんな事してる時間はないんじゃないの?」
ビナーズの言葉にシャールナは笑った。
「安心しろ、1分でケリをつけてやる
後は10分以内ぐらいでお前たちの泣き叫ぶ姿を見ればいい」
剣を構えビナーズに少しずつ近づくシャールナと鞭を握りしめ攻撃のタイミングを計るビナーズ。
他のリトルエルフとデュラハンの女騎士達も同様にタイミングを計ってお互いの武器を構え睨み合っている。
・・・・と、その時。
シュルルルルル・・・・・ドーーーーーン!!!!!
という大きな音と共に空に赤い煙玉が爆発した。
「あれは・・・」
シャールナは空に拡散する赤い煙を見て剣を鞘に収めデュラハン部隊に号令する。
「引くぞ!!」
「了解!!」
デュラハン部隊の部下達も赤い煙を見て声を揃え剣を鞘に収めた。
馬に飛び乗りビナーズに向かって声を発する。
「運が良かったなビナーズ殿、退却の合図が出たので我らは退却する
さらばだ!!、いくぞ者共!!」
そう言うと鞭をくれて城とは反対方向に駆け出した。
デュラハン部隊も一斉に中央門に向かって駆け出す。
呆気に取られたビナーズ達だったが、馬の足音が遠ざかるとその場に足を着いて崩れ落ちた。
「た・・・助かった・・・」
リトルエルフ達から安堵の顔が浮かぶ。
進撃してきた相手がデュラハンだと分かった時、勝てるとは思わなかったが、逃げ出す訳にもいかず死を覚悟で対峙したからだ。
「あ~、ビナーズめっけ」
ひょっこりやって来たトルンがへたり込んでいるビナーズを見て面白そうに笑う。
「デュラハン部隊が引き返していったけど・・・
何かあったのか?」
後ろから付いてきていたポルタンがビナーズに聞く。
「・・・・・・」
ビナーズは何も言わず仰向けに倒れ込んだ。
ダグバルドの術を破ったキィー・ン・ルはルーアクシウム内部をガルボに任せ外の戦いに向かった。
クレイモアを手にダグバルドと剣を打ち合うガルボ。
その打ち合いはガルボの意思とは関係なく体が勝手に動いているような浮遊感を伴っている。
より正確には剣の導かれるままに手が、腕が動いている感じで、それに逆らわずに体を動かしている。
一つハッキリ言える事は負ける気がしない・・・という事。
パキイィィィィィン・・・
ダグバルドの持っていた剣を横一文字に叩き斬った。
「バ・・バカな、こんな事が!!」
自分の持つ斬られた剣を見て愕然とするダグバルド。
「な・・何だ! 何なのだ、その剣は・・
そんな強度と切れ味を持つ剣は何だ!!」
剣を斬った以上刃こぼれはしている筈・・・と、ガルボが刃の部分を見てみるもそれらしきモノはなかった。
「流石にエルフの女王様が絶賛された剣だな、刃こぼれ一つねぇ・・・・あ、ついでにドンバク製だったっけ?」
ガルボは美術館に展示されていた説明文に書かれていた文章を口にした。
「な・・・なに?
ドンバク?、あの剣匠ドンバクの作か!!」
ガルボの言葉にダグバルドが吠える。
剣匠ドンバクは魔界でも名が知られている名工であり、その作品を所望したがる魔族は数多くいる。
「な・・・なる程、ドンバクの剣ならばその威力は頷ける」
だが、腑に落ちぬのはレイスを倒した事だ。
見たところ魔法付与はされていないし、対アンデッド効果を持つ何かを持っている訳でもなさそうだ。
「なのに何故レイスを斬れる!!何故だぁーーーー!!」
ダグバルドは叫び火球ファイアーボールをガルボ目掛けて打ち放った。
ボオォォォォォォォォ!!
「うわ!!」
火球はガルボが避ける間もなく直撃・・・する前に光の壁にぶち当たり消え去る。
キイィィィィィィィン・・・・・
ガルボの身体を包んだ水晶に似た光は炎を消し去り、光は一点に集中し一つの紋章を浮かび上がらせた。
「対攻撃魔法の防御だと!?、しかし・・ま・・まさか・・そんな・・あの現れた紋章は・・貴様・・竜戦士ドラゴンウォーリアーだったのか!!」
「竜・・・何だって?」
よく分からない名称にガルボが聞き返す。
「竜戦士だ!!、貴様どこかで竜と接触したな!!」
カラン!!
バーナードから奪った回復の杖を持っていたマリージュが竜ドラゴンと聞いて杖を床に落とす、その顔は蒼白だ。
「竜って・・・ルービアンカ攻防の時に助けられた事はあったけどな」
剣を構えガルボは答える。
「貴様は竜の加護を受けている、一時的に竜の魔法や力の一部を与えられた者は竜戦士と呼ばれるのだ!!」
「へ~、ドラゴンって気前がいいね」
「馬鹿を言うな!!
そうそうドラゴンが力を貸す訳がない!!、貴様は本当に一体何なんだ!!」
「ただのエルフだっての
ドラゴンも森と里の二回助けて貰っただけでそれ以外は・・
ん?・・・まてよ・・・」
ガルボは記憶を辿る
森でドラゴンを見た時、出会ったのはシルティアちゃんだ。
シルティアちゃんがエルフではないのは見て分かった。
特徴となる長く尖った耳をそもそも持っていない。
しかし、ノートンの昔の友達だと言う事でそれ以上は何も聞かなかった。
しかし、一人で夜の森を彷徨いているのは余りに不自然だ。
シルティアちゃん・・・・ドラゴン・・・・
ドラゴンは人の姿にも変われるという・・・
「はは・・・なんてこった
こんな事を今頃になって気づくとは・・・」
そしてガルボは無意識にフワッとした動きで剣を振る。
そのガルボの攻撃をダグバルドは交わそうとした・・
が、交わしきれず剣はダグバルドの体を捉え突き刺さる。
「ギイェェェェアアァァァ!!!!!!!」
絶叫と体から噴出する黒い煙がダグバルドの最後を告げる。
「ガ・・ア・・」
何かを言おうとしたダグバルドだったが、最早その力は残っていなかった。
そしてそのままダグバルドは黒い煙と共に、この世から完全に消滅した。
ーーーーーーーーーー
「なに?、ダグバルド殿が死んだ?」
グール軍の副長パピリコは驚いた。
「そんな馬鹿な!!
