総集編一章【アンデット戦争】前編
一章の総集編前編です。
-アピス湖でのノートンと少女との出会いから12年-
エルフ界は突如魔王軍の侵攻を受け未曽有の危機に瀕していた。
ルービアンカの里はオークの攻撃を受けたがこれを退ける。
里に入る前にオークはエルフ達の弓矢の前に前衛の多くが倒れ、後衛は逃げ出した。
だがそれで終わりではなく、オーク軍団の敗北を受け魔王軍はスケルトンの軍団をルービアンカ攻撃に投入。
骨が剥き出しになった怪物どもは、錆びた剣や折れた剣・槍・斧を体格に応じてそれぞれ持ち鎧や盾を身につけ攻撃をかけてきた。
人型のなれの果てであり、見た者に恐怖を与えるその存在に里のエルフ達も恐怖した。
しかし怖れるだけでは里は守れない。
里のエルフ達は骸骨スケルトンに対抗するべく剣を持って攻撃に撃って出た。
しかし剣の攻撃には長けていないエルフ達はスケルトンとの戦いに相当手こずり、1人また1人と倒れていく。
辺りが何も見えない闇夜の森。
里の近くに若い二人のエルフが剣を手に骸骨と戦っている。
「レックスの部隊は?」
「分からない、さっき散り散りになったままだ」
言いざまエルフの一人が剣を骸骨の眉間に叩きつける。
「こっちはやったが、まだいる
ノートン、そっちの一体は任せた」
「ああ・・・」
ノートンは骸骨を睨む。
あれから12年、ノートンは19歳になっていた。
かつての面影を残しながらも顔は大人っぽい顔つきになり、背も高く伸びある程度の筋肉も付いている。
だからと言ってスケルトンが怖くないかと言われれば怖い。
ノートンは骸骨に剣を向けじりじりとにじりよりながら隙を窺う。
骸骨もまた錆びた剣をノートンに向けゆっくり迫って来た。
エルフが剣を持って戦うのは珍しい。
本来は弓矢での狩りがエルフの専門である。
しかし骸骨には弓矢より剣の方が得策と考え、全部隊の男には剣を持って戦う指示が出された。
「得意ではないが・・仕方ない」
相対しているスケルトンが剣を振りかざしてくる。
ギィン!!!
剣と剣がぶつかり合った時、骸骨の剣はパキンと折れた
あれだけボロボロならば当然だ。
「ふんっ!!」
力任せに頭に剣を振り下ろす。
ぐしゃっ!!
鈍い音と共に頭蓋骨が脆く砕け散る。
やったという手応え。
しかし人型で良かった。
他の形状の異なる骸骨だと色々と厄介だったからだ。
「なぁ、ノートン・・・・」
別の骸骨と戦っていたもう一人のエルフが声をかけてくる。
「無事だったか」
ホットしたノートンをよそにもう1人のエルフが青い顔で続ける。
「取り囲まれた、絶対絶命だな・・・」
その声に周囲を見渡すと、林の奥から次々と骸骨が現れ二人を取り囲む。
「ああ・・・もう無理だなガルボ、年貢の納め時だ」
「だな」
言いながら剣を構える二人。
「栄光のエルフ族と女王の名にかけて最後まで戦い抜く!
それが我らエルフ族の誇り!!」
二人が声を揃えて誓いの言葉を口にし、恐らく自分達に取って最後になるだろう戦いに気力を奮い立たせた。
その時、ノートンの首にかけてあった水晶石が突然光り輝く。
「な・・・・なんだ?」
ノートンも横にいたガルボも突然の出来事に訳が分からず困惑した。
水晶石は更に輝きを増し、辺りを日中の様に明るくさせる。
この石はあの時・・・12年前に少女が竜界に帰る際に貰ったノートンの宝物であり、狩り等の危険に身を晒す際には必ず身に付けている御守りでもある。
12年前、エルフ界の都ルーエルシオンにて新女王メリーカの就任式が盛大に行われた。
エルフ界に縁ある国々の要人達も招待され、竜界の竜王一家も招待された。
それゆえにルーエルシオンの警備は厳重で物々しくもあり、退屈したまだ幼い王女は抜け出して他の地域に飛び回り遊んだりしていた。
王女の名はシルティア
アピス湖でノートンと会いゴブリンと対峙した少女である。
エルフ界滞在中、更に二度ほどルービアンカ村に遊びに来たシルティアとノートンは野を駆け回ったりして心ゆくまで遊んだ。
実はノートンはこの時はまだシルティアが王女である事を知らず、最終日前日になってシルティアから聞かされ驚いた。
水晶石のプレゼントもシルティアとのお揃いの品である。
チイィィィ・・・ンンン
水晶石の輝きと耳なりのように聞こえる微かに聞こえる音はピークに達する
その光は首に付けているノートンが目を開けていられない程に。
と、その時。
「見~つけた」
スケルトンとの戦いの場には明らかに場違いと思わせるほど静かで落ち着いた女性の声がノートンの耳元で囁くように聞こえた。
バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!
突然木々が揺れる。
凄まじい突風が巻き起こり土も石も舞い上がる。
骸骨達も風で吹き飛ばされそうになっていた。
いや、中身のない骸骨どもは風で半分近くは吹き飛ばされている。
バァサ!バァサ!バァサ!バァサ!
この音と風は遥か頭上からきている。
何が起こっているのか理解は出来ていない二人だったが、引きつる顔で夜空を見上げた。
木々に邪魔されて見えにくい・・・
が、何か巨大な物体がノートン達のいる場所に降りてこようとしている。
音といい風の状態といい翼を持った鳥という感じを受けるが如何せん巨大すぎる。
だがノートンはこの異常事態に不思議な懐かしみを覚えた。
ずっと昔。
まだ幼い頃。
「そうだ、知っている・・前に似たような事が・・
そしてあの声・・・」
しかしノートンは首を振る。
「いや・・俺の知っている声じゃない
覚えている声・・覚えているあの子の声じゃない・・」
だが、ノートンの覚えている声は幼い女の子の頃の声である
あれから成長すれば当然声も多少なりとも変わる
「そうだ、確かに少し違う・・けれども多分同じ声だ
そう、俺はこの声の主を知っている!!・・でも・・まさか!?」
そう考えたノートンの考えに合わせるかのように水晶石の光は突然弱まる。
光の弱まりに今まで真昼のように明るかった周囲が、また闇に沈み込んだ。
ざりっ
砂を踏む音が近くに聞こえノートンとガルボは音がした方向を向く。
二人のエルフが見たのは・・
長身で透き通る程に美しい肌を持つ、美しいうら若き女性
手にはノートンが持っているのと同じ水晶石のペンダントを持っていて淡く光っている。
「久しぶりね、ノートン」
そして美女は微笑んだ。
エルフは森の民と呼ばれ。
自然や森林と共に生きる精霊界の住人である。
その精霊界の中の一つであるエルフの世界を魔王が精霊界攻略の最初の標的に定めたのは、エルフの女が美しいからだ。
男女共に長身で気品と知性を併せ持つとされるエルフ種。
魔族と呼ばれる魔界のデーモン種と容姿は同じく人型であり
子をなす機能はまったく同じである。
しかし、違いは勿論ある。
魔族の女は妖艶さと淫乱の性質を持つ、それに対してエルフの女は気品と純潔さが特徴とされる。
ハーレムを形成し魔族の女を侍らせていた魔王だったが、最近は少々飽きて食傷気味であった。
そんな魔王が目を付けたのが魔族の女とは性質の異なるエルフの女だ。
そしてそのエルフの女達を手に入れる為に魔王はエルフ界侵攻を開始した。
最初の軍はオークから構成される軍団を送り込む。
オークは豚のような顔と容姿を持つ巨漢の魔物である。
防具を着ける事ができ武器も振り回せる二足歩行のモンスター。
ある程度知能はあるし、命令にも従える使い勝手のよい使い捨ての兵だ。
ただ、戦闘能力はないのが玉に傷だが。
まぁ、初回はルービアンカの一部地域の街程度の規模の里の侵略のため、その地にいるエルフの女を半分ぐらい攫ってくればよい・・・程度の考えであったため、オーク程度でも十分に役目を果たせると踏んだ。
「残りはオークにくれてやるわ
