エクシーヌの軍
「・・・・・」
アリスはうっすらと目を開けた。
目の前には寝ているエクシーヌの顔があった。
すぅすぅ・・・と寝息を立てている妹。
その寝顔だけみれば美しい顔をしている少女だろう。
それはとても強力な魔力の持ち主で残虐性を秘めた者とは思えない。
「えーと・・・」
そういえば若返る秘薬を飲んだのだったか・・・。
それがどうなったのかを確かめるためにゆっくりとベットから出る。
まだ寝ているエクシーヌを起こさないように。
そして卓上ミラーを見た。
「あー・・・」
確かに若返っている。
アリス的には23歳になっても前と余り変わらないと思っていたが改めてみると違いがあった。
鏡をしげしげと見つめるアリス。
そしてにっと笑ってみる。
「・・・・・」
そして腕や手を見てみる。
確かに肌の張りや艶が違う。
「やっぱり年を取っていたのね・・・」
そうしみじみと感じる。
「お姉・・・様?」
目を擦りながらエクシーヌが起きて上半身を起こした。
「エクシーヌ、若返ったみたい」
「あ・・・」
そこでエクシーヌも思い出したらしくガバリと立ち上がりトタトタとアリスに駆け寄ってきた。
「お姉様・・・素敵です‼︎」
「えーと・・・大して変わらなくない?」
「そんな事はありません、大人のお姉様は美人でしたが今は美少女という感じです」
「美少女ねぇ・・・」
それなら多分炎の祭典のあった16歳の頃がピークだったような気がする。
しかし確かに今の自分は美女というよりはまだ美少女に近いと感じる。
「私の18ぐらいはこんな感じよ?」
そう言ってエクシーヌに苦笑してみせるアリス。
そんなアリスの姿にエクシーヌは感動して震えている。
「お・・・お姉様、想像していた通りのお姿で嬉しいです」
「え?、泣くほど?」
「はい・・・」
何か涙目のエクシーヌにアリスの顔は引き攣った。
昨夜添い寝をするためにエクシーヌの寝室に来たアリスはベットの中で過去の話をした。
それは勿論エクシーヌにせがまれてのモノだがアリスは滅多にしない炎の祭典の話もした。
それは七年前に精霊界で起こった事だ。
その戦いに巻き込まれたアリスは死にかけたが九死に一生を得て今に至る。
その戦いの一つは竜同士の激突だ。
そしてルセルが竜の血を引いている事もその時に知った。
そのルセルとの出会いがアリスを魔界の決別と人間界への降臨を決定付けた。
その話をエクシーヌは心地よく聞いていた。
「凄く興味引かれる話です」
「そう?」
「お姉様・・・お姉様が嫌われたくないお方って・・・」
「そう、ルセルよ」
「エルフとドラゴンのハーフなんて凄いですね」
「私も最初は信じられなかったわ、でも事実よ」
「そうですか」
そう言った話をしていた筈だがいつの間にか眠ったようだ。
・・・いや、エクシーヌが寝て・・・それで・・・。
甘い匂いがキツくなったのをアリスは思い出した。
ドラゴンの体臭は恐ろしいまでの甘い匂いだ。
この匂いを嗅ぎ続ければ脳がおかしくなってくる。
幸いな事にエクシーヌの体臭はそれ程までではなかった。
それは寝ている間もエクシーヌが無意識の内に濃度をコントロールしているからだろう。
本当にマトモに匂いを受ければアリスはおかしくなるだろう。
ドラゴン以外の生物が竜界に入れないのはそのせいである。
そう言われてみれば人型の姿をした竜騎士はどういった種族なのだろうか?。
ルセルに聞いてみようと思っていたがバタバタしていて忘れていて聞けなかった。
「お姉様、ぎゅーってして下さい」
「え?、こう?」
そう言ってエクシーヌを抱きしめるアリス。
抱きしめられたエクシーヌは目を伏せ姉の温もりを全身で感じて満足気な表情をした。
「これは凄いわね」
高い塔の上から眼下を見下ろしアリスは腕を組む。
下には骸骨軍団がズラリと並べられ規則正しく整列していた。
次に見せられたのはゾンビの収容施設である。
一体一体厳重にカプセル内に収容されたゾンビ軍の数。
「何体いるの?」
「約5000体ですね」
「やっぱり臭いは強烈?」
「ゾンビにも種類があって臭いの強烈なモノもいれば余りしないモノもいます」
「リシープの技術ね」
「はい、ちなみに噛めば感染させてゾンビ化させる種類もいます」
「増殖ね、お仲間にはなりたくないわね」
「あは、お姉様ならとても美しいゾンビになられるでしょうね」
「ぞっとするわね」
エクシーヌの冗談にアリスが笑う。
何か距離が近くなった気がする。
そうアリスの求めている妹はもっと近く心に触れ合える妹だ。
「次は合成魔獣です」
「そう」
そう言って案内されたのは合成魔獣の檻が並ぶ研究施設。
その大きさは並ではない。
それで施設内をかなり歩き回った。
アリスとしては全て見ておきたかったからだ。
四型から更に進化した五型を視察するアリス。
それが済んでもう一つの研究に目を向けた。
「S2を使用しての研究は?」
「こちらです」
そう言ってゲートをくぐり案内された。
そこにはS2を使用しての研究が行われていた。
主にS2と魔獣の合成と配合だ。
生きながらにして魔獣と繋ぎ合わされるS2の実験。
そして魔獣と人間との交配による実験だ。