スペクターを倒せる奴がエルフの中にいるのか!?」
ダグバルド敗北にパピリコは唸る。
そのパピリコの傍らでグール軍の副長補佐としてこの戦争に参加しているデルロイも驚く。
「まずいな・・・」
デルロイは呟いた。
忠誠心を持つ他の軍団の連中と違ってグール軍は傭兵から成り立つ軍団だ。
当然忠誠心などない。
それ故に戦況が不利になれば逃げ出す恐れがある。
デルロイは今年で15歳。
グール牧場の上司パピリコと共にエルフ戦及びルーアクシウム攻城戦に参加したデルロイだったが、昨日までの楽観的な予測とは違って戦況は厳しい状況になりつつある。
「くそ!!なんてこった・・・、スペクターやレイスの力を信じすぎていた
まさか二軍とはいえ早々と将を討ち取られるとは」
パピリコは苦い顔をし、報告に来た部下に命じた。
「傭兵どもにはダグバルド敗北を知られるな、秘密にしておくんだ!!」
パピリコの言葉に部下は口ごもりながら答える。
「いえ・・・既に傭兵達には知られております」
「何だと!?誰だ!! 誰が言った!!お前か?」
「い・・いえ
ルーアクシウムの胸壁から梯子で乗り込んだ傭兵達の中にダグバルド敗北を目撃した者がいまして、敵の攻撃を受けた為に逃げ出してきて広めたようです・・・」
「敵の攻撃だと?、壁の上にはカラスの群れがエルフの弓兵隊を攻撃していた筈!!」
その言葉に部下は青ざめた顔で指を上に向けながら答える。
「奴らは・・・空から現れたようです・・・」
「フェアリーエルフか」
ゾンビ軍の陣営では報告を受けたアトニーノが目を細めた。
エルフ達の想定にカラスによる空からの攻撃が含まれていなかったのと同様に、エルフによる空からの攻撃は我々も想定していなかった。
そもそもエルフの援軍自体が想定外である。
「ワグーの軍はどうしている?」
アトニーノの言葉に部下の女の一人が答える。
「スケルトン軍はレイス軍と青いローブのエルフ部隊と交戦中ですが、押されております」
「押されている?」
「はい、青いエルフ部隊は対アンデッド武器を所持しているらしくレイスは次々と倒されスケルトン軍も剣で応戦していますが・・・苦しい戦いと確認されております」
「ワグー自慢の骸骨動物型スケルトンビーストタイプはどうした?」
「はい、今回の城塞戦には持ってきていないようです」
「ちっ」
アトニーノは思わず舌打ちする。
「大口を叩いていても肝心な時に役に立たないジジイだ・・・、ゴドウィンの化物ゴーレムどもは?」
控えていた別の女が口を開く。
「丘から現れた騎兵部隊と交戦中
敵はどうやら魔法使いも含まれているらしく、フレッシュゴーレム達も魔法で攻撃を受け不利な状況です」
「ふん、あの巨体は見かけ倒しか
もっとも接近戦が出来なければこんなモノか
しかし魔法で攻撃とはな・・・吸血鬼ヴァンパイアどもは?」
更に別の女が前に進み答える。
「上空でカラスと一緒に空飛ぶエルフと交戦中
日中という事もあり吸血鬼達の実力が出せず手こずっているようです」
「・・・・パピリコの傭兵共はどうした?」
「恐れながら・・・」
パピリコの軍の動向を見ていた女が言いにくそうに答える。
「胸壁で戦闘していた傭兵は外に逃げ出してきております
一部は騎兵隊と交戦していますが・・・全体的に戦場から離脱しつつあります」
「・・・金で動いているだけの者達らしいな
利口と言えば利口だが、指揮官の命令無しで勝手に逃げるのは頂けないな」
アトニーノはそう言いながら腕を組む。
全体の動きとして決して良い状況ではない。
何より将を討ち取られた以上戦闘継続は意味を為さない。
デュラハン部隊に退却命令の知らせは行った。
何事もなければ直にここに戻ってこよう。
「さて、軍団長リシープがいればどういう対応を取るか?」
アトニーノは同い年の友の顔を思い浮かべ、ルービアンカから出陣する前に聞いた言葉を頭に響かせる。
今回の戦いはエルフの女を手に入れる為の下らない戦いだ。
そんなモノに命を賭ける必要はない。
不利な状況になれば撤退しろ。
デュラハン部隊を一兵でも失う事の方が違約金を払うよりも遥かに痛いからな・・・と。
「その中に私も含まれているのかしらね?」
そう考える自分に少し笑む。
「ふふふ・・・」
そして別の笑いがこみ上げてくる。
確かにその通りだ。
こんな下らない戦いに命を賭ける価値など何もない。
「撤退だ!!、デュラハン部隊が戻り次第ルービアンカまで撤退する!!撤退の準備をしろ!!」
「は!!」
言い終わると部下たちは陣所から散っていく。
「すぅーー・・・ふぅ~~・・・」
アトニーノは深い深呼吸をしてみる。
指揮官でありながら最前線に出て討ち取られた馬鹿のお陰で速やかに撤退できる事を喜ぶべきか。
・・・しかしやはり私に指揮官は務まらない。
補佐が一番性に合っている。
耳に掛かっている髪をかき上げながらアトニーノは心底そう思った。
「はいほー、どうどう!!」
中央門まで戻ってきたデュラハン部隊率いるシャールナは何やら戦況がひっくり返っている事を知り口元を僅かに上げる。
門の内側でエルフ達と対峙していたレイス達は一掃され、マリージュも居なくなっていた。
そして床にはダグバルドが着ていた衣服が落ちている。
「これはこれは」
シャールナは退却命令の意味を理解した。
「そういう事か・・・」
「そういう事だ」
戻ってきたデュラハン部隊の姿を見てルーアクシウムの長バーナードがシャールナに杖を向け淡々とした口調で言う。
「お前たちデュラハン部隊が引き返してきたという事は、どうやら先程上空に上がった赤煙は退却の合図のようだな」
「そうだよ?」
シャールナは無愛想に答えるとバーナードが此方に向けている杖を見て苦笑する。
「その杖は回復系魔法ヒーリングの杖だろう?、レイスには効いても私達には効かないよ?」
弓兵隊に矢を向けられながらも臆する事なくバーナードや弓兵隊を見渡しシャールナはどちらから矢が飛んできても直ぐに対応できるように気を張った。
「そうか、だがこのまま逃がすと思うか?」
バーナードの言葉にシャールナはニヤリとして答える。
「ならば、エルフの死体が増えるだけだ」
そう言うと床に落ちているダグバルドの衣服の側に馬を向ける。
その主のいない衣服の前には大剣を持ったガルボがいた。
「お前がダグバルド殿を倒したのか?」
「ああ・・・そうだ、だがなぜ俺だと?」
「分かるさ、あの杖でダグバルド殿は倒せない」
バーナードに人差し指を向ける。
「かといってエルフの剣や弓でも倒せない」
指を周りにいる弓兵隊にぐるりと向け自分の正面に上を向けて指を立てる。
「ならば誰が倒せるか?」
指をガルボに向けピタリと止めた。
「それはエルフなのにエルフ離れした大剣を持つ者の仕業と考えるのが妥当だろう?」
喋るシャールナをガルボは真っ直ぐ見ていたが、その容姿が余りにも奇妙だっので眉を寄せる。
デュラハン部隊を遠目で見た時と間近で見た印象が全然違う
近くで見ると非常に変だ。
首は胴体にはなく、喋っているのは左手に持っている生首である。
何というか・・・不自然極まりなく、もの凄く気持ち悪い感じがする。
ガルボのデュラハン評と同じくシャールナもガルボを見て奇妙な感覚に襲われる。
見た感じが普通のエルフと大差ない。
ヒョロヒョロのガリガリな棒である。
そんな者が大剣を手にダグバルドを倒したという。
「有り得ない・・・何の冗談だ?、一体」
ガルボを見ながら少し考えるシャールナだったが、こんな所でグズグズもしていられない。
「面白いな、エルフが大剣を手にしているとは
鍔の飾輪が四つ葉・・・それはクレイモアだな」
「そうだ」
「ダグバルド殿を倒したという事は何か特殊な魔法付与が施された剣なのだろう
しかしそれだけではないな、ダグバルド殿も達人ではないが剣もそこそこ使えた方の筈・・つまりお前は強いという事だ」
「いや・・別に・・」
「私は強い者が好きだ、今すぐにでも手合わせ願いたいが今は時間がない
私はデュラハンのシャールナだ、お前の名は?」
「ガルボだ」
「エルフのガルボか、その名前は覚えておくぞ
いくぞ、者共!!」
「了解!!」
シャールナとエルフのやり取りを黙って見ていたデュラハン部隊の女達は掛け声を上げ馬の向きを門の出口に向ける。
「せや!!」
シャールナの声と共に一斉に門から外に向かってデュラハン部隊は出て行く。
バーナードの合図を待っていた弓兵隊だっだが、バーナードが止めの合図を行う。
シャールナが言うようにデュラハン部隊と本気で戦えば死ぬのはエルフの方だろう。
何よりルーアクシウム守備隊に最早戦えるだけの戦力は残されてはいない。
退却していく敵を追って更に戦死者を出すのは避けたい。
「・・・援軍が来なければ一日と持ちこたえられなかったな
ハーフエルフに援軍を依頼した女王様は正しかった・・・」
ハーフエルフの参戦には否定的だったバーナードだが、現実は現実として受け止めなければならない・・・。
中央門から出たシャールナは外が大乱戦になっている事を知る。
青いローブや馬に乗った騎士みたいなエルフ達。
「どこからやってきたんだ?、奴らは?