奴らもタダ働きは嫌だろうからな
クククク・・・」
と魔王はほくそ笑む。
だがその作戦は失敗に終わる。
エルフが住むルービアンカ地方の里を攻撃する前に武装したエルフ軍によってオークは攻撃され、大半が矢によって倒れたからだ。
エルフの最も得意な戦闘スタイルは弓矢による射撃であり、森の地形を最大限に活かしたエルフの攻撃はオーク軍を壊滅させた。
僅かに生き残ったオークは命からがら逃げ出し魔界に帰ってきた。
当然魔王は激怒した。
今日にも噂に高い美しいエルフの女を見れると思って楽しみにしていたからだ。
「弓矢で応戦してくるなら今度はスケルトン軍団を出せ」
その一言でスケルトン軍団は現在エルフ界のルービアンカに侵攻中である。
「人間界のようにはいかんか」
苦笑する魔王に側にいた女が話し掛ける。
「うふふ、魔王様
楽しみは取っておいた方が良いこともありますわ」
1歳ぐらいの小さい女の子を抱きながら、ハーレム総管理者であるジーナは笑った。
「ねー、アリスちゃん」
ジーナの声にアリスと呼ばれた女の子はつられて笑う。
実は魔王軍侵攻はエルフ界だけではなく、先に人間界侵攻から始まっていた。
目的は同じく人間の女の確保。
人間界の東方に位置するアウランズ王国。
魔王軍の攻撃を受けた中の一つであるそのアウランズ王国は魔王軍の攻撃で既に落ち、王妃と王女は魔界に連れて来られていた。
アリスはその王妃と魔王との子供むすめである。
人間界攻略は容易であった。
人間は愚かで能力も低い。
攻めれば容易く落とせる。
しかし精霊界は違う。
特にエルフ界は一筋縄ではいかない。
オーク軍団敗退でそれを感じた魔王は魔界の力を誇示すべく6つの軍団を動かす事にした。
その最初がスケルトン軍団である。
そう、エルフ侵攻は始まったばかりなのだ。
ーーーーーーーーーー
「面倒くさい、投げろ!!」
女王の言葉が飛び。
報告書を持った担当官は慌てて報告の書類を女王に投げた。
バシッ
報告書の束を片手で受け取り目を走らせる。
儀礼的な動作でノロノロ持ってこられても鬱陶しいだけだ。
平時は良いが緊急の時は頭にくる。
エルフの女王メリーカは片手で報告書を持つ。
それを見ながらもう片方でサンドイッチを持ち食べる。
頭はボサボサ。
寝間着のまま女王の椅子に片足を曲げ踵を座面に乗せて座っている姿はおおよそ女王とは思えない品の悪さである。
「ルービアンカは落ちたか、死傷者の人数は?」
「はっ、今だ詳しい事ははっきり分かりませんが死者の数は800人程かと」
側近でありエルフ族の内政を司る長であるウィンダムが報告する。
「・・・多いな」
「はっ、人型での被害は大した事はなかったようですが動物型の殺傷能力が事の他大きかったようです」
「骸骨動物型スケルトンビーストタイプか、あれが投入されればこんなモノか・・・女達の被害は?」
「はっ、幸い女性達に被害はありません
スケルトンが進撃してくる前に全員無事に逃れました
逃れた先はルーミシュール・ルーネメシス・ルーアクシウムの3つです」
「女達が魔王軍に渡らなかったのは幸いだ
人間界での惨状は聞くだけでおぞましいからな」
女王の言葉に周りにいる重臣達の顔が強張る。
人間界で魔王軍に攻撃された国は3つ。
そのどれもが崩壊し、崩壊後女達に起こった事は悲惨を極めた。
「しかし、当然の事ながら魔王は此方には来ていないか
来ていればその首を取ってやるモノを」
メリーカのその冗談めいた言葉に強張っていた重臣達の顔が少し弛む。
もっとも、メリーカ自身は半分本気で言ったが。
そんなメリーカに軍を司るナノルが自信に満ちた声で報告した。
「女王陛下、ご安心下さいませ
既にルーエルシオンの軍に出陣の準備を始めさせております
ルービアンカ奪還は速やかに行われるかと」
「ん、そうか・・・」
そう言ったメリーカはしばしの沈黙の後、ナノルに聞く。
「奪還戦における具体的な人数は?」
「は、騎士団8000人、魔術士団2000人
その他雑用は省きますので合計10000人の軍団です」
「・・・・・」
女王は目を閉じ何事が考えていた。
「ウィンダム」
「はっ、何でしょう?、女王陛下」
「私が男を欲すればどうすると思う?」
「は?」
「魔王は女を欲している、私が魔王の立場なら何が何でも手に入れようとするだろう
どんな犠牲を払ってでも、どれ程の軍を投入しても」
「・・・・・女王陛下
つまり今回エルフ攻略に投入される魔王軍はスケルトン軍だけではないと?」
「恐らく・・・だ
今はスケルトン軍だけだろうが、第2第3の軍が後続から来るかもしれない
オーク軍敗退で諦めなかった魔王は今回本気でエルフ界を蹂躙するつもりかも知れない
いや、私が魔王の立場ならそうする
でなければ、魔界での王としての立場がない
戦は戦費が掛かるからな
戦争を仕掛けて負けました、中止ですでは魔族の民は納得しまい」
「なるほど」
「ナノル!」
「は!!」
「軍は二倍にしろ」
「に・・・二倍ですか
しかしそれではルーエルシオンや周辺の防衛が手薄になります」
「構わん、どちらにしろ他の里を攻め落とさなければルーエルシオンまで辿り着けぬ」
「は・・はは、では早速手配を」
「外交長!!」
「は!」
女王に呼ばれて外交長ランミランは何事かと目を見開く。
「ルーアクアシティ、ルーリトルシティ、ルーヒューマンシティ、ルーフェアリーシティ
この4つのシティに援軍要請を出せ」
「は?」
ランミランは聞き違えたかともう一度聞き直す。
「ハーフエルフの各シティに援軍要請を出せという
今回の戦いはエルフ全ての存亡をかけた戦いになる
ハーフエルフのシティも例外ではない
ルーエルシオンが落ちれば各ハーフエルフのシティも攻め込まれ全て蹂躙されるぞ」
「は・・・はは!!」
「他に何かある者はいるか?」
メリーカは会議に来ている面々を見渡す。
「はい」
手を挙げたのは女王直属の弓兵部隊副隊長のサーリタンだ。
「何だ、サーリタン」
「は、女性陣が戦いに参加したがっています
女王様にお伝えして頂くようにと頼まれました」
「・・・・駄目だ
万一敵に捕まれば後は地獄が待っていると思え」
「しかし・・・
今回の犠牲者や戦った男性達の家族や恋人や友人達は悔やんでいます
自分達だけ安全地帯に逃げた事に
一緒に戦っていれば或いは・・・と」
そのサーリタンの言葉にメリーカは目を細めた。
「何のために男達が命を掛けたかを考えるが良い
いま女達が捕まれば犠牲になった男達が浮かばれん
どうしても許せないと言うのならば、指示を出したこの私を恨めばよい」
「・・・はい」
女王の言葉にサーリタンは意気消沈した面持ちで答える。
「他には?」
「あ・・・あの」
手を上げたのは森林環境長のダナイブである。
「ダナイブか、何だ」
「い・・・いえ・・・あの、直接関係ないとは思うのですが」
「・・・・構わん、言ってみろ」
「はい、ルービアンカの森林で深夜に竜を見たという情報が・・」
ダナイブの言葉にメリーカは片方の目の端をやや上げる。
「・・・どこの情報だ?」
「はい、ルービアンカの防衛に当たっていたエルフや逃げた女達の中に遠目で見たという報告が・・・
あと、梟達も見たと
丁度スケルトン軍とエルフ防衛隊が森林で戦っていた頃です」
ダナイブの言葉にメリーカは顎に手をやった。
「竜・・・が魔王軍にいると?」
側にいたウィンダムはそう言いながら女王の顔を伺う。
「・・・・・・」
メリーカは考えていた。
「竜・・ルービアンカ・・スケルトン・・
魔王軍・・竜・・ルービアンカ・・
竜・・竜・・竜・・
魔王軍・・ルービアンカ・・・・」
「まてよ?」・・・と思う
メリーカの記憶に竜とルービアンカを結びつけるキーワードが一つ浮かび上がった。
「名前は・・・何だったか・・・
そうだ、シルティアだ!
