ホイクールと触手の怪物2
オランデムドの王女ベルヴェルの助けてという言葉を無視して城の奥に進むホイクール。
粘液状のベトベトしたモノは更に増えて既に靴の半分ぐらいが埋もれている感じで非常に歩き難い。
「凄いですね」
歩くたびにべっちょべっちょぶっちょぶっちょと粘液の音がして滑り転けるのに気をつけながらホイクールは更に進む。
城の奥はほぼ真っ黒だ。
触手は闇に隠れる・・・のならこの辺りに潜んでいる可能性はある。
「ん・・・?」
通路から大きなフロアに出た。
ぐちゃ・・・
何か柔らかいモノを踏んだ。
「これは・・・」
単なる粘液ではなく明らかに異質な物体。
足を引っ込めてその踏んだモノを見ようと目を凝らす。
暗闇の中でそれはぬらりと動いた。
「出ましたか」
踏んだのは触手だ。
それはにゅちゃっという音と共に床から迫り上がってきた。
太さは女性の腕ぐらいか、ただ長さはかなり長いのは見てとれた。
それはホイクールの眼前で動きを止めた。
どうやらこちらの動きを探っているようだ。
しかしこれは本体ではない。
この触手は恐らく何本もある触手の一つでこれと繋がっている本体がいる筈だ。
ホイクールは触手の先、今目で見えている触手の先端部分から目を追って本体を見ようとした。
「これですか・・・」
ずんぐりとした楕円形のドロドロした肉の塊。
その肉の塊から無数の触手が出ている。
ホイクールの目の前にある触手もその内の一本だ。
「なるほど、それが本体ですか・・・」
ぬらぬらしたその本体から液が漏れ出でいる。
粘液はこの怪物が出している分泌液のようだ。
「さて・・・」
どう出るかを見る。
すると目の前にある太い触手ではなく床の粘液溜まりから無数の細い触手が飛び出してきてホイクールの首や手足に絡み付いた。
「そうきましたか」
触手怪物には女性の腕ぐらいの太い触手とペンぐらいの細い触手がある事が分かった。
「面白いですね」
ググググ・・・とホイクールは腕に力を入れる。
途端に絡みついている細い触手は締め付ける力が強まりホイクールの腕は動かない。
「これはこれは、大したものですね」
こうやって拘束して相手の動きを封じるのか・・・という関心。
魔界にはワームがいるがこれはミミズを大きくした感じのモンスターだ。
ワームは体を使って絡まり締め付けてくるがこの触手も似たような感じを受ける。
いや、触手が何十本もある分このモンスターの方が厄介か。
「それでどうするのですか?」
触手モンスターが次にどうするのか実に興味がある。
そんな事を考えていると目の前の太い触手とよりもまだ更に太い触手が現れホイクールの腰に巻き付いた。
そしてグイッとホイクールの体を持ち上げた。
「おお、これは凄いですね」
ホイクールはワクワクしながら無抵抗で体を持ち上げられた。
「しかしこれは訂正しないとダメですね」
そう、最初に現れた触手を太い触手と考えたが体を持ち上げられるぐらいに更に太い触手があるのなら最初の触手は中触手と呼ぶべきだ。
つまり今見た限りでは大触手、中触手、小触手が存在しているという事になる。
その大触手に持ち上げられながらホイクールは何本もの小触手に体を弄られた。
「なるほど・・・」
どうやら人間かどうか、オスかメスかを調べているらしい。
ならばこの触手モンスターは視力が無い、もしくはあっても殆ど見えていないと推測できる。
ある程度ホイクールの体を弄っていた触手の怪物は小触手を引っ込めた。
「終わりですか?」
どうやら人間形態のオスだと判明したらしい。
「それでどうします?」
ホイクールが次なる動きに期待していると触手モンスターはホイクールを持ち上げたままズリュズリュっと移動を開始した。
「その体で足がある?、もしくは粘液で滑るように移動している?」
なにぶん暗闇の中での出来事なので詳しくは分からない。
だいぶ目が慣れてきたとはいっても限界はある。
「さて・・・」
どこに連れていかれるのか?。
取り合えずホイクールは自身を拘束しているこの触手モンスターの出方を見ようと思った。
ずりゅずりゅ・・・ずりゅずりゅ・・・ずりゅ・・・
暫く進むと声が聞こえてきた。
一人だけではなく複数の女の声。
「来ましたか」
王女ベルヴェルは奥に14人ほど女がいると言っていた。
ならばこの声はその女達であろう。
その声に徐々に近づいている。
そして声の目の前まで来た。
「なるほど」
だいぶ暗闇に慣れた目で何人かの裸の女が手足を触手に拘束されているのが見える。
女達は拘束されそれぞれ色々な体勢で触手から弄ばれていた。
「なるほど、確かにオークの触手版といった所ですね」
さて・・・
ここまで来れば後は・・・
ホイクールは魔法で光の玉を作り出した。