まてよ・・・シティ・・・シティか?」
小さなエルフがシティが云々と言っていたのを思い出す。
戦況は分からないが魔王軍が不利に見えた。
敵味方入り交じっての乱戦だが幸い副長アトニーノの陣営へ戻るのは難しくはない。
もっとも、既に陣営に攻め込まれ副長が死んでいなければの話だが。
背後にあるルーアクシウムを振り返る。
少年の姿をした可愛い青年兵達には少なからず動揺した。
そして大剣持ちのエルフ・・・。
「私は可愛い者と強い者が好きだ・・・
そう、可愛い男と強い男がね
ふふ、また会おう!!」
シャールナの号令と共に混戦する戦場の中において、比較的手薄なルートに向かってデュラハン部隊は走り出した。
ーーーーーーーーーー
ルーアクシウムの外で混戦状態になっていた魔王軍とハーフエルフ軍の戦いだったが、アクアエルフの持つ聖水を利用した攻撃と、ヒューマンエルフの魔法攻撃により徐々に魔王軍は押され始め、今は敗走し始めていた。
「戦況はどうなっている?」
ゴドウィンは弟子に訪ねる。
「は、スケルトン軍団の長ワグー様、敵の矢を頭に受け戦死なされました」
「ふん、口だけジジイが」
ゴドウィンの言葉に構わずそのまま弟子は戦況を述べる。
「ヴァンパイア軍団のマリージュ様、ゾンビ軍団のアトニーノ様それぞれ戦場を離脱されました」
「そうか・・・まぁ、オカマはともかくアトニーノが無事ならそれでいい」
「グール軍団のパピリコ様、敵に包囲され討ち死になされました」
「奴らはどうでもいいわ、死体食いの気持ち悪りぃ連中だったし」
「ダグバルド殿の腹心五人衆はルーアクシウムを火の海にすべく全魔力を使い南瓜頭灯火ジャックオーランタンを大量に召喚
目下カボチャ共はルーアクシウムに向けて進撃中です」
「て事はいよいよ最後だな、ルーアクシウムを焼き払うか
これでエルフ軍も拠点として使えん・・か
まぁ、何だ・・さぁて、おれ達も撤退するか・・・」
その言葉に弟子たちの顔から安堵の色が浮かぶ。
「・・・な、訳ねーだろ!!」
ゴドウィンは立ち上がり弟子達に命じる。
「お前らは逃げろ、俺に付き合う必要はねぇ」
「マ・・・マスターはどうされるのですか?」
弟子の一人がゴドウィンに聞いた。
「俺か・・・くそったれの混血ハーフ野郎どもに舐められて、このままおめおめと引き下がってられっか
奴らはもう勝った気で油断してやがるだろうから、そこを叩く」
「し・・・しかしフレッシュゴーレムも半数が機能停止しています、これ以上は・・・」
弟子の言葉にゴドウィンは邪悪な笑みを浮かべた。
「・・・狂戦士クレイジーモードを発動させるぜ」
「!!」
その言葉に弟子たちは青ざめた。
『クレイジーモード』
通常、核の力は制限している状態だがその制限を取っ払い力を最大限にフル稼働させるモードである。
しかしフル稼働させた場合は核の寿命を著しく消耗させるため、すぐに壊れてしまうデメリットがある。
何より制御出来ないため、同じ核を埋め込まれた者以外の識別が出来なくなり暴走し始め敵味方の区別なく殺戮しまくるのだ。
「ここまで来たら出し惜しみしても仕方ないだろ
味方も撤退しているし丁度いい、アトニーノも撤退したしな」
アトニーノのスタイルを思い出し、にやけるゴドウィン。
そんなゴドウィンは「あれ?」・・・と思う
「おかしいな?、俺は10代後半のガキには興味なかった筈なんだが・・・」
確かにアトニーノの事を考える事はあったが、ここまで気持ちが高まるの初めてだ。
「ん~? なんだろうな?」
首を捻るゴドウィンだったが、アトニーノの顔や肢体や胸や尻や匂い・・・そして声や動作や髪の毛のサラサラな感じ。
それら一つ一つを思い出すだけでニヤけてきてしまう。
接する時間は余り無かったし、会話も大してしてはいないのだが・・・。
「まいったな」
ゴドウィンはそんな自分自身に困惑し頭を掻いた。
ドゴオォォォォォォン!!
巨大な棍棒が人間ヒューマンエルフを襲う。
横から棍棒で叩かれたヒューマンエルフは近くにいた味方共々吹っ飛ばされる。
「くそ!!、どうなっている!!」
ヒューマンエルフを率いるゼナンドルはフレッシュゴーレムの突然の豹変ぶりに驚いた。
先ほどまでは規則的な動きで次にどう動くのかある程度読めたが、今はまるで荒れ狂う暴風雨である。
さっきまでのフレッシュゴーレムは魔法の攻撃にたじろいでいたり、ある程度攻撃を受けると機能停止したが今は関係なく突進してきて棍棒を振り回し暴れ回る。
正直手がつけられない。
最初の犠牲は動きを止めたフレッシュゴーレムを観察する為に近寄った百戦錬磨のクテイシだった。
再び起動したフレッシュゴーレムは立ち上がり、頭上から振り下ろされた棍棒の一撃を受けて即死した。
「騎魔隊前に!!」
魔法の杖を持ち騎上から魔法で戦う魔術隊。
先程までは彼らのつかず離れずの戦いでフレッシュゴーレム達は沈黙したが、今は違った。
炎ファイアーが当たり肉が焦げても構わずに突進してくるフレッシュゴーレム達に騎魔隊は蹴散らされる。
「騎弓隊、攻撃だ!!」
ゼナンドルは剣を引き抜く。
騎弓隊から一斉に矢が放たれる。
しかし矢はフレッシュゴーレム達の肉体に刺さるが余り効果はない。
「騎兵!!、隊列を整えろ!!
狙いは奴らの足だ、足を斬って動きを止めるぞ!!」
「おおーーー-----!!」
騎兵隊は鼓舞の叫び声を上げ一斉に剣を引き抜いた。
「かかれーーーー!!」
馬をフレッシュゴーレム目掛けて突進させる。
ブオォォォォォォン
棍棒を横に振るフレッシュゴーレムの攻撃を避ける騎兵。
だが、避けた先に別のフレッシュゴーレムの棍棒が繰り出される。
ドグシャァァァァッッッ!!
馬もろとも吹き飛ばされる騎兵達。
あちこちから騎兵の叫び声や馬の鳴き声が聞こえる。
「くそ!!、連携攻撃か!」
ゼナンドルは棍棒の攻撃を避けながらも剣を振り一体のフレッシュゴーレムの片足を斬り飛ばす。
ドズウゥゥゥゥーーンン!!