もしかして・・シルティアが来ているのか?」
シルティアは竜界の王女だ。
エルフ界にて12年前に前女王が亡くなりメリーカが女王就任した際に竜族も呼び大々的な就任式を行った。
その時に来ていた幼女。
シルティアはルービアンカの里に友達が出来たと言っていた。
確か少年だったか・・・名前は覚えていない。
竜は金銀財宝や自分の所有物に対する独占欲や執着心が強い
もし竜がシルティアだとすると今年で20歳。
「ふふ・・・なるほど、自分の男を守りに来たという事か」
メリーカは納得し口を開く。
「その竜に関しては少し心当たりがある
・・・が、魔王軍とは直接関係ないだろうから放っておいてもよい、他には何かあるか?」
一同を見渡す。
「なければ行け!!」
女王の号令の下、会議に集まっていた臣下や関係者はバラバラと一斉に動き出した。
「ウィンダム、此方へ」
同じく退出しようとするウィンダムに女王が呼び止める。
「何でしょう?、陛下!」
女王の前で恭しく跪くウィンダム。
「もうちょっと近くへ」
「は・・・はい」
更に近づき跪く。
女王は椅子から立ち上がりウィンダムに近づき耳元で囁いた。
「後で私の部屋に来い」
「は・・・はい」
それだけ言うと女王メリーカは自室へ歩き出した
部下に色々と指示を出し、雑事を済ませたウィンダムは早足に女王の自室に向かう。
会議から結構な時間が経っていた。
本来ならば会議終了後直ぐにでも向かいたい件だが、そういう訳にもいかない。
何よりも仕事を片付けてからでないと女王陛下から叱責を受けてしまう。
女王メリーカとはそういうお方である。
コンコン
自室の前に辿り着いたウィンダムは扉をノックした。
「ウィンダムでございます」
少し上擦った声が出てしまった事にウィンダムは舌打ちしたくなった。
女王の自室に呼ばれるなどそうそうある訳ではなく、ウィンダムも緊張する。
内政長である自分が呼ばれた・・つまりこれは何か重要な案件の秘密会議であるのは明らかだからだ。
女性の警備員が扉から少し離れて立っているが、事前に女王陛下から自分が来る事を知らされているらしく、特に何も言ってこない。
でなければ、内政長と言えど忽ち訪問の理由を問い質されるだろう。
「入れ」
ややあって女王の声が聞こえた。
「は、失礼致します」
ガチャッ
さして大きくもない扉を開け中に入ったウィンダムは部屋の内装に少し驚いた。
女性らしい可愛らしい家具や小物類が置いてある。
しかし、いつもの少し雑な感じの陛下とは感じさせない程に部屋は片付けられ掃除も行き届いていた。
「こっちだ、こっち」
「は・・」
声のする方に行ってみる。
すると、ソファーにだらしなく寝そべった女王が手招きしている。
「ウィンダム、只今参上致しました」
恭しくお辞儀する。
「うむ、ご苦労・・まぁ、座れ」
「は、では失礼致します」
向かいあって置かれているソファーに手を向けられ、ウィンダムは腰を下ろした。
「早速だが、来てもらった要件を話そう」
「はい」
「四つのハーフエルフシティの援軍要請の件は話したな?」
「はい」
「実はもう1つ援軍要請を行いたい」
「もう1つ・・でございますか?」
ウィンダムは内心小首を捻る。
援軍要請と言ってもこれ以上援軍要請を行える者達に心当たりはない。
「本来なら外交長に言うべき事だが、最初にウィンダムの意見を聞きたい」
「は、ありがとうございます
それでどこに援軍要請を?」
ウィンダムの言葉にメリーカは悪戯っぽい笑みを浮かべ、そして静かに口を開いた。
ーーーーーーーーーー
パサパサパサ!!
ワグーの目の前には大量の女の下着が積み上げられた。
それを見ながら呆れた顔でそれを持ってきた骸骨どもを見るワグー。
ワグーはスケルトン軍団の軍団長にして今回の対エルフ魔王軍の第二の軍団長である。
弟子のスケルトン使い200名とスケルトン軍10000を率いて今回の戦争に参加した。
初戦、他の軍団長が揃っていない中スケルトン軍団1000を動かしルービアンカの里に至る森の道でエルフ守備隊と衝突。
スケルトン部隊の200体程がエルフにやられたがエルフ側も結構な犠牲が出たようだ。
一度撤退しスケルトン部隊を再編し直し5000の軍で二回目の攻撃を開始。
エルフ守備隊を蹴散らしルービアンカの里に雪崩れ込んだ骸骨軍団はエルフ隊と激戦を展開。
一進一退の攻防は4日続いたが、ワグーは骸骨動物型スケルトンビーストタイプ2000匹を投入しエルフ隊の半数以上を殺した。
残ったエルフ達は敗走し、ルービアンカは魔王軍の手に落ちた。
しかしだからと言って浮かれてばかりもいられない。
確かにルービアンカの里は陥落させた・・・。
だが、肝心の女達が見当たらない。
どうやら女子供は早々と隣のルーミシュールの里へ避難したらしい。
それでも誰か残っていないかとスケルトンどもに探させると
骸骨どもが持ってきたのはエルフの女達が使っていた下着類であった。
「使えん骨どもだ!!」
ワグーは弟子達に当たり散らす。
「何だというか!!、早すぎるわ!!、エルフどもの動きが!!」
本来ならば逃げ遅れた女達を捕まえて檻の中に放り込んでいる頃である。
「それが1人もいやがらないとは!!
クソッタレの女どもめ!!
そう女はクソッタレだ、今も昔も!!」
そう罵り、下着を蹴飛ばす。
ワグーの人生において女は常に敵だった。
容姿が醜いワグーは若い頃から魔族の女達に忌み嫌われた。
もちろん恋愛などできる訳もなく不満は女達への憎しみによって増幅し、女たちが不幸になる事を願い祈る事を楽しみとする毎日である。
ワグー唯一の力であり骸骨使士スケルトンマスターとして華々しく活躍する筈だった今回の戦い・・・。
確かに活躍はした。
エルフの男どもを殺すという点においては。
しかし本来の目的は果たせていない。
そう、またしても女だ。
女が計画の邪魔をする。
「今回もまた女か!!
許さん!!、絶対に許さん!! 許さんぞ糞女ども!!」
怒りを露わにするワグーの周囲に闇の煙が渦を巻いて立ち上上がった。
ズズズ・・・
その渦は一カ所に集まりスケルトンの形を成す。
「こ・・・これは!!」
ワグーが唸る。
煙は骸骨の容姿を表し実体化した。
「ナーガイア殿!!」
その容貌こそスケルトンと大差ないがそれは法衣を纏い闇のオーラを周囲に迸らす。
その存在は通常のスケルトン兵とは全く違う存在である。
リッチ、そう呼ばれる存在。
最上位の魔法使いだった者が不死と更なる魔力を求め禁呪法を用いて到達した最強の姿だ。
ナーガイアは対エルフ魔王軍第一の軍団長にして全軍の司令官である。
ぽっかり空いた目の部分をワグーに向けナーガイアは地の底から響く声で言葉を発した。
「良クヤッタ、ルービアンカハ落チタ
ダガ、本来ノ目的ハ果タサレテオラヌ」
ナーガイアの言葉にワグーは頷く。
「女ですな、奴らはルーミシュールに逃げたと思われます」
ワグーはナーガイアの言葉に焦りを感じつつ答える。
「フム、魔王ハエルフノ女ヲ所望シテイル
シカモタダノ女ハ当然トシテ上位ノ女モダ」
「上位の女?」
「ソウ、ハイエルフダ」
「ハイエルフですか!!
しかしあれは・・・聖都ルーエルシオンに行かなければいないですぞ!」
「心配スルナ、モウスグ第四・第五・第六ノ軍団ガ到着スル
魔王軍全テガ揃イ次第ルーエルシオンヘ進撃スル
エルフノ財宝ヲ我等ガ手ニスルノダ」
「財宝を奪い男を皆殺しにし、女は奴隷ですな」
「ソウダ」
「実に面白いですな
あの高慢ちきなエルフの女どもの奴隷姿を想像するのは」
そう言ったワグーに横から声が飛ぶ。
「ふふ・・おやおや、ワグー殿は品がありませんね」
「ぬ!!」
ワグーとナーガイアの会話に割って入ってきたその男は髪を掻き上げた。
「誰カト思エバ、バルフェア伯爵カ・・・」
魔王軍第三の軍団長にしてヴァンパイア族の若き当主であるバルフェア伯爵はマントを翻し、靴音を響かせワグーとナーガイアに近づく。
足音は2つ。
バルフェアの横後ろには可愛らしい女の子が付き従っている。
「ルービアンカにいた女達は三方に別れました
ルーミシュール・ルーネメシス・ルーアクシウムの三方に」
バルフェアはナーガイアに今しがた話題になっていた女達の行方を報告した。
「ムウ・・・」
「ほほう、バルフェア殿の軍の諜報活動は素晴らしいですな
カラスと蝙蝠の軍団は」
ワグーの言葉に傍にいた少女の眉がピクリと上がる。
「ははは、主力にはなりませんが中々役には立つモノたちです」
「ルーアクシウムカ、私ノ知識デハ確カエルフガ作ッタ要塞ノ筈・・アレノ攻略ハ容易デハナイゾ」
「はい
遥か昔に起こった戦争で使われた要塞のようですが、補修されながらも今日まで要塞としての機能は失われておらず、攻略は困難を極めると思われます」
「・・・マア良イ
ルービアンカハ落チタ、今夜ハコレデ良イワ
ダガ警戒ヲ怠ルナ
エルフドモハ奪還ニ乗リ出シテ来ルダロウカラナ」
「分かっております、我がスケルトン軍団に抜かりはありません」
ワグーの言葉に頷きナーガイアは消え去った。
「では我々はD地区の方におりますので何かあればご連絡下さい」
そう言うとバルフェアと少女もその場から立ち去る。
「・・・・」
三人がいなくなった後、ワグーは弟子達に指示を与え床に散らばっている下着を両手一杯に持った。
「ワシは疲れた寝る、後は任せたぞ」
「は、はい・・・マスター、お任せ下さい
あ・・・あの、その下着は・・・」
「ん?、これか?
