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竜怜のハーフ  作者: ナウ
三章・前半
50/88

【魔族】

パラリ


リゴーシュ王からの降伏文書を読みながら、ターリィナは手を顎にやる。


そこには元々は魔王軍に恭順する筈だった旨の言葉が長々と綴られていた。

かなりしつこく自分に非はなく、全て交戦派諸侯の独断と国王への脅迫を以て国王の意思とは関係なく三国同盟が結ばれたかの経緯が詳細に述べられてある。


ターリィナはその余りにも分かり易い自己保身ぶりに苦笑したが、リゴーシュ国が軍門に降れば西方最強と噂の高いライオネル王国との戦争がやり易くなる。


馬鹿馬鹿しいながらもリゴーシュ国の降伏の受け入れには大きなメリットがある為、ターリィナもリゴーシュ国攻撃は取り止めにせざるを得ない。



「それはそうと山賊殲滅部隊の現在の状況はどうなっていますか?」


ターリィナの問いに控えていた赤い髪の魔法使いは答えた。


「はい、計画通りドバネ隊とフォルテスはカトプラン村に入り、村にいる骸骨使士スケルトンマスター達と合流したようです」


ドバネとは今回の山賊殲滅作戦の指揮者であり、正規兵によって構成された小隊を率いる長だ。

フォルテスはターリィナ直属の部下である銀髪の魔法使いの名前である。


「オーガ軍は?」


は、オーガ軍はカトプラン村を囲む形で野営しているようです。


「なるほど、全て順調という訳ですね?」


「はい、全て順調です」


「・・・ちなみに骸骨部隊スケルトンを指揮していたウキャン隊長はやはり戦死ですか?」


「いえ、未確認ながら・・どうも山賊達に捕まったという情報が・・」


「捕まった?、捕虜になった可能性があるという事ですか?」


「はい、その可能性があるようです」


「・・・まぁ、死んでいなければ助け出せるでしょう

ドバネ隊に至急伝えなさい

ウキャン隊長が生きている可能性があるため、救出を出来る限り行うようにと」


「は!」


ターリィナは赤髪の魔法使いから同じく近くに控える金髪の戦士に目を移し尋ねる。


「カトプラン村にいた村の女達は?」


ターリィナの言葉に金髪の戦士は答える。


はい、殺害した村人の何人かを骸骨兵士スケルトンソルジャーにして女達が逃げないように見張らせていたようです。

今の所、逃亡者はいないと報告を受けております。


「そうですか、まぁ・・好きに使ってよいと、これも伝えなさい」


そう言うとターリィナは腕を組み言う。


「さて、山賊達を殲滅すれば、いよいよライオネル王国攻略ですね」


「はい、リゴーシュ国が降った今、後はライオネル王国を攻略すれば西方は取ったも同然で御座います」


金髪の戦士は揚々と答える。


「・・・ですね」


ターリィナは金髪の戦士の言葉に、魔界本国の事が頭を過ぎった。



ターリィナは魔王の娘であり、言わずと知れた王女である。

美女揃いの王女達の中でもその美しさは群を抜き、メリルーン、アリスと並んで人気があった。

5年前にアリスが精霊界で起こった炎の祭典に巻き込まれ亡くなり、人気は2人に集中する。

しかし最近は新たにエリザベートが加わり、再び三つ巴の人気となっている。


ターリィナ自体はそんな世間の流れには興味はなく、淡々とした日常を生きていた。

他の王女達とは異なり、男には興味を示さない。

ただ父ゼルギネスは好きだ。



「お父様~」


幼少時から父ゼルギネスに懐いていたターリィナは父が大好きだった。

だから絶えず父の気を引こうとあれこれ頑張り、他の王女達に負けないように努力していた。

しかし父ゼルギネスの寵愛は人間の血を持つアリスに注がれ、ターリィナは常に二番手でしかなく悔しい思いをしたものだ。


年頃になっても父が好きで・・というか更に輪を掛けて父が大好きになり、気の引き方も大胆になっていく。

そんなターリィナにゼルギネスは苦笑したが、アリスのような特別な関心はなかった。


アリス死去の報は転機到来と思ったターリィナだったが、意気消沈した父はラーダンを代行に選び半引退してしまい殆ど誰とも会おうとしていない。


ターリィナは自分に目を向けて貰おうと今回の総督役を買って出たのだ。

父がかつて失敗した人間界攻略を成功させれば、父はきっと自分を見てくれる。

その願いと希望を胸に。






「ただいま戻りました」


ラミュロス地区から帰ってきたウィナーは王宮の女騎士に先導され、ラーダン王代行に謁見した。


「よくぞ戻った、遅いので心配したぞ」


ラーダンの言葉にウィナーは答える。


「はい、少々交渉に手間取りました

しかし、本来の予定通りに交渉は成り契約は成立致しました」


「そうか!、それは結構な事だ!」


「これが契約書です」


ウィナーはそう言って契約書を側近に渡す。

その時ラーダンの側にいたエミリアが近寄ってきて話しかけてきた。


「ご苦労様、ウィナー王子」