「ギイェェェェ---!!!!」
さすがにたまらず大きな声で叫ぶフレッシュゴーレム。
「痛みはやはりあるのか、死体の癖に・・・ん?」
ドガァァァ!!!
一瞬の油断から棍棒の一撃を真正面に受けたゼナンドルは馬と一緒に吹き飛んだ。
そして吹き飛んだゼナンドルはそのまま地面に激突し気を失う。
スケルトン軍団と戦っていた水精霊アクアティックエルフ達だったが、南瓜頭灯火ジャックオーランタンがルーアクシウムに向かって進んでいる事を戦いの最中目撃する。
「まさか、ルーアクシウムに火を放つつもりか?」
水の守手たる水精霊アクアティックエルフを率いるリーダー、キィー・ン・ルは魔王軍の企みに目を伏せる。
「弓兵隊、ジャックオーランタンを狙え」
静かに命令を下すも、アクアティックエルフとスケルトンの戦いに割って入ってきたフレッシュゴーレムによって遮られた。
棍棒を振り回しアクアティックの剣兵はおろかスケルトンも殴り倒していくフレッシュゴーレムにキィーは何が何だか分からないという表情を見せたが、弓兵に命ずる。
「ランタンは後だ、あれらを先に倒せ」
しかし・・とキィーは考える。
フレッシュゴーレムは核を破壊しなければ完全に倒したとは言えない。
しかし、恐らく核は何か特殊な素材で防御され剣や弓は核に届く前に遮られ破壊は困難だろう。
倒す・・・というより機能を完全停止させるなら術者を探し出して倒すしかない。
「さて?、その術者はどこにいるのだろう・・か?」
指を顎に当て、キィーはフレッシュゴーレムを操っている主がどこにいるのか考えた。
気を失っていたゼナンドルは意識が戻ってきた。
「しまった!!」
まだ朦朧とする頭とふらつく体を起こして周囲を見渡す。
見るとヒューマンエルフは健在で、騎兵・騎弓・騎魔隊がフレッシュゴーレムと戦っている最中だ。
どうやら数分ぐらいしか気は失っていなかった感じである。
見れば自分の着ている鎧はヘコんでいるものの、命に別状はない。
「頑丈な鎧だな、流石はドワーフ製だ・・・」
安堵したのも束の間、一体のフレッシュゴーレムがゼナンドル目掛けて突進してきた。
「くそ!!」
剣を持とうとしたが剣は周りにない。
どうやら飛ばされた時に別の方向に飛んでいったようだ。
「・・・・死ぬ」
そうゼナンドルが覚悟した瞬間。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!!
数十本の矢がフレッシュゴーレムの頭上から降り注ぐ。
たまらず倒れ込むフレッシュゴーレム。
矢が放たれた方角を見てゼナンドルは思わず口元を緩ます。
その目の先には空中に浮遊するフェアリーエルフ達の姿があった。
一方、フレッシュゴーレムは一体だけだがルーアクシウムにも侵入してきていた。
エルフの鎧を着ていたバーナードだったが棍棒の一撃を受け鎧は砕け、飛ばされた先の壁に叩きつけられ全身の骨が砕けて絶命した。
しかしその鎧すら着ていないガルボだが逃げる訳にはいかない。
「かかってきやがれデカブツ!!」
クレイモアを構えフレッシュゴーレムに挑むも体格差が有りすぎる敵を前に流石に撃って出られない。
棍棒を避けながらも何とか懐に飛び込むチャンスを窺う。
弓兵の矢がフレッシュゴーレムを貫く。
しかし、ビクともしない。
「くそ!!、僅か・・・ホンの僅かな一瞬の隙があれば!!」
「ふ~ん、隙を作って欲しいの?、お兄さん」
ガルボの呟きに間の抜けた声で答える少年がいた。
「・・・・え!?」
子供がこんな所にいる事に驚くガルボ。
「何でこんな所に子供が!?」
「えっと・・・僕は小人リトルエルフだよ」
「え?・・・あ・・・ああ、そうか」
一瞬何の事か頭が働かなかったガルボだが、少し考えて適当に納得し答えておく。
「じゃあさ、僕が囮になるんでお兄さんはその凄そうな剣でやっつけちゃってよね!」
リトルエルフは腰に巻いて掛けていた鞭を手に取りビシッ!!と張って鳴らす。
「え!?、あ・・・ああ」
呆気に取られているガルボを尻目にリトルエルフは軽い足取りでフレッシュゴーレムに近づいていく。
「じゃあ、いっくよ~」
トルンの鞭が暴れているフレッシュゴーレムに踊りかかった。
ーーーーーーーーーー
ホアン・・ホアン・・ホアン・・
歩いているのか浮いているのか分からない二本の足でとんがり帽子を被った女は中央門の正面に来る。
女はまだ若い顔立ちをしている。
年齢的には10代後半か20代前半ぐらいだろう。
その横には同じくとんがり帽子を被り、こちらは完全に浮いている足のない白い小さな幽霊がガボチャの提灯を持ってニヤケていた。
「ロックス!!、ここがルーアクシウムって所?」
女は幽霊に話しかける。
「左様です、ポピーラ様
そもそもここは3000年ほど前に森林フォレストエルフが暗黒ダークネスエルフと雌雄を決する為に作られた要塞です」
「へ~」
幽霊の説明に女は興味なさ気に答える。
「3000年前、ある事をきっかけにフォレストとダークネスのエルフが対立し戦争が起こりました」
「へ~」
「その時にこの要塞に立てこもったフォレストエルフは40日間耐え、とうとうダークネスエルフを諦めさせたとか
つまり難攻不落の最強無敵な要塞という事になります」
「へ~」
「フォレストエルフは今は木ウッドエルフと呼び方を変え、ダークネスエルフも暗ダークエルフと呼ばれるようになりましたが、その時の戦いから始まった対立は今だに続き和解はする事なく3000年間対立し続けています」
「へ~」
「私の見解ではこのルーアクシウムは・・・」
「ロックス!!」
「はい、何でしょう? ポピーラ様」
「話が長い、ウザイ、キモイ」
「これは申し訳ございません、しかし最後のキモイというのは・・」
「気にしないで、ただのノリよ」
「左様ですか・・・」
「ちなみに、フォレストとダークネスが争った理由って何なの?」
ポピーラの問いに幽霊は神妙な面持ちで答える。
「男です」
「あっそ」
男を巡るフォレストとダークネスの両女王の女の争い
フォレストエルフ達は余りのバカバカしさの為にあえて記録には残さなかった。
ただ、その当時の当事者達が死んで居なくなっても民族の対立構図は消えず3000年間反目し合うという事になる。
そして世代を重ねる毎にその当時の詳細は忘れ去られ、文献に詳しい事が一切記載されていない謎の争いとして現在では歴史学者がその謎を解明すべく研究や議論に明け暮れているのが現状である。
そう、その争いは今のエルフの歴史書には理由は定かではないがウッドとダークの民族対立が起こった最初の戦いとして記載されているのみなのだ。
ドゴォォォォォォォンッッ!!!
二人のやりとりの背後でフレッシュゴーレムが棍棒を手に暴れている。
「五月蠅いな・・・」
「左様でございますな」
ポピーラは五月蠅い音に嫌な顔をして振り向く。
丁度そのフレッシュゴーレムと目が合った。
「ゴガアァァァァァァ!!!!」
フレッシュゴーレムは大きな叫び声を発し、二人目掛けて突進してくる。
「ヤバいですね~」
幽霊はのんびり口調でポピーラに言う。
「ヤバいわね~」
帽子のツバを親指と人差し指で摘み深々と被っていたとんがり帽子をフレッシュゴーレムの全身が見えるぐらいまで上げた。
ブーーーン
球形の泡のようなモノがフレッシュゴーレムの全身を包む。
ボゥッッ!!
