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魔王と竜王  作者: ナウ
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アリスの復讐

「お待ちしておりましたアリス様」


魔界の深部、エクシーヌの居城をゲートで渡ってきたアリスを出迎えたのはルルシナという少女だった。

その少女を見てアリスは「へぇ…」と呟く。

とても美しい。

恐らくこの子がエクシーヌの言っていた四人の部下の一人だろう。


アウランズで色々と話を聞いた中に四人の部下の話があった。

全員容姿が非常に美しい女達であると。

実際に見てみて話通りだと思う。


「こちらへ」


手をゆるりと部屋の外に向け案内しようとするルルシナ。

アリスは部屋を見渡した。

特に広くはなくゲートの前に椅子がひとつポツンと置かれているだけの簡素な部屋。


「何もないのね」


「はい、ここはゲートの部屋でございますのでこれといった物は置いておりません」


「そう」


そう言うとアリスはルルシナの後を付いて部屋を出た。



西方から東方のアウランズまでの遠い距離を一瞬で渡らせる巨大ゲートが作り出され、数回に分けて人間と魔族のハーフである子供達とその母親がアイランズに移動した。

それを作り出したエクシーヌにアリスは改めて驚嘆した。

ともかくこれにて魔族と人間の血を持つ子供達を全てアリスが手に入れた事になる。

アリスの計画ではハーフ達が成長しやがては古代種スライム達との戦争で大いに役立ってもらうつもりだ。


「エクシーヌが出迎えてくると思ったけど?」


城の通路を歩きながらアリスはルルシナに聞く。


「はい、申し訳ございません、エクシーヌ様は現在ご入浴中であられまして・・・」


「ああ、そうなのね」


「はい、誠に申し訳ございません」


「いいわよ、エクシーヌがお風呂好きっていうのは聞いてたから」


「はい、本当にエクシーヌ様はご入浴が大好きであられます」


「毎日長時間入ってるって?」


「はい、長い時には八時間以上も入っておられます」


「そんなに?、よくのぼせないわね」


「もちろん色々な・・・その・・・」


少し言い淀み顔を赤らめるルルシナにアリスは察した。


「ああ、そういう事ね?」


「はい・・・」


更に顔を赤らめるルルシナ、それを見てアリスは可愛い子ね・・・と思った。

つまりお風呂場でも何かしらのお遊戯をしているという事。

そしてそれにルルシナも加わっている・・・または加わる時があるという事だ。

ルルシナの容姿を見ながら他の部下三人も同レベルぐらいの高い水準の容姿の持ち主だろうと推測できる。

それにアリス似のカトゥーラとかいう人間と魔族のハーフの子もいるという。

この子達との快楽に耽る日々は実に楽しいだろうなとは思う。

もっとも、アリスにそんな趣味はないが。

といってもルルシナと間近で接してみて感じる事は容姿の高さだけではない。

その魔力も相当高い。

他の三人も恐らくは同レベルぐらいだろう。

目の前で案内してくれているルルシナレベルの子があと三人いる、それは驚くべき事だ。


「ルルシナ、貴女は魔界の深部出身?」


アリスは何気なしに聞いた。


「はい、アリス様、私は魔界の深部のダブルソーレス出身です」


「わぉ・・・」


ダブルソーレス、かなりレベルの高い魔族や魔物がいる場所だ。

その名前を聞いただけでもアリスは顔が引き攣った。


「なぜエクシーヌと?」


「ええっと・・・それは・・・」


立ち止まり少し恥ずかしそうにモジモジとした仕草で語るルルシナ。


「ある夜・・・私が自室で眠っていますとエクシーヌ様が寝室に訪ねてこられまして・・・」


「あー・・・なるほど、分かったわ」


それ以上聞く気はなかった。

大体把握できた。

つまりはエクシーヌが目をつけて彼女の寝室にやってきて虜にしてしまったという話だ。


「あ…申し訳ありません、アリス様・・・」


ルルシナは頭を下げる。

どうやら話が上手く出来ていなくてアリスが不快に感じたと勘違いしたようだ。


「え?、あ、・・・気にしなくていいわ」


「申し訳ございません」


もう一度頭を下げてくるルルシナ。

まったく・・・どうにもやり辛いものがある。


やがて大きなフロアに通された。

食事を取る長いテーブルが中央にデカデカと置かれたフロア。

ルルシナが椅子を引く。


「こちらに」


「ありがとう」


素直に椅子に座るアリス。


「もう暫くお待ちください、今お飲み物をご用意致します」


そう言うとルルシナはフロアから立ち去った。

少ししてルルシナがティーポットとカップとお菓子が入ったお皿を乗せたトレーを持ってやってきた。

それらをテーブルに乗せコポコポとティーポットからカップに注ぐ。


「トゥー・ティーです、どうぞご賞味下さい」


「ありがとう」


そうしてアリスは飲みながらルルシナと少しの雑談をする。

座っているアリスに対して立って話をするルルシア。

どうにも話しずらいが主人であるエクシーヌの許可なく客人の前で座る事は許されていないのだろう。


「暫くしてフロアにエクシーヌと二人の少女が現れた」


「お姉様、お待たせしました」


「ああ・・・うん・・・遅くなってごめん」


「いえ、まったく問題はありません」


湯上がりのエクシーヌの美しさはまるで絵画に描かれた美少女のようで・・・。

そしてその匂いも何とも言えぬ良い匂いを漂わせていた。

後ろの二人も今しがたまでお風呂に入っていたのだろう、髪がまだ濡れていて湯上がりの匂いをさせているここれは今日くる予定ではあったが時間を指定していなかったので起きたズレだ。

