【冒険者達と竜殺士と白い聖女】
バサバサバサッ・・・
鳥は女の腕に留まり一声鳴いた。
女はその鳥の足に括り付けられている紙を解き、開いた紙に書かれている文に目を走らせる。
女の名前はアダージュ。
歳は26。
エルフ特有の尖った耳を持つ長身の女だ。
しかし生粋のエルフではなく人間との間に生まれたハーフである。
目を通したアダージュは溜め息をつき、鳥を籠に入れると仲間のいる一階に足を運んだ。
一階の広間には仲間達が何人か集まって食べ物を食べ、酒を飲んでいた。
色々笑いながら喋っていた仲間達はアダージュが暗い顔をしながら二階から降りて来たのを見て、一様に黙りこむ。
ややあって図体の一際大きい一人の男が口を開いた。
「・・・ラグドンからは何と?」
男の言葉にアダージュは首を左右に振り、男に手紙を渡す。
受け取った男は手紙の文章に目を通した。
「カトプラン村の男たちは一人を残して殺されたか・・・」
男は皆に聞こえるように文章を読む。
「残った一人は道案内の為に鎖に繋がれてヤクリラン村に連れていかれたそうだ」
男の言葉に側にいたドートナーが訪ねる。
「パーク、女達は?」
「・・・・・」
パークと呼ばれた手紙を読んでいる男は少し間を置いて答えた。
「想像通りだ、もっとも殆どは生きているようだが」
パークの言葉にバンッと机を叩くドートナー。
パタンッ
本を閉じ、目を細めてパークを見た魔法使いの女はアダージュに聞いた。
「平気?」
「ええ・・・」
顔色の悪いアダージュを気遣いながら、今度はパークに聞く。
「敵の戦力は?」
「ああ・・・、何やら動物型の骸骨のようだ」
「骸骨動物型ね」
女は少し驚いたように声を上げる。
「だな・・・ナトリー
まさか本に出てくる怪物と戦う事になるとはな」
ナトリーと呼ばれた女は閉じた本の表紙に記されているタイトルの文字を指でなぞる。
本のタイトルは「エルフ界旅行記」である。
著者はロスイプという名前でノームの青年だ。
5年程前にエルフ界を旅行しながらエルフ界の様々な物を書き記し、本は1年程前に世に送り出された。
しかし残念ながら、人間界ではこの本はまったく知られていない。
別世界であるエルフ界と人間界に交流はないし、そもそもエルフ界自体に興味がある人間が今や殆どいないからだ。
実はパーク達もアダージュから教えられるまで全く知らなかった。
この旅行記は三部に分かれていて、一部はウッドエルフ界の自然や地理、都市と観光名所、文化及び生活等の紹介。
二部は一部と同じくハーフエルフ達の住まう各シティ及び各ハーフエルフに関する文化の紹介。
三部はエルフ及びハーフエルフの神話~歴史についての書である。
特に三部のエルフの歴史の中の現代史について、20年前に起こったアンデッド戦争の記述は比較的詳しく書かれていた。
前哨戦はルービアンカでのオークとエルフ守備隊との戦い。
同じくルービアンカでの骸骨の人型・動物型とエルフ部隊の死闘。
ルーアクシウムでの骸骨軍団、吸血鬼軍団、腐者軍団、喰屍鬼軍団、幽鬼軍団、死体人形軍団とエルフ・ハーフエルフ軍との激突。
そしてダークエルフ軍によるルービアンカ急襲戦により魔王軍主力はほぼ壊滅。
魔王軍の残党は魔界に撤退。
そのアンデッド戦争の中でも骸骨動物型との戦闘はエルフ達の犠牲者が一番多かったとして語られている。
「・・・それが今回の敵か」
パークはぼそりと呟いた。
「何だろうと構わねぇ、ぶった斬るまでだ!!」
剣を片手に息巻くドートナー。
「・・・まぁ、やるしかないわね」
アダージュはそう言い、長い髪の先端をすくい指に絡ませる。
「ラグドンは他に何と?」