球体に包まれたフレッシュゴーレムを青い炎が襲い全身を焼く。
「コギャアァァァァァァァーーー!!!!」
球体の中でフレッシュゴーレムが絶叫するが、球体の外には音も熱も漏れ出さず、外からは暴れながらも静かに燃えるフレッシュゴーレムを観察する図である。
肉は焦げ、溶け落ちた肉汁も沸騰し蒸発する。
フレッシュゴーレムは肉体も核も炭と化し灰になり、その灰すら消滅した。
地獄の青い業火。
温度はどの位あるのか?
おそらく10000度以上だろう。
「呆気ないですね」
「火葬屋じゃないんだけどね、私」
ポピーラはそう言うと門に向かって歩き出す。
「・・・本当にルーアクシウムを火の海に?」
従いながら幽霊はポピーラの顔を見る。
「契約に従えば・・・ね
ただ、何か嫌な予感がするわ」
クィッととんがり帽子を再び深く被り直す。
「さぁ、行くわよ」
そしてポピーラと幽霊は門をくぐった。
ズバァッ!!
ガルボのクレイモアがフレッシュゴーレムの右足を斬り飛ばした。
「グガガアァーーーーー!!」
ちょこまか動くトルンに翻弄されガルボから目を離した隙にガルボは接近し鋭い刃で一撃を入れる。
片足を失ったフレッシュゴーレムは倒れ込んだ。
「やったね!、お兄さん」
トルンはニンマリとし、ガルボもまた息を吐く。
片足を失ったフレッシュゴーレムは体を引きずりながらも尚も攻撃してこようと足掻いていたが、突如赤い炎に包まれ絶叫する。
「更に火力を上げるわよ」
女の言葉に火は激しさを増し勢いよく燃え上がった。
火だるまになったフレッシュゴーレムは地面をのた打ち暴れたが、やがて叫び声はなくなり消し炭となって崩れ落ちた。
パチパチパチ
女は手を打ちガルボを見る。
「剣で勇ましく戦い勝利する、男らしくてカッコイイわね」
ニコッと微笑む女にガルボは剣を構える。
「何だお前は?、また新手の魔王軍か?」
切っ先を女に向けて問うが、ガルボは相手が女性である事に戸惑いを感じた。
「いいわねぇ、その如何にも叩っ斬ってやる!!・・みたいな感じ」
「答えろよ!!」
「そうよ?、・・・と言ってもさっき召喚されただけの存在だけど」
「それは一体どういう・・・」
「あーー!!、誰かと思えばポピーラお姉ちゃんとロックスじゃん」
ガルボの声を遮ってトルンが大きな声を出す。
うん、知ってたわ。
門をくぐった時から小人リトルの存在は・・・。
ポピーラは顔を引きつらせて、そう心で叫ぶ。
嫌な予感はやはり的中した。
「これはこれはトルン様、こんな所で会うとは奇遇ですね」
幽霊がトルンに挨拶した。
「だよね!!、でもどうしてこんな所に?」
トルンの問いにポピーラが答える。
「・・・いや、ただの散歩よ」
「散歩?」
「散歩がてら魔王軍とエルフ軍の戦いを見にきただけよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
トルンとポピーラのやり取りをニヤニヤしながら見る幽霊と何だか分からないまま剣の構えを少し緩めるガルボ。
「え・・・と、知り合いなのか?」
ガルボがトルンに聞く。
「うん、仮装の祭りでよく出会うもん
あと、色々あって仲良くなった魔界の火の守手さん」
「魔界って・・・、やっぱり魔王軍の一人なんじゃないのか?」
「え・・・そうなの?」
ガルボの話を聞いてトルンはポピーラを見る。
「・・・は~、仕方ないなぁ
さっきスペクター達に召喚されてやってきたのよ
契約はガボチャ軍団を率いてルーアクシウムを焼き払う事
報酬は最高級お菓子五年食べ放題と財宝よ」
それを聞いてガルボはポピーラを睨む。
「やはり魔王軍に組する奴か
ルーアクシウムを焼き払う?、やれるものならやってみろ
俺を倒してからな!!」
ガルボは剣を構え直し身構える。
「う~ん、やっぱりカッコイイなぁ」
そのガルボの言葉と姿を見て、ポピーラの心と体にうっすらとした火が灯る。
「ねぇ、ポピーラお姉ちゃん
本当にこのルーアクシウムを燃やすの?」
「え?、う~ん」
トルンの問いにポピーラは少し考えるふりをする。
「嘘だよね?、ポピーラお姉ちゃんはそんな事しないよね?」
泣きそうになりながらポピーラの目を見て訴えてくるトルン。
そうそう、その顔。
既にポピーラの中ではどうするか決まっているのだが、その顔が見たくて少し引っ張ったのである。
「ロックス!!」
「はい!!」
「魔王軍の目的は何だったかしら?」
ポピーラの問いに幽霊は神妙な面持ちで答える。
「女です」
「あっそ」
ポピーラは言いながら懐から契約書を取り出す。
ボオォォォ・・・メラメラメラ・・・
手に持っていた契約書は勢いよく燃え上がる。
「これで契約破棄よ、向こうのも燃えているだろうから計画が失敗したのは判るわね」
「お・・・お姉ちゃん!!」
涙を溜めた目で愛くるしい笑顔を向けポピーラを見つめてくるトルン。
そうそう、それ。
その笑顔も見たかったのだ。
「トルン、あんたがここにいるって事はビナーズやポイタン達も来ているって事だよね?