アリスも色々と多忙なので何時に来れるかは分からなかったのもある。


「ああ・・・貴女がカトゥーラね」


エクシーヌの後ろにいる一人の少女性にアリスが尋ねる。


「は・・・はい、そうです、私がカトゥーラです、アリス様‼︎」


うわずった声でそう言う女、どうやらかなり緊張しているようだ。

確かに・・・自分に似ている・・・か?。

似ているという情報は得ていたもののアリス的には自分に似ているかどうかは判断つかない。

しかしホイクールも似ていると言っているのならばそうなのだろうと思う事にする。

どちらにしてもその容姿は美形のお人形のようで可愛い。

自分で言うのもなんだが・・・。

ただやはり美しさならば生粋の魔族であるルルシナ達よりは落ちる気がする。


そして後ろにいるもう一人の女性を見る。

容姿はルルシナと同レベルぐらいか。

恐らく魔力もルルシナと同レベルだろう。


「エクシーヌ様、ティーをお持ちいたしました」


エクシーヌ達の次にフロアに入ってきた二人の女性。

一人はやはりルルシナレベルだが、もう一人がどうにも気になる女性で・・・。

この女性ははルルシナや他の二人の部下よりも一ランク高い位置にいる容姿を持つ女性だ。

そう、エクシーヌと同じく絵画から出てきたような感じの。


「三人のお名前は?」


「はい、申し遅れました。私はイグリンと申します」


エクシーヌの後ろにいるカトゥーラの隣にいる女性がスカートの端を持って古風な挨拶する。

続いて後から入ってきたアリスが気になった女性が言う。


「私はジェシーと申します」


そしてティーポットとカップとやはりお菓子の皿を乗せたトレーを持っている女性が名乗る。


「私はルビーと申します」


「みんな若いわね」


「お姉様、年齢ですがカトゥーラは私と同じ19歳です

そしてルルシナは17歳、イグリンも17歳、ジェシーは18歳でルビーは16歳です」


「・・・・・」


アリス以外ここにいる全員10代である。

場に若いパワーを感じるはずだ。

アリスは今年で・・・23歳。

何か年齢の壁を感じる。


「どうかされましたか?、お姉様?」


少し不思議そうにアリスを見るエクシーヌ、本当に若いというのは眩しいものだ・・・とアリスは思った。

それは置いておいて席に着いたエクシーヌと雑談を交わす。

アリス的には先にさっさと要件を済ませたかったが場の雰囲気に引き摺られてたわいない会話を二時間近く喋ってしまった。

というか少し喋っている感覚だったが気がついたら二時間経ってしまっていた。

それで本題に入った。


「ジーナは?」


「はい、まだ牢屋で生かせてありますわ」


「そう良かった」


「直ぐに処刑をされますか?」


「そうね・・・」


「ではご案内いたします」


「頼むわ」


ジーナとソフィー、アリスにとっては養母と義理の姉だ。

そのジーナとソフィーをエクシーヌは捕らえているという。

今回はそれの処分の為にアリスはここに招待された。

アリスとにとっては子供の頃からの因縁ある相手達だ。

自らの手で処刑したい。


「・・・・・・」


エクシーヌの案内でゲートを通り地下の牢屋に通されたアリス。

牢の中ではジーナはしゃがみ込みうなだれていた。


エクシーヌの魔法で牢の扉が開く。

アリスは無言でジーナの側にいく。

老いた女・・・ただ老いたとはいえかつては魔王のハーレムを取り仕切っていた女だ。

その美貌は落ちたとはいえまだ健在だった。

アリスはしゃがんでグイッと髪を掴みうつむいた顔を上げさせる。


「ジーナ、ようやく会えたわね」


「・・・あ・・・あ・・・」


ジーナは口をパクパクさせて何かを呟いた。


「なに?、ジーナ?」


「あ・・・ああ・・・」


ジーナは虚な目でそれを繰り返した。


「私の事は?」


「あ・・・あ・・・ああ・・・」


ひたすらそれを繰り返す。


「ああ、本当に壊れちゃってるわね」


アリスは髪を離し立ち上がった。

エクシーヌの度重なる拷問で壊れたジーナ。

少しは魔族らしい会話ができるかとも思ったがここまで壊れているならもう問いかけは不要だ。


「アリス様、これを」


イグリンが剣を差し出す。


「ありがとう」


そう言うと受け取りスラリと剣を抜いた。

よく研げている剣、触れただけで深く斬れそうだ。


瞬間「ぎゃっ」と声がしてジーナはうつ伏せに倒れた。

どうやらジェシーの魔法のようだ。

