【大いなる賭けとオーガ戦への参加】
ダークジェギスの街角のカフェで席に座りコーヒーカップを手に取ったリシープにホイクールは挨拶した。
「初めまして」
そしてホイクールはニコリとリシープに笑顔を見せる。
「・・・誰だっけ?」
ホイクールを見たリシープは目を細めた。
「いえ・・、ですから初めましてです
私はホイクールと申します」
「あ、そうね
で・・何の用?、ホイクールちゃん」
「座ってもよいですか?」
「どうぞ~」
興味なさげに言うリシープにホイクールは黙って同じテーブルの椅子に座る。
「それで?」
「はい、貴女が此方に来ていると聞きましたので来てみました」
「へ~、いつから私そんなに有名になったんだろうね?」
「一部では有名ですよ、不老の妙薬を開発した事で
もっとも、もう一人の御方の名前の方が有名ですが」
その言葉にリシープは苦笑した。
「でしょうね、それで?」
「アトニーノさんは来ていないのですか?」
「ああ、アトニーノならもうじき来るわよ」
「そうですか」
「なに?、アトニーノに用事?」
「まぁ・・・どちらかと言うとお二人にです
【大いなる賭け】について」
それを聞いてリシープの目の色が変わった。
ここで言う【大いなる賭け】とは魔王支配領域外の者達の遊びイベントで、現在人間界を侵攻している魔王軍と人間側のどちらが勝つかという賭けだ。
期間は一年間。
完全に勝敗が決まれば勝者は賭け金に見合った配当金が貰える。
戦争が膠着状態の場合は勢力が優勢な方が勝ちとなる。
賭けをしている者達が直接この戦争に何らかの明確な介入をした場合は賭けは無効であり賠償金と重い罰が課せられるというルール。
現在新規の参加者は締め切られているが、既に参加している者は1ヶ月間の間、追加金を上乗せする事が出来る。
「あは、な~んだ君も自由人ね
てっきり魔王軍の魔族かと思ったわ」
「はい、よく勘違いされます」
「まぁ、取り合えずは何か注文すれば?
奢ってはあげないけど」
「そうですね、では私はミルクで」
給仕にそう注文したホイクールの後ろで声がした。
「では私はオレンジジュースを」
「・・・!」
ホイクールが振り返ると女性が歩いてきて、隣の空いている席に座った。
「アトニーノよ、ホイクールちゃん」
リシープは席に座ったアトニーノを紹介する。
「貴女が・・・、初めまして
私はホイクール、自由の魔族です」
「アトニーノよ、宜しく」
そう言うとアトニーノは髪を掻き上げた。
「しかし、『不老の魔女』さん達に会えるとは思いませんでした」
「あは、『不老の魔女』ってそんな呼ばれ方してるの?」
リシープは可笑しそうに尋ねる。
「はい、とは言っても一部でですが」
「へ~」
「さて、本題です」
「大いなる賭けね、ホイクールちゃんも参加してるの?」
「勿論です、とは言え賭け金は大した額ではありませんが」
「なるほど~、私も賭けているわよ」
「どちらにですか?」
「人間側!」
嬉しそうに答えたリシープにホイクールも笑む。
「奇遇ですね、私もです」
「へ~、で・・どう?勝てそう?」
「・・微妙な所ですね、勝てるかも知れないし勝てないかも知れません
お二人は何故人間側に?」
「アトニーノは賭けてないわ、賭けているのは私だけ」
「そうなんですか?、なるほど」
「私的には魔王軍だと思うけれど、アトニーノが人間側が勝つ可能性があるって言ってるから人間側に賭けたわ」
「可能性ですか?、それはまた・・」
「で、ホイクールちゃんが人間側に賭けている理由は?」
緩やかな視線の中に尖ったモノを混ぜ合わせリシープは聞く。
「はい、それは・・」
「それは?」
「秘密です」
ホイクールは人差し指を口に当てニヤリとした。
ライオネル王国の冒険者の店に4人と1人はいた。
タウナ、ルセル、マーギラン、ピェスラナ、そしてライトリー。
ルセルに襲いかかったライトリーはピェスラナの精神系魔法で気を失った。
取り合えず冒険者の店に運び込んだが、店長や受付嬢が目を丸くしていたのは滑稽だった。
店の椅子を並べてそこに寝かせたライトリーに精神暗示系の魔法がかけてある事を見抜いたピェスラナは魔法解除の法を以て解除。
そのまま起きるまで店長と話をするタウナ達。
しかし店長から特に面白い話は聞けなかった。
が、何かしら隠していそうな雰囲気はある。
やがてライトリーは起きた。
現状を把握するためにゆっくり辺りを見渡す。
そして、奥のテーブル席で話しているタウナ達と目を合わせた。
「・・・・・」
起き上がり、身に付けているモノを確認しながらライトリーは剣がない事に気づく。
「・・・・・」
取り合えず立ち上がったライトリーはタウナ達が座っているテーブルに向かう。
「あら、おはよう」