光り輝く光の玉が現れ暗闇のフロアを照らす。
これは単なる光るだけの魔法だが暗闇を嫌うモンスターには眩しすぎて嫌がるだろう。
案の定、触手モンスター達は光る玉の光に触手を縮めさせて驚いたような動きを見せた。
「おっと・・・」
ホイクールを持ち上げていたモンスターも同様でホイクールの腰に巻き付いていた触手を解いて本体近くまで引っ込めた。
ホイクールはべちゃっと粘液滴る床に着地する。
「さて・・・」
明るくなったがいきなり明るくなった事でホイクールも眩しくて余り見えなかったがすぐに目が慣れた。
見ると触手の怪物の姿がハッキリと見て取れる。
「しかし・・・」
女達を拘束していたモンスター達を見渡す。
「これは・・・」
良く見なくても触手のモンスター一体一体が違う形状をしている。
つまりどうやら一定の形を持たないモンスターのようだ。
一括りに触手と言っても多種多様な形状を持つのならそれはそれで厄介だ。
ホイクールと同様に触手の拘束を解かれた女達は粘液の床に倒れたりへたり込んだりしている。
「貴女達は・・・喋れますか?」
ホイクールの問いに女達はホイクールを不思議そうな目で見た。
「あ・・・あ・・・」
「うあ・・・う・・・」
「あぁ・・・あ・・・お・・・」
「おお・・・うぁ・・・う・・・」
一様に唸り声のような声を発する。
どうやら喋れないようだ。
「まぁ、その年齢なら仕方がないですね」
女達をざっと見た感じ全員20代前半に見える。
つまりオランデムド陥落の時には赤子だった女達だ。
オークにも見られる傾向だが触手モンスターは赤子の女児を繁殖可能な年齢まで飼育していたという事になる。
元々言葉など教えられていないのだから喋れないのは当然だ。
この場合知能も著しく低い。
その点では15ぐらいまで普通に育ったベルヴェルとは全く違う。
この女達は触手の子供を産むために生かされてきた孕み袋達だ。
「さて・・・」
触手は光で怯んでいる、だがいつまでも怯んではいないだろう。
ホイクールを敵として排除行動に移ってくる筈だ。
そもそもオークもそうだが人間のオスは殺すのが本能だ。
触手がホイクールをここに連れてきたのも食うためか何かだろう。
ぐあぁ・・・
先端に鋭い牙を持つ口が付いた触手がホイクールに向かって伸びてきた。
どうやらこれでバリバリと食うらしい。
「大体分かりました」
パリッとホイクールの手から電気が発生した。
さて、調査はここまでです。
-魔界の深部・エクシーヌの城ー
「という訳で報告を終わります」
「ご苦労様」
オランデムドの触手調査を終えて魔界に帰ってきたホイクール。
ホイクールはその調査報告をエクシーヌに伝えた。
「触手の形態は多様、面白いわね」
「まぁ、私もあのグロテスクなぬらぬらした体には少し嫌気が立ちました」
「スライムと仲良くできる貴方が?」
「それはそれ、これはこれです」
先端に牙の付いた触手で攻撃されたホイクールだったが電撃で牽制しつつその場から退散した。
倒すのが目的なのではなくあくまで調査だ。
それで逃げながら王女ベルヴェルを回収し城を出てレトルダと共にオランデムド領を出た。
ホイクールはそのまま王女を連れてゲートでエクシーヌの元へ。
レトルダはアリスへの報告の為にアウランズへ。
とにかくオランデムド城の調査と触手の怪物を孕んでいる女の捕獲を終えてホイクールとしては一仕事終わりだ。
ベルヴェルは隔離されている。
触手のモンスターが産まれれば研究が始まる。
これによって触手の生態の大部分は明らかになるだろう。
「城にいた女達は14人ぐらい?」
「分かっているだけですが」
「その女達を回収するのも面白いかもね」
「貴女が自ら行くのですか?」
「研究材料は多い方が良くない?」
「まぁ、それもそうですね」
「知能はありそうだった?」
「触手ですか?、どうでしょうね、見たところ無いと思えましたが」
「本能だけで動いているみたいな?」
「そう思えました、あくまでも見た感じですが」
「多少知能があれば命令も聞けるでしょうけど本能だけで動いているなら使い所が難しいわね」
「コントロールが効きませんからね」
「かつてソレを生み出した研究チームも手に余ってオランデムドに放置してきたんでしょうね」
「まぁ、そう思いますよ、コントロール出来なければ自分達も危ないでしょうし」
「そうねぇ」
そう言うとエクシーヌはニヤけた。
「何やら嬉しそうですね」
「退屈しのぎには丁度いいからね」
「なるほど」
触手のモンスターという新しいオモチャを見つけてエクシーヌは非常に嬉しそうだ。
ホイクールもまた触手がどう研究されて動かされるのか・・・の楽しみが出来た。
NEXT2・終わり