こんな所に散らばしておけんだろ
取りあえずワシが管理しておく」
「は・・・はぁ・・・」
「何だ、その顔は
よいかくれぐれもエルフの急襲には気をつけろ
でないと、矢が額に飛んできて串刺しだぞ!!」
「は・・・はい!!マスター!!」
占領した里の防衛を弟子に任せてワグーは自室にした部屋の扉を閉めた。
D地区に向かう道を歩きながらバルフェア伯爵は少女に声をかける。
「そう怒るな」
伯爵の言葉に少女は微妙な面持ちで答えた。
「お兄様、あのワグーという方は好きになれませんわ
私たちの隊を見下げたあの目と態度は嫌いです」
「ははは、ああいう者もいるという事だ
使いようがあるからナーガイア殿も黙っているのだろう」
「でも許せません」
「ふふ、機嫌を直せ」
少女の耳元に軽く息を吐きかけるバルフェア。
「あ・・・」
少女は体がぞくぞくし力が無くなる。
「お・・・お兄様・・・ダメ・・・」
「さぁ、早く帰らねば朝日が登る
行くぞ、義弟よ」
「はい、お兄様!!」
二人の兄弟は浮き、闇夜の空に舞った。
ルーネメシスの里には温泉がある。
シルティアは温泉に浸かりながらボケーとしていた。
一緒に入りたかったがノートンは恥ずかしいのか一緒には入ってくれなかった。
「んーー、ノートンの裸・・・」
・・・・・
・・・・・
「いけない、いけない」
慌てて変な妄想を消すシルティア。
最近は発情期が入っているせいで変な妄想が膨らんでしまう。
暖かいお湯に浸かりながら目を閉じシルティアはルービアンカからの道中を思い返した。
ルービアンカの森林道で再会したノートンとシルティアはガルボと共にルービアンカの里に撤退した。
そのまま生き残った部隊や里の防衛隊達と共に里内部に侵入してきたスケルトン部隊と交戦し、一時的には押し返した。
だが、スケルトン動物型が現れ戦況は一変する。
動物の姿をした四足歩行のスケルトンの動きは俊敏でかつ噛みつく力も強く凶暴でエルフ側は大苦戦した。
次々と仲間は倒され混戦の中ではぐれたガルボもまた敵に倒されたようだ。
ノートンも殺されかけたが、シルティアが助けルービアンカを脱出した。
脱出したノートンとシルティアは隣の里であるルーネメシスを目指し一路歩く。
歩ている最中、ノートンは泣いた。
ガルボを助けられず仲間を沢山失い、ルービアンカも失ったからだ。
そんなノートンをシルティアは励まし何とかルーネメシスまで辿り着いた。
そこには同じくルービアンカから逃げてきた女性たちがいたり、傷だらけになった兵士達が手当てを受けていた 。
そして何と死んだと思っていたガルボも生きていた。
ガルボもノートンやシルティアは死んだと思っていたらしく、ノートン達の顔を見てびっくりしていた。
手当てを受けながらガルボはこう切り出す。
「やられそうになった時に巨大な生物に助けられた
あれはルービアンカの森林で見た奴だと思う」
「森林って・・まさか」
「そうだ・・信じられるか?、ドラゴンだぞ!!
夢でも見たのかと思ってるだろ?
だが俺が生きているのが何よりの証拠だ!!
俺はドラゴンに助けられたんだ!!」
ノートンとシルティアに早口で熱く語るガルボ。
「とにかく生きていて良かった」
ノートンは嬉しさの余り涙を流しガルボに抱きついた。
そしてシルティアを見る。
シルティアはそんなノートンの姿に安心した表情で微笑んだ。
ーーーーーーーーーー
「乾杯です、バルフェア様、マリージュ様」
チィンッ
ドルチェはグラスに注がれた赤い液体を飲む。
同じく液体を口にしたバルフェアは関心する。
「これは・・・実に濃厚な・・・」
「本当ですわね、とても美味しいです」
バルフェアの隣に座っている少女がうっとりとした表情で言う。
「お口に合ったようで何よりです」
ドルチェはこやかに笑む。
つい昨日ルービアンカに到着したドルチェ。
魔王軍第五の軍団長であり食屍鬼グールを束ねるリーダーでもある。
液体の正体は人間の血液であり、先ほど人間の女奴隷から採取したものだ。
同じ人間といっても血の味は実は様々である。
一概には言えないが、人間界で身分の違いによって血の味は変わり、身分の高い者程美味しい血液を持つ・・・と言われている。
この女奴隷はエウンジークという人間の国の貴族の娘だ。
いや、貴族の娘だった。
エウンジークは数年前、魔王軍が進攻し滅ぼしたからだ。
その際にエウンジークの女達は根こそぎ魔界に連れて行かれ、奴隷として売り飛ばされた。
当時の奴隷市場は活況を呈し、お祭り騒ぎだった。
魔界の中にも一応『奴隷階級』は存在する。
しかし奴隷階級とは言え制度が存在し、無茶な扱いは出来なかった。
だが、人間ならばそんな権利も発言力も存在しない。
そう言った意味で本当の『奴隷』である人間達は金持ちや上流階級層に飛ぶように売れた。
ドルチェの父は魔界で人間の飼育を始めたグールである。
人間界からちょこちょこ数人ほど人間を攫ってきては牧場で飼育するという経営。
その目的は食料確保の為だ。
食屍鬼グールは人の肉を食らい血を飲み物とする種であるが、昔と違って最近は人間達も武装して強くなり人間達を襲うグール側も命の危険が増した。
いつしかグール達は滅多に人間の肉を食べられなくなり、他の食料で細々と食い繋いでいくだけとなる。
やがてグール達は子を作らなくなり激減していった。
ドルチェが幼少の頃には既に絶滅危惧種扱いされていたモノだ。
元々グールは頭が賢くなく。
食べ物は狩る・・という単純思考しか持っていなかった。
そういう意味では食料が無ければ生産して増やせばいい・・・というドルチェの父ような思考を持つグールは突然変異体なのだろう。
ただ、そうした活動を始めたはいいが事は単純ではない。
あれこれ試行錯誤して苦悩していた父の姿を幼いドルチェは見てきていた。
だが細々とでも牧場経営は続けられドルチェも父と共に人間の飼育を手伝い、貧乏ながらも運営されていた牧場経営に最大の転機が訪れたのは数年前の事。
エウンジークの人間達が各地の奴隷市場で大量に売りに出された時に父は奴隷達を何人か買い付けた。
元々人間の新しい確保に苦心していたドルチェの父はこれが好機到来と考えたからだ。
牧場経営用として人間を買い付けた父。
所がドルチェは違う側面から奴隷買い付けを父に進言した。
言わば奴隷達の転売である。
最初は訝っていた父もドルチェの提案が金をもたらす事に即座に気づき、多額の借金をして大量に人間達を買い付けた。
女奴隷でも身分の高い、高そうな者達や美しい者たちを集中的に買い、高額で売り飛ばす。
それを繰り返した結果、一躍大金持ちの仲間入りになった。
父から始まった牧場経営は奴隷商への新たな事業展開を行い会社は大成功した。
ドルチェも今までみすぼらしい格好から一転成金趣味の格好に変わる。
金を持てば容姿が気になるのは当然の事だ。
そんなドルチェの今回の戦争参加は勿論エルフ確保が主目的である。
エルフを欲しがる魔族は結構いる。
かく言う魔王もその1人である。
エルフは一種のブランドであり憧れでもあるのだ。
そしてドルチェも最近はエルフの女を欲するようになってきた。
同族の喰屍女グーラーは貧相でみすぼらしい。
人間は所詮家畜であり食料に過ぎない。
だがエルフは違う。
ブランドであるエルフの女を手に入れる事によって、グールとエルフの混血ハーフが生まれグール族は新しく生まれ変わる。
知能は通常のグールよりも遥かに高く、容姿もまた通常のグールよりも優れたモノになるだろう。
今までと違った社会を築き、より洗練された種族に進化を遂げる・・と。
それが今のドルチェの野望である。
バルフェアやドルチェが血の乾杯をしている頃。
ロープに身を包んだ若い女は1人の部下と共にエルフの死体を眺めていた。
口元には二人ともデザインがそれぞれ異なる鉄製のマスクを着用している。
女の名前はリシープ
魔王軍第四の軍団長にして死体使いの軍団を統べる魔女だ。
「あは、エルフの男はいつまでも見ていても飽きないわ」
マスクを外し、微笑する。
これらの死体はルービアンカで戦死した男達である。
既に冷凍魔術で体は冷凍保存され専用の容器にて全身密閉されている。
勿論男達全員が容器に密閉されているわけではなく。
リシープが気に入るだろうと判断した男を先に来ていた部下達が選別し死体を綺麗にして冷凍保存した。
建物の外には多くの死体が並べられ防腐処理は施されているが死臭が漂うため、マスクは防毒マスクとしての役目を果たしている。
今、リシープがうっとりとした顔で見ている男は男前だ。
と言ってもエルフの男は大体端正な顔立ちをしていて不細工と呼べる者は殆どいない。
その中でも特に男前だという事だ。
「外の遺体は何体ぐらいあるの?」
「はい、凡そ500体程です
今だに全てを回収しておりませんし、全てを把握していません」
自分と同い年ぐらいの若い女が答える。
「そう、把握しているのは全て男?」
「・・・はい、男の方ばかり・・・です」
「・・・女は早々と避難した・・・という事ね
捕まりたくないから男達を見殺しにした・・か
最低ね」
「・・・・・」
部下の女は何も言わずただリシープの言葉を黙って聞いていた。
「見殺しにしたその男達に殺されなさい、非情の女達
で、オークの方はどう?」
「はい、土中に埋められていて腐敗が進んでいます」
「オークですら埋めて埋葬したのね
多分男達が穴を掘って埋めたんでしょう
エルフの男達は優しいわね」
「確認しましたが・・・・使えるのは300体程かと」
「分かった、取りあえず今だに探せていないエルフを探して
オークは使える分だけでいいよ」
「はい、畏まりました」
その部下の言葉を聞いて、リシープはパンッと手を叩く。
「はい、アトニーノ
今日の仕事は終わりよ、こっからは仕事抜きの話ね」
リシープが肩の力を抜いて深呼吸する。
アトニーノと呼ばれた女の部下も肩の力を抜いた。
「ねぇねぇ、ワグーのオッサンっていたじゃない?