タウナに言われライトリーはぽりぽりと頭を掻いた。
「あ--・・えっと・・おはよう」
「どう?、気分は?」
「・・・最悪だ」
「でしょうね、まぁ座りなさい」
「俺の剣は?」
「心配しなくても持ってるわ」
「・・・・・」
ライトリーは取り合えず隣の席の椅子を引っ張って、タウナの横に座る。
「・・・で、どこまで覚えてる?」
着席したライトリーにタウナは尋ねた。
「・・・あ-、君らと別れて・・で・・」
そこまで言ってライトリーの頭がズキリと痛む。
「ん--そこから憶えてない・・
・・いや・・まてよ・・確か・・」
ライトリーはズキズキする頭から朧気にある記憶を思い出そうとした。
「・・竜・・、ああ・・そこの兄ちゃんが竜で・・それで・・」
「私達に襲いかかってきたって訳よ」
タウナは記憶を辿るライトリーにそう言い、皆を見る。
「そうだ・・そこの兄ちゃんが竜で・・俺は・・」
「精神支配系の魔法が君に掛けてあったわ
恐らく竜と相対した場合に有無を言わせず攻撃するようにね」
「精神支配・・魔法・・?」
「何か思い当たる事は?」
「・・ああ・・なら師匠だな
ちっ、ロクな事をしやがらない」
「師匠ね、竜殺士は奇人変人狂人が多いって聞くけど」
「・・かも知れないな、5年ほど師匠の下で修行したがロクなもんじゃなかった」
「解除したのはそこの白い服のピェスラナよ」
タウナが示す目の方向には神官衣に身を包んだピェスラナが座っていて、ライトリーにペコリと頭を下げる。
「ありがとう、お陰で気分は晴れたよ」
そう言い、ライトリーはルセルの方を向く。
「兄ちゃんすまなかったな、突然襲いかかっちまって」
「あ・・いえ・・」
そう言うルセルにライトリーはバツの悪そうな顔で頭を掻く。
「ふぉふぉ、まぁ誰も怪我ががなくて良かったの」
そんなライトリーにマーギランは紅茶を差し出す。
出された紅茶を口に含みながらライトリーはようやく落ち着いた。
カランッ
出かけていた店長が店の扉をくぐり、奥のテーブルでタウナ達と一緒のテーブルに座っているライトリーを見る。
「起きたか、ライトリー」
そう言うとタウナ達のテーブルに向かってきた。
「ああ、何か魔法で操られていたようだ
迷惑かけちまったな、店長」
店長はチラリとタウナを見る。
タウナは僅かに頷いた。
「なあに、口論殴り合いの喧嘩酔っ払いの大暴れ何でもござれの冒険者の店だ
最近はそんなのが無くなって寂しい感じだったから丁度いい」
そう言うと大声で笑う店長。
しかしタウナは「あれ?」と思う。
心なしかどこか暗い顔に見えたからだ。
そしてそのまま店長は事務所部屋に入っていった。
「ま、そう言ってもらうと気分は楽でいいや」
ライトリーは暗い気分を跳ね、軽い表情に変わった。
「俺はライトリーってんだ、宜しくな!!」
「私はタウナよ、宜しく」
「そっちの麗しの女性は?」
ライトリーに言われピェスラナは口を開く。
「私はピェスラナです、以後お見知りおきを」
「ピェスラナちゃんかぁ~凄く良い名!、肌白いね!、もしかして北国出身?」
「アイスネイル出身です」
「ア・・アイスネイルって、めちゃくちゃ遠いじゃん!!」
「はい、今回訳あって西方にやってきました」
「はひゃ~、凄ぇ~」
「それでこっちの年寄りがマーギラン、若い方がルセルよ」
年寄りと呼ばれたマーギランは咳払いをし、ルセルはお辞儀する。
「マーギランさんにルセルね、ルセルは・・竜だよな?」
「そうですよ」
「竜界から来たって事だよな?」
「いえ、僕は竜とエルフのハーフで生まれと育ちはエルフ界です」
「・・・え?」
ルセルの言葉をいまいち飲み込めなかったライトリーはタウナを見る。
「そうよ、ルセルは竜とエルフのハーフよ」
タウナは言いながらライトリーのこの反応を楽しんだ。
かつては自分もまた単なるエルフだと思っていたルセルの正体に驚いたものだ。
「驚いたな、エルフと竜って・・子供出来んの!?」
流石にこの言葉にタウナとマーギランは吹き出した。
ピェスラナは素知らぬ顔で紅茶を飲み、当のルセルは赤面した顔で頭を掻く。
「みたいですね~」
その言葉にタウナとマーギランは更に吹き出した。
そんな2人を余所にライトリーは少し真面目な顔になってルセルに聞く。
「ルセルは竜界に行った事は?」
「あります、最近行きました」
「竜界については詳しい?」
「ある程度なら分かります」
「・・・・・」
ライトリーは少し考え、思い切って口にした。
「5年前に風精霊界のカチッティナを襲撃した火竜の事は知ってるか?」
「5年前のシルフ界・・火竜・・多分火竜グラードルですね?」
「名前は知らねぇ、そうかグラードルって名前か」
「はい、火竜グラードルです
シルフ界を襲った竜ですね」
「・・・そいつは今何してる?
