ホイクールと触手の怪物
「久しぶりですねアリス」
ホイクールがアリスの元を訪ねてきた。
「忙しい時に何しにきたの?、ホイクール?」
ホイクールの姿にアリスは目を細めた。
「いえ…ただオランデムドに触手の怪物がいると聞きましたので来ました」
「相変わらず暇ね・・・というか誰から聞いたの?」
「ラージュンですよ、この間オランデムドに行ったとか?」
「はー・・・他言無用って言っといたのにあのバカ・・・」
「それで行った感想はどうでしたか?」
「ラージュンから聞いたんじゃないの?」
「貴女の見た目から話が聞きたいです」
「それを聞いてどうするの?」
「いえ、触手の怪物に興味がありまして」
「興味ね、興味があるのは貴方じゃなくてエクシーヌの方じゃないの?」
「その通りです、よく分かりましたね」
「・・・貴方が間違っても触手の気持ち悪い怪物に興味を持つとは思えないからね」
「そうでもありませんよ?、今は人間界の異常な出来事に関心がありますからね」
「とにかくエクシーヌの依頼で動いている訳ね」
「そうです」
「残念だけど触手の姿は見ていないわ」
「そうのようですね」
「話はそれ以上でもそれ以下でもないわよ」
「なるほど・・・都はどうなっていると思いますか?」
「離れた街でも繁殖は確認できた・・・なら都も同じだと考えるべきね」
「なるほど」
「それで?、都に調査でもしに行くつもり?」
「はい、そのつもりです」
「別にするなら勝手にすればいいんじゃない?、オランデムドはアウランズ領じゃないから私の許可なんていらないわよ?」
「いずれはアウランズの領土になるのでは?」
「あの触手の魔物を何とかしないと誰も領地は手に入れられないわよ」
「だからこその調査です」
「触手を殲滅でもする気?」
「私ではありませんが」
「エクシーヌね、派手にやるつもり?」
「エクシーヌの考えでは触手を手兵に組み込めるなら組み込もうと考えています」
「アレをね…、まぁオークと大差なさそうではあるけどね」
「それを確かめるのが私の役目です」
「ご苦労さま、殲滅かまたは全部いなくなればオランデムド領は無傷で手に入るわね」
アリスはそう言ってこめかみを押さえた。
その仕草にホイクールは聞いた。
「何か問題が?」
「いえ…こっちの事よ、頭の痛い問題が色々とね」
「何かストレスになる事が?」
「あるわね、アウランズを取り囲む問題よ」
マクシトイ軍を破りその領地を得た新生アウランズ国。
その領土を拡大するにおいて他の周辺諸国が黙っている訳はなかった。
アウランズに対しては大きく二つ動きがある。
それは対アウランズ戦線とも言うべきか・・・アウランズを危険視する王国達が組んでアウランズに攻撃を仕掛けようとしている動き。
一方でアウランズと組みたがる国も存在している。
対アウランズを掲げる国々はアリスに対して世を乱す魔女と罵り、その魔女を倒すべく同盟を組んだ。
一方アウランズと同盟を組みたがる国もあって、そちらはアリスを女神の如く称えている。
アリスの美貌は周辺諸国に轟いている。
幾つかの国々では王子との結婚を通じてアウランズと結束を強めようとする動きもある。
それらの国の若い王子達からアリスは求婚されているのだ。
アリスとして実に鬱陶しい。
人間の猿風情が私に求婚などど・・・と本気で思っている。
「私を手に入れたいならルセルぐらいじゃないとね」
無意識にルセルの名前が出る。
しかしそれは仕方がない事だ。
ルセルが特殊すぎるのだ。
とにかく周辺諸国の色々な動きを考えているとストレスも溜まるというもの。
「やるならどうぞ?」
「そうですか、ならば私達はオランデムドを調査しに行きます」
「私達・・・ね、当然レトルトもよね?」
「その通りです」
「まったく、アンタ達仲が良いわね」
「ベストパートナーですからね」
「羨ましいわ」
「それはどうも」
「調査しに行くって馬でも走らせる気?」
「いえ、空飛ぶ生物を連れて来ました」
「なにを?」
「ヒッポグリフですよ」
「なるほどね、空からいけば都はすぐね」
「そういう事です」
「調査して・・・その後エクシーヌが自軍に取り込むか殲滅するか決めるのね」
「そういう事になりますね」
「まぁ・・・どちらにしてアレがいなくなるのは助かるけどね」
「人間では太刀打ちできなさそうですからね」
「まあね、出来ない訳でもないけど殲滅にはかなりの兵の数がいるし戦闘での犠牲も出るでしょうから」
「触手は強そうですか?」
「見てないから何とも?、少なくとも弱くはないんじゃない?、調査に行った冒険者も帰ってこないみたいだし」
「なるほど、ならば我々でそれらも含めて明日の朝早くから調査に行ってきます」
「なら今日は寝る所と食事を用意させるわ、大したモノは出せないけど」
「はい、ありがとうございます、お気遣いなく」