これで首は刎ね易くなった。


「さぁ、アリス様」


ジェシーはその美しい顔でアリスに微笑みかけた。


「ありがとう」


じたばた暴れる所を斬るのもそれはそれで楽しいがさっさと終わらせるのが面倒がなくて手っ取り早い。

それでアリスはジーナの首に刃を当て、そして振り上げ一気に下ろした。


「・・・・・・」


ジーナの首が胴体から離れ床に転がる。

そして大量の血が辺りを染めた。


「終わった・・・」


そう思う。

幼少の頃から辛酸を舐めさせられてきた。

このクソったれ女のせいでどれだけ心を殺してきたか・・・。

それが終わった、あっさりと。


「・・・・・・」


何か複雑な感情が入り混じりアリスを暫く呆然とさせた。


「・・・お姉様?」


心配そうに見つめるエクシーヌ。


「・・・・・あ」


声をかけられアリスは我に帰る。


「死んだ?」


アリスの問いかけにエクシーヌが頷いた。


「はい、ジーナはお姉様の剣で死にましたわ」


「そう・・・」


そう言うと握っていた剣を手から落とす。

カラカラという乾いた音が響き渡り、音はアリスやエクシーヌ達の耳に突き刺さる。


「終わった・・・終わった・・・か・・・」


放心した状態で呟くアリス。


「お姉様、終わりました、さぁ、こちらへ」


血飛沫を浴びて血の付いたアリスの手を取りエクシーヌは地下を出ようとした。


「・・・このままソフィーの所に連れて行って」


「少しお休みになられたほうが・・・」


「エクシーヌ」


アリスはその冷たい氷のような目をエクシーヌに向けた。


「分かりました」


その瞳にゾクゾクとした快感を感じながらエクシーヌはソフィーのいる牢屋まで案内する。

そこにはソフィーがいて壁に顔を俯かせ座りこんでいた。


「久しぶりね、ソフィー」


その声に反応してソフィーが顔をあげる。


「・・・・・」


虚なその瞳。

ソフィーもまた壊されている筈だ・・・そうアリスが思っていると意外な返事が来た。


「・・・アリ・・・ス・・・?」


「!、そう私よ、お姉さん」


アリスは少し微笑み義理の姉を見る。


「なん・・・で・・・」


「ジーナは、母は死んだわ」


「・・・・・な」


「私が殺した」


「・・・アリス、何で」


アリスはソフィーの前髪をグィっと掴んで顔を近づける。


「当然でしょ?、あのクソ女には子供の頃に散々な目に遭わされたからね、だからこの手で首を刎ねてやったのよ」


「アリス…お前は‼︎」


「そうそう、ソフィー、あんたはそうでなきゃ面白くないわ、あんたにも散々上から目線で冷笑されてきたからね、簡単に死ねると思わないでね」


「・・・殺す・・・お前は・・・」


そう言ってアリスを睨みつけるソフィー。

アリスはそんなソフィーに嗤った。


「殺す?、殺すねぇ、やってみて?、無理よね?、ここに捕まって拷問されているだけのゴミが舐めた事言わないでよね?」


そう言って髪をギチギチと引っ張る。


「あ・・・あぎ・・・ぎぎぎ・・・いた・・・いたい・・・やめ・・・やめろ・・・ボケが・・・」


髪を引っ張られたソフィーは涙目になりながら叫んだ。


「痛い?、痛いの?、私の痛みはこんなものじゃなかったんだけどね?、でも・・・」


アリスは髪を離した。


「許してあげるわソフィー、妹からの感謝の印よ」


「な・・・何を言っている・・・?」


「殺さないわ、その代わりオークの巣に送ってあげる」


「まて・・・アリス・・・」


ソフィーの顔から血の気が引いた。


「そうそう、その顔よソフィー、オークの巣に行ったら朝も昼も夜も休む暇はないわよ、頑張ってね」


「・・・待て・・・待て・・・アリス・・・」


「さよなら、ソフィー」


そう言うと牢を出るアリス。

牢の扉はエクシーヌによって閉められた。

そして牢屋の部屋を出ようとするアリスとエクシーヌ達。

ソフィーはありったけの声で絶叫した。


「絶対に殺す‼︎、お前は絶対に‼︎、アリス・・・アリス・・・お前は、殺す、殺す‼︎、帰ってきて必ずお前を・・・」


それがアリスの聞いた義理の姉の最後の言葉だった。


「ばいばい」


アリスは冷笑してエクシーヌに頷いた。

それを合図に地下の牢屋部屋の扉もまた閉められた。

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