竜界に連れ戻されたってのは聞いたが」
「ああ、亡くなりましたね
確か二年ほど前に」
「亡くなった?」
「正確には死刑にされました」
「・・・本当か?」
「はい、その時に丁度竜界にいましたし
死刑にするべきかしないべきかの議論で揉めていましたが、結局は死刑という結果で終わりました」
それはルセルもよく覚えている。
最終的に死刑の書類にサインしたのは他ならぬルセルの母シルティアであったからだ。
それを聞いたライトリーは肩を落とし、深呼吸をする。
「そうか、死んだか・・・」
「それが何か?」
「いや、ならいいんだ・・・」
「???」
ライトリーの様子にタウナとマーギランは目を合わせる。
「ライトリーはシルフ」「5年ほど前から修行」「竜殺士」「火竜」のキーワードで何となく察したからだ。
ピェスラナは敢えて口にはせず、紅茶を黙って飲んでいる。
唯一ルセルだけが分かっていない状態だ。
「一応、シルフ界にもグラードル死刑の達しは行った筈ですが」
「・・・いや、二年程前から帰ってなかったから知らないんだ」
「そうですか」
「ああ・・が・・ま、仕方ないな」
そう言うと両手を頭の後ろにつけ、椅子にもたれかかる。
バタンッ
奥の事務所部屋から扉を開けて出てきた店長は深刻な顔をしてタウナ達の方に来た。
そして口を開く。
「・・・こんな事を君たちに言うのはどうかと思う
しかし、人手があまりに足りない」
「仕事の話かい?」
ライトリーは店長に聞く。
「そうだ、危険な仕事だ・・・いや、死ぬ確率の方が高い
勿論断ってくれて構わない」
「!・・・魔王軍ね」
タウナの瞳が鈍く輝いた。
「ああ・・山賊・・いや、冒険者達が潜む地域に魔王軍が本格的に攻撃を開始するようだ
目下各地の冒険者達を召集しているが、数が足らない」
「魔王軍・・・その数はどのぐらいですか?
全軍ではないのでしょう?」
ピェスラナは店長に聞く。
「ああ・・・現状分かっているのはオーガ軍だ」
「オーガ?、厄介だな」
ライトリーの言葉にタウナは苦笑した。
「竜に比べれば大した事ないわよ」
タウナのその言葉にライトリーは口をへの字に曲げる。
「既に魔王軍の先発隊と交戦して満身創痍のようだ
連中が俺に助けを求めにくるなんぞ余程の事だよ」
「知り合い?」
「ああ、昔からの知り合いもいれば仕事を斡旋した連中もいる
このオーガの戦いだけでいい、報酬は弾む
だから助けてやってくれないか?」
「どう?、皆?」
タウナはルセル達の顔を見渡した。
「どうもこうも・・・やるしかないじゃない?」
飄々と答えるルセルにマーギランは頷く。
「まぁ、そうじゃの」
マーギランもまた被っていた帽子を深々と被り直す。
「でも・・何故実力も判らない私達に?」
ピェスラナは少し目を細め店長に聞いた。
「確かに実力は未知数だ、しかしハッキリ分かるのは君たちが強いという事だ
これは長年この商売をしている俺の目利きだな、何かやってくれそうな・・・そんな気配がする」
「そうですか・・・」
そう言うとピェスラナはタウナに頷く。
「決まりね」
タウナは目を伏せ、一呼吸後目を開けて店長に言った。
「行くわ、詳細を教えて」
「・・・恩に着る」
そう言うと店長は深々と頭を下げた。