ナトリーはパークに聞く。
「ああ、既に各チームは動いているって話だ
魔王の部隊は無人になっているヤクリラン村に着いて、悔しがるだろうさ
そしてその後は近くにあるタガノロン村を襲う筈だ」
「明日、夕方にタガノロン村に集結しそこで迎え撃つ作戦だそうだ」
パークの言葉にナトリーは眉を寄せる。
「・・・動物型や骸骨使士の数は?」
「動物型20体程、骸骨使士40人ほど・・らしい」
「・・・本当に?」
「ああ、情報が正しければな」
「舐められたらモノね」
そのナトリーの言葉にパークは苦笑する。
「まぁな、しかし、俺達の相手はそいつらだけじゃない」
「・・・魔獣軍団か・・・」
ナトリーは目を伏せ、現在ダークジェギスに集まっている魔獣軍団の事に触れた。
「だな、今来ている部隊ではなくダークジェギスにいる本軍が問題だ・・・アダージュ、ラグドンに伝書を送れ
集結の件了解だ、俺達もタガノロン村に明日の夕方に着くと。」
パークはそう言い、側に立てかけてある両手大剣を手に取る。
それは身長190cm以上あり極めて優れた肉体を持つパークにはお似合いの武器だ。
「さて、いよいよ本格的に激突か
気合い入れろよ、お前ら」
パークのその言葉に部屋にいた全員の表情が変わった。
彼等は現在山賊と呼ばれている。
王政の時代において王に従わぬ賊徒達。
非道な振る舞いをする悪党連中として権力者側は民衆にそう広めた。
だが、民衆達は陰でこう呼んでいる。
自由なる冒険者達と。
「可愛いお嬢さ~ん♡」
ライオネルの路上で抱きつこうとしてきた男の股間を蹴るタウナ。
「お・・おぐ・・あ・・が・・」
股間を押さえ声無き声で悶絶する男に同行していたルセルとマーギランは顔を見合わせた。
ライオネル王国に着いたタウナ一行はライオネル王に謁見し、現在置かれている西方の状況とリゴーシュ国の救援を助言した。
当然、東方の国アリシュトロや旧アウランズ国など知らないライオネル王はリゴーシュ国の救援を却下。
魔王軍についても特に関心はなく、攻めてくるなら倒すまで・・という認識しかなかった。
ただ、ライオネル王はタウナには非常に関心を持ち、妻となるなら考えなくもないという提案をしてくる。
その場は適当に流したタウナは城から出て冒険者の店に赴く事にした。
ルセルが行きたがった事もあるが、山賊の話を聞くには冒険者の店が良いとタウナやマーギランが思ったからだ。
それで店や家々の間を抜け冒険者の店に着く最中に男と遭遇した。
「・・・何?、君」
地に付し股間を押さえて呻いている男に向かってタウナは見下げながら聞く。
「い・・いたい・・て・・うう・・うう・・」
情けない声で呻く男にタウナは呆れ声で言う。
「大してキツく蹴ってないわよ、かなり手加減したからね
痛がる演技は止めなさい」
それを聞いて男はパッと起き上がる。
「あ、バレてた?
いやぁ~、でも結構痛かったのは事実だけど」
「・・・あっそ」
「でも絶妙な蹴りだったな、相手を牽制しつつしかも激痛にならない程度の蹴りなんて」
「・・・あっそ」
「いやぁ~凄いよ、ちなみに俺はライトリーってんだ
君名前は?、凄い別嬪さんだね~、是非お近づきになりたいよ~♡」
そう言い、近づいたライトリーはタウナの肩に手を置く。
「何?」
置かれた手をギロリと睨んでタウナは問うた。
「いやぁ~、出来ればお食事でも~♡」
「結構よ」
「そんな事言わずに・・ね♡」
「もしかして口説いてるの?」
「そそ、君が余りにも美人で魅力的だからさぁ♡」
「そう?」
「そそ、だからさぁ♡」
そう言うと唇をタウナの口許に寄せるライトリー。
バシッ!!