流石にルーアクシウムごと消し炭にはできないわ」
「うん、だよね
お姉ちゃんは優しいから」
「借りを返しただけよ、ビナーズにそう言っておいて」
「は~い」
「うむ、これにて一件落着ですね」
幽霊が締め括ろうとしたが・・・
「外にはまだ魔王軍がいるんだろ?、全然一件落着じゃないぞ!!」
ガルボに突っ込まれ、それについて幽霊が答える。
「正確には一部の魔王軍ですね
残っているのはフレッシュゴーレムぐらいですけれどね」
「本当か!?、外では収束に向かいつつあるのか?」
驚くガルボだが、まだ強敵は残っている。
「フレッシュゴーレムか・・・手強いな」
そう考え眉間に皺を寄せるガルボは、ふとポピーラを見た。
「あれ?、私見つめられてる?」
ガルボと目が合ったポピーラはガルボから視線を外しそっけなく横を向く。
「まてよ・・・」
ガルボから名案らしきモノが過ぎる。
「なぁ、ポピーラさんだったっけ?」
「は・・・はい!!」
突然名前を呼ばれてポピーラは緊張した面持ちで返事した。
「さっきの炎はアンタの魔法だよな?」
「ん・・・そうだよ?」
「力を貸してくれないか?」
「・・・フレッシュゴーレムを倒す為の?」
「そう」
ポピーラは少し考え、笑みを見せ口を開いた。
「いいけど、高いですよ?」
その言葉にガルボは困った顔をする。
「う~ん、お金やお菓子は持ってないんだ・・弱ったな」
「うふふ、大丈夫ですよぉ
お金やお菓子は必要ないからぁ」
「え!?」
訝るガルボにポピーラが答える。
「わかった、力を貸してあげる」
ポピーラは上目遣いにガルボを見、甘い声で囁いた。
ーーーーーーーーーー
ルーアクシウムの外側で暴れていたフレッシュゴーレム達は一斉に燃え上がった。
ポピーラの南瓜頭灯火ジャックオーランタンの群れが戦場に拡散し、フレッシュゴーレムを標的に火を放ったのだ。
「火を放ったら即帰還!!」
ポピーラの命令通り、ジャックオーランタンは役割を終えるとその場で元いた世界に消え去った。
ダラダラ残っていて事情を知らないハーフエルフ達に倒されたりするのが面倒だからだ。
「呆気ないですね」
胸壁から眼下を見渡し幽霊が言う。
「確かに・・・俺達の戦いは何だったのかって感じだ」
隣で見ていたガルボが答える。
「生まれ持っての力の差よ?」
ポピーラが当然だと言わんばかりに言う。
「しかしこんな事して大丈夫だったのか?」
ガルボの問いにポピーラは怪訝な顔をする。
「ん?・・・な~に?」
「魔王軍を攻撃したって事をさ、魔王の怒りを買ったりするんじゃ・・・?」
依頼しておいて何だが、今更ながらガルボはポピーラの身を案じる。
「う~ん、確かに・・・困ったわ」
ポピーラは目を潤ませ、ガルボの目を見る。
「守って下さる?」
弱々しい声でガルボの手首に自分の手を触れさせる。
「え?・・いや・・あの・・」
ポピーラの言葉と仕草にガルボはあたふたする。
「は は は
ご心配には及びませんよ、ガルボ様
ポピーラ様自体が魔王みたいな存在なのでゼルギネスなど恐くも何ともありません」
幽霊もまた当然たと言わんばかりに言い放った。
ギロリ
手を引っ込め、余計な事を・・・という表情で幽霊を睨むポピーラ。
「ゼルギネス?」
「そうです、通常あなた方が「魔王」と呼んでいる者の名です」
ガルボの問いに答える幽霊。
「ゼルギネス それが魔王の名か・・」
ガルボが魔王の名前を呟いていると、ポピーラがガルボの手を取る。
「心配してくれてありがとう、ガルボ
でも大丈夫よ?、心配しないでね?」
「え・・・でも」
「巷では恐れられているけれど、私から言わせれば女好きな魔族にしか過ぎないから」
「正確には女体好きな御仁ですね、女の扱いは雑らしいので」
そうポピーラの言葉を訂正し、幽霊は手に持つパンプキンの提灯を揺らしながら笑った。
「そうなのか?」
魔王については何も知らないガルボは二人の会話に驚く。
「・・・さっき言っていたポピーラさんが魔王みたいな存在っていうのは?」
いつの間にか「さん」付けに格上げされているポピーラ。
「それについてはやはり私がご説明しましょう」
幽霊が張り切って答える。
「ポピーラ様はこう見えて最上位の魔女様なのです
ゼルギネスを凌ぐほどの魔力と魔術
炎を自在に操る最強の存在にあらせられます」
「・・・・え!?」
ガルボは話についていけずにポカンとしたが、目の前で見せられた炎の凄さの前に納得せざるを得ない。
「つまりポピーラさんはゼルギネスよりも強いって事か?」
「左様でございます」
「魔王の配下じゃないのか?」
「違いますよ」
「んんん!?」
ガルボは混乱した。
魔界の事については実は殆ど知らない。
ただ魔王と言うからには魔界全土を支配していて、魔界の生物は全て魔王に服していると思っている。
だから幽霊の話はガルボの常識として考えている範囲から外れていて理解が追いつかない。
「魔王は魔界全土を支配しているんだよな?」
「ああ・・・違いますよ」
「え!?」
「違います、魔界は広大で各階層に分かれている世界です」
「・・・どういう事だ?」
「まぁ簡単に言えば広いんですよ、とてつもなくね」
「広いんだな、それは分かった」
「ゼルギネスが完全支配している土地は魔界の40パーセントぐらいですね
後の20パーセントは間接支配に止まっています」
「・・・・・・」
ガルボに取っては驚きの話だが黙って幽霊の話に耳を傾ける。
「残りの40パーセントはゼルギネスが支配していない、もしくは支配できない土地ですね」
「支配できないって・・・何でだ?」
「魔界には時としてとてつもない力を持った者達が誕生します
彼らは支配しない代わりに支配もされない自由フリーの魔族達です
その者達が住まう土地を支配する事が出来ないのはお分かりですね?」
「・・・つまり、ポピーラさんがその一人に当たると?」
「ピンポーン!! ご正解です
何せ桁外れの力の持ち主達ですからね
ゼルギネスも手は出せず、その他の魔界の者達からもその地にいる者は畏怖の対象とされています」
「凄いな・・・」
「そうです、凄いのです
そもそもポピーラ様を召喚出来る者など最上位の魔術師でも難しい事で、今回は高位レベルのスペクター五人掛かりでやっとこさでしたからね
ジャックオーランタンを大量に呼び出したのは実はポピーラ様ですし」
「そうなのか?」
「そうなのです」
「敵にならなくて良かったな・・・」
「ですよ、正直ポピーラ様単独でもエルフ界を全滅させる事も可能・・・」
「ロ~ックス~」
ポピーラの笑顔と共に伸ばした声が飛ぶ。
「はい!!、申し訳ございません
一部不適切な発言がありました、お許し下さい・・・」
ポピーラに長年付き従っているロックスは今の笑顔が本気の怒りを含んでいる事を知っているため、シュンとなる。
そのポピーラと幽霊のやり取りを見ながらガルボは今までの話を合わせる。
そして目の前にいるこの女性はとてつもない存在なのではないかと思い肝が冷える感じがした。
「怖い?」
手に触れていたポピーラが不意に顔を近づけて囁いてきた。
「い・・いや・・別に・・」
顔を近づけてこられたガルボはやはりあたふたする。
そもそも女性にこれだけ間近に顔を近づけてこられたのは初めてだ。
「ほんとう?」
「あ・・・ああ」
「ねぇ・・・」
「な・・・なに?」
「私の名前を呼んで?」
「え・・・ポピーラさん・・・だよね?」
「『さん』はいらないわ」
「え・・と、ポ・・・ポピーラ」
「もう一度」
「・・・ポピーラ」
「うん・・・」
潤んだ瞳でガルボを見つめるポピーラ。
「ねぇ、ガルボ」
「な・・・なに?」
「キスして」
「え・・・・」
突然の事に頭が真っ白になるガルボ。
そもそもキスなどした事がない。
「えーと・・・」
ガルボが困っているとポピーラが笑みながら優しい声で言う。
「初めて?」
「えーー、あーー・・はい・・・」
それを聞いたポピーラはそっと両手をガルボの頬に添える
そして。
ゆっくり唇をガルボの唇にあてた。
「見~てない 見~てない」
幽霊はパンプキンの提灯で目を隠しニタニタした顔で呟く。
時間にすればもの凄く短い時間の中で二人は唇を合わせ・・・そして離す。
キスの瞬間、咄嗟に目を閉じたガルボだが離された時に再び目を開いた。
そこにはガルボを見つめるポピーラの顔があった。
「あ・・・・」
何かを言おうとしたが、ガルボは言葉が出てこない。
少し見つめあった二人だが、フィッとポピーラは視線を外しガルボに言う。
「ここでの戦いはもう終わりね」
「え・・・ああ、そうだな」
「じゃあ、私もそろそろ帰るね」
「・・・・え?」
ガルボが驚いた顔をしたのを見てポピーラは笑む。
「私はここの住人じゃないから」
「あ・・・ああ、そうだけど・・・」
「だけど?」
「もう少し居られないのかなって」
「いてほしい?」
「ん・・・ああ、まぁ・・・お礼も言いたいし」
「フレッシュゴーレムの件?」
「だな、君のお陰でルーアクシウムは救われた」
「うふふ、皆の力よ?」
「君の力も大きい」
「かな?、でももう帰らないと・・・いつまでもいられないから・・・」
「どうして?」
ガルボの問いに幽霊が答えた。
「召喚された場合は制限時間があるのです
制限時間内に帰還しないと大変な事になるのですぞ!!」
「そ・・・そうなのか・・・それは・・・」
「そう・・・だから・・・ね?」
「分かった・・・じゃあ無事で」
「ありがとう」
フォン・・と印を描き魔法陣を足元に出現させるポピーラ
魔法陣は光り輝きポピーラと幽霊の体を包み込む。
「あ・・・あのさ、また会えるかな?」
光りに包まれたポピーラがうっすらと笑む。
「また会いたい?」
「あ・・・ああ」
ポピーラの問いにガルボが頷く。
「多分ね・・・」
「そ・・・そうか・・・」
「それじゃ、また」
「ああ・・・また」
魔法陣はいっそう光り輝き二人を光りの中に取り込む。
パァァァァァーーーー!!