通常ならば交配は出来ない組み合わせだが多重魔術を組み合わせる事で禁断の交配実験により既に異形の魔獣を産み落としているS2の女達がいた。
その異形魔獣と異形魔獣同士の交配。
そして異形魔獣とS2の更なる交配、異形魔獣同士を繋ぎ合わせ合体させる実験が行われていた。
「凄いわね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
にこやかに屈託なく笑うエクシーヌ、そこに悪意は欠けらもない。
人間が見ればおぞましい実験に見えるだろう。
しかしエクシーヌは竜の血が強くS2など実験をするための虫ケラやペットという認識しかない。
それはアリスも同じで魔族の血が強いアリスもまたS2は単なる道具としてしか見ていない。
同じような魔族と人間のハーフである西方から呼んだ子供達は対スライム用の戦闘兵士として育ててく予定だ。
勿論人間を当てがい子を作らせ兵士を増やしていってもらわなければならない駒でもある。
「これで終わり?」
「はい、今のところは」
「・・・・・」
アリスは腕を組み考えた。
確かに戦力としては優秀かも知れないが数が少なすぎる。
局地戦なら勝てるだろうが魔王領侵攻においては無理だ。
何せ魔王が本気になれば数百万の軍勢が揃う。
「これじゃぁ勝てないわね」
「勝てませんか?」
「魔王軍が本気でくれば100万以上の軍勢になるわよ」
「なるほど、それでは勝てませんね」
「エクシーヌはどう考えてたの?」
「私の考えは私が単独で魔王城に忍び込んで魔王を討つ・・・という計画でした」
「作った軍は?」
「まぁ、何かに使えれば良いですね・・・という程度です」
「なるほどね、単身暗殺なら成功はするでしょうね」
「魔王ゼルギネスの強さはどんなものでしょうか?」
「あくまで血筋から魔王になってるだけだからね、バケモノじみた強さはないわよ」
「そうですか」
「ただ、弱くもないからね、油断していたら殺られるわ」
「なるほど」
エクシーヌは頷く。
それを見てアリスはやや目を細めた。
何か行き当たりばったりな計画しか立てていなさそうだが、それでもゲートを自在に操るエクシーヌが単身で魔王を暗殺は現実的ではある。
「ねぇ、エクシーヌ」
「はい、お姉様」
「魔王暗殺は少し延期したほうがいいわ」
「なぜですか?・・・あ・・・お姉様に何か作戦があるのですね?」
「ないわよ、と言うか今のところ考えがつかないわね」
「何か引っかかる点があるという事ですね?」
「そう、今魔王を殺しても魔王支配領が無駄に混乱するだけで良くはないわね」
「統治・・・という面ですか?」
「そう、破壊するのは簡単だけど再び構築するのが大変なのよ」
「アウランズでの経験ですね?」
「アウランズの再興で統治の難しさを知ったわ」
「確かにお姉様はそれで七年を費やしたのでしたね」
「正直魔王を殺すのは簡単、エクシーヌなら殺せるでしょう、問題は殺した後ね」
「混乱が起こりますか?」
「起こるわね、魔王代理のラーダンは優柔不断のバカでエミリアに操られているお飾りだし、エミリアも自身の権力を固めるために対抗勢力になりそうな者は僻地に左遷してるし」
「ウィナーですね?」
「まぁ、ウィナーもそうね、ただそれだけじゃなくてそれを恨みに思っている者がいるって話」
「その者達が蜂起するという事ですね?」
「可能性はあるわね」
「分かりました、元々は適当な流れで作った計画ですので暗殺は保留します」
「そう言ってくれると助かるわ」
とにかく変な流れは止めたアリス。
アリス的にも人間界だけで手一杯だ、今すぐ魔界の混乱まで関わり合えない。
幸いな事にゾンビもスケルトンも保存が利くのでそのまま保存しておけば良い。
問題なのは合成魔獣だがまだまだ研究中なのでこのまま研究させておけばよい。
「それにしても大したモノね、短期間でこれだけ揃えるなんて」
「造作もない事です」
そう言うとエクシーヌは微笑んだ
その夜もアリスは泊まりだった。
帰ろうと思ったがエクシーヌがもう一泊を勧めてくれたので甘える事にした。
「お姉様、あの・・・その・・・」
「なあに?」
「お・・・お風呂に・・・一緒に・・・入っていただけませんか?」
「良いわよ」
恐る恐る言ったがあっさりOKが出てエクシーヌは喜んだ。
そしてエクシーヌが使っている大浴場にてアリスとエクシーヌは一緒にお風呂に入った。
「お姉様・・・綺麗です・・・」
うっとりとした表情でアリスの背中を流しながらエクシーヌが言う。
「まぁ、若返ったから多少は綺麗になったかも?」
「本当に美しいです、おねえさま・・・」
何か恍惚の表情で言うエクシーヌにアリスは笑む。
アリスからすれば透明のような肌とバランスの取れた容姿を持つエクシーヌこそ美しいと言わざるを得ない。
裸体を見て思ったがこの子には勝てていないと改めて思わされた。
なるほど、ルルシナ達がエクシーヌに狂わされているのも納得できる。
生まれ持って狂わせる力を持っているのだ、この子は。
「エクシーヌも綺麗よ」
「お姉様・・・」
姉の言葉にエクシーヌは頬を赤らめ後ろからそっとアリスに抱きついた。