翼を大きく広げてヒッポグリフは空を飛ぶ。
その二匹の背にはそれぞれホイクールとレトルダが乗っている。
早朝早くに出発したホイクール達は昼間を待たずにオランデムド領上空を飛んでいた。
「見えてきました」
オランデムド上空を飛ぶホイクールは言った。
遠くに城が見えてくる。
オランデムドの都だ。
オランデムド自体は大きな国ではない。
その城も大きなものではなくこじんまりとしたモノだ。
最初は遠くに見えていた城だが徐々に近づきやがて眼下まで来た。
「あそこに」
城の入り口から少し離れた草原を指差しホイクールはヒッポグリフを降下させる。
同じようにレトルダも降下した。
ブワッと砂埃が舞い上がり二匹のヒッポグリフは地に着地する。
「さて・・・」
ヒッポグリフから降りたホイクールは少し向こうに見える城の入り口に目をやりニヤリとした。
「嬉しそうだな、ホイクール」
「ええ、触手の化け物が見れますからね」
「それでどうする?」
「レトルダ、ここでヒッポグリフと共に待機していて下さい」
「一人で入るのか?」
「ええ、触手のモンスターは昼間は表に出てこないようですが念の為にヒッポグリフ達を見ていて下さい、触手にやられて帰りの足が無くなるのは避けたいですから」
「なるほど分かった、しかし一人で大丈夫か?」
「まぁ大丈夫でしょう、イザとなったら電撃を撒き散らして逃げますし」
「そうか」
「はい、さて・・・なら行ってきます」
そう言ってホイクールは城に向かって歩き出す。
ここからが面白い所だ。
果たして触手はどんな姿なのか・・・が明らかになる。
「失礼しますよ」
城の入り口を抜けて本来なら誰もいないであろう廃墟の城の中へ。
べちゃ・・・
城の中に入ったホイクールは靴で何かを踏んだ感触に目を細めた。
城の中は暗く目が慣れてくるのを待つ。
徐々に目が慣れてきて踏んだものが何かゼリーのような粘液だと分かった。
「これは・・・」
足元だけではなく床一面…壁や柱、天井にも粘液のがへばり付いている
天井からはその粘液がダラーと落ちてきていた。
・・・・・・
何らかの分泌液のようなモノだと感じたホイクールは構わず奥に進む。
「凄いですね」
粘液はますます増えて辺り一面分泌物の塊があちこちにくっついている。
「あ・・・」
「ん?」
人の声を聞いた気がしてホイクールは辺りを見渡した。
「・・・気のせい・・・ですか?」
確かに声を聞いた気がしたが気のせいかと思いまた歩き出す。
するとまた聞こえた。
「あ・・・あ・・・」
「間違いないですね、どこです」
「あ・・・うぅ・・・」
ホイクールは声のする方に向かって歩く。
目の前にはドロドロのゼリー状の塊が積み重なっていた。
「ここから?」
手でゼリーを掻き退ける。
一部で固まっている所があってそれを引き剥がした。
「あ・・・ああ・・・」
女がゼリーの中にいた。
両手は分泌物が固まったものに固定されている。
「さて、貴女は誰です?」
ホイクールの言葉に女は微かに口を動かした。
女の年齢は・・・30歳中頃ぐらいか。
魔王軍侵攻の頃からここにいるなら触手に捕まったのは10代中頃ぐらいだろう。
ならば喋れる筈だ。
「わ・・・わたし・・・は・・・」
辿々しく喋る女。
「わたし・・・はベル・・・ヴェル・・・ベルヴェル・・・」
「ベルヴェルですね、それで貴女は誰ですか?」
「王女・・・」
「この国の王女だったのですね?」
ホイクールの言葉にベルヴェルは頷いた。
特に美しくもないが・・・いや、人間基準では普通より上ぐらいの容姿か。
この国の王女は王国が滅びてからもここで生きていたという事だ。
「さてベルヴェル、他に生きている人間はいますか?」
「あ・・・あっち・・・に」
「あっちに何人ぐらいいるのですか?」
「え・・・14・・・人・・・」
普段まったく喋っていないのだろう。
王女は途切れ途切れに言葉を思い出しながら喋っているようだ。
「14人ですか、全て女性ですね?」
「そ・・・そう・・・」
やはり生き残っているのは全て女性のようだ。
予想できていたとはいえ意外性が全くない。
それはそうと生き残っている女を一人確保するのもホイクールの役目だ。
ベルヴェルは王女でしかもそのお腹を見れば触手を孕んでいるのが目で見える。
ホイクールはベルヴェルを連れていくことに決めた。
勿論確保した後はその足でエクシーヌの元に届ける。
生物兵器として役に立つかどうかを研究する為に。
「さてベルヴェル、貴女を連れていきますがその前に・・・」
その前に城を調べてからだ。
残っている女達がどんな状態かも見ておきたい。
何よりも触手と接触しそれがどんなモノかも確かめなければならない。
「ここで待っていて下さい」
「・・・だ・・・め・・・置いて・・・いか・・・ないで・・・」
必死に訴えるベルヴェルを置いてホイクールは城の奥に進んだ。