眩い光が周囲を照らし、その眩しさにガルボは目を閉じる。
・・・・・
光が収まりガルボはゆっくりと目を開く。
魔法陣は無くなっており、ポピーラも幽霊も居なくなっていた。
「・・・行っちまったな」
ポピーラの唇の感触が今だに残っている・・・。
僅かな出会いでしかなかったが、ガルボは心の中の何かが抜け落ちた感じがして力が抜けた 。
「な~んでもう少しいなかったんですか?」
幽霊はポピーラに言う。
「だってさ~、あのままいたら離れたくなくなるんだもん」
二人が今いる場所は魔界・・・ではなくルーアクシウムのレイス軍の陣営近くである。
前もって魔法陣を張り、ルーアクシウムを火の海にした後に迅速に帰ってこれるようにしていたのだ。
召喚による時間制限云々は幽霊が気を利かせた嘘であり、時間制限など元々ない。
「それに後片付けも終わっていないからね」
「後片付け・・・ですか?」
幽霊はポピーラの様子を窺いながら問う。
「奴らを血祭りにあげる」
「奴ら・・・ですか?」
「そうだ、奴らだ・・・」
そう言うとスゥ-とポピーラの顔から上気した顔が引く。
「ロックス、スペクター共を血祭りにあげるぞ
契約破棄云々を漏らされるとビジネスや私の沽券に関わる」
そう言いながら冷徹な笑みを浮かべるポピーラ。
「はいはい、と言ってもスペクターは霊体だから血なんか出ないんですけどね」
「・・・・・」
何も答えずポピーラはレイス陣営に向かって歩き出す。
幽霊のロックスは気まぐれな主人に呆れながらながらも、その後に付いていった。
ーーーーーーーーーー
ルーアクシウムにおけるエルフの勝利は近隣の里に瞬く間に知れ渡る。
戦闘終了後、負傷者の手当てや里で破損した箇所の修理が速やかに行われた。
エルフの遺体の回収及び敵の死体の火葬もまた同時進行で行われ、魔王軍の残党が付近に潜んでいないかの探索も始まる。
そして戦闘から二日が過ぎ、エルフの女王率いるエルフ本軍が到着。
被害状況及び死傷者数が女王に報告された。
女王がルーアクシウムに来たその夜、急使が到着。
急使の携えてきた書状に目を通し、女王メリーカは呟いた。
「終わったか・・・」
書状にはダークエルフ軍によってルービアンカが奪還された事が記されていた。
丁度ルーアクシウム戦最中の頃にルービアンカをダークエルフ軍8000が急襲。
ルーアクシウムに戦力を割いていた魔王軍は急襲に対応できず次々と兵は倒れていった。
激しい戦いの末、大将ナーガイアを討ち取り残った魔王軍は魔界へ敗走した・・・との事である。
翌日、戦死者を悼む鎮魂の儀が執り行われエルフ達は喪に服す。
その次の日に、ガルボは女王に呼ばれ城に赴いた。
「お前がガルボか?」
「はい」
女王の面前で片膝を付き恭しく頭を下げ答えるガルボ。
「よいよい、面を上げよ
堅苦しい事は抜きだ」
その女王の言葉にガルボは恐る恐る顔を上げる。
流石のガルボも女王の前では恐ろしく緊張する。
「大剣を持ってスペクターのダグバルドを倒したって?」
好奇の眼差しでガルボを見て問うメリーカ。
「はい、これです」
ガルボはクレイモアを両手に持ち目の前に掲げる。
「ほう・・、それは・・、ルーネメシスにあったクレイモアだな?」
「はい、ルーネメシスにあったクレイモアです」
ガルボの答えに内政長のウィンダムが口を開く。
「それはルーネメシスの宝として里に保管されていた筈だが・・、ルーネメシスの里の長から持ち出す許可は取ったのだろうな?」
「あ・・・その・・・」
ウィンダムの言葉にガルボは言葉を詰まらせる。
「もしや勝手に持ち出した訳ではないだろうな?」
「あの・・・いえ・・・はい・・・」
ガルボは弱々しく答える。
そもそも何故クレイモアを持ってきたのかガルボ自身もよく判っていないからだ。
「これは問題だな
窃盗の罪に当たるぞ、分かっているのか?」
ウィンダムの言葉にただ恐縮するしかないガルボ。
と
「ふ・・・ふふふふふふ・・・」
おもむろに女王が笑いを漏らす。
「面白いなガルボ、剣に導かれたのか?」
女王の言葉にガルボは「はっ」となる。
導かれた・・確かにその言葉はその通りかも知れない。
「はい、確かに導かれたのかも知れません
実はその時の事はよく覚えていないのです」
女王は「ほぉ・・・」と呟く
「真の名剣は持ち主を選ぶと聞く
剣に選ばれし者、端から見れば勝手に持ち出したように見えるので宜しくはないが・・・
しかしそれが結果としてルーアクシウムを救った事に繋がるから面白いな」
「しかし、罪は罪なので私はどんな罰も受けるつもりでございます」
そのガルボの言葉に女王は笑む。
「そうだな、ならばそれについては罰を受けてもらう
それで良いな?、ウィンダム」
女王はウィンダムに向かって言う。
「・・・はっ」
ウィンダムは何か言いた気だったが、その言葉のみでその件は終わらせた。
「心配しなくても形だけだ」
・・・・!?
