【魔界】野望[バルダム]
小さな闘技場の一角
そこにバルダムと獣達が睨みあっていた
「どうしたぁ?」
魔界の王子バルダムは血の滴る剣を手に獣達に向かって吠えた
そんなバルダムを前に虎のような獣2匹は唸りながらも近づいてこない
「はは」
そう言うとバルダムは傍に転がっている斬り殺した同じ獣の死体を蹴った
グルルルゥゥゥ・・・
獣達は唸りながらジリジリとバルダムににじり寄ってくる
バルダムは手に持つ魔剣を頭上高く掲げ威嚇し返す
「来い!!」
その声に獣の1匹がバルダムに向かって飛びかかってきた
「りゃっ!!」
魔剣が唸り一閃、そして獣の体は真っ二つになり転がる
「はは、やっぱいいね」
その威力に満足するバルダム
「もう一匹」
そう言うと残った獣を睨む
その気迫に獣は逃げだそうとしたがバルダムは走り一気に獣を斬った
「ふぅ・・・」
息をつき剣を振り付着した血を飛ばす
そして倒れている獣を一瞥した
「はは、すげーな」
闘技場から出たバルダムはシャワーを浴び、控室に戻った
そんなバルダムにソファーに座り酒を飲んでいたカジフは言う
その横にはリノメもいる
二人はバルダムの子供時代からの友人だ
二人は二階の観戦室から戦いを見ていた
「魔剣の威力を試すにゃ少々物足りねー相手だ」
タオルで頭を拭きながらそうバルダム言う
「そうか?」
「まぁ、良い運動にはなるけどな」
「はは、違いねえ、しっかしよく飽きないな」
「良い運動になるぜ?、お前もやればいいのに」
「嫌だね、何で好き好んで獣とと闘りあわないといけねーんだ」
「痩せるぜ?」
「いらねーよ」
バルダムの言葉通りカジフは少々太り気味だ
少しは運動なり何なりすれば違うだろうが、していないで食うだけだから太る一方だ
「俺はあんな獣共よりも女とやってる方が良いな」
「か、分かってねーな、獣との闘り合いの方が面白いって」
「何だぁ?、この間まで女女女だったのに」
「なんつーの?、別に女も良いけどそれ以上に今の俺は血に飢えてんだよ」
バルダムはテーブルの上にあるボトルを取り飲んだ
ここは魔界の第26都市ダークリナリオン
ギャンブルで栄えるこの都市の長として現在バルダムは赴任していた
とはいえ何かを明確に指揮するという訳ではなく単なる『居るだけの』の長であり、実際の行政は下の者達がやっている
この中で仕事と言えば書類に判を押すことと、たまに重要施設の視察程度だ
そんな退屈な仕事はバカバカしくてやってられないが、上を目指すのには仕方がない事だ
いわば魔界の王、魔王を目指すには現在は各地で経験を積み中央に近づくしかない
しかしここも仕事自体は馬鹿馬鹿しくつまらないが、娯楽はある
何せギャンブルの街である
バルダムはギャンブルと独自に作らせた闘技場で獣を殺す事に精を出す日々を送っている
ギャンブルで燃え、獣共を叩っ斬り汗を流すのは最高だ
「ぷはっ、やっぱ運動の後の酒は良いねぇ」
バルダムはそう言ってガンッとボトルを机に置く
そんなバルダムにカジフはニヤッとして言った
「んじゃ、やるか?」
「賛成」
カジフの言葉にリノメが手を挙げて言う
それを見てバルダムは呆れた
「か、しっかしお前等は女の事ばっかだな」
「当たりめーだろ」
「それ以外何かねーのか」
「女とやる、それ以外何が面白いって?」
「もっと幅広げろよ」
「幅かぁ、あえて言やぁギャンブルぐらいか?」
「ああ、それはな」
「面白いと思うぜ、この街は」
「だろ?」
「でもやっぱり女だな」
「ぶは、結局それかよ」
バルダムが吹き出したと同時にパンパンッと手を叩いた
すると部屋に3人の女が入ってきた
入ってきたのは女達だ
その一人はバルダムの所有物であるS2のアイラである
S2とはかつての戦争で人間界から魔界に連れてこられた女の奴隷の子供達を指す
主に娘に付けられる名称であり、アイラもまた幼少時に売られた一人だ
今はバルダムの元で奴隷として仕えている
「アイラ、行くぞ」
バルダムはアイラを連れて部屋から出ようとした
「どこ行くんだよ?」
カジフの言葉にバルダムはニヤリとして答えた
「血の臭いを嗅いでくる」
「かっ、血に飢えてるな」
「俺は猛獣なんでな」
「先に楽しんどくぜ」
「ああ、そうしてくれ」
そう言うとアイラを伴い部屋を出たバルダムは下の闘技場へと続く階段を降り始めた
