エクシーヌの戦力
「・・・・・」
アリスは目を覚ました。
「・・・・・」
ベッドの心地よい感触にアリスは少し笑む」
ジーナ処刑後、入浴して血を洗い流したアリスは少し眠った。
約二時間の眠りの後、ベッドから下りて着替えたアリスは寝室を出ようとする。
「おはようございます、アリス様」
「おはよう」
部屋の扉がノックされルルシナが入ってきた。
「エクシーヌ様が庭園でお待ちです」
そう。
それで庭園を案内されたアリス。
何か色々とした植物や花々が植えられていたが殆どアリスが知らないものだ。
これらは魔王支配領域内では見られない植物群である。
庭園の一角にガーデンチェアとテーブルが置かれエクシーヌが足をブラブラさせてお菓子を食べていた。
「お姉様、よくお休みになられました?」
アリスの姿を見ると椅子から立ち上がり傍に寄ってきてそう言った。
「多少はね・・・」
「お疲れのご様子ですね」
「まぁ・・・でもベッドは気持ちよかったわ」
「ベッドも掛け布団も敷布団も特別制の素材で作らせてありますから」
「人間界のモノとは比べ物にならないわね」
「それは良かったです」
そう言うとエクシーヌはチェアに座るように手招きした。
それでアリスは椅子に近寄り座る。
続いてエクシーヌも座った。
「無様なところを見せたわね」
「何の話ですか?」
「ソフィーの時に感情を爆発させた」
「ああ・・・」
そう言うとエクシーヌは微笑んだ。
「私もお姉様と同じ立場なら同じように感情を抑えられなかったと思います」
「そう言ってくれて助かるわ」
アリス的には冷静に淡々と処理する筈だった。
しかしやはり過去の色々なものが頭に浮かんできて感情を抑えられなかった。
ジーナの時はまだ何とか抑え込めたがソフィーの時に破裂してしまった。
演技ならともかく本気で感情を露わにするなどアリスとしてはあり得ない事だったが、こればかりはどうしようもない。
「どうぞ」
いつの間にかイグリンが現れてアリス用のティーカップとお菓子の入った皿をアリスの前に置く。
そしてティーポットからカップに注いだ。
「ランディー・ティーです」
「ありがとう、昔飲んでいたわ」
アリスはイグリンに言って香りを楽しむ。
これは本当に久しぶりだ。
まだ魔界にいた頃によく飲んでいたティー。
勿論人間界にはない。
手に入れようと思えばピックミーに言って買ってきてもらう事は出来た。
人間界に来た頃はそうして手に入れていたが徐々にそれは無くなり今ではまったく飲んでいない。
アリスはカップを手に取り口を付けた。
甘酸っぱい香りが口に広がる。
「そう・・・これ・・・相変わらず美味しいわね」
「それは良かったです」
エクシーヌはそんなアリスの言葉に笑んだ。
「魔界の匂いも懐かしいわね」
「魔界を離れられたのがお姉様が16の頃と聞きました」
「そうね、七年前だわ」
「それ以来一切魔界には来られていないのですか?」
「戻る気がなかったのもあるし、アウランズ復興に時間を取られてそれどころじゃなかったのもあるわね」
「アウランズ復興は成されて今は拡大しているのですよね?」
「隣国マクシトイとの戦いが終わったからね、やがて来るだろう戦いに向けてアウランズを東国最強の国にしないとね」
「東国最強、つまりは西国のスライム国との戦いを想定されているのですよね?」
「そうよ」
あっさり言うアリスにエクシーヌは笑む。
「私も戦いに向けて軍を作っています」
「ああ、何か言っていたわね、戦って誰と?」
「魔王です」
「なるほどね」
「驚かれないのですか?」
「ジーナ親子を拉致監禁していた事でエクシーヌの次の標的なんて容易に想像できるわ」
「さすがです、お姉様」
「それで?、現時点での戦力は?」
「スケルトンとゾンビと合成魔獣です」
「スケルトンとゾンビねぇ?、昔魔王軍がエルフ界でアンデッド戦争を起こした事を思い出すわね」
「はい、ゾンビはまさしくその時のゾンビ軍を束ねていた女性の術によって生み出されました」
「ゾンビ軍の軍団長は確か・・・」
「リシープさんですね」
「ああ・・・思い出したわ、副団長があのアトニーノね」
「そうです、あのアトニーノさんです」
アトニーノの名前は有名だ。
若返る秘薬を発明した偉大なる魔族。
逆にリシープは一般的には知られていない。
しかしリシープもゾンビ製作の第一人者としてその界隈では有名である。
「一流処ね、もしかして紹介はホイクールから?」