ガルボの耳元で囁くような女王の声が聞こえ、ガルボは驚いた。
そんなガルボをメリーカは面白がりながら言う。
「それとは別の話だが、今回の活躍に見合った報酬は用意するので楽しみにしていよ」
「・・・いえ、大した活躍などしておりませんので報酬は・・・」
「何を言っておる?、2軍とはいえ敵軍の将を討ち取ったのは手柄だ
しかもスペクターのダグバルドならば尚更だ」
「・・・はぁ」
「遠慮せずに受け取れ、英雄殿にタダ働きさせたとあっては私は歴代の女王に会わせる顔がない」
「・・・はい」
そう女王に言われればガルボも素直に返事するしかない。
「それはそうと、シルティアは元気にしているか?」
「・・・え?」
ガルボは唐突に女王から出た言葉に目を丸くさせる。
「シルティアの事をご存知なのですか?」
「知っているぞ・・・とはいってもシルティアが子供の頃だけれどもな」
「はい、元気にしています」
「そうか、それは良かった」
「あの・・・女王様、なぜ私がシルティアに関わる者と?」
「ん?・・竜の加護を受けし者だろう?、お前は」
「はい、しかし・・・それが判るのですか?」
「無論だ、お前から竜戦士ドラゴンウォーリアーとして竜に与えられた力を感じる
オーラと言うのか・・・うっすらともそれが見えるからな」
「竜・・・女王様はシルティアが竜である事をご存知なのですね?」
そこまで話して女王は「おや?」・・・と思う
何か話が噛み合っていない、これは・・・。
「ガルボ、すまないがシルティアの事を詳しく話せ」
女王の言葉にガルボは頷き、出会った時の状況からシルティアが竜である事をついこの間知った事、そして現在シルティアはルーネメシスにいる事を話した。
「ああ、そうか」
メリーカは心の中で苦笑する。
このガルボがシルティアの想い人かと思ったが、違うのだ。
ノートンという青年がそうらしい。
「なる程、なる程」
・・・と一人納得するメリーカと今一会話が掴めないで困惑するガルボ。
「ガルボ、一つ聞いてよいか?」
「はい、何でもお聞き下さい」
「結婚はしているのか?」
「・・・・は?」
これまた唐突な女王の質問にガルボは面食らう。
「いえ・・・しておりません」
「何だ、独身か」
「はい」
「好きな女性はいるのか?」
「いえ・・・おりません」
「ほぅ?、お前のような男を独りにさせておくとはエルフの女たちは見る目がないな」
「あ・・・いえ・・・」
「まぁ、それにしても大剣を手に敵を倒せる者がエルフにいて嬉しく思うぞ」
「いえ、私の力では持ち上げるのが精一杯で振り回せすのは無理です
恐らく竜の力の賜物だと思います」
そのガルボの言葉にメリーカは「ん?」とした表情になる。
「見たところアンデッドを攻撃できる対アンデッド用の魔法と、攻撃魔法を無効化する対攻撃魔法の防御しか掛かっておらんようだが・・・」
「え!?」
女王の言葉にガルボも不思議そうな顔になる。
正直剣を軽々と振り回せたのも竜の力だと思っていたが、どうも違うようだ。
メリーカは少し考え、口を開く。
「或いは、それもまたクレイモアの意志なのかも知れない」
「クレイモアの・・・」
手に持つクレイモアを見るガルボ。
クレイモアは何も語らないが、心なしか重くなった気がする。
それはまるで「ようやく気づいたか」と言われているような・・・そんな気がした。
そのクレイモアを見ながらメリーカはかつての就任式を思い出す。
就任式に招待された竜王家を護衛する竜騎士ドラゴンナイト達。
巨大な大剣を背負い、規則正しく整列するその姿は圧巻であった。
メリーカの大剣や大型の武器好きは実はその時から始まったのだ。
「・・・あい、分かった
今日はもう良い、御苦労であった 下がってゆるりと休むがよいぞ」
もう少しガルボと話をしていたいが、他にも色々とする事があるため何時まででもこうしてはいられない。
「はい、それでは失礼致します」
ガルボは一礼し部屋を退出する。
ガルボがいなくなってからメリーカはウィンダムに話しかけた。
「さてと、牢にいる者と話をするか
名は・・・何だったかな?」
「はい、ゴドウィンという者です」
切り札のフレッシュゴーレムを失ったゴドウィンは戦場から逃げ出す際にアクアエルフのキィー・ン・ルらに見つかり生け捕られ牢に捕虜として入れられた。
メリーカ到着時にメリーカとゴドウィンは対面し最初は噛みついていたゴドウィンだったが、ルービアンカ奪還の報に諦めたのか大人しくなり、色々と口を割ったのだ。
その中でメリーカの目を細めさせたのはエウンジークの王妃や王姉の話である。
ルービアンカに急使を送りそのエウンジークの三人の女の保護を現在ルービアンカを管理しているダークエルフ軍に依頼する。
ダークエルフ急襲時にゴドウィンの部下が三人を運べる筈はなく、戦闘に巻き込まれていなければ必ずルービアンカに居る筈なのだ。
報せは直ぐに来た。
それらしきフレッシュゴーレムの女達を保護しているのでルーアクシウムに送るという報せ。
どうやらダークエルフ側もその存在に困惑していて、どうしたモノかと思案していたようだ。
「人間界の王家の者だ
丁重に出迎え火葬し、永遠の眠りについて頂く」
「納骨はどこに?」
女王の言葉にウィンダムが墓の事について訪ねる。
「ルーエルシオンの聖墓地で良い」
「はっ」
どちらにしてもルービアンカでも大規模な火葬を行う必要がある。
情報ではルービアンカで亡くなったエルフ達の遺体は何故か冷凍保存されて丁寧に保管されているという。
その話もゴドウィンから更に詳しく聞き出さなければならない。
「魔王軍の残党狩りはどうなっている?」
「はっ、近隣の里であるルーミシュールとルーネメシスで小規模な戦闘があったとの報告を受けています
が、どれも鎮圧されたとの事です
後は森林地帯で潜伏していた敵と戦闘に入り、殲滅したと各所から伝達が入ってきております」
「・・・・そうか」
メリーカは目を伏せ、終息に向かう今回の戦争に深呼吸をした。
「よぉ、アルン」
翌日、病院を訪れたガルボは包帯ぐるぐる巻きでベッドに寝かされているアルンを見舞った。
「あ!・・・ガルボさん!!、恥ずかしながらこの様です」
「生きてりゃいいさ、直に歩けるんだろ?」
「ええ、まだ暫くは無理ですが療養すれば元のように歩けるようです」
「・・・お互いよく生き残ったな」
「はい、ですが亡くなった方々が大勢いるので複雑な気分ですが」
「それはそれ・・・だな、嫁さんとは会ったかい?」
「はい、泣かれてしまいましたけど」
「そうか、まぁ幸せにやんな」
「ありがとうございます、あの・・ガルボさんは?」
「俺か?、ルービアンカに帰る
里を復興させないとな」
「ああ、ですね」
「治ったら嫁さんと一緒に遊びに来てくれ、子供も一緒にな」
「ガ・・ガルボさん!」
子供と言われて顔が赤くなるアルン
「んじゃあな」
「はい、色々ありがとうございました」
手をひらひらさせながらガルボは病室から出た。
院から出たガルボは伸びをする。
ルーアクシウムに避難していた家族とも再会したし、女王様にも直々に会ったし。
戦争は終わったし。
「さてと・・・」
クレイモアを手にガルボはこれからの事を考える。
「目下はルービアンカの復興だな、忙しくなる
あっと、その前にシルティアちゃんにお礼言わないとな
ノートンにも土産買って帰るか・・・」
晴天の眩しい日の光が顔に当たりガルボは目を細めた。
後書き
【一章後編について】
大剣を使うエルフという設定はどうなのか?、という突っ込みは置いておいてクレイモアを使うエルフが活躍します。
クレイモア自体は大剣の中ではまだ小型の部類らしいのでエルフでも使え…大剣を使っているエルフは見たことがないなぁ。
いや、いるかも知れないけれど。
というか過去話の主人公ノートンそっちのけで活躍するガルボ。
この作品のテーマの一つとして活躍しない主役があります。
主役が活躍しないストーリーがあってもいいんじゃないかと書き始めたのもあるこの作品。
ノートンが活躍しないなら周りにいる人間が活躍するしかない訳で、ガルボがそれを担いました。
いや、ガルボが主人公とも言えますが。
というか主人公だけが突出した強さになりラスボスを倒すストーリーは何で主人公だけ突出しているんだろう?という疑問が生じるからで
いや、主人公だからで片付けられる問題ではありますが。