あのオッサン絶対気持ち悪いよね~」
リシープの言葉にアトニーノが答える。
「気持ち悪いです
あいつスケルトン軍団最強とか言って威張ってたけど、エルフの女の下着大量に所有しているらしいですよ」
「まじ!?
やっぱりね~、うわ気持ち悪!!」
「ハゲでデブで顔面崩れてる爺ってオークより酷いですよ」
「だよね~
後さぁ、バルフェアにいつもくっついてるのいるじゃん」
「確かマリージュとかいう名前です」
「そそ、アイツ女の格好してるけど男だよね?」
「バルフェア伯爵が義弟と呼んでいたのを聞いた事があります・・・から多分男だと思います」
「女装趣味か~、変態だ~!!」
「本人ではなく伯爵の趣味の可能性もありますね」
「うへぇ~、だとしたらあの伯爵も最悪ね」
「気持ち悪いといえばドルチェですね
エルフの女が欲しいとか平気で言ってきますし、私にも色目使ってくるんですよ
女なら誰でもいいんじゃね~の、て感じです」
「うわ!!
女欲しい~って普通思ってても言わないじゃん
馬鹿じゃないの?、アイツ」
「明らかに馬鹿ですね
そんな言葉使って迫ったら女がやらせてくれると思ってるんですよ、きっと」
「人間を飼育してる奴でしょ?確か
やりたければ家畜とやっとけって感じ」
「本当にそう思います
こっち見るな!!・・・て感じです」
アトニーノの言葉を楽しみながらリシープは「あれ?」とした顔になる。
「そう言えばもう軍団長って、もう1人いなかった?」
「いますね、死体人形使師フレッシュゴーレムマスターゴドウィンです」
「会ってないんだけど」
「遅れているようです
話ではフレッシュゴーレムの移動に時間が掛かっているように言われているようですが・・・」
「ですが?」
「時間にルーズで、今回も単にだらけていて出発が遅れたのではとの専らの噂ですね」
「ロクな奴いないわね、魔王軍団長
まぁ、私が言うのも何だけど・・」
「・・・・・」
アトニーノは何も言わず空を見上げた。
周囲の死体も手伝って非常に空気が重い。
その圧迫感にアトニーノは息苦しくなる。
それはリシープも感じている事だ。
戦争の始まり。
その一点が心の重みに拍車を掛けている。
前哨戦は魔王軍の勝利に終わった。
しかしエルフ側もこのままで終わる筈はなく、中央聖都の軍が動き反撃してくるだろう。
本格的な戦いは直に始まる。
始まれば恐らく今回の比ではない犠牲が出るだろう。
それはエルフ側だけではなく、此方側でも当然の如くに。
今回は里攻略だった為、比較的楽に里を落とせた。
それでもかなり時間を食ったと言える。
一般のエルフ相手にすら手こずったのに、軍相手に戦えば魔王軍の戦死者はどれ程の数になろうか?。
それを考えれば気が重くなる。
その重い空気にアトニーノは溜め息をついた。
ーーーーーーーーーー
魔界。
エルフが住む精霊界でも人間が住む人間界とも違う世界である。
この魔界には様々な種類の生物がいる。
その中に魔族と呼ばれる存在がいて、その王は魔界の半分近くを支配していた。
その存在を魔族も精霊も人間もこう呼んだ。
魔王と。
「魔王様、お二人を連れて参りました」
「うむ」
玉座に座った魔王はジーナと警備兵に連れてこられた二人の少年を見た。
その少年達は人間の国の一つであるエウンジークの王子達である。
長男ヘンリー 14歳
次男ノルマー 13歳
数年前、エウンジークは魔王の攻撃を受け滅びた。
王はその時の戦いで戦死。
王妃は自害した。
だが息子たちの姿はなく、王が事前に少数の兵を付けて王子達をエウンジークから脱出させていた。
魔王は数年かけて王子達を探し出し捕まえ、この魔王の城に連れてきたのだ。
「うふふ、可愛らしいわね」
そう言うジーナに長男ヘンリーは睨む。
「あらあら、恐い怖い」
魔王はジーナのやり取りを見ながら2人に話しかける。
「よく来た
お前たちを魔界まで連れてきたのは話があるからだ
本来ならば王の直系の者は首を刎ねて終わりなのだがな」
魔王の言葉にヘンリーは言い返す。
「ならば首を刎ねればいいだろ!」
「ん・・まぁ、待て
エウンジークの戦いでお前たちの父であるエウンジーク王の戦いぶりが余りに素晴らしかったと評判でな
正に勇猛果敢、大軍を相手に怯む事なく戦い我が魔王の兵を多く薙ぎ倒したと聞く
敵ながら天晴れだったと
多勢に無勢で王は倒れたが、その息子たちが気になったので
探していたのだ」
ヘンリーとノルマーはよく分からないまま魔王の言葉を聞いていた。
「つまり・・だ
単刀直入に言えば、私の部下にならぬか?・・という事だ
父親が勇猛だとて子供が勇猛とは限らん
・・・が、その血を引いているならば可能性はあるだろう」
「部下・・・!?、お前の部下になれと言うのか!?」
ヘンリーが突っかかる。
「そうだ、私は勇敢な部下が欲しくてな」
魔王の言葉にヘンリーはノルマーの顔を見る。
ノルマーは首を横に振った。
それはヘンリーも同じことだ。
「断る!!、俺達はお前の部下にはならない」
「ほう、ならなければあるのは死だぞ」
「構わない、お前の部下になるぐらいなら死んだ方がマシだ!!」
ヘンリーは魔王を睨みつける。
「ほほぅ・・では、そちらの弟の方はどうだ?」
魔王はノルマーの方を見て問う。
「ぼ・・・僕も同じだ!!
あ・・・アナタの仲間になんてならない!!」
魔王は「ほぅ」と感心する。
「流石は評判高いエウンジーク王・・・その息子たちだ
気骨がある、それ故に惜しい
だが、本人達の意志をねじ曲げるのも何だ」
魔王は顎に指を当て目を細める。
「ならば望み通り明日の朝に処刑してやろう、それでもよいな?」
ヘンリーとノルマーは頷く。
「ふふふ、ふははは・・良い良い
では明日の朝に処刑を執り行うように手配せよ」
「はい、畏まりました」
魔王の言葉にジーナが答える。
「最後に・・・だ、本当に私の部下になる気はないのだな?」
「ない、俺たちはエウンジークの王子だ!!」
「分かった・・・、連れていけ」
魔王の言葉に兵士達が王子を連れて魔王の間から出て行った。
「・・・・・・」
魔王は少し考えジーナに尋ねる。
「ミーシュとディルーは城に居るか?」
「え~と、はい
居るはずですけれども?」
「やつらを王子たちに充ててやれ」
「・・・え!?、宜しいんですか?」
ジーナは目をパチクリさせる。
ミーシュとディルー
去年から魔王のハーレム入りをし城に登城している。
美しくあるのは当然だが、その最大の武器は若さである。
「流石にやつらより若い女はいないからな」
「それでも王子ちゃんたちにしてみれば年上の女ですわね」
「あの世への土産話によかろう」
「・・・畏まりました」
言いながらジーナは別件を思い出す。
「それはそうと魔王様」
「ん?、何だ」
「オークが騒いでいますわ、労働分の報酬を寄越せ~と」
「ちっ、役に立たんゴミどもが・・・」
「エルフ界にリシープが赴いてますから、まだオークは活躍するかも知れません・・ゾンビとして」
ジーナの言葉に魔王は暫く考え口を開く。
「ダークデントにいる人間の女達を与えよ」
ダークデントとは旧エウンジークの地でエウンジーク崩壊後、人間界侵攻の一大拠点として魔王軍の要塞都市を建造した場所である。
エウンジークにいた女達は根こそぎ魔界に連れていき売り飛ばしたため、エウンジークの地に女達はいなくなった。
当然、ダークデントの魔族達から強い不満が出た。
変わりにアウランズという同じく滅ぼした国の女達をダークデントに移動させる事になったのだ。
「比較的美しくない女達をオークに引き渡せ、それで豚共は納得するだろう」
「畏まりました、ついでにアリスを生んだ女も渡しておいてよいでしょうか?