そのライトリーの頬をタウナは遠慮なくひっぱたいた。
「いってぇ~」
「何するのよ」
「いや、お近づきのキ・・・てか気が強いな、君」
「当然よ」
叩かれてニヤケるライトリーにタウナはその胸に掛けてある紋章に目を留める。
それは竜を刺している剣の紋章だ。
「竜殺士か・・・」
余り宜しくない状況に少し顔を曇らせる。
本来なら多少なりとも興味がある存在だが、今は生憎ルセルがいる。
竜でもあるルセルとは相性は最悪だ。
「邪魔よ消えなさい、さ・・行くわよ」
そう言うとルセルとマーギランに目配せしライトリーを無視して歩き出した。
「あらら振られちった、なんだよ~たく
キスの一つ二つした所で減るもんじゃあるまいし~なぁ、爺さん」
ライトリーの言葉にマーギランは苦笑する。
「ふぁふぁふぁ、若いな」
「んあ、そりゃあ若いけどさぁ
挨拶代わりのキスなんて今時普通だよな?
なぁ、兄ちゃん」
「あははは・・・」
ライトリーの言葉にルセルは引きつった笑いで誤魔化す。
ライトリーを交わして歩いていく三人を背にライトリーも反対方向に歩き出した。
「あ~あ、どっかに良い女いないかねぇ・・・ん?」
僅かな異変に気付きライトリーの足がピタリと止まった。
「・・・待ちな!」
そう言うと振り返ったライトリーは声を出す。
その声にタウナ達は振り返った。
「何よ、まだ何か用があるワケ?」
「いや・・・君じゃない
用事があるのはそっちの兄ちゃんだ」
「え?」
言われた当のルセルは何が何だが分からずにキョトンとする
そんなルセルにライトリーは今まで見せていたニヤケ顔から険しい表情に変え睨んだ。
「お前・・・」
そう言うと腰から吊していた剣を鞘から抜き身構える。
「竜だな?」
その言葉にスッとタウナとマーギランがルセルの前に出た。
「・・・だったら?」
タウナもまた表情を険しくさせライトリーを睨んだ。
「竜は敵だ、どけよ、お嬢さん」
「ほ、いきなりじゃの
竜は敵か・・・竜全てが敵ではあるまい?」
マーギランの言葉にライトリーは答える。
「竜は敵だ!殺す、絶対にな!」
瞳に憎悪の色を燃え上がらせ怒りの形相で突進したライトリーの剣がマーギランを襲う。
ギイィィィィン!!
マーギランがライトリーの剣を交わし、ルセルの抜きはなった剣がライトリーの剣とぶつかり金属音を響かせる。
しかしライトリーの勢いは衰えず、二撃目三撃目がルセルを襲う。
突然の事に訳が判らないルセルだが、集中しなければ相手の攻撃が防げないので必死で応戦した。
「なんじゃ、こ奴は?」
剣同士の斬り合いに距離を取ったマーギランはタウナに聞く。
「さあ?、竜殺士みたいだけど異様な狂気を感じるわ」
目を丸くして見ていたタウナは奥歯ギッと噛む。
少なくとも今は短刀しか持ち合わせていない。
せめて小剣でもあればルセルの加勢が出来るのだが・・・。
と・・・
チリィィン・・・・
涼やかな鈴の音色と共に詠唱が轟く。
その詠唱の声にタウナもマーギランも反応する。
それは聞き覚えのある声だったからだ。
チリィィン・・・・
女が持っている杖に付けられている鈴がまた涼やかに鳴る。
それと共に女の詠唱は甲高くなり、辺りに響き渡る。
トンッ!!
杖を僅かに上げ地に着けた時、ライトリーの絶叫が轟き、ルセルと剣で斬り合っていたライトリーはそのまま地をのた打ち回った。
そして、やがて動かなくなった
「お久しぶりです」
そう言うと白いローブを着て白いフードですっぽりと顔を覆っていた女はフードを手で上げタウナ達を見る。
「・・・あ」
三人は女の顔を見て驚いた。
女の名はピェスラナ。
アイスネイルの神官にして、かつて白い炎の聖女と呼ばれた【炎の祭典】の英雄の一人である。