「そう、ホイクールからです」
「まったくアイツは・・・」
「ふふ、そのお陰で良質のゾンビ軍を結成できました」
「良質・・・ねぇ」
ゾンビに良質などあるのかとも思ったが、技術的進歩で一体一体がかなり強いゾンビかも知れないとも思った。
「スケルトンは?」
「製作者はザグーです」
「ザグー?、聞いた事ないわね」
「ああ、以前はザーバと名乗っていたようです」
「ザーバ?、ザーバねぇ、どこかで聞いた名前ね」
どこでだったか?、アリスは記憶を辿ってみた。
「ザーバ・・・ザーバ・・・ん?、ザーバ?」
それで思い出したのが二年間の魔王軍戦争でスケルトン部隊とやらを率いていた魔族の男だ。
「二年前の戦争で名前は聞いたわね」
「はい、ホイクールから聞きました、なんでも骸骨使師のワグーを師と仰いで尊敬していてザーバのザーとワグーのグーを合わせてザグーと名前を改めたとか」
「・・・どちらにしても余り良い名前じゃないわね」
「そう思います、もっと可愛らしい名前の方が好まれると思いますけれど」
「うん、そうね・・・」
やはりエクシーヌは何かがズレているという感じがするがそこは置いておこう。
アリスは気になる骸骨の性能について聞いてみた。
「骸骨の強さは?」
「軍の半分は骸骨戦士を主力とした部隊です」
「骸骨戦士?、確か通常の骸骨に比べて強化されている型よね?」
「そうです」
「二年前の戦争でも出てきていたみたいだけど魔法で倒されたって聞いたわよ」
「エルフの魔法ですね?、その戦いは本人から聞きました
ザグーはその反省点を活かして改良に改良を加えて今の超強化型骸骨戦士たる骸骨戦士弍を新たに生み出しました」
「骸骨戦士弍ね、ネーミングセンスがイマイチだけど、で、それはエルフの魔法が効かないの?」
「まったく効かない訳ではないでしょうが、ある程度魔法の効果を散らす素材を織り交ぜて作られています」
「軍の半分って事は後の半分は動物型?」
「はい、そうです、半分は動物型の強化型を揃えています」
「ヘぇ〜、それで三つ目は合成魔獣?、それなら知ってるわ」
「お姉様は実際に戦われた事があるのでしたか?」
「まぁね」
二年前の魔王軍との戦いにおいて当時魔王軍を指揮していた魔界の王女ターリィナが魔界から呼んできた戦力の一つだ。
しかしキマイラはまだまだコントロールするには技術的に難しく未完成な獣だった。
とはいえ四型はかなり強く赤い戦士としてアリスも一度挑んだ事があったが勝てず逃げた苦い経験がある。
「その研究者達を雇って研究させていたって事?」
「はい、魔王サイドは研究を打ち切ったのでチームを丸ごと抱えました」
「それで?、今はどうなってるの?」
「本当の意味での完成は程遠いと思われますが、様々な実験を行なっています、魔獣とSS2も掛け合わせていますし」
「SS2を?、そんなキマイラなんて強いの?」
「合成と配合を繰り返していますけれどうまくはいっていませんね」
「それで?」
「従来の四型を強化させた五型を主力に構成した部隊になっています」
「コントロールは?」
「だいぶマシにはなっていると思います」
「今のところそれね」
「はい、今のところそれだけです」
「一度見てみたいわね」
「キマイラをですか?」
「ゾンビとスケルトンもね」
「えーと・・・」
「無理そう?」
「いえ・・・ただ現在保管施設に入れてあるので出すのは明日になりますがいいですか?」
「それで構わないわよ?」
「それならば明日全軍が見れるように準備いたします」
「もしかして非常に面倒な作業になる?」
「いえ、大丈夫です、今回お姉様にお時間があれば見ていただきたいと思っていましたので」
「そう、良かった、なら頼むわね」
「はい」
そう言ってエクシーヌはイグリンに言った。
「明日見れるように準備をしなさい」
「はい」
イグリンは頭を下げて下がっていく。
「それはそうと・・・なのですが」
「ん?、何?」
エクシーヌは何やら顔を赤らめて言う。
「今日は・・・泊まっていって頂けるのですか?」
「ん?、ああ・・・そうねぇ・・・」
アリスとしてはどちらでもいい。
このまま門を通って帰って明日また来るでも一向に構わない。
しかし折角来たのだからここでゆっくりしていっても良いとは思う。
「もし邪魔でなければ泊まっていっていい?」
それを聞いてエクシーヌの顔が輝く。
「邪魔なんてとんでもありません‼︎、是非お泊まりになっていって下さい‼︎」