一応、アウランズの王妃ですから」
「あいつか・・精神に異常をきたした奴などいらん、一緒に引き渡せ」
「はい、それでは失礼致します」
ジーナと警備兵が退出し魔王の間には魔王だけとなった。
玉座にもたれながら魔王は指をこめかみに置く。
エルフ界ではルービアンカを陥落させた。
しかし、エルフの女達は既に逃げ出した後だという。
報告しにきた部下を怒鳴りつつ魔王に湧いた感情はまったく別の感情だった。
「やるな!!、エルフの女王め!!」
そう思ったのだ。
「しかし、戦争は始まったばかりだ
エルフの女王がどう出るか・・・楽しみだ」
そして・・・エルフはエルフでももう一つのエルフ。
「私の味方になるか、それとも敵になるか・・・」
魔王はもう一つのエルフがどうでるかを考えた。
「エルザ!!」
エルザと呼ばれたもう女は男に近づく
バシィッ
近寄ってきたエルザの頬を男は叩いた。
バシィッ バシィッ バシィッ
男の名はゴドウィン。
死体人形使師フレッシュゴーレムマスターであり、遅れてきた最後の軍団長である。
魔王軍の会議の事で苛立っているゴドウィンは力いっぱいエルザの顔を叩いた。
会議にてワグーとゴドウィンの間で意見が分かれ口論になったが最終的にはゴドウィンが折れる形になった。
ゴドウィンの苛立ちの原因はここにある。
叩かれている女は痛がる表情を全く見せず無表情のままよろけながら男に叩かれ続けている。
エルザの年の頃は30歳前半ぐらい。
側に控えているアンナという少女と親子ぐらいの年齢差だ。
いや、事実上エルザとアンナは血のつながった母娘の関係にあった・・生前は。
今は死体となって男の奴隷に成り下がっているが、生きている時は王族として生きていた。
エルザは王であった父の娘として若き頃は王女と呼ばれ、弟が王位を継いだ後は王の姉として王姉殿下と呼ばれていた。
そして由緒ある家の男と結婚し産んだ娘がアンナである。
エウンジークと呼ばれた国の話。
数年前エウンジークは魔王の攻撃に合い滅びの道を辿った。
敵に捕らわれ辱めを受ける事を恐れた王妃ドレッティは落城時に自害して果てた。
本来なら魔王の下に送られる筈だったドレッティだが、死んだとなれば誰も感心は持たない。
ただ一人、このゴドウィンを除いては。
フレッシュゴーレムの研究者であるゴドウィンもエウンジーク攻略において戦闘用フレッシュゴーレムを従えエウンジーク軍と戦い城に攻め込んだ一人である。
そこで見たモノは自害して果てていた王妃ドレッティと王姉エルザの姿である。
死んでいるとはいえその美しさにゴドウィンは感嘆した。
二人とも30代前半ぐらい。
若さによる可愛さや色気とは違う大人の色気のある女達。
二人が死んだ事をその時の魔王軍を指揮していた指揮官に報告し、簡単な検分のあと遺体埋葬を申し出たゴドウィンはドレッティとエルザの死体を仮宿に持ち帰った。
この二人をフレッシュゴーレム化させる事にしたからだ。
フレッシュゴーレムには大別して二つある。
死体を様々に繋ぎ合わせて合成させ動力源である【核】を組み込み動かす方法。
死体にそのまま【核】を埋め込み動かす方法。
【核】といってもただ死体を動かすだけのモノもあれば、簡単な命令を実行させるモノも複雑な命令を実行させるモノも様々である。
ゴドウィンが二人に埋め込んだ【核】は簡単な命令を実行できるモノである。
ただ腐敗を完全に止め、生前と変わらない肉体を維持できる極めて強力なモノだが。
ゾンビも死体が動く事に違いはないが、違いは【核】を埋め込まれた者は腐敗が止まるという事だ。
死後間もなくの死体なら腐敗や硬直が始まる前の状態に戻る
しかしそれは【核】の性能による。
腐敗を少しばかり抑えるだけの抵性能なものから腐敗を完全に防止する高性能なものまで様々だ。
抵性能は比較的安価で手に入るが・・・といってもそれでも一般の魔族では手が出ない金額だが高性能の【核】は作るのに時間が掛かりすぎるし、買うとなると一国の国を買い取るぐらいの金額が必要になる。
ゴドウィンの場合は研究用にマスターから貰っていた一個と、長年かけて自作した一個をエルザとドレッティに組み込んだ。
自作の方は成功するかどうか不安だったが成功しエルザもドレッティも生前の体を持つ腐敗する事のない肉奴隷として蘇った。
肉体は蘇った二人だが魂はそこになく、ただ主人マスターの命令を忠実に聞くだけの人形ゴーレムであった。
エウンジーク国の二人の王子を捕まえたという一報が伝えられたのはついこの間の事。
それより少し前、王子達を探していた魔族はアンナという娘を違う場所で見つけた。
エルザの娘を探していたゴドウィンは大金を払いアンナを買い取る。
魔王の目的は王子達にありアンナではないのですんなり買えた。
エルザ達を屋敷に連れ帰ったアンナに見せたが、騒がれたため怒ったゴドウィンはアンナを意図せず殺害してしまった。
せっかく大金を出して手に入れたのだから、同じくフレッシュゴーレムとして復活させた。
ただ、その分の【核】を手に入れるのに苦労したが。
ゴドウィンは飽きてエルザを叩くのを止めた。
女を叩くとスカッとする
征服欲を満足させかつストレスも発散する。
ドレスを着て座るドレッティの頭を撫でながらゴドウィンは、この間捕まったというドレッティの子供二人に今のこの女の姿見せてやりたいと思った。
美しい自分のコレクションたる奴隷ゴーレムを。
ーーーーーーーーーー
「あの湖にいたごぶりんってまだいるの?」
シルティアがノートンに聞く。
「・・いや
あの後、大人たちが見に行ったけどもういなかったらしい」
「そうなんだ」
言いながらシルティアはノートンの手に触れ手の甲を優しく撫でる。
二人で居るときは当たり前にシルティアがしてくる事で、最初の時に驚いたノートンが聞くと「触れていると安心するから」という返事が帰ってきた。
手を撫でられる事に最初は戸惑っていたノートンだが、馴れてくるとそれが当たり前になってきて触れられていないと不安を感じるようになってきている。
最近では腕をさすったり、胸をペタペタ触ったりもしてくる。
「うん、洞窟は奥深くまで続いていて
多分どこかと繋がっているんじゃないかってね」
「私達が行ったのは洞窟のホンの入り口だったよね」
「だな、結局探索を諦めて引き返してきたらしいんだけど
父さんは・・・
あ、父さんも一緒に探索に参加して行ったんだけど帰り道に崖から落ちて足を骨折したんだ」
「まぁ・・・」
「その怪我が元で足を悪くしてね
元々温泉好きで各地の温泉巡りをしていたんだけどそれが出来なくなった」
「お父様、お可哀想・・・」
「まぁ、最近は温泉の里であるこのルーネメシスに引っ越してきて温泉を楽しんでいるけどね」
ルーネメシスに来たノートンとシルティアはノートンの父親が住む家に向かった。
ルービアンカ陥落後、ルーネメシスに足が向いたのはノートンの父が住んでいるからという事情があってである。
「しっかし驚いたな、お前が嫁さんを連れてくるとは」
「ぶっ」
ルービアンカ陥落の様子や魔王軍についてひとしきり聞いた父アリントンはシルティアを見ながら冗談混じりに言った。
その言葉にノートンは飲んでいたお茶を吹き出す。
「いや、父さん違うから」
「ん?、違うのか?」
アリントンはニヤニヤしながら言う。
「え?、違うの?」
シルティアもニコニコしながら話に乗って言う。
何なんだ一体・・・と思いながら、シルティアが首から掛けているキラキラ光るカードを見やる。
首から紐で下げているプラスチック製の入れ物に入ったカード。
通行許可証と滞在許可証が一体になったカードだ。
カードの名前欄には【シルティア】という自筆のサインも入っている。
ルーネメシスの里に入る際に里の入出管理している管理者達から身分証明書の提示を求められた。
いつもは必要ないのだが、魔王軍の侵攻に伴いスパイを警戒して里に入ってくる者には厳しく目を光らすようにしているらしい。
あと、ルービアンカで生き残った者を記録する目的もあるようだ。
ノートンもガルボも・・・エルフ族は生まれた時に身分証明書が発行され身に付けているのが普通であり、里に入る際も問題はなかったが、シルティアは当然引っ掛かった。
不法侵入者として取り調べを受けたシルティアは、管理者達と色々話をして自分が竜族であると打ち明けると何人か後ろにいたエルフ達が小声でボソボソと話をした。
「シルティアさん・・・でしたね?」
「はい、そうです」
「・・・・暫くお待ちください」
見張りのエルフ以外が部屋から出て行き暫くして入ってきたエルフにカードを渡された。
森住ウッドエルフのエリアならば自由に出入りができる通行許可証と同じく滞在する事を許可する証明書である。
不思議に思いシルティアは管理者に事情を聞いた。
「女王様よりシルティアと名乗る竜族の女性が現れれば発行せよと言われております」
・・・・との返事で納得する。
メリーカさんの心遣いは嬉しいものだ。
「でも、私が来ている事はバレてたのね・・・」
・・・そうした経緯があるカードを見ながらノートンはシルティアに言う。
「ウッドエルフのエリア・・・という事はシティには入れないんだな」