「ありがとうございます、エミリア様」


「一つ聞いても良いかしら?」


「何でしょうか?」


「交渉が遅れた理由は何かしら?、此方の出した条件に何か問題が?」


エミリアの顔には笑みが浮かんでいるが、その目は鋭い。


「いえ、向こうの都合と意見が纏まるのに時間が掛かったようです」


「・・・そうですか

まぁ、何にせよ契約が成立したのは良い事です」


「はい」


「それはそうと、独特の匂いね」


「?・・匂いですか?」


そう返したウィナーにエミリアは目を細める。


「香水よ、これは『ラピシニー』ね」


「いえ、香水は付けておりませんが・・」


「そう?、ならば外部からの匂いが体に染み付いているのね」


「自分は感じませんが・・」


「その匂いの中に暫くいればそれが当たり前になるモノよ」


エミリアはそれ以上は言わずにウィナーから離れた。


「・・・・・」


『ラピシニー』の匂いは久し振りに鼻にする。

別にエミリアが使っていた訳ではない。

5年ぐらい前、当時ハーレムを管理していたエミリアの前任者であるディルーが使用していた。

ある意味懐かしい。

そう思う。

それと同時に・・


「ラピシニーを使用している者がラミア界に?」


そう訝しんだが、ラピシニーが魔界で流通している以上ラミアが使っていたとしても特に不思議な事でもないと思い直した。



王の間から退出したウィナーは女騎士と広い通路を歩く。

不意にその騎士が話しかけてきた。


「ラピシニーの香りは興味深いですね、ウィナー王子」


騎士の問いにウィナーは答える。


「その話は終わった、蒸し返すなソフィー」


「これは失礼、しかしこれだけは覚えておいて下さい

私は法に仕える者、王宮の騎士ですが王ではなく法に忠誠を誓っています

その事お忘れなきよう」


口調こそ穏やかだが、その言葉には冷たく凍結された氷塊が横たわっている。


「その言葉、王代行が聞いたら何と思うかな?」


「別に構いませんよ?、私は私の信念に基づいて生きていますから

例え魔王様であられても意見は申し上げますので」


「・・・そうか、つまらない事を聞いた

その言葉、覚えておこう」


「はい」


ソフィーの言葉の意味する本当の所は判らないが、要は法を破れば剣の切っ先がウィナーに向くと言いたいのだろう。


「お母上は元気かな?」


「はい、お陰様で

もっとも最近は老けた老けたと愚痴だらけですけれど」


「ん、そうか・・」


ウィナーに取っては色々と思う所がある人物だが、今となっては過去の人物だ

とは言え王宮の副近衛隊長の地位にまだ若いソフィーが就いているのは実力もあるが母親の存在も大きい。

ソフィーの母はかつて魔王のハーレム管理者であったジーナであり、アリスの養母である。



「ではここで、ウィナー」


「ああ、ご苦労様ソフィー」


城の入口までウィナーを案内したソフィーは頭を下げ、そのまま城の中に引っ込んでいった。

ウィナーはその姿から目を離し、城の門から外に出た。






ドバネ隊がカトプラン村に到着し、オーク軍は村を囲む形で野営していた。

直ぐにでも攻撃に移る筈だったが、周囲の地理を確認するためにカトプラン村を拠点に探索を放ち山賊達の動きも同時に探っている。

カトプラン村を管理していたザーバはドバネ隊と合流し山賊との決戦に備えていた。


ザーバはウキャン隊の副隊長であり、若い骸骨使士スケルトンマスター達の兄貴分としてこの前の戦いに参加していた。


ウキャンがカトプラン村からヤクリラン村に行く際に村を放置して全員で移動するつもりだったの対し、ザーバはこの村を拠点とすべきと案を出した。

結果的にザーバともう1人が村に残り、村の管理を行う事になったのだ。

その時に戦力がまったくないのでは話にならないとして、動物型ビーストタイプ二体を村に配置した。


ウキャン隊が出発して直ぐに瀕死のスケルトンマスターが1人村まで逃げてきて、ウキャン隊の敗北を知らせ絶命した。

どうやら山賊が罠を張っていて返り討ちにあったらしい。

ザーバは直ぐにダークジェギスに知らせの使い魔を飛ばし、援軍を請う。


しかし軍の到着には日数が掛かるためザーバは山賊襲撃を恐れ、その為の戦力補強として骸骨兵士スケルトンソルジャーを作る事を考えた。

村の男達はウキャン隊の道案内役の男以外皆殺しにした から死体には困っていなかったからだ。

幸い山賊の攻撃はなかったものの、偵察っぽい連中は度々現れてはいた。



現在そんなカトプラン村の中では隊長ドバネと副長フォルテスによって連日作戦会議が開かれている。

外においては野営しているオーガ達は野営に抗議したが、酒とつまみを振る舞われ、不満は何処へやら毎晩お祭り騒ぎだ。


そしてお祭り騒ぎはまだ数日暫く続くと思われていた。

しかし・・・

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