何かやたらとした熱の篭り様にアリスは顔を引き攣らせる。
「それじゃお願いするわね」
「はい‼︎」
何やら嬉しそうな顔だ。
その夜、エクシーヌと共に夕食を食べ終えたアリスはお風呂に入り、そして就寝までの時間をエクシーヌと会話して過ごした。
メイドなどいないと思っていたこの城だったが普通に居た。
しかも結構な数だ。
料理長や料理人もいるらしい。
夕食は彼らが腕を振るってくれたようだ。
来た時にはエクシーヌと部下四人しか見かけなかったからてっきり五人しかいないなんて錯覚をしていたが、思えば大きな城だ、その他の者がいない訳がない。
だったら何でルルシナ達が案内や給仕みたいな事をやっていたのかというと単にアリスと間近で接したからだったらしい。
彼女達もアリスには興味津々だったようで・・・。
「あの・・・お姉様・・・」
「ん?、何?」
ソファーに寝転んでいたエクシーヌが甘えた声でアリスの名を呼んだ。
「少しだけ・・・私からお願いがあります」
「なに?」
「これなのですけれど」
そう言うと手に薄青色の小瓶を出した。
「何それ?」
「中には飲み薬が入っています」
「何の?」
「例の若返る秘薬です」
「へぇ〜」
それは貴重な品だ。
アトニーノが開発した秘薬は超高額で一般の魔族が手に出きる物ではない。
勿論今のアリスが手に出来る筈もなく、存在は知っているが見たのは初めてだ。
「アトニーノ製の物よね?」
「勿論です、効き目の無い贋作も出回っていますがこれは正真正銘の本物です」
「初めて見るわね」
「それは良かったです」
「エクシーヌも飲んでるの?」
「いえ、私は飲んでいません」
「そうよね、流石にまだ早いわよね」
「えっと・・・これを・・・」
「ん?」
「お姉様にプレゼントいたします」
「へー・・・って、え?、くれるの?」
「はい、実はこれは私からのお願いなのですが・・・」
「なに?」
「是非とも10代の頃のお姉様が見たいのです」
「え?、まぁ、確かに今はおばさんになっちゃってるけどね」
「お姉様は今でもお若くお美しいです・・・けれど10代の頃の容姿のお姉様とお話ししてみたいです」
「まぁ、別に構わないわよ」
あっけらかんと言うアリスにエクシーヌは拍子抜けしつつも胸を撫で下ろしていた。
断られたらどうしようとドキドキしていたからだ。
中には年齢を重ねる事に重きを置いたり自然のままに生きる事を良しとする魔族もいるからだ。
「別にこだわりないし、くれるならちょうだい」
「は・・・はい、お姉様‼︎」
飄々と小瓶を受け取るアリス。
ハーフの移動やジーナ親子の件で協力してくれたエクシーヌのお願いなら断る理由はない。
むしろこのお願いを聞くことでそれらの清算もできる。
というかアウランズ復興にここ七年奔走してきたアリスはその青春を捨ててきたといってよく、その分の若さを取り戻したい気持ちもあるからこのプレゼントは本当に嬉しい。
「これって若返るってどのくらい若返るの?」
「大体は5歳前後若返ります・・・なのでお姉様の容姿は18歳ぐらいの若さに戻るかと」
「副作用とかないよね?」
「今のところは確認されていません」
「確かに出来て大して時間が経ってないならあったとしても分からないか」
「はい、すみません」
「謝る事はないわよ、私もこれには興味があったからね」
「そうなのですか?」
「若さって持ってる時は気付かないけど失うと後悔するのよね」
「そういうものですか」
「まあね、で、これはどうやって飲むの?、直接?」
「直接でもコップに入れ替えて飲んでも良いですよ」
「誰か他に飲んだことあるんだ?」
「はい、何人かのメイドに試しに飲ませました」
「効果は?」
「飲んで一晩経って朝起きたら効果が現れています」
「へぇー」
そう言うとアリスは小瓶の蓋を開ける。
「コップに入れ替えましょうか?」
「必要ないわ、私お上品じゃないし」
そう言うと小瓶にの中に入っている液体をそのまま飲み干した。
「変な味・・・エクシーヌ、これでいい?」
「はい・・・ありがとうございます・・・あの・・・お姉様・・・もう一つお願いが・・・」
「ん?、なあに?」
「今夜・・・その・・・えっと・・・」
「どうしたの?」
「はい・・・あの・・・添い寝・・・していただけませんか?」
「ん?、いいわよ」
アリスはにこやかに言う。
その笑顔にエクシーヌは天にも昇る気持ちになった。