「シティって何?」
シルティアが聞き返す。
「ああ・・・俺たちは通称森に住まう民と呼ばれ分類は「ウッドエルフ」なんだけど、エルフと異種との混血は「ハーフエルフ」と呼ばれていてエルフ界でルーシティと呼ばれる都市をそれぞれの種族毎に建設しているんだ」
「そうなんだ」
「うん」
「ハーフエルフって、具体的にどんなエルフさん達なの?」
ノートンとアリントンは互いに顔を見合わせ何やら複雑な顔をしたがノートンが口を開いた。
「ハーフエルフのシティは大きく分けて4つ
まずシティの中でも最大規模なのはルーヒューマンシティ
エルフと人間との混血だな」
「て事はエルフと人間の混血ハーフが一番多いんだ」
「うん、次がルーリトルシティ
エルフと小人リトルとの混血だな」
「リトルってな~に?」
「精霊界に小人がいたらしい、遥か昔にね
今は絶滅していないけど、その血を今に受け継いでいるのがリトルエルフなんだ」
「リトルエルフってもしかして小さいエルフなの?」
「だね、ウッドエルフの子供ぐらいの身長しかない
多分140~150cmぐらいか
小人はもっと小さかったらしいけど、エルフの血が優って今の身長ぐらいになったみたいだ」
「ふ~ん、リトルちゃん達見てみたいかも」
「可愛いって評判だけどね男女とも
次はルーアクアシティ
アクアエルフは人魚とエルフの混血だ」
「もしかして泳ぐのが得意?」
「だね、水の中を自由自在に動き回る・・・て感じかな
あとルーアクアシティは水上と水中に分かれていて水の都と呼ばれてもの凄く綺麗なんだ、あれは感動した」
「あれ?、行った事あるんだ?」
「うん、子供の頃にね
最後はルーフェアリーシティ」
「あ、フェアリーとの混血?」
「いや、実は相手の種族はよく分かっていないんだ
精霊界にフェアリーと呼ばれる手のひらに乗る羽の生えた種族にちなんで付けられた名前だけどね」
「羽があるの?」
「身長はウッドエルフよりやや低いだけだけど
最大の特徴は極彩色の羽を持つ事だね
あれで華麗に空を舞う姿は天使や天女とまで呼ぶ者もいる」
「へ~、空飛ぶエルフさん達は凄いね
もしかしてウッドエルフさん達が一番地味なんじゃ・・」
「うぐ・・・
いやいや、元はウッドエルフから始まってるから」
ノートンが言葉に詰まっている横でアリントンが口を開く
「面白いのは各ハーフエルフの起源話はどれもが男のエルフと異種の女性の恋愛から始まっている事だ
そしてどれもが女性からの誘いから始まっている事
フェアリーエルフの伝承でもエルフの青年と空から来た乙女の話が伝わっているしな」
「そうなんですか!?」
「ああ、逆に聞かないのはエルフの女性と異種との恋愛話だな
まぁ、そういう民族性なんだろう」
「そうなんですか
でも色んなエルフさんがいて良いですねぇ」
「もっともシティが出来たのは最近だけどね」
お茶を飲んでいたノートンが言う。
「そうなんだ、その前は?」
「フェアリーエルフもリトルエルフも精霊界の土着の民としてウッドエルフ界は関与していなかったし村が点在するだけで一体感は無かった
アクアエルフは当時シーエルフと呼ばれていて
人魚界と離れ海辺の民として精霊界の片隅で細々と暮らしていた
ヒューマンエルフは人間界で差別や迫害を受けていたと聞いた
当時のエルフ界は異種との混血達はエルフ界への入国を禁じていたためハーフエルフ達はそれ以外の場所で暮らしていたんだ
緩和になったのは先々代の女王の時代
エルフ界の一角を解放しそれぞれに土地を与えたんだ
もちろん女王の気まぐれではなくて、色々なエルフが色々な活動や訴えを行った結果なんだけど」
「詳しいのね、ノートン」
「ん・・・まあね
それでも規制はかなりあった
ハーフエルフはウッドエルフのエリアに入ってはならないとか、何かあってもウッドエルフ界は関与しないとか」
「ふむふむ」
「そういった規制を更に緩和されたのは先代の女王なんだ
許可証があればシティからウッドエルフエリアにも入れるようになったし、女王の庇護下にハーフエルフも加わり色々と恩恵にも預かれるようになった」
「それは良かったわね」
「今の女王様は流れを汲んでエルフとハーフエルフの恋愛も自由にしようと動いておられる
・・・まぁ、流石に抵抗するエルフが多くて実現していないけどね」
「抵抗あるんだ?」
「あるなぁ、やはり大人達が圧倒的に多い
そして女性達もね」
「ほほぉ」
「ま、その話はこれで終わり」
ノートンは父アリントンの顔を見た。
アリントンも頷く。
「あ・・・これは聞いていいのかどうか分からないけれど」
「ん?、何?」
「ダークエルフって聞いた事あるんだけれど
その人たちはエルフ界にいるのかな~て」
「ああ、いるよ
ただし彼らは女王様の傘下にはいない
エルフ界の僻地の土地に国を作っているんだ」
ダークエルフはエルフと魔族との混血である。
起源はやはりエルフの青年とデーモン族の女性との恋愛話・・・もとい略奪愛から始まったとされる。
彼らは僻地を新天地とし同じようにエルフと魔族の混血として生まれた人々を引きつけ、やがて一つの国を形成していく。
『ルーダークエピア』
それがその国の名前でありエルフ界とは歴史的に幾度となく争ってきた敵の国だ。
「う~ん、なるほど面白かったです
参考になりました」
ペコリと頭を下げるセルティア。
「ふむ、可愛らしい娘さんだな
やはりお前の嫁に欲しいな」
アリントンがニヤリとしてノートンに言う。
ノートンは何も言わず苦笑いした。
ーーーーーーーーーー
ルーネメシスはあちこちの地中から温泉が湧き出している
それ故に温泉の里と呼ばれ、露天風呂や大衆浴場に利用され各地からエルフが多く訪れる場所だ。
そもそもエルフは非常に綺麗好きで、毎日欠かさずお風呂に入る。
そういった民族性だから、お風呂の種類も多い。
浴槽にお湯を張った普通のお風呂は当たり前で、薬草をお湯に溶かした香る薬湯や熱気で汗を出すお風呂、泡が噴射して体にボコボコ当たるお風呂、体がビリビリするお風呂など各種発達した。
浴槽のタイプも様々で大人数が入れる程の大きさのモノもあれば、一人で浸かるタイプもあったり、立ったまま入れる程の深さのお風呂もある。
シルティアは子供の頃は水のお風呂が一番だと思っていたが、香りを楽しめる薬のお風呂を知った時それが一番のお気に入りになった。
12年前、エルフの女王の就任式に竜族が呼ばれた時シルティアの母がエルフのお風呂の多様さに驚きそれを大層気に入った。
帰国してからそれまで水とお湯を張っただけのお風呂しかなかった竜界にも快適な多種のお風呂を取り入れた事により竜族もまた大のお風呂好きになったという経緯がある。
ただ、エルフ族と竜族の違いはある。
エルフ族は個室の風呂に入るのを好むのに対して竜族は大浴場で皆と一緒に入る事を好む。
エルフ族は男女混浴は一部を除いて基本的に禁止されているのに対して、竜族は基本的に男女混浴である。
竜族は好きではない異性の裸を見ても欲情など一切しないため分ける必要がないが、エルフは違う。
ポチャンッ
指先から零れる一滴の玉が水面に触れ波紋を広げる。
ルーネメシスにある混浴が可能な露天風呂は2つ。
『愉快な湯』と『恋人たちの癒やし』
ネーミングはアレだが至って普通にある露天風呂である。
『愉快な湯』は大昔にエルフの若者達が温泉に入りながら酒を飲み歌い愉快に騒いだという由来から来ているらしい。
『恋人たちの癒やし』は大昔にエルフの男女が温泉に入りながら性行為をしていた場所として伝わっている。
現在は入りに来るエルフは殆どいない。
たまに温泉好きが各地にある温泉制覇のために来るぐらいだそうだが管理は行き届いている。
シルティアは『恋人たちの癒やし』に浸かりながら波紋を作って遊んでみる。
ノートンと来たいのだが、やはり恥ずかしいらしく一緒に来る事はない。
もっとも、あからさまな由来の場所に来たがるエルフはそうそういないだろうが・・・。
「宜しいですか?」
声を掛けられたシルティアは「どうぞ~」と返す
気配はしていたので驚く事はないが、入りにくるモノ好きさんは他にもいたようで・・・。
見ると身体を洗い終わったエルフの女性がそろりと湯に足を浸け半身まで浸かり此方に近寄ってくる。
「こんにちは」
その女性はシルティアに挨拶をし肩まで湯に浸かる。
「こんにちは」
シルティアも挨拶をする。
・・・・・・
暫く無言でお湯を楽しむ二人。
やがて女性がシルティアに話しかけた。
「失礼ですけれど、エルフの方ではないですよね?」
「そうですよ~、竜族です」
シルティアがあっけらかんと言う。
「り・・・竜!?、竜の方なんですか?」
「そうですよ~」
驚いた面持ちの女性にシルティアが答える。
・・・・・
暫く沈黙していた2人だが女性が再び口を開いた。
「ご旅行か何かですか?」
「温泉目的と好きな人を守るために来ました」
「なるほど、温泉は気持ちいいですよね~
・・・好きな人がこの里にいらっしゃるのですか?」
「はい」
「魔王軍が攻めてきている物騒なご時世ですからね、恋人さんですか?」
「ん~、今の所は友達以上恋人未満ですね~」
「あはは、そうなんですか」
「はい」
「でも心配でしょ?