バルダムは生まれ持って悪の素養が強く、幼少期から様々な問題を起こしていた
特に性的な興味は誰よりも強く、女児に対して悪戯を繰り返していた
9歳~10歳の頃に知り合ったのが今目の前にいるカジフやリノメ、そして死んだロッチとウキャンだ
バルダムはこの四人を引き連れ女漁りを始め、以後は性交や乱交を繰り返してきた
15歳ぐらいからロッチは合成魔獣の研究者となりグループの性的活動からは距離を置いた
だと言っても仲が失われた訳ではなく、普通の遊びや飲み会には顔を出した
ロッチの死は2年前の人間界での事
今だ不安定な合成魔獣の戦場投入・調整の為人間界入りしたロッチは現地の冒険者どもの急襲に遭い命を落とした
それに激怒したウキャンは敵討ちの為に人間界入りしたがロッチを殺したハーフエルフの冒険者と戦闘になり死んだ
親友二人の死はバルダムも頭にきたが、現状では攻めいるだけの武力は持ち合わせていないため保留となっている
しかし復讐心は今でも赤々ととぐろを巻くように燃えている
「まったく、行くなといったのにな」
バルダムのぼそりと言った言葉にアイラは聞いた
「バルダム様、行くな・・・とは何でしょう?」
「何でもねーよ、こっちの独り言だ」
「はい・・・」
バルダムはアイラにそう言うと階下を更に降りていく
確かにロッチは仕事のため仕方なく人間界に入り死んだ
しかしロッチの敵討ちの為に人間界に入ったウキャンは違う
バルダムは止めとけと言ったが血の気の多いウキャンは聞き入れず行き、そして死んだ
自業自得だがそんな馬鹿でもバルダムに取っては親友の一人だった
「おー、やってんな」
闘技場まで戻ってきたバルダムは獣の死体を片付ける清掃人達の仕事を見ながら地に飛び散った獣どもの血痕を目に入れ息を吸った
獣と血の臭い
今は女の体よりもこれがバルダムの心を満たす
獣どもとの緊張感ある戦闘
蹂躙する支配欲
そして香しい血の臭い
性交とは違う満足感がそこにはある
そう言えばロッチがそうだった
子供の頃には女を抱きまくっていたロッチだが次第にそれらから離れ、仕事に没頭していった
当時は奇異に感じていたが、今なら分かる
これがそういう事なのだと
それが分かったバルダムは今だに性交に耽るカジフやリノメをガキだと思う
現状バルダムが狙うは人間界に撃ち込んで征服する事だ
人間界は2年前の人間界侵略時に親友ロッチやウキャンが死んだ地である
当然二人を殺したハーフエルフどもを見つけ出して復讐するのが狙いだ
そして直接的原因ではないが、敵方として赤い戦士の異名を持ったアリス
アリスはバルダムに取っては異母姉に当たる
こいつも見つけ出して殺す、もしくは服従させるか
そしてそのアリスはスライム群と手を組んで魔王軍を破り、魔王軍完全敗北で戦争は終わった
そのふざけたスライム群もまとめて始末する
・・・それがバルダムの野望だ
しかしそれだけではない
人間界征服後は精霊界に侵攻しエルフ界を蹂躙する
父王ゼルギネスですら果たせなかった夢だ
エルフ界に攻め入りエルフの女達は全て奴隷として魔界に連れて来る
自分ならば出来るという自信
「俺が魔王になったら人間界に攻め込んでスライム共をぶち殺してやる」
バルダムの言葉にアイラは小首を傾げた
「スライムですか?」
「ああ、まとめてぶち殺す
そして人間共を踏み潰しながらアリスを捕まえる」
「アリス・・・ですか」
アリスを捕まえるという意味がいまいち分からないながらアイラは頷いた
「そしてエルフの女どもを手に入れる、絶対にだ」
ギラギラ光るバルダムの野望
しかしその為にはまず大きな壁が立ちはだかっている
最大の問題は魔王位から遠いという事だ
魔王であり父であるゼルギネスは健在
政務は王子ラーダンが代理を勤めている
このまま行くとゼルギネス死後はラーダンが王位を継ぐ事は確実だ
そうなると比較的まだ若いラーダンが死なない限り王位継承の問題は発生せずバルダムに王位が巡ってくる事はない
いや、例えラーダンが死んでも王位候補者達は他に何人もいる
どの道今のままではバルダムが王位を継ぐのは絶望的だ
「何か起こらねーかな」
「何か・・・と言われますと?」
「何かは何かだ」
そう言うとバルダムは闘技場の土の上に散らばる砂を蹴りあげた
NEXT・END