ルービアンカではエルフの男性が大勢亡くなられたようですし、戦争は終わっていないからこのルーネメシスにも魔王軍が攻めてくるかも知れませんし」
「ん~・・・私が守るから大丈夫ですよ~」
「ああ、竜族の方ですものね
魔王軍を恐れないのですね」
「ですね~、もしこのルーネメシスを戦火に巻き込むようならただでは済ませないと思っています」
セルティアはにこやかな顔で冗談混じりの言葉を言った。
しかしシルティアのその言葉に女性の顔が一瞬強張る。
「なるほど、心強いですね~
では私はそろそろ上がりますね」
女性は立ち上がり湯から出ようと後ろを向く。
その後ろ姿を見ながらシルティアは言った。
「そう上にお伝え下さいませ、魔界の方」
「・・・・承りました」
女性は振り返り一礼する。
と同時に濃い湯煙が一気に立ち上り女性の体を包み・・・
その煙が目と鼻の先にいる筈の女性の姿を完全に見えなくさせる。
暫くして濃かった煙が薄くなりうっすらと遠くが見え始めた時にはもう女性の姿はなかった。
シルティアに幻術は聞かない。
いくらエルフの女性に姿を変えても竜に与えられた特殊な視覚と嗅覚は相手がエルフではない事を見抜く。
「ん~」
シルティアは手足を伸ばし気持ちよくぽかぽかを更に楽しむ。
しかし
うつら・・・うつら・・・
「・・だめだ、このままだと寝てしまいそうだ・・
うーん・・・」
眠たいながら考える。
寝るなら一度でいいからノートンに膝枕されて寝たいなぁ・・・
ノートンの膝の感触
好きなノートンの体の匂い
片方の手で髪を撫でられながら
片方の手で脇腹の辺りに手を添えてもらう・・・
ものすごく安心して寝られそうな・・・
いや・・・多分興奮して寝られなさそうな・・・
そしてお休みのキスをして・・・・
そして・・・そして・・・
「なんてね!!、なんてね!!」
バシャバシャと湯面を叩きながら、きゃ~!!と叫ぶ。
「・・・・いけない、いけない
どうも最近変だ、もの凄く妄想が入ってしまう」
・・・・・
「さ、か~えろ」
ひとしきりニヤケたシルティアはザバンとお湯から上がり置いていたバスタオルで身体を拭く。
服は・・・盗られずにあった。
うんと頷く。
やはり昔の、あの思い出はシルティアの中で特別な出来事なのだ。
そしてあの時あの場所で奇跡的に出会ったノートンはシルティアの中で誰にも変える事が出来ない特別な存在なのだ。
体中の震えが収まってきた。
へたり込んでいた女は落ち着いてきたため深呼吸を三回ほどし、まだ力が入らない足をガクガクさせながらも何とか立ち上がる
そして流していた涙をハンカチで拭う。
ファサッ・・・
ショールを肩から掛けマリージュは温泉の方向を振り返った。
竜の女性の匂い・・・
あの甘い匂いを嗅いだマリージュは脳を突き刺されたような感覚を受けた
あんな・・・
あんな凶暴な荒れ狂う匂いを嗅いだのは生まれて初めてであり、あんな匂いがこの世に存在する事を想像もしていなかった。
僅かな時間同じ空間にいただけで壊されそうになるあの香り。
「あれは・・・あれは駄目・・・」
喋っている時は平静を何とか保てていた・・・
いえ、保てているフリをしていただけ・・・
まだ手は少し震えている・・・
もう一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる
「大丈夫・・・大丈夫よ・・・」
怖くない・・・そう、恐れはない
いや、ある・・・あれに身を委ねれば・・・
自分の全てがあの竜の女性に支配されてしまう・・・
目を閉じマリージュは考えないようにした。
あの香りを思い出しただけでまた体が震えてきそうだ。
再び深呼吸をし弱った体を引きずるように弱々しく浮く。
辺りは既に黄昏時・・・。
「お兄様・・・助けて・・・」
涙がまた出て頬を伝う。
「お兄様・・・わ・・・私は・・・」
マリージュは目を閉じ、そして静かに飛び去った。
黄昏時は終わり闇が辺りを完全に包む頃・・・
アリントンの家ではガルボが来ていた。
ルーエルシオンを出発したエルフ軍は約1万5000人。
ルーアクシウムに向けて行軍中。
そして何とエルフの女王メリーカ自らが率いている・・・という情報をノートン達に聞かせるためである。
「じ・・・女王様自ら?」
驚くノートンにガルボは答える。
「そう、女性達の代表として女王様自らが出陣なさった
途中途中で里の守りに割り当てられている防衛隊の一部が女王様を守れ!!っていう感じで加わって軍は2万程まで膨れ上がっているって噂だ」
「に・・・2万か・・・」
ノートンは驚きの顔を父のアリントンに向ける。
「女王様も男だけに戦わせる責を感じておられるのだろうな・・・」
アリントンはノートンの顔を見て呟いた。
「それでガルボ、もう立つのか?」
ノートンの言葉にガルボは胸を張って答える。
「ああ、ルーアクシウムには家族も避難しているからな
女王様も来られるなら尚更行かないと」
「俺も行ければいいんだが・・・」
「お前はここに残って親父さんを助けてやらないと
魔王軍がこっちにも攻めてくる可能性は高いからな」
「だな・・・」
ノートンの落胆の様子にガルボが励ます。
何せ女王様を直に見るチャンスはそうそうないし、女王様の下で戦う機会など多分もうないだろう。
何より女王様の危機に馳せ参じないのは駄目ではないかという焦燥感がある。
そんなノートンの気持ちはガルボも痛いほど分かるのだ。
「親父さんもそうだが、シルティアちゃんも守ってあげないとな」
シルティアの名前を出されて渋々頷く。
「分かった・・死ねなよ、ガルボ!」
手を差し出すノートンにガルボは手をがっしりと握る。
「俺は大丈夫だ、俺にはドラゴンの加護が付いている
またドラゴンが助けに来てくれるかも知れないしな」
「・・・・だな」
2人が握手を交わしている時に玄関のドアが開きシルティアが温泉から帰ってきた。
あれ?、何の話?・・・・という表情で3人を見渡し小首をかしげ微笑む。
その動作が可笑しくて笑い出す男三人。
決戦は間近に迫っていた。
【一章について】
アンデットというエルフにとっては相性の良くないだろう軍団との戦いです
多分生きている生物はエルフの弓矢で倒せるだろうけれどゾンビとかだと普通の矢では倒せず苦労するだろうなー、という考えからアンデットとの戦いを書いてみる事にしたのがこのアンデット戦争です
一応この作品の主人公はルセルで、最初にエルフとドラゴンのハーフを主人公として考えたけれど、そっちのけでルセルの父ノートンと母シルティアの過去譚から始まっています。
まぁ、どちみち父と母がどのように出会ったかを書かなくてはならないなら最初に描こうみたいなノリでした
過去回想を途中で挟むのは面倒くさかったので。
そして多様なるエルフの種族達。
何か普通のエルフを書くだけはつまらなかったので変なハーフ系統を色々付け足したしました。
後編に続く。




